ティアノス共和国連邦興亡記   作:アルクィル

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小説初投稿です。拙いですが、ティアノス共和国連邦の紡ぐ物語をお楽しみいただければ幸いです。


はじまり―Before beginning of the record

 この物語は、我々の知らない宇宙のどこかに確かに存在した人々の営み―その記録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 万雷の拍手が響く荘厳な議事堂の中心で、二人の人物が向かい合っている。一人は深い知性を感じさせる容貌をした初老の紳士、もう一人は青みがかった銀髪をした活力に溢れた若い女である。 

 

 彼らは分厚い一冊の書物が置かれた高い台を境にして、穏やかに語らっていた。

「今日から君が先頭に立ってこの連邦と全ての市民を護り、導いていくのだ。おめでとう、イルマ君。いや、イルマ・セルラー“新”大統領閣下。」

 一息置いて、彼女は答えた。

「ありがとうございます、エガリト・ヴァーネス“元”大統領閣下。もう少しだけ、もう少しだけの間、我々に知恵をお貸しいただけたら幸いです。」

「今やこの惑星を出て新たなる海へと旅立つ我らティオネスにこの老体の知恵が役立つかは分からんが、愛弟子の頼みだ。」

 

 そう言うと老賢者は左手の手の平を上に向けて差し出し、言葉を続けた。

「最後の奉仕をさせていただきましょう、大統領閣下。よろしくお願いいたします。」

 イルマも左手の手の平を下に向けて差し出された左手を握る。

 

 この行為こそ、嘘偽りのない清廉な契約―ティオネスの社会において重要なことであるそれを、確かに双方の合意の上で交わしたという証である。

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。先生。」

 二人の手は、しばらくの間硬く結ばれていた。

 

 

 

 

 

「では、私的な契約はここまでにして、今度は公的な契約に移ろう。」

 そう言うとエガリトは台の上に置かれた書物―ティアノス共和国連邦憲章の原本を持ち、イルマに差し出した。

 

 イルマはそれを持ち、両手で胸に当てて、儀式の言の葉を紡ぐ。

「今日、この惑星ティアノスに生きる全連邦市民に対し私は誓約いたします。」

 

「私は、連邦の最高執政官として、ティアノス統合条約と我らティオネス種族の歴史において紡がれた全ての契約章典、そしてこの連邦憲章を遵守し、この国を統治いたします。」

 拍手が議事堂を覆うように響く。

 

「私はまた、連邦を構成する諸共和国の首席代表者として、我らティオネス種族の多様な社会・文化を保護し、連邦市民のあらゆる自由と権利を常に先頭に立って擁護いたします。」

 拍手が声をかき消すかのように響く。 

 

「私はまた、連邦の統合の象徴として、暴力と権威ではなく、我らティオネスが誇る連帯と調和の精神を掲げ、熟議による合意形成を成し、全市民の平和的共存という崇高な目的のために奉仕いたします。」

 拍手が周囲を割らんとするばかりに大きく響く。

 

「そして、私は!」

 イルマは先程までと調子を変え、絶叫するかのように夢を語り始める。

「ティオネスが星々への新たな航海を始めるこの前人未踏の新時代において、我ら連邦が、いつの日にか自由と正義の灯火を掲げ続ける宇宙の理想郷と呼ばれるよう、力の限り彼方への歩みを進み続けることを、ここに宣言いたします!」

 

 

 

 予定にはなかったはずの宣言。しかし、議事堂に座る全議員は、いやこの演説を聞いていた全市民は彼女の熱意に呑まれた。

 

 酔わされた。

 

 熱狂してしまった。

 

 

 

「彼方へ!」

「「彼方へ!」」

「「「彼方へ!」」」

 しばらくの間、希望と熱意を帯びた叫びが響き続けた。

 

 

 

 

 

「すごいものだ、イルマ君。私にはついぞこんな演説はできなかった。姉を思い出したよ。」

 エガリトの目には涙が浮かんでいる。

「あの初代大統領に比べられるとは、光栄の極み……というよりも若干恥ずかしいですが。」

 イルマは少し顔を赤くして目線をそらした。

「いやいや、やはり確信したよ。君こそがこの国を大きく飛躍させられる比類なき導き手だ。今分かったんだ、我々ティオネスはリベルナ・ヴァーネスの次に、イルマ・セルラーをこそ待っていたんだということを。」

 

 イルマはしばし考え込み、いつも見せる自信に満ちた顔―いや、学生時代のような顔に戻って、大きく微笑んだ。

「私、絶対やってみせますよ!先生!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連邦標準暦2199年12月30日、後世において『理想郷演説』と呼ばれる、ティアノス共和国連邦第5代大統領イルマ・セルラーの就任誓約演説は、こうして幕を閉じた。

 

 彼らティオネス種族の宇宙への歩みは、この日を持って新たなステージへと至ったのである。




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