一週間以内にできました。
次も一週間以内に投稿できるように頑張ります。
書き溜めはありませんが
天満橋よりJAPANへと渡ったバージルは各地に眠るダンジョンを探索していた。
しかしながら彼の求めるようなものはなかなか手に入ることはない。
いわゆる普通の刀などはすぐに手に入ったが、それらはバージルの求めている刀の水準には届いていなかった。
折れず曲がらずの日本刀。
その中でも名刀、妖刀と呼ばれる類の武器はなかなか手に入らないということだろうか。
すでにこの冒険が長くなることを悟ったバージルは、キースギルドへ手紙を送ってあった。
その内容としては先の依頼料を含めたキースギルドに預けてある金品のランスへの譲渡、そしてしばしJAPANにとどまること。また、この冒険の後もアイスの街に戻るつもりはない故の後始末の依頼だ。
その手紙を飛脚便に渡すことで晴れてバージルは根無し草。
戻る場所も、義務もなくなったことでその日暮らしの冒険三昧を続けている。
そんな生活を続けて、約二年。
JAPAN西半分のダンジョンの大半は潜ったが、目当ての武器は手に入らず。なかなかどうして、自分はランスとは違い冒険の才能、あるいは幸運には恵まれていないらしいと自嘲する。
そんなバージルに対して皿が差し出された。
差し出した相手を見てみれば、緑色にピンクの花柄の着物を着た茶髪の女性がそこにいた。
どうやら休憩していた茶屋の店員らしい。
店員にしては随分と態度が大きく、そのうえで美人が過ぎるが。なぜか、バージルが抱いた感情は美人に抱くそれとは違うどこかで会ったことがあるような既視感だった。
「お団子。お食べなさいな」
「……注文しちゃいないはずだが?」
「それでもよ。そうも陰鬱な顔して店前の長椅子に座られてたんじゃ、こっちの商売も上がったりってところ。それ食べて、おねー様に悩みでも話してごらんなさい。あなた美少年だから、聞いてあげる」
その言い草に苦笑する。
自身の容姿がバージルの幼いころのものである以上、イケメンであることは承知の上だったが、女性のほうからこうもあけすけに言われるとは思ってもいなかった。
「ありがたくいただこう」
「そーそー。素直が一番よー若人君。それで? 難しい顔して何を悩んでいたの?」
その言葉に団子を口に含んだバージルは言葉を返さず、腰に差した刀を抜き放つことで答えとした。
引き抜かれた刀はそれなりの名刀である。いや、正確には名刀だったというべきか。
引き抜かれた刀は全体にひびが入り、すでに刀としての用途をなせるようには見えない。
「うわ、ナニコレ。どういう使い方したらこんな風になるのよ?」
「俺自身は普通に使っているんだがな。抜刀の際の圧に刀自体がついてこない。……別段手入れをさぼってるわけではないんだが……」
「そうよねぇ。なるほどなるほど。並みの刀じゃ使いつぶされちゃうってわけね。むむむ……これは難問」
「だろうな。JAPANの西半分は大方探しつくしたつもりだが、結局耐えられる刀はなかった」
「ふぅん? ちょっと待ちなさい。カズー!! ちょっと来てカズー!!」
言いながら彼女は茶屋の奥へと誰かを呼びながら引っ込んだ。
それを見送りながら、バージルは団子を口に運ぶ。
いや、先ほどから思っていたが絶品である。
本当に美味い。
バージルに憧れて、その姿を目指しているとはいえ、別段美食が嫌いというわけではないが、この団子はまた食べたいと思わせるほどに美味い。
「えっとどうしたのかな? 俺が作った団子に何か問題でもあったのかい?」
「そういうわけじゃないんだけどさ、そこの美少年が困ってたから何か助けてあげたいと思って。ほらカズ、何かいい案出しなさいよ」
ワイワイとにぎやかに茶屋より二人が出てきた。
片方の男はカズと呼ばれている青年。もう一人は先ほどの女性だ。そして片方の男にもバージルは見覚えがあった。もう少し正確に言うのであれば、彼の面影を知っているというべきか。
「織田の……?」
「あ、俺のことを知っているんだね。そうだよ。織田信長。一応、この国の国主だね」
「その国主様がこんなところでお団子屋とは……当代の信長殿は随分と暢気なんだな」
「うーん。暢気かどうかはどうなんだろうね。確かに去るもの拒まずの精神で国を運営しようとは思っているけど」
「あら、こいつの暢気さを一目で見抜くとはやるじゃない。この私を妻とした三国一の果報者にもかかわらず、自分で版図を狭めようとしてる変わり種。それがうちの旦那よ」
そう言ってえへんと胸を張る女性。
その言葉でバージルの疑念は確信に至った。
なるほど、この女性が帰蝶らしい。
ならば抱いた既視感にも納得だ。この女性ランスに似ている。もちろん男女の違いといった細部には違いがあるが、奔放で異性好きで、なにものにも縛られぬ自由な雰囲気はランスがまとう空気に近い。
彼女の様子に、バージルは肩をすくめて見せる。
それはランスという少年に振り回された時によく見せていたしぐさだ。
同時にその仕草は信長が帰蝶に振り回されていた時に彼女へと良く見せていたしぐさに近く、それを見た彼女は不満げに唇を尖らせた。
いつも信長に浮かべられている表情をバージルを浮かべたのが気に食わなかったらしい、手に持った盆でバージルの頭をはたこうとしたが、それをバージルはあっさりとさけた。
「む、よけるな」
「好んで痛い目にあいたがるような奇特な趣味はしていない」
「この私自らの折檻なんて、うちの国の人間なら泣いて喜ぶってのに変なやつね」
「変なのはむしろ貴様だろうに」
「失敬な。というか不敬であるぞ? 大名の奥方を貴様呼ばわりとは。やっておしまいなさいカズ」
「えー。そこで俺を頼るのかい帰蝶?」
「か弱い奥さんを守るのは旦那の務めでしょう? ほら、はやくはやく」
「いや、むしろか弱いのは俺のほうなんだけど……」
「かっちーん。はーん。そういうこと言うんだカズ。これはお仕置きが必要ね。今晩は寝かせないんだから」
「……ははは、まいったなぁ」
「……惚気を見せられるために、お前は自分の婿を呼びつけたのか?」
「おっとそうだった。そんなことよりもカズ。この子に見合いそうな名刀のありかを教えてあげなさい」
「ん? 名刀のありか?」
「そう。どうにもこの子、剣の腕前がありすぎて刀が腕前についてこられてないみたい。この織田の国主なんだから、そういう武器財宝にも詳しいでしょう?」
そんな風に言った帰蝶に対して信長は苦笑しながら頬を掻いた。
妻に頼られるのは嬉しいが、生憎信長にそう言った方面の知識はなかった。
だが、そういうのに詳しい男……妖怪は知っている。
「梵天丸への手紙を書こう。彼なら名刀だけでなく、妖刀のありかにも明るいだろうからね」
「梵天丸……当代の妖怪王か」
「詳しいね。つい最近代替わりしたばかりなのに」
「情報はいつ、いかなる時も武器だ。その収集を怠ることなど俺にはできん」
「なるほど。それはとてもいい心がけだ。……それでどうするのかな? 紹介状ならしばらく待ってくれたらすぐに書くけど……」
その言葉にバージルは少しばかり考え込んだ。
妖怪王……すなわち伊達政宗。
その実力は妖怪王に恥じぬできる男。彼と顔をつないでおくのも悪くはない。
一方でこの辺り、尾張地方に腰を据えるというのも悪くはない選択肢だ。
凋落以前の織田家のトップと顔をつないでおけるというのはJAPAN各地を動き回るのにとてつもないメリットであるし、そもそもバージルは刀の入手を急いではいなかった。
名刀、妖刀は確かに喉から手が出るほどに欲しいが、迷宮探索によって上がるレベルの向上も副産物としては十分である。JAPANの東半分を探索してから政宗を頼ったとしても遅くはないだろう。
何より。
「なになに? この私に惚れた? イケメン美少年を惚れさせるなんて、罪な私。でも私人妻なの、私との思い出は一夜限りの危ない思い出として口に出さないなら、お相手してあげてもいいけど?」
「人妻に手を出すほど、女に苦労しちゃいない」
「それはそれで相手にされてない感じで腹が立つわね。じゃあどうして私のことを見つめたのよ?」
「少し思うところがあっただけだ」
原作開始前に目の前女性は死ぬ。
そのことをバージルは知っている。
ランスシリーズ七作目戦国ランスに、目の前の女性は登場することなく、故人として回想で語られるしかなかったのだから。
しかし今は生きている。
その歴史の流れを変えられるかはわからない。だが……
「しばらく、尾張に滞在する。時折団子を食いに来るから、その時にでも妖怪王への紹介状を頼む」
「と言うことは奥州へはしばらく後で、かい?」
「ああ。このあたりの迷宮に関してはまだ探索していないからな。それらがひと段落したところで奥州へ向かっても遅くはないだろう。刀はあくまでサブのプラン。メインは俺が強くなることだからな」
そういうとバージルは残っていた団子を口の中に放り込んだ。
バージルに憧れる気持ちは決して弱まっているわけではない。
むしろ年月を経るたびにその思いはますます強くなっていく。
だが、同時にこのルドラサウム大陸に生まれ落ちた意味だって見つけたくはあった。
そしてその意味が救えなかったものを救うということであるのならば、ランスシリーズのファンだったものとしてこれ以上に嬉しいこともまたないと思う。
無論救えるかどうかなんてわからない。
このルドラサウム大陸の運命は存外強固に定まっている。いい加減なように見えて精緻に作りこまれたこの世界では、自分一人の足掻きなどたかが知れているだろう。
それでも。
「ん? どうしたのかしら。やっぱりおねーさんに惚れた?」
「いや、団子のお代わりを頼む」
強くなる以外に。
あるいはどうして強くなるのか。その理由として、この世界で起きる悲劇をできる限り小さくできるのであれば、この世界に生まれた意味としては悪くない。
バージルはそう思って小さく笑みを浮かべた。
魂が訴えるその願い。その渇望。それの向ける先が、運命の改変であるというのなら、それも悪くはない。
なぜなら、この身はバージルだ。
少なくとも、そうあらんとする身であるなら。
神の定めた運命というやつは、自身の敵として適任である。
なぜなら。
「いずれ見るがいい……神をも越える力を……か」
小さくつぶやかれたその言葉は、誰に届くでもなく春の陽気の中にほどけて消えた。