ランス verV   作:ヤミナギ

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 次回の話へ繋がる布石みたいな回。

 宜しくお願いします。


Mission10 魔物領野営地点

 

 ぱちぱちとはじける炎を見ていると、心が落ち着いてくる気がする。

 

 夜の野営、魔物領において人間がこんな事をしていれば自殺行為なのだろうが、野営地の主、バージルにそんな事は関係なかった。

 

 何時ものように切り捨てた魔物の可食部をたき火で炙りながら、瞑想にふけっていた。

 

 周囲は静寂が包んでいる。

 

 穏やかな空気が流れ、知らぬ者が見ればこの場所が魔物領だとは思わないだろう。

 

 しかし、それには理由があった。

 

 

「ケケケ、相変わらずむちゃくちゃな野郎ですねー」

 

 

 周囲に築かれた魔物の屍の山。それこそが周囲の静寂の理由だ。

 

 それらを乗り越えて現れたのはひとりの少女だった。

 

 無論、この少女とて普通の少女ではない。

 

 この場所、魔物領にいるに足る理由をもっていた。

 

 彼女の名はユキ。

 

 魔人ラ・サイゼルに仕える者であり、女の子モンスター、フローズンを元にした使徒だ。

 

 そんな彼女がバージルと知り合ったのは、それほど古い話ではない。

 

 そう、あれは彼女の愛するべき馬鹿主、ラ・サイゼルの城にバージルが訪ねてきた時の事がきっかけだった。

 

 まあ、サイゼルの持つ城は、城と言うよりも適当な魔物に作らせた一軒家程度でしかなく、基本的にサイゼル自身は魔王城に生活の拠点を置いているので、あまり使われない拠点程度の扱いでしかないのだが、それでも拠点は拠点としてユキちゃんが管理している為、人間界の漫画とかで本棚が埋まっていたりと、割と彼女の好き放題にしている。

 

 その城にバージルが訪ねてきたのがきっかけだ。

 

 

「シャワーを貸してくれ」

 

 

「良いよー」

 

 

 あれは激戦だった。

 

 漫画を読んでだらだらするという、崇高な使命を果たしていたユキちゃんの不意を突いて、堂々と正面突破し現れた魔剣士は、使徒という存在に怯む事無く、自らの要求を突きつけ、その要求を飲ませたのだから、敵ながらあっぱれというほか有るまい。

 

 とユキちゃんの中では自己完結している。

 

 他人から見れば?

 

 さあ? ユキちゃんはいい女なので、他人からの視線とかで自分の行動を変えるなんて恥ずかしいまねはしないのだ。

 

 この辺り、大好きな妹相手に、ツンデレへたれな態度をとり続けてしまう自らの主と、似て似つかない面だと自負しているが、ツンデレへたれではないサイゼルなど、サイゼルではないので、これはこれで良いのである。

 

 それはさておき。

 

 

「それで、何のようだ? 使徒ユキ」

 

 

「ユキちゃんで良いって言ってるのに、ケケケ、てめーも強情ですねー」

 

 

「それほど貴様に心許していない」

 

 

「かー攻略難度高すぎっ。そんな男はモテモテで女の子にぐっさり行かれちゃうぞ?」

 

 

「どうでも良い。それよりも用件を言え。貴様の戯れ言に付き合ってやる義理はない」

 

 

「へいへい。ほんじゃまあ本題に入りますけど-、うちの上司戻ってきてますぜぃ」

 

 

「そうか」

 

 

「ほむ。そのまますぐに突撃ーって訳ではない?」

 

 

「魔人の館に向かうのに、何の策もなく挑むはずがなかろう」

 

 

「それはそうですけど、その辺り案外無鉄砲かと思わないにもあらずと言いますか、存外慎重?」

 

 

「殺し合いにいくのではなく交渉に向かうわけだからな。策の一つや二つ用意はする」

 

 

「交渉? あのIQ4くらいしかないうちの上司と?」

 

 

「サボテンよりマシ程度しかないIQの魔人か。悲しくなる話だ」

 

 

「うーむむしろサボテンにIQがあったとはユキちゃん驚き」

 

 

 くだらない、されど楽しい会話を続けながらバージルは腰の閻魔刀を一振り。

 

 その一瞬でたき火の日はかき消え、辺りは暗闇と静寂に包まれる。

 

 後に残るのはぶたばんばらの串焼きの香りと、無造作に積まれたモンスター達の死骸よりこぼれる血の香りだけ。

 

 バージルは立ち上がりながら串を取った。

 

 そして一応というようにユキに向かって串を差し出すと、彼女は喜んでその串焼きを食べ始めた。

 

 それを見ながらバージルも串焼きを口に運び、僅かの間に串だけにすると、未だに頬張っているユキに向かって問いかけた。

 

 

「一応、顔つなぎは任せたが、構わなかったのか? 使徒ユキ」

 

 

「まー、ユキちゃん的にあんたほどの相手に狙われた場合、自分でどうしようも出来ないんで、とりあえず上司にぶん投げるのが正解、みたいな? うちの上司理不尽ぶん投げられても死にはしないし。そもそもユキちゃん、あんたの目的はおろか、名前さえ知らないしー」

 

 

「そういえば、目的も何も話してはいなかったか」

 

 

「そそ。ま、確かに同じ気配を感じるし、うちのあほ上司にちょっかいをかけるつもりはなさそうって事程度しか理解してないわけで、とりあえず交渉の着地地点だけは知っておきたいみたいな?」

 

 

「今回の交渉の着地地点はラ・サイゼル。やつの血だ」

 

 

「ほむほむ、ご同輩になりたいと?」

 

 

「あくまで目的における過程、一時的な物ではあるがな」

 

 

「裏切る前提とかマジかよこいつ。あ、でもうちの上司馬鹿だから、下級使徒とかそんな器用なまねできないと思うけど。そのへんは? 一度使徒になった後解除するなんて出来ないし、うちの上司の首を取らせる事はさせないよ?」

 

 

 軽い言葉のうちに秘められた言葉の刃。

 

 その言葉こそが、彼女の本心なのだろう。

 

 狂気に落ちていると見せかけて、忠節の鏡。

 

 それがユキという使徒の在り方だ。

 

 誰に理解される事も願わず、ただ自らの主が平穏無事に生きてさえいてくれば良いと尽くす。その有様は、従者としては間違いなく完璧だった。

 

 普段からこうであれば、彼女もあるいは彼女の主の評価も変わるのであろうが、彼女にとって今の評価が一番、彼女を守りやすい状況なのだろう。

 

 名は売れすぎても、売れなさすぎても害をもたらす。

 

 そのことをバージルは理解していた。その理解が、ユキの有能さをこれ以上無く示すのだが、そのことに気付いている者は魔物領にはいないらしい。少なくとも悟らせないほどには彼女は逝かれていて、同時に聡明だった。

 

 だからこそ、バージルはユキの問いかけに真摯に答えた。

 

 

「もとより、ラ・サイゼルの首自体に興味は無い」

 

 

「ほう。ならば体には興味があるって事ですかぃ? やだ、大胆な告白ユキちゃんこまっちゃーう」

 

 

「下らない戯れ言で茶化しても、俺の真意は同じだ。言っているだろう。俺の目的はラ・サイゼル。その身に流れる血だと。その血を受けるのに、一番手っ取り早く穏便なのが使徒として奴に仕える事。それが俺の真意だ」

 

 

「……ケケケケ。嘘は言ってないみたいなんだよねー。……が、解せない。何でうちの上司? 狙い所なら幾らでもあると思うんだけど。アンタほどの実力者であれば、それこそ、カミーラ様とかその辺の魔人四天王辺りに取り入る事も可能だと思うけど?」

 

 

「魔人四天王の使徒になど取り立てられれば、忙しすぎて自由時間などなさそうだからな。俺の目的を果たす為には、危険であろうとも直接ラ・サイゼルに取り入るしか無い。……等という通り一遍の回答が聞きたいというわけではなさそうだな、使徒ユキ」

 

 

「ケケケ。……分かってるならさっさと……」

 

 

「真意にこれ以上の意味は無い。無論伝えていない意図はあるがその意図を語るつもりもまた、無い」

 

 

 そうバージルは言い切ると刀の鯉口を切った。そして、ため息をつきながらユキへと促す。

 

 

「そして、もとよりこのつもりだろう貴様?」

 

 

「ケケケケケケ。ユキちゃん何のことかわかんなーい」

 

 

「ふん、食えぬ奴だ」

 

 

 野営地の周囲には数百、下手をすれば千を超えるモンスターの屍が転がっていた。

 

 統率されていたわけでも、何者かに率いられていたわけでも、魔王軍の部隊というわけでもないが、その千もの数の魔物達がバージルに襲いかかったのは事実だ。

 

 それも、バージルがこの魔物界に入ってから既に八度目。

 

 連日に渡ってである。

 

 この現象を偶然で済ませてやれるほど、バージルは脳天気ではない。

 

 ならば。

 

 誰かがバージルのいる場所に魔物の群れを誘導したのだろうと言う事は、子供であっても予測がつく。

 

 切り捨てた魔物の数は一日に千を超える。

 

 だと言うのに、バージルには一切疲労が見えなかった。それどころか服に汚れさえついていない。

 

 そういう意味ではこれから起こる事は予定調和だ。

 

 無論ユキはバージルを全力で殺しに行く。

 

 主を裏切る事を公言するような獅子身中の虫を迎え入れる事など、サイゼルにとって百害あって一利なしだからだ。

 

 だが、まあ、勝てないだろう事は幾度もけしかけた魔物戦でおおよそ理解している。

 

 踊るように、あるいは楽しむように、それとも見せつけるように剣を振るっていたバージルと敵対して勝てるビジョンは見当たらない。性格面においても油断した力を抜いてくれるような相手ではないとも理解していた。

 

 

「でもまあ、社畜はつらいって事で」

 

 

 ぼやくようにつぶやきながら抜き放つのは巨大なマジックハンド。

 

 冷気を纏い、魔力を滾らせ、初手より全力でユキはバージルへと襲いかかった。

 

 その戦いを語るまでもない。

 

 ほぼ一瞬でけりがついた。

 

 当然のように頭と胴体が泣き別れの状態にされ、胴体の方は次元斬で粉みじんに消し飛ばされた。

 

 頭だけになったユキをつかみ、バージルは目的地へと向かう。

 

 目指すべきはサイゼルの居城である。

 

 

「あ、このままで行くとサイゼル様激おこになるんじゃね? そうなると交渉も何もないじゃん? と言うわけで、ユキちゃんのことを離して胴体復活させてから行かない?」

 

 

「怒り狂った魔人と闘える機会は貴重だ。その機会を態々逃すほど、俺は悠長ではない」

 

 

「ケケケケケケ。ホントに狂ってやがるな、てめぇ」

 

 

「楽しすぎて狂ってしまいそうなのは認めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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