Phantom King Online 〜蛮族たちのクソゲー内戦記〜 作:北の倶利伽羅
朝起きると、世界が斜めになっていた。
「あーいつものか…」
家具を窓から地上に投げ、貴重品の類を持って廊下に出る。階段を降りようとしたが、既に無かったため紐なしバンジーを敢行。無事着地した俺の背後で、寮が崩壊した。
「あぁ無事でしたかぁ」
「危ないとこだったがなんとか…というか今度の原因は何だ?選挙関連のテロか?」
「火薬の匂いがしなかったので多分違いますねぇ…恐らく最上階の大浴場建設のせいだと思いますよぉ」
我が校では「生徒の自主性を重んじる」という名目で寮の建設・運営が生徒に一任されている。結果として建築法を微塵も知らない奴が好き勝手に増改築を行い、崩壊してしまうことも珍しくない。
「だからやめとけって言ったのに…てかまた再建まで洞窟暮らしか?」
「ですねぇ…前回みたく卓球部*1と軽音楽同好会*2がデザイン案で揉めたりしたら結構時間かかりますよぉ」
「こんな時はアレに限る」
「同感ですねぇ」
逃げ遅れた哀れな死体を蘇生委員と体操部*3が奪い合っているのを見ながら、VR端末をセットした。現実逃避とも言う。
眼球賭博。PKO内で近頃流行りのゲームである。主要なルールは以下の通り。
①プレイヤーを2体用意し、なんらかの方法で先攻と後攻を決める(ノーマルルールの場合。エクストリームルールではターン制が存在しない)
②先行がサイコロを振り、出た部位に眼のポーションをつける
③②を先攻と後攻が交互に行う。いずれかの眼球が潰れるか、視界がバグって脳への負荷が一定以上に達し強制ログアウトさせられたら負け
非常にカオスな絵面と謎の戦術要素がPKO民に大ウケし、現在では至る所で行われている。
対戦の申し込みはお手軽だ。その辺の異形共みたく手近な奴に喧嘩を売ればいい。
「おうコラテメェおいゴルルァ」
「ア゛ァ゛⁉︎」
「ア゛ァ゛⁉︎5万!」
「オ゛ォ゛ン゛⁉︎5万!」
「殺すぞ!エクス!」
「死ね!ノーマル!」
「クソが!ノーマル!」
これで対戦準備は完了。ちなみに今の会話を翻訳すると、「5万ゴールドを賭けてノーマルルールで対戦します」という意味になる。
『寄ってらっしゃい見てらっしゃい!眼球賭博だ!存分に賭けてくれ!』
「よし松氷に2万」
「サイファに3万で」
その辺に居た第四次十字軍の
「あっサイファに4万でお願いしますねぇ」
「んじゃ松氷に5万…いや6万で」
それはそうと賭けはする。楽しいので。
「ア゛ッ」
「これで10万ゲットですねぇ」
「ふざけんなボケ!金返せやカス!!!!」
松氷の奴が落ちやがった。つまり6万の損である。腹が立つ。
「今どんな気持ちですかぁ???」
「クソが…損分取り返してやるから見とけよ」
先程、とある異形がサイファに20万も賭けていた。つまりソイツは今、金を持っているのだ。
「オイそこのクソデカ羽!その金賭けて闘え!」
「何故?我方利益皆無」
コイツは爆蓮教四天王の1人、【強欲】のワンフ。爆発による飛行を目指す危険人物だ。だがそこにつけ込む隙がある。
「まぁ待てよ…勝ったら高度限界の高さと風景を教えてやるぞ」
「!?本当!?勝負了解」
予想通り乗ってきた。コイツの目標が飛行である以上、高度限界の情報で釣ればイケるという読みである。
「おいブックメーカー!今度はこっちの実況も頼むぜ!」
『了解!全力でブチ上げます!』
声と共に5000ゴールドを投げつけると、秒で承諾してくれた。コイツらのこういう点は非常にありがたい。
『さぁ続いての勝負はコチラ!赤コーナーは爆蓮教四天王の一角!【強欲】の二つ名持ち、ワンフ!!!』
「応援感謝」
「応援した覚えはねーぞクソカルト!!」
「俺の拠点爆破したの忘れてないか〜!?」
なるほど、向こうは観客にかなり嫌われているらしい。哀れなものだ、これは勝ちが決まったも同然だな。
『対するは眼球賭博生みの親!拷問をスポーツと言い張る狂人、ベル!!!』
「眼球賭博は安心安全なeスポーツ!子供にもオススメ!」
「エチケット袋必須のゲームが安全とか気ィ狂ってんのか〜!?」
「殺しは
「ミサイルが趣味のブタ野郎がてめーの都合だけでしゃべくってんじゃねぇーぞこのタコがッ!」
先程よりも多く罵声が飛ぶ。何故だろうか。腹が立ったのでその辺の奴を何人か静かにした*4けれど、罵声は止まない。アウェーからの逆転劇を見せつけてやる必要がありそうだ。
『…え〜それでは!先攻決めの時間です!』
2人同時にダイスを振る。しばらくして向こうは脚、こっちは腕の面が出た。
『おっと先攻はワンフだ!それでは再度ダイスを!』
「合点承知」
向こうは羽(?)を使って器用にダイスを振っている。だが眼球賭博をやり込んだ奴らなら、ダイスで狙った目を出すなど造作もない。それすらも面白味になるのが、このスポーツのヤバい所だ。
『栄えある一手目は〜…腕!』
「おっダンゾウ戦術か?」
「多脚型相手に稀代の火影は相性悪いだろ…神浄討魔型と見た」
かつてはダイス運の要素が強かった眼球賭博だが、出す目の操作技術が発明されたことにより様々な戦術が生まれた。今では出た目から相手の戦術を読み、対抗策を編み出すなどといった高度なプレイも日常的に行われている。
『そして一本目のポーションを…右掌に塗った!定石通りの展開ですね』
掌に目を付けると、指を瞼代わりに使って視界を封じる事ができる。定番ではあるが、つまらない技だ。
「おうなんだその腑抜けた逃げの一手は?とんだ腰抜けの集まりじゃのう爆蓮教
教祖が教祖…それも仕方ねェか………!!
"アルフレッド・ノーヘル"は所詮…先の時代の"敗北者"じゃけェ…!!」
「煽行為?無意味」
まさか乗って来ないとは。これは長期戦になりそうだ。ダイスを強く握り、宙に放った。
『ついに60ターン経過しました!3回目の口直しです!それではこちらの文章を先攻からどうぞ!』
口直し。ターン数が20の倍数になる度に行われるミニゲームだ。口のポーションで口を増やし、それぞれの口で指定された文章を読み上げるという単純なものだが、思考が圧迫される上に失敗すると眼のポーション10本を一気に服用しなければならないため非常にリスクが大きい。
「無能破可破可弁護士唐澤聖典焼却!」
「今大会欠課及広東大会出場僕紹介!」
「身体下部分心集中其子転生下世界!」
「真心込植割箸畑生産童話的遊園地!」
『おおっと上の口ではド直球の誹謗中傷を投げつつ右の口ではテニス部全滅、左の口では邪淫についてお話だ!下の口は正直何言ってるのか分かりません!しかしチャレンジ成功です!後攻も続けるか!?』
失敗の許されない、緊張の一瞬である。大きく息を吸い、口を開く。
「支店を板に吊るしてギリギリ太る…ア゛ァ゛!?」
「クリスマス・イブは3日間くらい…ア゛ァ゛!?」
「漏れやすいケツの穴などから離れ…ア゛ァ゛!?」
「ミスティアとうどんげキスメとれ…ア゛ァ゛!?」
『おっと失敗だ!罰ゲームの眼のポーション10本です!!』
口直しに思考リソースを取られたせいで、増えすぎた視界がぐるぐるとして気持ちが悪い。だが、それは相手も同じようだ。
『おおっとベルの様子がおかしい!そろそろ落ちるか!?』
視界がブレ、身体はグラつく。だが、
「なあ、いい事を教えてやるよ」
口直しの罰で渡されたポーションを、誰が服用するのかはルールに書いてないんだぜ?
「オラっ視界崩壊で死ね!!!」
「待゛」
投擲した眼のポーション10個は正常に発動。向こうは突然右腕に大量の眼球が生えたことにより、ついに視界が崩壊。脳にかかる負荷が上限を突破したため強制ログアウトとなった。
「さて…と」
勝利宣言もそこそこにこちらもログアウト。あらかじめ近くに用意しておいたエチケット袋に顔を突っ込む。実に清々しい、勝利の嘔吐であった。
Q:正義とは何ですか?
ベル「なんか大事にしてる奴もいる謎のゴミ」
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