マッスルと使い魔   作:今夜の山田

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参考程度にサイトの身長は172cmで、原作ルイズの身長は163サント



使い魔召喚

「…………貴様、何者だ」

 

 少年、平賀才人は目の前で仁王立ちしている巨躯の少女(なぜ少女と判断したかは、学生服のようなものを着ていてスカートを穿いていたからだ)に、そう問われた。

 少女は胸まで届く桃色がかったブロンドの髪をなびかせて、顔は意外にも西洋系の童顔で女らしい――まるで人形のように整った顔をしているが、それはあくまでも表面上そう見えるだけ。じっくりと見てみれば、所々に浮かんで見える古傷が、彼女の容姿を貶めていた。

 貶めると言うのには語弊があった。素人目の才人が見ても、彼女には戦士の気質を持っている。その戦士の気質に、古傷という"箔"が付いている。

 目の前の少女を"女として"見るのであれば、傷は確かに貶める物の一つだろう。だが"戦士として"見るのであれば、それは決して見劣りするような傷ではなかった。

 今の彼女は仏頂面で、才人はその表情から何を考えているか、読み取れなかった。睨まれていると思ったため、才人は咄嗟に体を起こし、正座をして目の前に立つ少女を見上げる。

 

「才人。えーっと、平賀、才人です。職業は学生。高校生やってます」 

 

 一先ず何者か、という事を端的にだが説明し、横目して周りの景色を観察する。

 辺りは草木も生えぬような荒地で、遠くの方には西洋の国にありそうな石造りの城が見える。

 しかし、それよりも才人を違和感が襲う。違和感と言うよりも、それはまるで刺すような視線だ。

 ――なぜなら、ローブを着ていても分かるほど磨き上げられた肉体を持つ者達が、才人を取り囲んでいたからだ。

 

 

 

 

 

 広場に男女が集っている。学生服こそ身に纏っているが、そのいずれもが、屈強な肉体を持ち、周囲を自らの闘気で歪めていた。

 

「我が名はギーシュ・ド・グラモン。五つの力を司るペンタゴンよ。我が生涯の友に相応しい、華麗な"使い魔"を召喚せよ」

 

 一人の生徒――ギーシュの闘気が中空に集まり、巨大な鏡を創造する。やがてその鏡から、魔獣が這い出てくる。

 出てきた魔獣――アースドラゴンは、地属性の頂点に君臨するであろう竜種だ。その体躯は岩のように堅い殻で覆われ、腹には宝石にも劣らぬと言わせるように磨き抜かれた土色に染まる鱗がある。

 アースドラゴンはその頭を垂れると、ギーシュの目の前に寄せる。

 

「美しい…………」

 

 ギーシュはその姿に身を震わせる。

 

「我が名はギーシュ・ド・グラモン。五つの力を司るペンタゴンよ。この者に祝福を与え、我の使い魔――友となせ」

 

 ギーシュは自らもアースドラゴンに近寄り、口付けを交わす。

 

「見事」

 

 眼鏡をかけた剃髪の中年の教師――ジャン・コルベールが、ギーシュに声をかける。

 

「竜種を召喚したのは君で三人目だな。誇りたまえ。偉大な竜種は君の闘気を認め、契約を交わしたのだ」

「コルベール師父……。そのお言葉、この身に有り難く頂戴いたします」

 

 ギーシュは涙を浮かべ、コルベール師父に頭を下げた。

 広場では、現在《召喚の儀》という行事を行っている。

 この儀式はこの世界のありとあらゆる場所から生物を召喚し、以降どちらかが死ぬまで切れる事の無い縁を作り、切磋琢磨していく重要な儀式だ。

 

 空間を震わすような振動、銅鑼を力いっぱい殴りつけたような轟音が響く。

 その広場の一画で、爆発が起こり、辺りが土煙に包まれる。その爆発の手前に立つ少女の名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 若干十六歳にして身長二百十三サントの巨躯を誇る才女で、トリステインマッスル養成学院での模擬戦上位を維持する猛者である。

 しかし――ルイズには一つ欠点があった。

 

「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンよ、我が覇者の運命に従いし盟友を召還せよ!」

 

 ルイズは気を闘気に昇華し、練り固めて空間に固定する。その固定された闘気は、しかし訪れる"失敗の爆発"による衝撃で辛くも霧散してしまう。

 ルイズは恥じる。自分の闘気がこのような貧弱なものであったのかと。たかが爆発如きで霧散する己の闘気を恥じ、己を恥じる。

 

「…………コルベール師父、もう一度、もう一度挑戦させてください」

 

 百度に渡る失敗に気落ちしたルイズは、しかし、今度こそはとコルベール師父に詰め寄り、必死に懇願する。

 

「ルイズ君。君の闘気が練り込まれているのは傍から見てもよくわかります。ですが、時間が押しているのです。では、あと一回だけ待ちましょう。その名の通り、全身全霊に闘気を高め、"使い魔"を召喚するのです」

「…………相分かった」

 

 一回。

 ――つまるところ、これが最後のチャンスという訳だ。

 しかし、ルイズの頭の中は混沌に渦巻いている。

 それは仇敵キュルケが召喚の儀で竜種――フレイムドラゴンを呼んだ事が始まりであった。

 仇敵が竜種を呼んだのだ、それに対して自分は百度の呼びかけにも関わらず、鼠一匹現れない有様だった。心中は決して穏やかなものでは無く、怒気を孕んでいた。

 

「ふん、『ゼロ』のルイズは何度やっても失敗するだろうさ。この前だって爆発したじゃないか」

 

 学友の言葉が胸に突き刺さる。その言葉に反論できない自身が情けなく思う。

 ルイズの魔法は、何故か失敗すると爆発する。幼いころからの修練でも、何故か魔法だけは悉く失敗するのだ。

 それ故にルイズは己の体を磨いた。深夜遅くまで行われた丸太砕き、山に篭り、オーク鬼と死闘を繰り広げた事もある。その時に受けた傷は勲章として、水の秘薬で傷痕までは治さずに残してある。

 だが、それがどうしたことだ。今、ルイズは何もできていない。生涯突き従うであろう使い魔を召喚できなければ、ルイズはもう一度初等訓練を受けなければならない。

 ルイズからすれば、もはや初等訓練など児戯に等しいものである。繰り返す事になれば、間違いなく自身の成長を遅らせる。

 同期が召喚した竜種を呼びたいと思う焦りが、もう一度同じことを繰り返すと仮想する怯えが、学友からの罵詈雑言が、ルイズがコルベール師父が与えた最後のチャンスに挑もうとして練り込んだ闘気を徐々綻ばせていくのが自身でも分かった。

 

 

 

 

「喝ッ!!」

 

 一喝。

 その出所は、コルベール師父だった。

 コルベール師父の叫びは荒野に響き渡り、ルイズを口汚く罵った者達は途端に怖気づいて口を閉じる。

 

「続けなさい。気を練り込み、高め、闘気に昇華するのです。その後闘気を空間に固定し、召喚門を創造するのです」

 

 コルベール師父はルイズに優しく語りかけると、自身もその口を閉ざした。

 

「我が名は――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴンよ、我が覇者の運命に従いし盟友をこの場この時に召還せよ!」

 

 今までにない巨大な爆発。全身全霊、全力全開に練り固めた闘気をもって、召喚に挑んだ。

 この時、ルイズは不思議な充足感を味わっていた。

 ――この召喚が失敗していたら。そんな気持ちはルイズには欠片も無い。

 あるのは確信。この召喚は絶対に成功するという思い。

 ルイズは思い、願い、祈る。生涯において自分に突き従う相棒を想像する。

 

 

 

 それらは通じ、ルイズの前に一人の少年が現れた。肌は白くも黒くも無く、あえて言うならば黄色。そして髪は黒だ。

 しかしその肉体はルイズと比べると貧弱そのもので、ルイズを罵った学友にも劣るほど"男らしく無い"。

 それはまるで平民のように《筋肉》が見えない。貴族なら――マッスルならあるはずの磨き上げられた《筋肉》が。

 

「…………貴様、何者だ」

 

 ルイズは目の前の少年に声をかける。召喚門から出てきた得体の知れぬ少年に。

 

「才人。えーっと、平賀、才人です。職業は学生。高校生やってます」

 

 少年――サイトは答える。ルイズの問いに。

 サイト。サイト。サイト。

 頭の中で三度繰り返し呼び、それが良い名だとルイズは思う。

 

「コルベール師父」

 

 隣で茫然と立っているコルベール師父を呼び、覚醒させる。

 曰く、人間が召喚されたのは非常に珍しく、見た事も聞いた事も無い。

 とは言え、使い魔召喚で召喚されたものはそれが生物であれば、契約するのがルールである。例えそれが《筋肉》の無い平民であっても。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 ルイズは意気揚々と呪文を唱え、サイトの頭を鷲掴みにして顔の隣まで持ち上げる。

 

「な、なんでしょうか……」

「喜ぶがいい、貴様はこれより私の友だ」

 

 直後、ルイズの唇がサイトの唇と重なる。

 サイトの脳に、まるで弾丸が撃ち込まれたかのような衝撃が走る。その衝撃によってか顔は赤く染まり、心の臓は高く轟き鳴り止まぬ。

 しばらく接吻が続くと、今度は体全体が熱くなり、まるで焼けるような辛苦をサイトは味わった。接吻はしばらく続き、その後サイトは解放された。

 すぐにコルベール師父が寄ってきて、サイトの体調を確認する。

 

「ほう、意外にも体躯はしっかりしているようだな。ルーンは左手の甲。……見た事も無いルーンだな、複写しておこう」

 

 コルベール師父に確認されたことで、サイトはようやく自身に刻まれたルーン文字を見る余裕ができた。

 得体の知れぬ文字は淡く光っていて、一先ず害は無さそうだと結論付け、ルイズの手を借りて立ち上がった。

 

「では、皆学び舎に戻るぞ」

 

 コルベール師父はそう言って、跳躍した。二百サント前後あるコルベール師父が数メートル跳びあがった事にサイトは驚いた。

 しかし直後にコルベール師父を闘気が包み、コルベール師父の体を空中に固定させたことで更に驚き、顎が外れたように口を開け、目を見開いた。

 そしてコルベール師父は、まるで陸上を駆けるかのように空を飛び、遠くに見える石造りの城の方へと向かって行った。

 

 

 

 

「『ゼロ』のルイズは走ってきなさいよ、その平民の使い魔抱えてさ!」

 

 そう言って自身の呼び出した蛙を肩に乗せ、身長百七十三サントはある少女がコルベール師父と同じように飛び上がり、同じく石造りの城の方へと飛んで行った。

 それに他の生徒達も続く。中には早速使い魔に乗せてもらう者までいた。

 そうして、広場にはルイズとサイトの二人だけが残る。

 

「……飛ばないん……ですか?」

 

 サイトは隣に並び立つルイズを見上げて、単刀直入に問う。

 

「いや、飛べないのだ。……それとサイト。名を呼ぶことを許す。敬語も不要だ。……走るぞ、乗れ」

「あい、さー」

 

 サイトがルイズの肩(本当は背中に乗るつもりだったが、失敗した)に乗ると、ルイズは走り出した。

 ルイズは心が沸き立っていた。入学して一年。ようやく、友を得る事ができたという至福に。

 サイトは心が沸き立っていた。平凡な毎日から一転、刺激ある生活に変わったという感動に。




一発ネタで終わりそうですが、今後も行き詰って暇つぶしがしたくなれば続きを書くかもしれません。
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