ランス verV   作:ヤミナギ

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Mission14 魔王城の片隅で

 

 

 魔人の使徒になったからと言って特段バージルの生活に変化はない。

 

 日々鍛錬をこなし、新しい知識を蓄え、ダンジョンに潜りレベルを上げる。

 

 そんなことを続けているバージルに、退屈したような声音でサイゼルがバージルに声かけた。

 

 

「よくも飽きないわね」

 

「寸暇を惜しんで力をつけろと俺の魂ががなり立てる。俺はその魂の魄動のままに日々を過ごしているだけだ。故に、飽きている暇はない」

 

「そ。そんなアンタにいい場所を紹介してあげましょうか?」

 

「良いところ?」

 

「そそ、少しは主らしいところも見せておかないと、アンタ、あっさりと私のことを見捨ててしまいそうだし? 強くなるためには知識の収集を惜しんではならない。……なんて、アンタには言うまでもなさそうだけど、このあたりで知識を得るためにはダンジョンに潜るくらいしかあてがないんでしょう?」

 

 

 サイゼルの言葉にバージルはうなずきで肯定とした。

 

 確かに現状では知識を得ようとすればダンジョンあたりに潜るしかない。

 

 古代遺跡がダンジョンと化したその場所を調査することで、失われた知識を収集する。聞こえはいいが、効率的とは言えない。事実レベル上げも兼ねているのであれば妥協できる程度の知識しか、バージルは集められていなかった。

 

 

「あて、とは?」

 

「魔王様のお城。あそこにはこの魔物界の知識を収集した図書館があるのよ」

 

「ああ、なるほど。それを口実に妹に会いに行くと?」

 

「……うるさいわね。悪いの?」

 

「いや、使徒思いの主様でありがたい限りだ。それで、どのくらいかかる?」

 

「ん? 半日も飛べばつくけど?」

 

「となれば、徒歩で三日程度か。」

 

「なに? 乗せて欲しいとかいうわけ? ……そうねぇ、どうしてもって頼み込むなら乗せてあげても」

 

「その必要はない。普通に、地面を蹴って貴様に追いつく」

 

「……あっそ」

 

「なぜ不機嫌になる」

 

「べっつにー。それじゃあ、とりあえずそれなりのスピードで飛ぶから、見失いそうになったら声をかけなさい。特別に運んであげるから」

 

 

 そういうとサイゼルは翼をはためかせて空に浮かぶ。

 

 重力を感じさせない動きで中空に舞い上がる彼女を視界に入れつつ、バージルも鍛錬に用いていた閻魔刀を腰へ戻す。そして、移動を始めたサイゼルを追うように大地を蹴った。軽く、されど一瞬でトップスピードに。その速度は空を行くサイゼルに勝るとも劣らぬ速度だった。

 

 

 

 

 魔王城。

 

 魔王の住まう場所。

 

 周囲を魔物が固め、建物自体が威圧感を放っているようにさえ感じさせるその場所にサイゼルとバージルは到着した。

 

 ふわりと、サイゼルがバージルの目の前に着地して彼のほうを見てみれば、そこにはいつも通りの彼の姿があった。直線距離だとして、強行軍で三日以上はかかるであろう距離を半日そこそこで踏破したというのに、息の切れる様子すら見せていない。

 

 その姿に本当に可愛げのない男だと、少しだけ不機嫌になりながら魔王城の門番に視線を向ける。すると、門番の魔物がゆっくりと扉を開いて招き入れられた。

 

 

「行くわよ、バージル」

 

「ああ」

 

 

 バージルに全くの気負いは見て取れない。

 

 使徒が初めて魔王城に訪れるときは、大抵の場合緊張してがちがちになるものなのだが、目の前の男からは、まるで緊張したような様子が見られない。

 

 悠々と、まるで勝手知ったる家に来ているかのように歩くその姿を、サイゼルは半目になりながら眺めていた。

 

 

「……なんだ?」

 

「少しは緊張しなさいよ。魔王城よ、ここ」

 

「意味の分からん事を。緊張する意味は無いだろうに。所詮は上司の上司の家と言うだけ。来訪を拒まれていない以上、緊張するだけ無駄だ」

 

「ばったり魔王様とご対面って事もあるかもしれないのに?」

 

「対面して何かあるのか? 挨拶して終わりだろうに。戦うわけでもなし、必要以上に恐れられる方が、魔王様としても気が悪いだろう」

 

 

 ばっさりと切って捨てるバージルの言葉にサイゼルは言葉を無くした。

 

 確かに、ガイという現在の魔王は無意味な戦いを好む魔王ではない。

 

 新入りの使徒に対して執着するような性格でもない。そうである以上、バージルの言っている事はこの上なく正しい。……正しいのだが。

 

 

「なんだかむかつくわね」

 

「そんなに人様が慌てふためく姿が見たかったのか?」

 

「別にそういうわけじゃ………有るけど、全く普段と変わらないってのは流石に予想外。少しくらいは慌てふためいてくれても良いのに。あのユキだって、一番最初は緊張してたんだから」

 

「そうか。その様子を見てみたくはあるな」

 

「でしょう? で、今回はアンタのそれを見れると期待したんだけどねー」

 

「期待に添えず悪かったな」

 

 

 そう言いつつバージルはサイゼルの腕を引く。

 

 不意を突かれたサイゼルはバージルの胸元へと飛び込むような形となった。

 

 そんな事をよもやバージルがすると思わなかったサイゼルは驚きの表情を彼へと向ける。視線を向けた彼は真剣な表情をで、サイゼルには一瞥もくれずただ、相対する者を見つめていた。

 

 

「……主が失礼するところだった」

 

「いえ、此方こそ少しばかり迂闊でした。鉢合わせにならずよかった」

 

 

 サイゼルをとなりに立たせながらバージルは深々と頭を下げた。

 

 相対していたのは金髪に紅瞳をもつ絶世の美男子だ。

 

 気配から感じ取るに魔人。後ろに三人の使徒らしき女性を引き連れている。

 

 容貌優れ、冷たささえ感じさせる美貌を持つ男の魔人とあればおのずとその名は絞られる。

 

 大方のあたりをつけたあたりで、バージルの腕の中より抜け出したサイゼルが彼に声をかけた。

 

 

「……悪かったわねアイゼル」

 

「いえ、此方こそ。お互いに魔王様のお膝元にあって、愛しい使徒達との会話に夢中になりすぎるのはよくありませんね」

 

「……私のは愛しいと言うよりも、腹立たしいという方が正しいけどね」

 

「ぶつからないように助けたというのに、ずいぶんな言いぐさだな」

 

「敬意のかけらも見せないような使徒には、これで十分でしょう?」

 

 

 サイゼルのその言葉にバージルは肩をすくめるだけで回答とした。

 

 感謝はしているが敬意を抱いていないのは事実だからだ。

 

 そんな主従関係を面白そうにアイゼルは眺めている。

 

 そんなアイゼルに向かってバージルは一礼を伴って挨拶を行った。

 

 

「ああ、そういえばお初にお目にかかる。俺の名前はバージル。主、ラ・サイゼルに武芸と知謀を捧げた男だ。以後、お見知りおきを」

 

 

 作法に則って行われた一礼は、サイゼルには見せた事のないもので、それが余計にサイゼルの神経を逆撫でする。

 

 何より、捧げた物の中に忠誠が含まれていないところがサイゼルにとっては、本当に腹立たしい。

 

 外部から見れば、サイゼルのために全力で役立つアピールをしているが、サイゼルから見れば未だ心服していない事の再確認をさせられているような物だった。

 

 

「……これはご丁寧に。私の名はアイゼル。後ろの三人は私の使徒、それぞれ、トパーズ、ガーネット、サファイア。あなたも使徒の名に恥じぬ活躍を期待していますよ、バージル」

 

 

 アイゼルの言葉にバージルは頭を下げるだけで何も答えを返さなかった。

 

 黙して語らず結果だけを見せる。その意気を感じ取ったアイゼルは、サイゼルの評価を少し上向ける。使徒というのは主の人を見る目を如実に反映させるからだ。

 

 そういう意味では目の前のバージルという男はほぼ完璧だった。

 

 礼儀作法に通じ、主を立てつつも、自身の実力にしっかりとした自負を持つ。

 

 その実力が魔軍の中でどれほど通用するかはアイゼルには分からないが、目の前のサイゼルという魔人はほとんど使徒を作らない魔人だ。そんな彼女が抜擢したのだから実力は折り紙付なのだろうと判断できた。

 

 

「もう行くけど、いい? アイゼル」

 

「ええ、此方こそ、長い間拘束して申し訳ありませんサイゼル」

 

「別に、今回の目的はバージルを図書館に案内する事だから、多少時間が取られた位で不満は抱かないわよ」

 

「おや、魔人である貴方が、直々に案内ですか?」

 

「そうよ。何か問題でもある?」

 

「いえ、問題はありませんが……」

 

 

 随分と入れ込んでいるのだな。

 

 少なくともアイゼルはサイゼルの態度を見てそう感じ取った。

 

 使徒のために主であるサイゼル自ら魔王城の中を案内するなど、甲斐甲斐しいと言っても過言ではない。

 

 何よりそのことにサイゼルが気がついていないらしいのがまた、彼女の入れ込み具合を示している。

 

 サイゼル、バージルと分かれた後、アイゼルはぽつりと小さく呟いた。

 

 

「あれは、主従の関係として歪にならなければ良いのですが」

 

「「「いや、あれは既に歪になっていますよアイゼル様」」」

 

 

 後ろに控えていたアイゼルの三人の使徒達に問いかけるような、あるいは確信のを漏らしたかのような言葉は生憎、かしましくも否定されてしまったのであった。

 

 

 

 

 

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