──黒狼鳥、イャンガルルガ。
日本のゲーム史に名を残すビッグタイトル【モンスターハンター】シリーズ。
樹海や火山、凍土などの大自然を雄大に生きる多種多様なモンスターが生きる世界を舞台としたゲームだ。
プレイヤーはその世界にてモンスターを狩猟するハンターとして降り立ち、クエストを受けて過酷な自然環境へと立ち向かう。
イャンガルルガはその世界で生きる多種多様なモンスターのうちの一体だった。
イャンガルルガは鳥竜種という、大きなクチバシと翼をもつ鳥型の竜に分類される。
鳥竜種を語る上で欠かせないのが、イャンクックというモンスター。
ほぼ体毛のない赤い甲殻質の体躯をもち、頭部にはエリマキのような耳と丸みを帯びた巨大な嘴がある。
イャンクックの戦闘方法はシンプル。
その場で全身を回して尻尾で薙ぎ払う。
走って体当たりをする。
クチバシから可燃性の液体を吐く。
おおよそこのようなものだ。どれもわかりやすい挙動で、見切ることもたやすい。
はっきりいって、強いモンスターではない。
簡素でスタンダードな戦闘方法は、プレイヤーが竜との戦いを学ぶのにうってつけ。
故にイャンクックというモンスターは、モンスターハンターを初めて遊ぶ初心者にとっての、チュートリアルのような存在だった。
イャンクックから戦いの基礎を学び、倒し、これを登竜門として初心者を卒業する。
イャンクックは、そんなモンスターだった。
そしてイャンガルルガは、そんなイャンクックの近縁種。
よく似た二つのモンスターは、けれども決定的に違っていた。
シルエットこそイャンクックそのものだが、全身を覆う禍々しい濃紫の甲殻を見れば一目瞭然。
まろやかで曲線を描いていたクチバシは節くれだって鋭利に尖り、エリマキのようでチャーミングだった耳はカミソリのように切れ細っている。
毒々しい紫色の甲殻は末端が棘のように尖っている。
イャンクックと特に大きく異なる点が、その尻尾。
先端が平たい楕円状に膨らみ、その先端には槍のように三叉に毒針が伸びている。
イャンガルルガにおいて特筆すべきは、その凶暴性。
常軌を逸したレベルで好戦的な性格をしており、その様子は「戦うために生きている」とさえ形容される。
獲物を捕らえるためでもなく、己の縄張りを広げるためでもない。
イャンガルルガはただ同じ場所にいる、というだけで対峙した生き物に襲い掛かる。
相手が決して敵わぬ格上だろうが、どれほどの深手を負わされようが、関係ない。
イャンガルルガは、文字通りに死ぬまで戦い続ける。
モンスターとして、否、生命として狂っていると言わざるを得ない。
それがイャンガルルガだ。
それが、──己だ。
いつから自分が"そう"であると気づいたろう。
托卵されたリオレイアの巣から生まれたとき?
卵を奪おうとしたハンターの目の前で孵化して、頭に殻を被りながらハンター襲い掛かったとき?
ランポスの群れを薙ぎ倒し、アプトノスの肉を奪ったとき?
リオレウスの火炎ブレスを飲み込みながら頭蓋骨を噛み砕いたとき?
ディアブロスの剛角に腹を穿たれながら脚で目玉をえぐり取ったとき?
ブラキディオスに背中を爆砕されながら脚を折って溶岩に沈めたとき?
ディノバルドに片翼を斬り飛ばされながら首筋に毒針を刺して口嚢を起爆したとき?
ラージャンに顔面を殴られてクチバシを粉砕されながら毒を入れて天空に持ち上げ大地へと突き落としたとき?
なんかいたキリンがなんか知らんけど身を寄せてきたとき?
いつから自分で、いつから自分はイャンガルルガだったのか。
この記憶はいつの、どこの、だれのものだったのか。
──そんなものはどうだっていい。
なんの価値もない。どうでもいい。興味もない。
己の来歴にも、真実にも関心はない。けれど、その知恵だけは本物だ。
これは役に立つ。目の前のモンスターとの戦う術が、知識が、豊富にある。
これが無ければ、とうに己はくたばっていただろう。
今や己の身体は酷いものだ。
クチバシは砕け落ちて半壊し、耳は根本から千切れて片目は抉れた。
片翼は半ばから斬り落とされ甲殻は爆焼して全てめくれあがっている。
もはや傷のない部位を見つけることさえできない有り様だ。
比較的無事だった全身の鱗も、こないだバルファルクの尻尾に噛みついたまま離さずにいたとき龍気に灼けて崩れてしまった。
長いあいだ壮健だった尻尾も、墜落した先にちょうど良くいたヴァルハザクに組み付いた際にやられて、半ば腐り落ちてしまった。
特に困り果てているのは、イヴェルカーナにやられて凍てついてしまった舌だ。
腐った尻尾をどうにかするためにイヴェルカーナに組み付き、わざと凍結ブレスを受けて尾を凍らせるのに成功したのだが、うまくいったのはそこまでだった。
そのあとイヴェルカーナに噛みつきながらくんずほぐれつしている間に舌まで凍ってしまった。
おかげで飯を食うにも困っている。
なんか知らんけど近くをうろちょろしているキリンがなんか知らんけどよく食べ残しをしていくので、それを頂いて当面は凌いでいる。
なんか知らんが都合のいいことに砕けたクチバシや凍った舌でも食べやすい獲物をよく残しているので、運がいい。
なんかいるキリンは、なんか知らんけどずっといる。
見つけ次第そのたびに突撃していたのだが、雷撃とともに幻のように姿を消すので諦めた。
仕方がないので入れ替わるように姿を現す回復ミツムシをしばき、戦いで傷ついた体を癒している。
回復ツユクサの蜜をふんだんにため込んだ回復ミツムシは、生傷の絶えない己にとってとても重要な存在。
これの恩恵がなければ、いつかの戦いで己の身体の再生が間に合わずに体力負けしていたかもしれない。
戦い、休み、また戦う。
そんな日々のなかで、体が癒すのが間に合うとは限らない。
獲物は、見つけ次第戦わなくてはいけない。
見逃すなんてもったいない。
二度はない。全ての生き物は今を生きている。
これは運命だ。
次の機会なんてありはしないのだ。
出会ったのなら、死ぬか生きるかしかない。
弱肉強食も、獲物も天敵もない。
なぜなら己は、イャンガルルガなのだから。
目指せ極限二つ名歴戦ヌシ傀異克服イャンガルルガ