ランス verV   作:ヤミナギ

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感想ありがとうございます。

すべて拝読させていただいております。

次回も一週間以内に投稿する予定ですが、感想の量如何によっては早くなることをご了承ください。





Mission03 胡蝶救いて、嵐に向かわんや

 

 バージルは未だに人間である。

 

 いずれ人を辞める覚悟がないわけではないが、それでもただの人である。

 

 とはいえ、その光景はそれを疑わせるには十分な光景だった。

 

 

「ふん!!」

 

 

 言葉と同時にミラージュエッジをもって敵の中心部に突撃する。

 

 スティンガー。

 

 魔力を推進力に変化させて、滑るように剣を突き立てる魔技は違うことなくアカメを貫いて絶命させた。

 

 そして驚愕の念に動きを止めていたヤンキーに向かってそのまま剣を振るうことでたたき切ると、問題の相手ブラックハニーがそこにはいた。

 

 舌打ちを一つ。

 

 ミラージュエッジを背に負いなおし、鞘の一撃でブラックハニーの花火を受け止める。そのまま鞘先でブラックハニーを打ち据えることで彼我の距離をとって居合の態勢に移行、抜刀する。

 

 抜き放たれた一撃は陶器でできたハニーを割ることなく切り飛ばして絶命させるが、バージルがいるのはダンジョン内。

 

 いくらでも敵となるモンスターは存在していた。

 

 迫るモンスターたち。

 

 一拍の空白を得るために円陣幻影剣を生み出し、モンスターたちを怯ませる。

 

 その空白を作り出して用なしとなった円陣幻影剣を急襲幻影剣へと変化させ、そのままこちらを狙っていたロンメルに向かって叩き込む。

 

 血を吹いて倒れるロンメル。

 

 その周辺に集まっていたモンスターたちへ追撃するように、五月雨幻影剣で串刺しにする。

 

 しかし。

 

 

「チッ」

 

 

 生き残ったハニーたちを見据えて再び舌打ちが漏れた。

 

 現在のバージルにとってハニーは天敵となっている。

 

 魔法を完全に無効化するというその特性上、幻影剣は通じず、ミラージュエッジもかき消されてしまう。

 

 そうある以上、戦う手段としてとれるのが刀を用いる近接戦闘術。あるいはベオウルフ使用時のバージルをモデルにした格闘戦闘術の二つとなるのだが。

 

 

「刀が手に入っておらず、拳戦闘術もこれではな」

 

 

 鍛えていないわけではない。

 

 刀にしたってそれなりの名刀、妖刀は手に入っている。しかしながらそれらではバージルの求めるラインには程遠い。

 

 拳戦闘術用の装備も物足りない。

 

 スパルタという職業がある以上拳を使った戦闘術、そのための装備は無いわけではない。

 

 しかしこちらもまた、バージルが求める武器の性能としては物足りない。

 

 まともに振るうだけで耐えきれないというのではさすがに困るのだ。とはいえ……

 

 

「当てがないわけではない分マシではあるか」

 

 

 五月雨幻影剣を生き残ったハニーどもをその拳で砕き、刀で切り飛ばしながらバージルはぽつりとつぶやいた。

 

 

 

 

 

「おめでとうございます。これでバージルさんのレベルは87となりました」

 

 

「ああ」

 

 

 JAPANにも存在しているレベル屋にてため込んだ経験値をレベルに変える。その作業をしていると、興味があるとついてきていた帰蝶の視線が信じがたいものを見るようなものに変わっていた。

 

 

「なんだ?」

 

 

「信じられない。あんたって、まだ元服前でしょ?」

 

 

「一応今年で元服だな」

 

 

「元服前でそのレベルって……あんた将来何になるつもりなのよ?」

 

 

「何になる……か。さて、そのあたりのことを定めてはいない。だが、目標はある」

 

 

「目標?」

 

 

「あるいは憧れか。今の俺はその憧れには程遠い。だからこそ、その憧れに近づけるように歩むのだ」

 

 

 断固たるバージルの言葉に帰蝶は何も言えなかった。

 

 どこか遠くを見つめるバージルの視線に揺るぎ無く、声をかけることさえ躊躇わせる力があったからかもしれない。

 

 とはいえ、弟のように接してきた少年の見せる大人びた姿に、あるいは凄絶な覚悟に帰蝶は息を呑んだ。

 

 

「梵天丸に会うのもその一環?」

 

 

「ああ。そろそろ、このあたりのダンジョンも潜りつくした。次の手として妖怪王に会わせてもらえるというのなら、俺としても否はない」

 

 

「あなたが来て一年。意外とあっという間だったわね」

 

 

「物理的な収穫は少なかったが、力は得た。これで良しとするさ」

 

 

「私のような美人とも出会えたしねぇ?」

 

 

「……ふん」

 

 

「鼻で笑うな。ぶん殴るわよ?」

 

 

 くだらないことを言い合いながら二人は一路信長が経営している店へと向かう。

 

 バージルは存外に気に入った団子を食べるため、そして同時に梵天丸への紹介状を受け取るために。

 

 そう時間もたたず、茶屋に到着する。

 

 すると同時に、バージルは腰の獲物に手をかけた。

 

 

「バージル?」

 

 

 帰蝶の疑問気な言葉を置き去りにして、信長に向かって幻影剣を一本飛ばす。

 

 ざくりと音を立てて彼を襲おうとしていた忍びの背に幻影剣が突き刺さった。

 

 突き刺さった幻影剣をアンカーとして瞬間移動じみた高速移動。

 

 それを用いて忍びの背後に迫ると、そのまま抜き放った刀をもって問いかけた。

 

 

「いったいどこの手のものだ?」

 

 

「不覚。だが、忍の本懐果たすまで……」

 

 

 言葉と同時に忍はこと切れる。

 

 バージルがその首を飛ばしたのだ。

 

 返す刀で円陣幻影剣を発動、屍を空中へと跳ね上げた直後に死体が爆発した。

 

 粉々になった血肉が周囲に降り注ぐ。

 

「……忍びとしては満点だが、茶屋の客としては最悪の部類だな」

 

 

「バージル!?」

 

 

「ケガはないか信長。だから忍びの護衛をつけろとあれほど言ったんだ」

 

 

「あ、ああ。助かったよありがとう」

 

 

「礼はいい。茶屋は汚してしまったからな」

 

 

 その言葉に信長は苦笑した。

 

 一国の国主を命の危機より救っておいてこの態度。

 

 本来ならもっと謝礼を求めるような態度をとってもいいのだろうが、バージルは決してそんな態度を取りはしなかった。

 

 それは彼自身の抱く美意識がなさせる行動だろう。別段、自分たちに興味が無いわけではないということが理解できる程度には、信長たちはバージルと接してきた。

 

 バージルが他者に向ける熱は確かに少ない。

 

 しかしそれは自らの内に向ける熱があまりにも膨大であるが故のことであり、決して熱がないというわけではないのだ。

 

 

「それよりも信長」

 

 

「ああ、梵天丸への手紙だね。すぐに用意するよ」

 

 

「感謝する」

 

 

「それはこっちのセリフさ。命を救ってくれてありがとうバージル。君のおかげでどうにかこうにか国主を続けていくことができそうだよ」

 

 

「ふん。その感謝をするぐらいならもう少し身の回りの警護には気を払うんだな。例え自ら力を縮小しようとも、狙うやつは狙ってくる。理解できただろう?」

 

 

「ああ。身に染みてね」

 

 

 信長は苦笑しながらそう返した。

 

 彼自身、自分の先行きがそれほど長くないことを自覚している。

 

 自覚したうえでこの先のことを考えて国力を少しづつ減らし、各大名たちの独立も認めてきたことから、それほどの恨みを買っていないと踏んでいたのだが、どうやら独りよがりな言い分だったらしい。

 

 自身を暗殺しようとする勢力を、こうもまざまざと見せつけられると忸怩たる気分になる。

 

 

「何をぼさっとしているのカズ。さっさと片付けるわよ。客が待っているんだから」

 

 

 そんな彼に向かって帰蝶が声をかけた。

 

 いつも通りの声音で、いつも通りに。

 

 その声音は、いつもの彼女と全く同じそれで、だからこそ信長は彼女に向かって礼を言った。

 

 

「ありがとう帰蝶。君のおかげで俺はいつも救われている」

 

 

「ふん。私様が助けてあげるのはあなただけなんだから十二分に感謝しなさいよ」

 

 

「ああ」

 

 

 

 時にしてGI歴1013年。

 

 正史であればこの時に帰蝶は死亡する。

 

 だがしかし、今回は死ななかった。

 

 そのことが、此度の歴史にどう作用するかはわからない。

 

 あるいは、何も変わらないのかもしれない。

 

 蝶の羽ばたき程度では大きな嵐を迎え撃つことはできない。

 

 だが、時に蝶の羽ばたきが竜巻を引き起こすことだってある。

 

 そのことをバージルは知っていた。

 

 だからこそ、彼女を救ったのだ。

 

 それは彼女が引き起こす羽ばたきを期待してではない。

 

 いずれ出会うであろう、弟との化学反応を見てみたいがために。

 

 あるいは、蝶の羽ばたきは竜巻と出会ってその竜巻をさらに大きなものへと変化させるかもしれない。その希望をもって。

 

 バージルは未だ人だ。

 

 いずれそうではなくなるかもしれずとも、少なくとも今は。

 

 ならば、人のために行動するというのも悪くはないだろうと考えている。

 

 それが誰に理解されない類のものだとしても。

 

 だが、そのためには

 

 

I need more power(もっと力を)か」

 

 

 力を。

 

 もっと力をと、魂ががなり立てて、急き立てる。

 

 確かに力はつけてきている。

 

 このJAPANという地にてようやく幻影剣は満足のいく出来へと仕上がった。

 

 魔法技術だけではなく、忍術をも組み込むことで円陣幻影剣はあてた相手を真上に吹き飛ばす能力を獲得したし、影縫いの応用により五月雨幻影剣は敵の動きを封じる能力を得ることができた。

 

 一歩ずつ確実に憧れの姿に近づいている。

 

 その実感はあれど、まだまだ足りないという魂の叫びが彼の歩みを止めさせはしなかった。

 

 

「バージル」

 

 

「もう書けたのか。随分と早いな」

 

 

「ははは。実をいうとかなり前から用意自体はしてあったんだ。君は一所にとどまるような性格じゃないと思っていたからね」

 

 

「ふ……長居し過ぎて迷惑をかけたか?」

 

 

「まさか。命まで救われてそんなことを思うほど俺は情のない人間じゃないよ」

 

 

 互いに軽口をたたきあいながらバージルは信長より手紙を受け取る。

 

 そして、これ以上この場所に残る意味はないといわんばかりに、あっさりと茶屋に背を向けた。

 

 

「バージル」

 

 

「最後に一つだけ、告げておこう織田信長。これより先、嵐が来るだろう。JAPAN全土を巻き込む大きな嵐が。その時に俺とお前は再び出会う。その時まで壮健で……いや」

 

 

 言いかけた言葉を切ってバージルは少し悩む。

 

 そのらしくない様子に信長は首をかしげながらも、彼の別れの言葉を待った。

 

 

「意識を保て織田信長。そのための胡蝶はそばにある。お前にとってはそれで十分だろうからな」

 

 

 そういうと、バージルは歩き出した。

 

 言葉の意味を信長はよく理解できなかった。

 

 そもそもバージルも理解できるように話してはいない。

 

 だが、それで十分だと、これ以上は悟られるがこそ。

 

 だからバージルはただの一度も振り返ることなく旅立っていった。

 

 向かうべきは妖怪王伊達政宗の住まう地、奥州。

 

 

 

 

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