【連邦標準暦2200年1月1日朝 ティオネス=メルディウム連邦特別州 連邦大統領官邸執務室内】
めでたく新年を迎えたこの日だったが、この場所はそれを祝う一般市民とはかけ離れた喧騒と慌ただしさに覆われていた。無論、ここの主人が代替わりしたせいもあったが、それ以上の原因は、今から行われようとしている歴史的大偉業のためである。
「ティアノス第二宇宙港への連絡経路、予備二本も含めて全て正常です。また大気圏内に異常なし、天候も問題ありません。」
「調査船ジャル・バヴァーク号への乗員及び物資搬入作業終了。ヴィマス・ヴァ船長との通信回路開きます。」
「建設船カル・ドヴァ号の出港準備は概ね完了しましたが、建設用資材の補給作業が約1時間遅れています。」
「宇宙戦闘艦3隻はすでに軌道上に到達。現在第二宇宙港にて係留中です。」
「調査船5隻の追加建造を命じる大統領令第1号、調整が終了しましたのでサインをお願いいたします。」
この場所の新たな主人となった女―イルマ・セルラーは各部署のスタッフからの報告を直接、あるいは間接で次々受けていた。
その部屋には彼女を中心に、一辺の欠けた方卓が広がっており、欠けた一辺の場所には複数の
イルマは秘書から差し出された2つの大統領令の文書―と言っても片方は電子文書だが―に署名を終えると、周囲を一瞥し、口を開いた。
彼女の目は方卓から離れた左右に位置するカメラや記者に向けられ、また表情は穏やかな笑みをたたえている。フラッシュが重なる朝日のようにそれを照らす。
「連邦市民の皆様、ついにこの日がやってまいりました。
昨日の彼女の演説を聞いていた人々が皆、その熱狂冷めやらぬうちに再び情熱と興奮を帯びた目で彼女を見ている。
「これから我々の進む航海は、かつて我らのティオネスの祖が成した偉業にも匹敵します。
イルマは、今や歴史上の用語になりつつあるティオネスの“三大人種”の名をあえて引き出した。実際にその言葉を発している彼女も、それら全ての血を引いているにも関わらずである。その目的は今を生きる全てのティオネスが新たな航海者であることを想起させるため、そして祈りのためでもあった。
彼女の言葉は続く。
「これから、我々の先駆けでもある勇気ある人々がリヴァティアの光すら届かぬ未知の海へと旅立ちます。もちろん不安もありますが、それでも私は彼らのもたらすモノへの興味が尽きません。それは皆様も同様であると思います。我ら
イルマは左胸に両手をかざした。ティオネスに古典期から伝わる祈りの作法の一つである。
「そして祈りましょう。航海の成功を。星海の祝福を。我らの永久の繁栄と平和を。さらに願わくば、心優しき隣人を。抜錨の時です。」
拍手が木霊する。室内でも、船内でも、惑星のあらゆる場所でも。穏やかな音は人々を包んだ。
拍手が終わり、定刻を迎える。
先駆けの船が今、旅立つ。
【ティアノス第二宇宙港艦船ドック内 調査船ジャル・バヴァーク号艦橋】
勇者たちの乗る船も、彼らの代表者からの激励を聞き、緊張がほぐれた船員の手により規律正しく駆動している。
『こちらティアノス宇宙管制センター、ジャル・バヴァーク号船長へ。最終確認をお願いします。』
「こちら船長ヴィマス・ヴァ。感度良好。最終確認開始を開始いたします。」
大きな束でその長い髪を結い上げる女船長は、副長と共に既定の事項を読み上げる。
『確認の完了を認めます。現時刻を以て待機命令を解除。出港を開始してください。』
「了解。ジャル・バヴァーク号、出港いたします。」
ヴィマスは映像から目線を変え、艦橋全体へ宣言する。
「待機命令解除!第一種航海態勢へ移行!」
艦橋の士官が次々に復唱する。
「了解!主機リアクター始動!指揮艦橋、航海形態への転換開始!」
「全探査機構、収納完了。船内艦橋閉鎖及び維持よろし!」
「エネルギーデフレクター展開!船体及び装甲点検終了!」
「リアクター反応終了、
ヴィマスは息を呑み、腕を高く掲げて振り下ろした。
「抜錨!ジャル・バヴァーク号発進!」
「抜錨!発進します!」
船の固定具が外され、スラスターに青い炎が灯る。そして、炎は勢いを得て、自由の身となった船を加速させる。
宇宙港を瞬く間に飛び出した船は、緑と青の混じった惑星の光に照らされながら進んでいる。
「ティアノス衛星軌道に到達。主機異常なし。」
「続いて加速開始。惑星重力圏を脱出せよ。」
「了解、加速開始!最大船速!」
船は更に大きな鼓動を響かせ、勢いを増して暗黒の海を征く。
旅はまだ始まったばかりだ。
ゲーム時間は進んでいます(広義)