ランス verV   作:ヤミナギ

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Mission12 理由

 

 

 ラ・サイゼルを撃破した。

 

 その結果を結論だけ言えば、死ぬほどに痛い。

 

 冷気によって痛覚が鈍化しているとはいえ、魂まで凍らされていくのではないかと錯覚するほどの痛みを、冷や汗のみで堪えながらバージルは地面に倒れ伏しているサイゼルを担ぎ上げた。

 

 全力で魔力を凍結している右腕の治癒……と言うよりも凍結浸食の防止にあてながらサイゼルの家に入ると、リビングに設置してあるソファーに彼女を寝かせ、そのままの足で先ほどまで紅茶を楽しんでいたテーブルへと向かう。

 

 

「すごいなお前。……信じられません」

 

 

 どうやってと聴きたそうなユキを無視して煮立っていた紅茶のポットを手に取ると、その中身はサイゼルの氷結吹雪で凍り付かずに熱湯程度にまで温度が下がっていた。

 

 十分だと判断してその中身を右腕にぶちまける。

 

 凍り付いていた右腕が少しずつ溶け始めるのを確認して、それでもぶちまけた紅茶が凍り付くが、だいぶ右腕の温度が上がり、氷結浸食も止まった事を確認して窓より右腕を出し、力をこめた。

 

 

 表面を覆っていた氷が砕けて散り、太陽光に照らされて輝きを室内に取り込む。

 

 僅かな間の幻想的な光景。それに感慨を抱くわけでもなくバージルはテーブルのイスへと腰を下ろした。

 

 

「信じがたいというのは分かる。聴きたい事は無敵結界、その抜き方あたりか?」

 

 

「まあ、そうですね。その辺りについてはどうやって貫通させたのか興味は尽きません。……大方の予想はついていますが」

 

 

「ふん、ならばその予想は当たりだ。神の定めた法則は絶対だが、魔王の望んだ願いは完璧ではなかったたと言うわけだ」

 

 

「具体的には?」

 

 

「俺の右腕が凍っていたのは見たな。あの氷結現象の元はサイゼルのものだ。その魔力に運動エネルギーを与えてやれば、それによって発生する物理的衝撃は彼女の魔力を纏ったものになる。言い換えれば俺は彼女が放ったスノーレーザーを跳ね返したのと同義の行動を行ったのと同じになる。結果だけを切り取ってみれば、彼女は自傷したと、そういう事になるわけだ」

 

「ふうん? いや、でもそれはおかしな話です。それならば魔人が一時付与の魔法を使えば、無敵結界持ちにもダメージを与えられる事になるはずです。ですが、そんな事が起きたなんて今まで聴いた事もない」

 

 

「そんな事が起こる自体が稀だと言うだけでは納得しないならそうだな、魔力に込められた意思が違うとでも言うべきか。一時付与、エンチャントの術式はあくまで援護の術理。そこに込める魔力も攻性魔法の物とは微妙に違ってくる。術理、込める魔力の種類、量を適切に運用する事が魔法の基礎で有り奥義だ。ならば、その三種全てが違ったものであればそれはもはや別種の魔法となるのは必然で、別種の魔法であれば発生する結果もまた違うものになるのもまた同じく。結果は見ての通りというわけだ」

 

 

「ふむ。ならどうやって一撃で? 魔人というのは種族的にそもそもからしてタフ。サイゼル様のレベルだって三桁。貴方の力量を疑うわけではありませんが、一撃で意識を刈り取る事が出来るほど貴方とサイゼル様との間に隔絶した力の差があるとは思えない。その点はどうやって?」

 

 

「油断と意識の間隙。そこを突いた」

 

 

「意識の間隙までは理解できます。自身の翼が凍らされその上で砕かれた。痛みは凄絶でしょうし、サイゼル様が貴方より意識を逸らす、痛みに意識が取られる自明の理です。しかし、油断?」

 

 

「あるいは無敵結界に慣れすぎたが故の弊害とでも言うべきか。サイゼル、と言うよりも魔人という種族はその強大な無敵結界を纏うが為に戦う者として絶望的なまでに痛みの許容量が低い。まあ、慣れていないわけだ、特にサイゼルは生まれてこの方魔人としてあり続ける者。そんな彼女が墜落したときのダメージに加え、翼を根元から粉砕された痛みを堪え切れた。それだけでまあ及第点、その上で顎を砕く勢いで打ち抜かれて脳を揺らされたんだ。意識なんぞ保てるはずがない」

 

 

 その言葉にユキは再びの戦慄を抱いた。

 

 それはすらすらとバージルが作戦を説明できたからではない。

 

 最初から魔人に挑むつもりの男だ。ならば魔人を打ち倒しうる作戦を立てるまでは理解できる。

 

 故にこの男に戦慄すべきはその作戦立案能力でも、作戦実行能力でも無い。

 

 無論、それらの能力、特にやり通す意志の強さは特筆すべきだろうが、何よりも警戒すべきなのはバージルの情報調査能力だ。

 

 この男、どうやってここまで精緻な情報を得たのか。

 

 バージルがつらつらと当然のように話したサイゼルに対する作戦。そこに含まれているサイゼルに対する情報量は、人類圏で集められるような量と正確さではない。何せサイゼルの使徒であるユキでさえ知らないような情報まで網羅してあるのだから。

 

 思い返してみればユキに対する情報もおかしいほどに持ち得ている。

 

 何せ首をはねられて肉体を粉々にされて、なお当然のように生きているユキ自身を見て、一片の驚きを見せる事すらなく、当然のように警戒を続けるのだから、完全にユキの奥の手まで知っているのだろう。

 

 

「なるほど」

 

 

 呟きながらユキは首から下を生み出しながらテーブルの横に立つ。

 

 そして、おもむろにマジックハンドをバージルに突きつけた。

 

 

「つまり、この距離でアンタを殺せば問題ない訳ね」

 

 

「ふん。遅いお目覚めだなサイゼル」

 

 

「呼び捨てにするな」

 

 

 ユキが武器を突きつけると同時に、サイゼルがバージルの死角より氷結の女神(クールゴーデス)を突きつけていた。

 

 無論、バージルの死角から突きつけているとはいえ、その状況下に置かれるまでバージルが気がつかなかったわけではない。気付いていた。しかし、捨て置いても構わないと判断したが為の放置だった。

 

 それを理解しているが為にサイゼルの放つ殺意は凄まじい。

 

 魔人としてプライドをこうまで逆撫でされれば、この殺意も納得かとユキは自身の主の態度にため息をついた。

 

 納得は出来るがもう少し考えて欲しいものではある。あるが、この直情性はサイゼルのよい部分でもある。だからこそ、ユキは口答えする事もなく彼女の意向に沿ったのだ。

 

 

「俺を殺すか? サイゼル」

 

「この状況で殺されないなんて、高をくくるのアンタ?」

 

「いや、そうは言わないが、随分と理不尽な話だと思っただけだ。俺は貴様の使徒に襲われてそれを殺さずに見逃し、その上で貴様の事まで殺さずにすましたというのにな?」

 

 肩をすくめながらそう言ったバージルに対して、サイゼルはさらに怒りを強めた。

 

 この期に及んで挑発を続けるバージルの姿にユキもため息をつく。

 

 そのタイミングでバージルは自然にイスより立ち上がった。武器を突きつけられている、その状況に変わりなく、死が目の前に迫っているというのに悠然と。

 

 あまりにも自然に立ち上がったためか、サイゼルは一瞬引き金を引く事をためらった。その間隙を突いてバージルはユキによって突きつけられた武器をかいくぐりサイゼルの懐へと抜刀しながら飛び込む。

 

 抜き放たれた閻魔刀はサイゼルの氷結の女神(クールゴーデス)を押さえこみつばぜり合いのような状況になった。

 

 ちりちりと鋼が削られる音が響き、火花散って周囲を照らす。

 

氷結の女神(クールゴーデス)を押さえ込んだところで、アンタを殺すくらいわけないけど?」

 

「その代わり、氷結の女神(クールゴーデス)は使い物になら無くさせて貰うが?」

 

「……チッ」

 

 バージルの言葉に舌打ちを漏らす。

 

 油断はなかった。

 

 一戦目で破れている以上それは当然だ。

 

 だが、まさか引き金を引くまでの僅かな間隙を利用して氷結の女神(クールゴーデス)を質に取ってくるとは考えていなかった。

 

 壊される事は好ましくない。

 

 壊されてしまえば修理が必要になる。

 

 となれば、他の魔人の手を借りる必要が出てくる。そして手を借りるには、どうして壊れたかの理由を話さなくてはならないだろう。

 

 それでは、目の前の男を始末する意味が無い。

 

 それが理解できるから漏れた舌打ちだった。

 

「それで、アンタは何を望むの?」

 

 金属がこすれる音、つばぜり合いの状況から逃れさせてくれないバージルの力量に内心舌を巻きながら、サイゼルが問いかけた。

 

 その目には一瞬でも手を抜けば殺してやるという意図がありありと写っている。

 

 それ故にバージルも一切の手加減なく全力でサイゼルを押さえ込む。

 

 サイゼルを逃さず、同時にバージルを攻めさせないように技巧を持って。

 

 言うだけは易く、行うは難しを地でいくその力量の高さにユキは傍目より見ていてため息をついた。

 

 純粋な身体能力という意味ではバージルの肉体強化魔法を込みでも、サイゼルには決して届かない。

 

 魔人とただ人との間には、生涯を賭けて鍛え上げているバージルでも埋めがたい差がある。

 

 細身の少女に見えるサイゼルであっても、その身体能力はバージルのそれを越えている。そんな相手を力量のみで押さえ込むというのは、軽く見積もっても絶技と呼ぶほかはない。

 

 だからこそ、サイゼルの問いかけにユキもまた興味を抱いていた。これほどの力量をこの若さをして抱く彼が望む物。それは一体何なのかと疑問に思う事は不自然ではない。

 

 人間界においてと言うくくりであれば、富も、名声も、女も、およそ人間が抱くであろう欲求の全てを彼は手に入れるに足る力を持つ。だから。

 

 

「そんなものは決まっている」

 

 当然のように彼が口にした言葉は二人を絶句させた。

 

 

I need more power(もっと力を) そのために、貴様の力をよこせ、ラ・サイゼル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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