「オイ…おめェ…生きてんのか!?アイツはどこだ!!!ここで何があった…………!!?」
目覚めた一味の中で最初にゾロに駆け寄ったのは、やはりというかサンジだった
彼の問いにゾロが重い口を開くと、
ただそれだけ答えた
《何もなかった、だなんて…》
こんな時でも強がりを、と雪走は思った
ゾロの性格を考えれば当然のことだろうが、それでも彼が一命を取り留めたことに安堵の笑みをこぼした
船医チョッパーの手により早急な治療を受けたゾロは、今は深い眠りについている
《まったく、あなたはいつも…》
雪走は主を見つめながら苦笑する
和道は終始ゾロに寄り添い、横たわる彼の手に己の手を重ねる
鬼徹も普段なら真っ先に向かう筈の宴の輪には加わらず、ベッドの傍を離れない
少し離れた場所では秋水が神妙な面持ちで壁にもたれる
雪走は付かず離れずの距離に座り、彼らを見守った
*****
数日後、ゾロが深い眠りから目覚めた
あまりに早い回復ではあるが、まだ万全ではない
日常生活程度なら問題はないだろうが、それはあくまでも世間一般における「日常生活」の事を指している
《そんな事をして、また船医様に叱られますわよ》
起きて早速包帯の一部を外すゾロを、雪走は誰にも聞こえない声で窘める
《まあ、あなたが言っても聞かない方なのは分かり切っている事なのですが》
そう言って彼女はふわりと微笑む
ゾロは雪走が健在だった頃からチョッパーの忠告を無視して包帯をとり、勝手に鍛錬をすることがしょっちゅうあった
そしてその度にチョッパーのお叱りを受け、包帯を巻き直されるのが恒例だった
その光景を眺めがら((どうしていつもこうなのでしょうか))と呆れる雪走と、((まあ、仕方ないよ。ゾロだもん))と困ったように笑う和道
そして鬼徹は((こんな早く回復するたァ、やっぱ俺ちゃんの目に狂いはなかったな!))と一人自画自賛なコメントをこぼしてしていた
そんな在りし日の回想に浸っていた雪走は、ゾロが、自身の本体を持ってどこかへと向かったことに気付き、後を追った
着いた先は墓場であり、その中にある一際大きな墓の前ではつい先日仲間になったばかりの音楽家ブルックがヴァイオリンを奏でていた
「あなた、もういいんですか?」
「ああ、ちょっと寝すぎた」
普段であれば言わないような台詞に、ゾロ自身が仲間に心配をかけたことを気にしているのだろう、と雪走は小さく肩を竦めた
彼が何故ここに来たのか、雪走は既に勘づいている
ウォーターセブンの海辺で亡霊として目覚めたあの日から、いつか必ず“その時”が来る事はわかっていた
それでもざわめく心を抑え、自身の本体を地面に突き立てる主を見つめた
「それは?」
「“雪走”、死んだ刀だ。ついでに供養させてくれ」
直後、雪走の目から大粒の涙が溢れた
胸の内がじんわりと暖かくなると同時に、身体が空気に溶けていく感覚に陥る
雪走はぐしゃぐしゃな顔で口元に笑みを浮かべ、折れた本体に向かって手を合わせるゾロの傍で跪いた
主様
あの店の狭い蔵の中で朽ちるぐらいなら、見知らぬ場所で文字通りこの身が朽ち果てようとも構いませんでした
あなたや皆様と共に旅が出来たこと、共に戦えたこと、本当に嬉しく思います
最後まであなたの度に同行することが出来ず大変口惜しいですが、ここでお別れです
空気に溶ける感覚が強くなり、意識が徐々に遠くなる
その遠ざかる意識の中で、彼女は仲間の声を聞いた
((ありきたりなコメントになっちゃうけど、あなたといっしょにいられて嬉しかった!向こうでくいなちゃんに会ったら、よろしく言っといてね!))
涙を滲ませながら叫ぶように言う和道に、雪走は頷く
((そなたのことはほとんど知らぬが、これだけは言える。そなたは、主達の誇りだ!))
静かに、だが力強く宣言する秋水の言葉に、照れくさそうに笑う
((俺らをずっと見届けろ!!以上!))
微かに震えた声で放たれたただ一言に、何度も何度も頷いた
《さようなら、主様…あなたこそ、大剣豪になるお方…》
やがて全てが空気に溶け、雪走の魂は黄泉へと旅立った
次回、エピローグとなります。
追記
タイトル修正しました。マジシャレにならん誤字だ…