Painful Choice ―愛か死か現実か―   作:裕ーKI

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Chapter7:Exchanging Cups / 盃を交わして

 すっかり短くなった煙草の火を、Vはブーツで踏み消した。

 

 目の前には、ルーシーに意識を遮断されて気絶した僧侶が静かに横たわっている。

 

 紆余曲折ありつつも、ローグの依頼そのものはなんとか果たされた。それが一体誰の手柄となるのかは別として。

 

 辺りはついさっきまでの争いが嘘のように沈静としている。

 

 燃え盛る炎の音だけが、静かな夜の帳の中に響いていた。

 

 

 

「すっかり死に損なっちまって、お前も災難だな。たとえこの先、正気を取り戻すことができたとしても、待っているのは地獄以上の地獄だろうにな」

 

 

 赤々とした光に照らされている、無言の僧侶に憐憫な眼差しを向けながらVは呟く。

 

 

 

「にしても……まさか疑似エンドトライジン抜きで、ここまでこの体を動かせるとは思わなかったな。今回は結果オーライだが、それだけVの限界が近い証拠か……。時間はねえな……」

 

 

 

 そう言って見つめるVの掌は、その体を操っているジョニーの意思とは無関係に小刻みに震えている。

 

 ジョニーは思い返していた。

 

 Vが僧侶に胸を貫かれた時、意識が途切れる直前に彼女が漏らしていた儚い言葉を。

 

 “ごめん……ジョニー……、あたしの……――”

 

 その言葉がVの口から出たあの時、それは言い切る前に力尽きて途絶した。

 

 しかし、彼女と脳を共有しているジョニーは、その言葉の続きを心の声として確かに聞き留めていた。

 

 あたしの――

 

 その先を、Vは間違いなく言っていた。

 

『――あたしの代わりに……ジュディを護って……』と。

 

 それはVがジョニーに託した願い。ナイトシティ流に言うなら、ジョニーに宛てたVの依頼だった。

 

 だが、ジョニーに自分の体を預けるということは、≪Relic≫に対する抵抗をやめて、人格の上書きを加速させるということ。即ちそれは、自分の死を自らの手で早める自殺行為でもあった。

 

 しかしそれでも、Vは躊躇なく己の肉体をジョニーに明け渡した。ジュディの命を救えるのなら、死んでも構わないと思ったからだ。それに彼ならきっと、なんだかんだでジュディを救ってくれるだろうと信じていた。

 

 

 

「ったくよ……、そんなにあの女が大事かよ、V……。俺にとっちゃあ……お前の方がよっぽど……」

 

 

 

 胸の内に微かに感じるVの意識に向けて、ジョニーは呆れ半分で語りかける。

 

 彼女の魂は生きている。

 

 今はまだ。

 

 僧侶に敗れて深淵に沈んでいた主人格が、肉体の表層に浮上しつつある。手の震えはその証だ。

 

 Vとジョニー、2人は初めて会った時から互いの印象は最悪だった。文字通り一心同体となってからは、何度も何度も衝突を繰り返し、うんざりするほど罵り合った。そして、時には本音でぶつかり合い、共に困難を乗り越えたりもした。

 

 その甲斐あってか、少なくとも火急の事態の中で望みを託せるほどには、Vはジョニーを信頼していた。

 

 Vの体でジョニーが思いにふけていると、視界の片隅にルーシーとジュディの姿が映り込んできた。駆け寄ってきた2人は、共に怪訝な表情を浮かべている。

 

 Vはこれから傾れ込んでくるであろう質問を想像しながら、やれやれと内心溜息を漏らす。

 

 案の定、グイグイと距離を詰めながらルーシーが疑問を投げかけてきた。

 

 

 

「あんた、さっきのは一体どういうつもり?」

 

「あ? さっきってなんの話だ?」

 

 

 

 質疑の内容は、先刻のVの不可解な行動についてだ。

 

 僧侶を生かすか殺すかの競い合いを始めた時、Vのブーリャの装弾数はMAXだった。そのまますぐさまヘッドショットを叩き込んでいれば、確実に僧侶の命を奪えていたはず。ルーシーのクイックハックを待たずに早々に決着をつけることができたはずなのだ。

 

 にも拘らず、Vはあの時そうしなかった。彼女の中のジョニーは、すぐには急所を狙わず、何故かインプラントを破壊することばかりに終始していた。

 

 その行動が、ルーシーには謎だった。

 

 ハンデのつもりだったのか。

 

 それとも調子に乗って手を抜いていたのか。

 

 やっぱり見くびられていたのか。

 

 もしくは、初めから僧侶を殺すつもりなどなかったのか。

 

 望み通り競い合いには勝ち、僧侶の命を救うことはできたものの、ルーシーは素直に喜ぶことができないでいた。

 

 

 

「答えて! どうしてあんなこと……」

 

「別に大した理由じゃねえ。強いて言うなら、カマキリの前足が気に食わなかっただけだ」

 

 

 

 詰め寄るルーシーに、Vは微笑を交えて答えた。

 

 カマキリの前足? 一体何の話だとルーシーは一瞬疑問に思うが、それが僧侶の両腕――マンティスブレードのことを指しているのだとすぐに理解した。

 

 Vに宿るジョニーが生身の人間だった頃、誘拐の危機に瀕していた恋人のオルト・カニンガムを救い出そうとしていた彼は、悪漢に刃物で串刺しにされたことがあった。その時の凶器も、今回と同じマンティスブレードだった。

 

 刺された当時はなんとか一命を取り留めたものの、あの頃からジョニーは“カマキリの前足”を嫌悪していた。

 

 つまり先刻のインプラントの破壊は、言うなればマンティスブレードに対する50年越しの意趣返しだったという訳だ。

 

 しかし、そんなジョニーの過去を知る由もないルーシーは益々眉根を寄せる。

 

 本当にそんな理由で? 実はもっと別の思惑があって、わざと手を抜いたんじゃないのか?

 

 懐疑の念を抱きながらVの顔を見つめるルーシーだったが、するとそこへ、彼女の思考を遮るようにジュディが口を開いた。

 

 

 

「V……」

 

 

 

 普段とは異なる雰囲気を纏った、Vに対する抵抗が未だに拭いきれていないのだろう。恐る恐る呼びかける彼女の表情はどこか怯えているようにも見える。

 

 

 

「ジュディか。そういやぁ、こうして話をすんのは初めてだったな」

 

 

 

 V――もといジョニーは、ジュディの視線に気づくと薄笑いを浮かべながら声を掛けた。

 

 

 

「やっぱりあなた……、Vじゃないのね……」

 

「ああ、残念ながらな。今の俺はジョニー・シルヴァーハンド。お前のことはコイツ(V)の目を通していつも見ているぜ。よろしくな、ジュディ」

 

「あんたのことなんてどうだっていい! それよりVは? Vはどうなったの?」

 

 

 

 打って変わって、ジュディの態度は強気に転じる。

 

 こうして険悪な雰囲気でVの顔と対面していると、初見して間もない頃に戻ったように錯覚してしまう。

 

 愛しき恋人に焦燥とした態度で接している現実に、拭いきれない違和感を覚えながらも、ジュディもまた、ルーシーと同様に険しい表情でVに詰め寄っていく。

 

 するとVは、わざとらしい悪顔を浮かべた。

 

 

 

「気の毒だったな。悪いが……Vなら消えたぜ? 空っぽになったコイツの体を、俺が貰い受けたって訳だ」

 

 

 

 何度もキスを交わした恋人の口がいやらしく歪み、それは笑い話のように軽々と告げられた。

 

 その瞬間、ジュディは勃然と目を見開いた。

 

 そして直後に鳴り響いたのは、パァンと乾いた音。

 

 ジュディがVの――ジョニーの頬を平手で引っ叩いたのだ。

 

 周囲を取り囲むビルの壁面に反響したその音は、まるで雷鳴のように辺り一帯へと轟き、のちに訪れる静寂をより一層際立たせた。

 

 振り下ろした右手を引っ込めながら、ジュディは涙ぐんだ瞳でVの中のジョニーを睨みつける。

 

 しかし、頬を引っ叩かれた当人はというと、さして痛みを感じている様子もなく、寧ろ愉快そうな笑みさえ浮かべていた。

 

 

 

「……満足したか?」

 

 

 

 Vはそう言うと、口角をより深く吊り上げる。

 

 

 

「ッ! ふざけんなッ!」

 

 

 

 ジュディは更なる瞋恚(しんい)に身を任せて、再び右手を振り上げた。もう1発ビンタをお見舞いしてやろうと、掌を大きく後ろに引く。

 

 しかし、振り下ろされた彼女の手首を、Vは軽々と掴んで受け止めた。

 

 

 

「随分と手が早いな。まあ落ち着けよ、ちょっとしたジョークだからよ」

 

「ジョーク!? なにがジョークよ! 全然……笑えないのよッ!」

 

 

 

 即座にVの手を振り解こうとジュディは暴れるが、それでも微動だにしないVは構わず話を続ける。

 

 

 

「そうかい? そいつは残念だな。だが笑えなくても……悪い話ではないと思うぜ、少なくともお前にとってはな」

 

「どういう……意味よ……?」

 

 

 

 Vの言葉に、振り動いていたジュディの腕の勢いが少しずつ弱まっていく。

 

 

 

「わからねえか? お前が思っているような心配は必要ねえってことだよ、今日のところはな。Vは生きてる。アイツは消えちゃいねえよ」

 

 

 

 それを聞いた途端、ジュディの顔からは険しさが抜け、腕の動きも完全に止まる。

 

 

 

「生きてる……? Vが……?」

 

 

 

 ジュディが呆然とする中、Vは捕えていた彼女の手首を開放する。

 

 

 

「俺のポジはあくまで助手席でな。今回はたまたま、伸ばした俺の手がアイツのハンドルに届いたってだけの話だ。今はまだ、この体の所有権はVにある。……ただまあ、いつまでコイツが騎乗位で腰を振っていられるかはわからねえけどな。明日には、体位が逆転してることだって十分あり得るんだ」

 

「やめてッ! Vの顔と声でそんなこと言わないで! Vが無事なのはわかった! わかったから……、さっさとその体をVに返してよ!」

 

「はいはい、言われなくてもそうするさ。正直、薬抜きでこの体を動かすのは俺もしんどいからな。それに……さっきからVの意識が騒ぎ立ててる、早く席を代われってな」

 

「そう。それは何よりの情報ね。だったら早くそうしてッ!」

 

 

 

 募る苛立ちを抑えきれず、ジュディは語気を強めて叫んだ。

 

 Vはやれやれと肩を竦める。

 

 

 

「ああ、わかってるよ。だがその前に、これだけは忠告しとくぜ、ジュディ」

 

「忠告? なによ今さら……」

 

「いいから聞けよ。もし、お前がこの後、無茶したコイツ(V)に説教を垂れるつもりならよ……――せめて痛みを伴う制裁は、さっきの一発(ビンタ)で勘弁してやれ」

 

「それってどういうこと……?」

 

「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。Vが自分の体を俺に託したのは、お前のためにやったことだ。何が何でもお前を護りたくてVがとった……”苦し紛れの選択”って奴だ。だからまあ……命を救われたお前に、必要以上にコイツを責める資格はねえってこった」

 

 

 

 ジョニーはそう言って、引き際を悟るようにVの体で大きく伸びをする。

 

 そして、

 

 

 

「もっとも……お前らふたりを救ってやったのは、他の誰でもない俺なんだけどな。感謝しろよ、お前ら」

 

 

 

 最後に恩着せがましい台詞をわざわざ付け加えると、ジョニーの人格はVの肉体の表層から引っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 色香を纏った瞼が閉じる。

 

 意識を失った体が脱力して、ガクンと傾く。

 

 倒れかけた恋人の体を、ジュディは慌てて全身で受け止めた。

 

 その小さな肩の上で、瞼は再び開かれる。

 

 同時にジュディの耳に届いたのは、微かな笑い声だった。

 

 肉体の自由を取り戻して早々に、目覚めた彼女は掠れた声で低く笑う。

 

 

 

「ジョニーの奴……、ホント似合わない……。何が……『今の俺は甘くはねえ』よ……。甘々じゃない……」

 

 

 

 その言葉は、まるで寝惚け声のよう。

 

 けれどもそれは、決してジョニーのものではない。Vの口、Vの声を通して放たれた、紛れもないV本人の意思。

 

 こうして体を重ねて体重を預けていると、ジュディの温もりが全身に伝わってくる。

 

 ジュディの細く柔らかな感触。

 

 ジュディの甘い匂い。

 

 愛しき人の存在感をその身で実感しながら、Vは現実に帰還したことを自覚する。

 

 

 

「Vッ!」

 

 

 

 瞬間、ジュディは感極まって、Vを――本当のVを強く抱きしめた。

 

 強く強く。もう離さないとばかりに、力いっぱい抱き留める。

 

 

 

「ジュディ……。ちょっと……苦しいって……」

 

 

 

 そう言いながらも、Vはまんざらでもない表情で、ジュディの背中にそっと手を添える。

 

 

 

「よかった、V……。生きててくれて、ホントに……よかった……」

 

 

 

 ポロポロと溢れる大粒の涙。そして抑えようもなく震える声。

 

 既に悲しみの啼泣で崩れていたメイクを、きれいさっぱり洗い流さんばかりの勢いで、ジュディはVの胸の中で泣きじゃくった。

 

 それは誰が見ても一目瞭然、紛うことなき嬉し泣きだった。

 

 2人の再会に、感情を表に出すことをあまり得意としないルーシーでさえ、うっすらと安堵の表情を浮かべている。

 

 Vはジュディに凭れ掛かっていた自身の体をゆっくりと起こすと、2度3度の喀血を繰り返しながらも、ジュディとルーシーの無事にたまらず破顔する。

 

 実際には1時間にも満たない出来事だったというのに、随分と久しいようにも思えてしまうVの笑顔に、ジュディは喜びを隠しきれない。だが、歓喜の念を抱きつつも、実は同時に僅かばかりの迷いも感じていた。

 

 ジョニーが言っていた通りだった。

 

 本当ならVに、文句の1つや2つを言ってやりたかった。

 

 どうして体調が悪いとわかりきっていたのに、無茶な真似をしたのかと。

 

 どうしてこんなに心配しているのに、平然と飛び出して行くのかと。

 

 そして言ったついでに、一発殴ってやりたいとも思った。

 

 しかしそれらは妨げられた。展開を先読みしたジョニーに先手を打たれて封じられたのだ。

 

 わざと怒らせて平手打ちを受け入れたのも、去り際にわざわざ忠告してきたのも、きっとこの流れを見越した上での行為だったのだろう。

 

 ――命を救われた私に、Vに文句を言う資格はない。

 

 ずるいよ、と心の中で呟きながらも、しかし不思議と気分は清々しい。

 

 Vの無事を確認できた今となっては、胸中に渦巻く不満や迷いは微々たるものとなったのだ。

 

 Vが生きていてくれるなら、

 

 Vが傍にいてくれるなら、

 

 今はそれだけで十分なのだから。

 

 そうして、取るに足りない存在となった不満や迷いを飲み込んだジュディは、涙を拭って改めてVと向き合った。

 

 

 

「V、あなたって……ほんとバカ」

 

「え? なに急に……」

 

 

 

 微笑を浮かべながら告げるジュディの言葉に、Vは戸惑った様子で首を傾げる。

 

 

 

「ねえV、聴いて。危ないマネをやめろとは言わない。あなたがこの街の傭兵である以上、それが無理なのはわかってるから。でもお願いだから、もっと自分を大切にして。あなたに何かあれば、悲しむ人がいることを忘れないで」

 

 

 

 Vは少しだけ驚いたような顔をしてから、小さく頷いた。

 

 

 

「わかった、肝に銘じるよ」

 

 

 

 その様子を、再びVにしか見えないホログラムの姿となったジョニーが、視界の片隅で腕組をしながらニヤニヤと眺めていた。

 

 

 

『まさに至れり尽くせりだな、なあV? 恋人の怒りまで肩代わりしてやったんだ。アフターケアとしては上出来だっただろ?』

 

(はいはい。わかったから、少し黙ってて)

 

 

 

 得意顔で自画自賛しているジョニーに横目を向けながら、Vは彼にだけ伝わるように心の声で応えた。

 

 そんな中、Vとジュディのやり取りを見守っていたルーシーは、いつの間にか浮かない表情を浮かべていた。

 

 

 

「V……、ちょっといい……?」

 

「ん? ルーシー、どうかした?」

 

 

 

 不意に声を掛けられると、Vはルーシーの方へ振り返る。

 

 ルーシーはどこか気まずそうな面持ちで俯いていたが、やがて意を決したかのように顔を上げた。

 

 

 

「ごめんなさい……。私が偉そうなことを言ったせいで、あんたには迷惑を掛けたみたい……」

 

 

 

 それが一体何の謝罪だったのか、Vには一瞬わからなかった。だが、ルーシーの思い詰めた眼差しを見ているうちにピンときた。

 

 

 

「ルーシー、ひょっとして……アフターライフであたしに言ったことを気にしてるの?」

 

 

 

 ルーシーは軽く頷いた。

 

 

 

「まあね……。でも、悪いけど……あの時の言葉を取り消すつもりはないの。あんたの片割れ(ジョニー)にも啖呵を切ったばかりだし、あくまで私は自分の考えを貫き通す。だけど、それはそれとして、あんたに不快な思いをさせたのは事実だから。それだけは謝りたいと思って……」

 

「ちょっと待って、よしてよルーシー。あんたは何も悪くないんだから」

 

 

 

 らしからぬ慎み深さで謝罪しようとするルーシーを、Vは顔を横に振って制止する。

 

 

 

「悪くないって、そんなはずないでしょ。私の言葉のせいで、あんたは……」

 

「ちがうって。そうじゃない。悪いのは……全部あたしなの。ジュディの言う通り、あたしがバカだから、みんなに迷惑を掛けたのよ。ジュディやジョニーが止めようとしてくれてたのに、それを無視して意地を張って……独りで突っ走って……。挙句の果てに崖っぷち(エッジ)を踏み外して、ルーシーにまで危険な思いをさせて……。まさに愚かしさの極よね……」

 

「V……」

 

 

 

 自嘲気味に言うVを見ていたジュディは、何か言いたげな表情を浮かべたが、結局何も言えずに口を噤んだ。

 

 

 

「だから……謝るのは寧ろあたしよ。それどころか、身を挺してまでジュディを護ってくれたんだから、あんたには凄く感謝してる。本当にありがとね、ルーシー」

 

 

 

 思いがけないVの謝辞に、一瞬強張ったルーシーの表情が仄かに緩む。

 

 

 

「それに! あんたにはジョニーも迷惑を掛けたしね!」

 

『は!? おいっV! 俺が一体何をしたって?』

 

 

 

 唐突に話題の中心に据えられたジョニーが、腕組を解いて抗議する。が、Vはどこ吹く風で話を進める。

 

 

 

「あいつ、サイバーサイコの処遇で無駄に張り合ってたけど、実は最初からルーシーに勝ちを譲るつもりだったのよ?」

 

『お前っ!? なに余計なこと口走ってんだ!?』

 

 

 

 Vの思わぬ暴露に、ジョニーは泡を食って喚きだす。

 

 

 

(なによ? あんただって、忠告だとか言ってジュディに余計なこと吹き込んで、彼女を不安にさせてたじゃない。あの子の怒りを受け入れる覚悟なら、あたしはとっくにできてたのに……。だから、これでイーブンでしょ)

 

『……ああそうかよ。どうやら、本当に余計な気遣いだったようだな。やって損したぜ、ったく……』

 

 

 

 呆れたように嘆息すると、ジョニーは拗ねた子供のようにそっぽを向いてしまった。両手を腰に当てながら、不機嫌そうに俯いている。

 

 その後姿に、Vは可笑しくなってクスリと笑う。そして、世話が焼けると言わんばかりに肩を竦めると、一言だけ、感謝の気持ちを心の声に乗せて、彼に届けることにした。

 

 

 

(わかったわよジョニー、とりあえず礼は言っとく。頼みを聞き入れてくれて、ありがと。まあ正直、半分はありがた迷惑だったけどね)

 

 

 

 その言葉に、ノイズ混じりの背中がピクッと震えた。

 

 ジョニーは肩越しにチラリとVを見ると、フンッと鼻を鳴らしながら明後日の方向に視線を向けるのだった。

 

 

 

『バァカ。ありがた迷惑なら意味ねえっつうの……』

 

 

 

 ジョニーの照れ隠しを尻目にしながら、Vはルーシーとジュディの方へと向き直った。

 

 

 

「そういえばV、サイバーサイコに胸を刺されたのに、どうやって死なずに済んだの? もしかして、今回も≪Relic≫で?」

 

 

 

 ジュディはずっと気になっていた疑問を投げ掛けた。

 

 だが、当事者である肝心のVは、思い詰めた様子を見せることもなく、大した話ではないと言わんばかりに軽妙な口調で答えた。

 

 

 

「命拾いしたのは単純にインプラントのおかげ。少し前にジョニーにせがまれてね。心臓にサイバーウェアを組み込んだの」

 

 

 

 そう言いながら、Vは自分の胸に手を当てる。

 

 それなりの量の血痕は付きつつも、奇跡的に無傷で済んだ、ファルコから託された黄色いジャケットとは違い、その下に着用していたお気に入りのシャツは、マンティスブレードに裂かれたせいで血塗れの大きな穴が開いていた。

 

 

 

「心臓に……?」

 

「そう。ヘイウッドで買った“予備心臓”をね。正直、あたし自身は全然乗り気じゃなかったんだけど……。でも今回の一件で、その必要性は痛感させられたわ」

 

 

 

 より正確に言うなら、心臓のインプラントは近々始まるであろうアラサカとの全面対決に備えて――なのだが、これ以上ジュディに余計な心配を掛けたくないVは、その事実を彼女に告げようとはしなかった。

 

 “予備心臓”とは、いうなれば1度停止した心臓を強制的に再起動させる、循環器系のサイバーウェア。命知らずの敗者を、諦めの悪い死に損ないへと導く、愚かさと希望を同時に孕んだ装置だ。

 

 Vの胸の奥では、そんな金属の塊と混ざり合った無骨な心臓が、彼女をなんとか生き永らえさせようと、今も必死に鼓動を続けている。

 

 

 

「心臓までインプラントに……。なんか……複雑な気分だけど、それでVが命拾いしたんだから、良かったと思うべきよね……」

 

「ええ。そうしてもらえると助かる。それに――」

 

 

 

 さり気なくルーシーにも視線を流しながら、Vは言葉を続ける。

 

 

 

「――おかげで1つだけ、確信を持つこともできたし」

 

「なに? 確信?」

 

 

 

 ジュディが聞き返すと、Vはコクっと頷いた。

 

 

 

「ジュディのためなら、あたしは迷わず自分の命を捨てられるってこと」

 

「V、いきなり何言って……」

 

 

 

 恋人の突拍子もない発言に、ジュディは思わず言葉を失った。一体何の冗談かと一瞬考えもしたが、陳述した本人の表情が、それが本心であることを物語っていた。

 

 

 

「ちょっと待ってよ、訳がわからない……。ついさっき、私言ったばかりよね? もっと自分を大切にしてって!」

 

 

 

 戸惑いながらも、ジュディは声音に怒気を含ませて反論を唱える。

 

 しかしそれでも、Vは表情を崩すことなく冷静に語り続けた。

 

 

 

「わかってる。だけど、これがあたしの……今の正直な気持ちなの。自分の夢とか他人の夢とか、生きるか死ぬかとか、伝説になるとかならないとか、ルーシーを言い負かすだけの決心はまだつかないけど、それでもさっきの一件で、これだけはハッキリした。あたしはジュディのためなら絶対に死ねる。でもそれ以上に……死にたくない。これからもずっと、ジュディと一緒に同じ時間を過ごしていきたい。今のあたしが、心の底から生き続けたいと願えるのは、ジュディのおかげ。それだけは間違いないって、今日改めて思い知ったわ」

 

 

 

 Vはジュディの眼差しを見つめながら、どこか吹っ切れたような笑顔を浮かべていた。

 

 そこにあるのは、ジョニーの人格が引っ込んですっかり元に戻ったいつもの顔。美しくも愛くるしい、大好きな想い人の顔。

 

 屈託なく微笑むVを前に、ジュディはすっかり言い返すことができなくなっていた。

 

 何も言える訳がない。

 

 ジュディにとってVのその言葉は、なによりも嬉しくて愛おしいものだったから。

 

 

 

「それで? どうかしら、ルーシー。これが今のあたしに言える、精一杯の答えなんだけど」

 

 

 

 喜色を浮かべながら頬を赤らめるジュディの姿に、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、Vは温和な視線をルーシーに向けながら唐突に可否を問う。

 

 

 

「どうって、なんで私に訊くわけ?」

 

 

 

 ルーシーは一瞬困惑しつつも、すぐに微笑を交えて応えた。

 

 

 

「いいじゃない、別に。あたしに自分を見つめ直す機会をくれたのは、ルーシーなんだから。だからぜひとも、あんたからもご教授願いたいのよ」

 

「なによそれ。まさか皮肉ってるつもり?」

 

「違うわよ。単なる事実と、切実な願いって奴よ」

 

 

 

 Vがそう言って笑うと、ルーシーは「ホントかしら」と、呆れながらも率直な感想を述べた。

 

 

 

「まあ、悪くはないんじゃない? 少なくとも、店での優柔不断な有様に比べれば、幾分かはマシかもね。それに……、そうやって大事な人に面と向かって思いを伝えられて、羨ましい限りだわ……。私は……どうにもならない土壇場でしか、それができなかったから……」

 

 

 

 語っているうちに、1年前の悲しい記憶を思い出したルーシーは、悄然と軽く項垂れた。

 

 それはデイビッド・マルティネスと、最後の言葉を交わした時の記憶。

 

 サイバースケルトンを装着したデイビッドが、アダム・スマッシャーの攻撃で月夜の摩天楼に放り出されながらも、身を挺して必死に自分を護ろうとしてくれた時のことだ。

 

 決して忘れることはない。

 

 忘れられる訳がない。

 

 あの日の夜。

 

 シティ・センターでの激しい銃撃戦。

 

 嵐のように飛び交う弾丸。

 

 鳴り止まぬ銃声。

 

 執拗に追跡してくる全身クロームの怪物。

 

 そんな戦火の渦中で、夜空に浮かぶ大きな満月に見守られながら、ルーシーはようやくデイビッドに本音をぶつけた。

 

 “――あんた自身が生きてくれていれば、それだけでよかったのに……”

 

 しかしそれを伝えることができた時には、何もかもが手遅れだった。

 

 もし眼前のVとジュディのように、もっと早くデイビッドに本音を伝えられていたら、今とは違う別の未来も、ひょっとしたらあり得たかもしれないのに。

 

 ルーシーは不意に天を仰いだ。

 

 見ると、大破した車から伸びていた火柱の勢いはいつの間にか弱まり、立ち上っていた黒煙も徐々に晴れていた。

 

 明瞭となった夜空には相変わらず星は見えない。

 

 だけど代わりに、あの時と同じ大きな満月が、ビルの隙間からひっそりと顔を覗かせていた。

 

 

 

 

 

 騒ぎの終焉を聞きつけたローグが、バウンサーのエメリックを引き連れてアフターライフから出てきた。

 

 ローグはすっかり荒れ果てたパーキングスペースを見渡すと、騒ぎの元凶である沈黙した僧侶の姿に目をやりながら、ゆっくりとした足取りでVの元へと歩み寄る。

 

 

 

「ふぅん、どうやら方は付いたみたいだね」

 

「ローグ……。まあ……なんとかね……」

 

 

 

 Vが歯切れの悪い返事をすると、ローグは途端に笑みを浮かべた。

 

 

 

「それで? そつなくこなすことはできたのかい?」

 

 

 

 Vは肩を竦めながら溜息混じりに答える。

 

 

 

「正直言うと、それが全然でね……。あたしはただただ醜態を晒しただけ。ジュディやルーシー、それにジョニーがいなかったら、今回はマジでヤバかったかも」

 

「だろうね。最初からあんたには期待していなかったよ。少なくとも今日に限って言えば、期待されるコンディションでもなかったろうしね」

 

「ええ、返す言葉も無い。それにあんたが期待していたのは、どうせ最初からジョニーだったんでしょ?」

 

「さあ、どうだろうねぇ」

 

 

 

 Vの指摘に、ローグはフッと含み笑いを見せる。

 

 

 

『ローグの奴、さては最初から……俺を頭数に入れてやがったな』

 

 

 

 Vの視界の中で、ローグの傍に姿を現したジョニーが、不貞腐れるように紫煙を吐いている。初めからローグの掌の上だったという事実を知り、納得できない様子だった。

 

 

 

「まあ、誰が騒ぎを解決しようと、約束は約束だからね。さあ、私の気が変わらないうちに店に入りな。今夜は好きなだけ飲ませてやるよ」

 

 

 

 ローグに促されると、Vはサイバーサイコシスの治療に力を入れている馴染みのフィクサー――レジーナ・ジョーンズにホロコールし、気を失ったままでいる僧侶の保護を依頼した。そして後始末をローグとエメリックに任せ、ジュディやルーシーと共にアフターライフに向かって踵を返した。

 

 

 

「お酒もいいけど、Vは治療が先だからね。本当は病院かリパーのところに連れて行きたいんだけど……」

 

「大丈夫よ、ジュディ。≪Relic≫の影響で、今は怪我の治りが早いの。忌々しいチップだけど、コイツはあたしの体がジョニーのものになるまでは、超が付くほど過保護みたいだから」

 

「ちょっとVィ、それで私が安心できるとでも思ってるわけ? 寧ろ尚更不安になるんですけど?」

 

「そお? そんなに安心できないなら、気の済むまで身体検査してくれても構わないわよ?」

 

「良いわ、後でじっくり診てあげる。勿論一緒に裸になって、ベッドの上で……念入りにね」

 

「フフッ、それは楽しみ。だけどまずは宴。せっかくタダなんだから、浴びるほど飲まないと損でしょ。それにお腹も空いたし、ついでにクレアに何か作ってもらいましょ。スパイスの効いたサンドイッチとかどうかしら?」

 

「サンドイッチもいいけど、私はピザが食べたい。前にVと食べた、アーティチョークとアボカドが乗ったやつ」

 

 

 

 道中、気の抜けた談笑に花を咲かせながら、Vとジュディは歩いていく。

 

 一方、ルーシーはそんな2人の後ろで静かに足を止めていた。

 

 振り返り、名残惜しそうにもう1度夜空を見上げると、青白い満月が変わらぬ顔でそこに浮かんでいた。

 

 ――Vは気持ちに整理をつけた。私もそろそろ、区切りをつけないと……。

 

 天上に浮かぶ丸い輝きを視界に収めながら、これからのことをそこはかとなく考える。そうしていると、不意に背後から声がした。

 

 

 

「ルーシー? 月なんか見上げてどうかしたの?」

 

 

 

 思わずハッとなり、その声の方へと視線を向けると、そこにいたのはジュディだった。

 

 立ち止まったままついてこないルーシーを不思議に思ったジュディは、負傷扱いのVを先に行かせて、ルーシーの元に引き返したのだ。

 

 恋人の傍を離れてまで、わざわざ気遣ってくれたジュディに内心嬉しく思ったルーシーは、僅かに口角を上げる。

 

 

 

「ジュディ……。なんでもないわ。ただなんとなく……この街で月を見るのも随分久しぶりな気がしたってだけ。前は毎日のように……バカみたいに眺めてたのに……」

 

「そっか、月に行くのが夢だったって言ってたものね。じゃあ……それも彼氏と?」

 

「まあね」

 

「さっきも名前、呼んでたね」

 

「未練がましいでしょ? デイビッドとVを見間違えるなんて……、我ながらみっともなくて嫌になる……」

 

「そんなことない。それを言ったら私だって……。Vと恋仲になってからのこの数日間、朝から晩までV、V、Vって、鼻歌交じりに呟いてるぐらいだし」

 

「冗談でしょ? 病気じゃないんだから」

 

「いいのよ、別に。恋は病って言うじゃない?」

 

「古すぎるって。いつの時代のフレーズよ」

 

 

 

 2人は向き合い、自然と笑い合った。まるで昔馴染みの女友達のように親し気に。

 

 やがて言笑が治まり沈黙が訪れると、ジュディは良い機会だからと改めて謝辞を述べた。

 

 

 

「そういえば、さっきは護ってくれてありがと。あと……叱ってくれたことにも感謝してる。おかげで死なずに済んだから」

 

 

 

 その言葉に、ルーシーは微笑みをより一層深くした。

 

 ジュディは慈愛に満ちたルーシーの表情を見つめながら、ある決心をしていた。そしてそれを、意を決して切り出した。

 

 

 

「ねえ、ルーシー?」

 

「ん?」

 

「もし……あなたが良ければなんだけど、私と――」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 アフターライフ店内に戻ると、バーカウンターの奥でクレアが待ち構えていた。

 

 Vたち3人が、最初に座っていた席に再び腰を下ろすと、クレアは両手をカウンターの上に付きながら、にこやかな表情で3人の無事を喜んだ。

 

 

 

「みんなお疲れ様。ローグに言われた通り、今夜はどれでもタダだから。遠慮しないで好きなものを頼んで?」

 

 

 

 オーダーを伺うクレアに、Vたちは最初の1杯を注文する。

 

 Vは“ジャッキー・ウェルズ”を。

 

 ルーシーは“デイビッド・マルティネス”を。

 

 2人とも思い入れ深いカクテルを迷わず選んだ。

 

 ジュディもなにを飲もうかと一考していると、ふと不審な仕草を見せるVの横顔が目に留まった。よく見ると、クレアから少し視線を外して、彼女の後ろのバックバーを眺めているようだった。

 

 そこに並んでいるボトル瓶たちでも見ているのかと思いつつ、ジュディはVに真相を確かめた。

 

 

 

「V、どうかした? 何を見てるの?」

 

「ん? あ、いや、見てるわけじゃないの。見てるって言うより……愚痴を聞かされてるって感じね」

 

「愚痴?」

 

 

 

 Vが言うには、バックバーの前には今、ジョニー・シルヴァーハンドのデジタルゴーストが、不機嫌な顔で寄りかかっているらしい。なんでも、サイバーサイコ討伐に一番貢献した(と自負してる)のに、除け者扱いにされていることが気に食わないんだとか。

 

 

 

「いい大人が拗ねちゃって、子供みたいでしょ?」

 

 

 

 確かに子供っぽいかもしれないが、そう言うVも似たようなもの――寧ろVが時折見せる幼稚な一面は、実はジョニーの影響なのではないかと、ジュディは微笑ましくも考えた。

 

 しかしそういう理由ならと、ジュディは1つの提案を口にする。

 

 

 

「じゃあさ、私が彼のカクテルを頼んであげる」

 

 

 

 こんなことでジョニーの気が治まるとも思えないが、それでも彼には恩がある。Vを助け、Vの頼みを聞き入れてくれただけじゃない。彼はルーシーの命の恩人であり、そして――。

 

 ――私の命の恩人でもあるから。

 

 さっきは頭に血が上っていたせいで悪辣な態度で接してしまったが、冷静になって考えてみれば、彼には感謝しかなかった。

 

 できることなら、ジョニーにも酒席に参加してほしい。しかしそれだけのために、Vの体を使わせるわけにはいかない。だからせめてもの謝意として、彼の名を冠したカクテルを、カウンター越しにいるクレアに注文することにした。

 

 

「大したことじゃないけど、これで我慢して」

 

 

 

 受け取ったグラスに視線を落としながら、ジュディは目に見えないジョニーにそう告げた。

 

 

 

「ジョニーの奴、どうやらまんざらでもないみたいよ。ありがとね、ジュディ」

 

 

 

 視界の中で、密かに口元を綻ばせているジョニーの姿を眺めながら、Vは彼に代わってジュディに礼を伝えた。

 

 3人の手元に、注文したカクテルが出揃った。

 

 

 

「そういえば、ルーシーとはまだ1度も乾杯してなかったね。せっかくだし、あたしたち3人の出会いを祝福しましょ」

 

「いいね、それ」

 

「構わないわ。……あ、でも待って、そういうことなら……」

 

 

 

 何かを思いついたかのようにルーシーはそう言うと、Vの手前にあったグラスを突然ヒョイッと取り上げた。そして代わりに、自分が注文したグラスを彼女の前に置く。ルーシーのグラスとVのグラスが入れ替わったのだ。

 

 

 

「ルーシー、これは……どういう意味?」

 

 

 

 当然のようにVが困惑しながら訊ねると、ルーシーはその様子を面白がるように目を細めた。

 

 理由はいくつかある。例えば、デイビッドの意思を引き継いだようにも見えるVに向けた、純粋なエールのつもりだとか。もしくは、サイバーサイコの騒ぎが起きる前、Vの夢――ひいては彼女の友人の夢に対して、否定的な意見を告げてしまったことに対する、ささやかな謝罪のつもりだとか。

 

 しかし、そんな幾つかの理屈を並べるより、今はたった一言のシンプルな言葉の方が相応しいと、ルーシーは思った。

 

 

 

「さあね。強いて言うなら……親愛の証」

 

 

 

 らしからぬルーシーの言葉に、Vは驚きながらも破顔した。

 

 

 

「親愛の証か……。あんたがそういうこと言うなんてね、ちょっと意外……。でもそれなら大歓迎。喜んで貰い受けるわ、ルーシー」

 

 

 

 そうして、Vはグラスを手にして持ち上げた。“デイビッド・マルティネス”の名のカクテルが入った、冷たいロックグラスを。

 

 

 

「じゃあ、あたしたちの出会いと……そうね――ルーシーの恋人に」

 

 

 

 Vがグラスを掲げて音頭を取ると、ルーシーとジュディもグラスを手にして後に続いた。

 

 

 

「Vの親友に」

 

 

 

 ルーシーは“ジャッキー・ウェルズ”を掲げた。

 

 

 

「それなら私は……私たちの恩人に」

 

 

 

 ジュディは“ジョニー・シルヴァーハンド”を掲げた。

 

 3人の出会いの祝福と、ナイトシティに名を遺した者たちへの手向けの想いを込めて、3つのカクテルが天を向く。そして――。

 

 

 

「「「乾杯!」」」

 

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