少し時間がとれたので投稿します。
再度宜しくお願いします。
Japanより出でておよそ三ヶ月。
バージルは既に大陸に戻り、新たな日々を過ごしていた。
冒険者家業を続けているというわけではなく。
もっと単純に、今の自分にしか出来ない事をしていた。
場所はゼス王国。魔法使い達が作った、魔法使い達の楽園。
その場所にてバージルは学生をしていた。
彼らしからぬ事ではあるが、ゼス王国の魔法知識を吸収するためにはこれが最も手っ取り早いと考えての手法で有り、数少ない合法的な手段であったための方策だが、学生生活というのを存外楽しみながら送っていた。
授業に出て、放課後は限界ぎりぎりまで併設されている図書館にて魔法論文をあさり、夜は生活費や学費、経験値を稼ぐために周囲のモンスターを狩るか、迷宮に潜る。
そんなサイクルを繰り返す潤いのない日々ではあるが、彼にとってしてみれば潤いなど求めておらず、貪欲に魔法知識を身に付ける事が出来る上に、経験値も稼ぐ事が出来る現状に文句はなかった。
数少ない文句と言えば……
「バージル先輩」
「山田か」
「山田です。それでこの術式についてなのですが……」
「……」
辟易するほどに話しかけてくる、目の前の少女くらいか。
情報魔法を得意とし、このナダルサ応用学校では珍しい平民出身の一級市民である彼女。
その彼女がバージルに目を付けたのにはいくつか理由がある。
一つ、バージルが自由都市よりの転入生として扱われた際の編入試験において、試験官担当教諭を文字通り一蹴した事における魔法力量の高さ。
一つ、魔法Lvは1に満たないにも係わらず努力による研鑽により、凄まじいまでの魔法応用力と保有魔力の高さを示した事。
そして、それほどの実力を保有しながらも未だにたゆまぬ研鑽を続けるバージルの姿勢。
それら全てが、山田……現在のゼス四天王である彼女にとって、理想的な姿だった。
それこそ、今年度を最後に学生生活にけりを付けようとしていた彼女が、もう少しだけでも学校に残る事も検討したほどに。
この国の王、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジーとはまた方向性の違う、魔法使いとしての理想。
それが、バージルに対する彼女の抱く感想だった。
「……俺に人様に教示できるような知識は無い」
「そうかもしれません。しかし、先輩の発想にはあるいは知恵にはいつだって驚愕させられます。ですので、このような状況下においてどのような術式改良を行われるのかは、大変に興味があります。必要とあれば四天王としての協力を要請してもかまいませんが……」
その言葉にバージルはため息をついた。
四天王のからの正式な要請とあれば、どれだけ時間が取られるか考えたくもない。
そんな事に協力している暇はバージルにはない。
だからこそ、ついたため息をであり、同時に山田に対する嫌みでもあった。
無論そんな事を理解できない山田ではなく、言外にとっとと四天王として志願しろという無言の圧力でもあるが、それをバージルは理解した上で無視していた。
四天王の座位に興味は無い。
彼が興味を抱くのは自身への強さに役立つものと、運命に干渉できうる何かだけ。
そういう意味では四天王というゼス王国における最高地位の座も彼にとっては役不足でしかなかった。
とはいえ、彼女からの問いを無碍にするほどもったいない事もまたない。
現役四天王とのつながりが得がたいものである事も確かだ。
「……これでいいか?」
「これは?」
「魔法の矢の基礎式に手を加えたものだ。それぞれ威力、貫通力、衝撃力に優れるように改良してある」
「なるほど……?」
「時間さえかければ誰でも扱える魔法で有りながら、汎用性、継戦能力に優れている。これ以上に軍人が習得している事に好ましい魔法もあるまいに」
そこまで言ってバージルの言葉に彼女は理解を示した。
これは決して彼女の頭の出来が悪いというわけではない。事実として彼女は未来にてゼス王国の四天王筆頭として国をもり立てていく才女である。その才覚は常人のものとは一線を画す。
とはいえ未だ彼女も15に成り立ての少女でしかなく。バージルの意図を正確に理解できるほどに視野が広いわけではなかった。少なくとも今は。とはいえ、最後まで伝えずともバージルの意図を理解する辺り、地頭の良さがうかがえるが。
それはさておくとして、バージルは本をぱたりと閉じた。
自身が書き加えた術式を夢中になって検討している山田の横を通り抜けて、図書館の出口へと向かう。
図書館の利用時間の限界が近いため、酒場で食事を取った後ダンジョンに向かうためだ。
バージルが図書館の出口に手をかけたとき、山田がバージルに向かって思い出したかのように言った。
「そういえば、もう少しで四天王の欠員充足試験が始まるらしいですけど、先輩は受けられるんですか?」
「……ああ。それがどうした?」
「えっ!? 嘘でしょ?」
「こんな事で嘘をつくつもりはない。……それで? それの何が問題だ?」
「私……何度も先輩に対して四天王に推薦しますって言いましたよね?」
「ああ、そうだな。それで? それがどうした?」
「いやいやいや、試験もなしに四天王になれるチャンスを棒に振っておいて、どうして四天王試験は受けるつもりなんですかって事ですよ」
その言葉にバージルはため息をついた。説明しないと納得しそうにない彼女のために、図書館の扉から手を離して背を預けると、彼女に向き直る。
彼女の気持ちも分からないでもない。
現在の彼女の立場は四天王で有りながら、かなり微妙だ。
いかに才人とはいえ、若輩者で有る彼女では国の運営は難しいのだろう。
いや、そもそも運営するところにまでいっていないのだろう。
魔法使い至上主義、あるいはそうお題目を掲げた貴族至上主義のこの国で、平民出身の彼女が政治を回していく事は難しい。そこにどれほどの熱意と才覚があっても。
だからこそ、彼女がするべきは地固めだ。
自分を支持するものを増やし、影響力を拡大させる。
そのための方策の一つが、バージルと行っている軍事魔法使い基礎能力向上計画があり、同時にバージルの四天王への勧誘だった。
そのうち片方、軍事魔法使い基礎能力向上計画は案として形をなしてきている。
彼女肝いりの計画として提出すれば、彼女の功績として四天王の中でも確固たる地位を築くに足る結果を示すだろう。
そして同時に、自分派閥の四天王。即ちバージルを共同研究者として推薦する予定だったのだが、バージル自身四天王には興味が無いと、彼女の推薦を受けないと断じたため、結果として山田の計画は半分しか成功しなかったわけだ。
それでも、いつ彼がその考えを翻してもいいようにと、毎日のように魔術理論の更新を彼と練り、彼が望めばいつでも四天王に推薦できる状況を整えていたところに、まさかの選抜試験参加の言葉だ。
彼女でなくとも、嘘でしょと文句の一つも言いたくなろう。
理由を聞くまでてこでも動かないという意思をこめた瞳でバージルを見つめる山田。
その視線を受けてバージルは肩をすくめる事で答えとした。
その態度に少しばかり激しかける山田。
そんな彼女の怒りを遮るようにバージルは言葉を紡いだ。
「別段、四天王の座位とやらに興味は無い」
「? 四天王の地位に興味が無いのに、何故四天王の試験を?」
「四天王に興味は無いが、その試験に出てくる人間には興味がある。だからこそ、だな」
「四天王試験に出てくる人? 一応応募者の個人情報は秘せられているはずなんですけど?」
「それでも噂は流れる。それを精査すれば自ずと有力な参加者なんぞ絞れるというものだ」
「……それはそうですけど。……それで、先輩はどなたに興味を抱かれたんですか?」
「そこまで答える義理はないが……それではお前は納得しそうにないな」
そう言うとバージルは面倒くさそうな表情を浮かべながら再び図書館の入り口へと手をかけた。
ガチャリと、扉の開く音がする。
納得しそうにないと分かっていながら、それでも立ち去ろうとするバージルに山田が文句を付けようとしたそのとき、バージルはそんな彼女を押しとどめるように答えた。
「ナギ・ス・ラガール」
「ラガール……元四天王のひとり……?」
その彼女の独り言に答える事無くバージルは図書館を立ち去っていった。
「おめでとう御座います。これでバージルさんのレベルは101になりました」
「そうか」
ダンジョン、廃棄迷宮。
ゼスにおける危険物廃棄場所にして、あらゆるものがどこからともなく流れ着く不可思議な迷宮。
その深層にほど近いところで、バージルは自身のレベル神を呼び出し、レベルを上げていた。
人の身ではほとんど到達者はいないであろう三桁レベル。
レベルという枠組みだけでいえば、達人という枠組みよりも人外のそれに近い領域にバージルは近づいていた。
それでも。
「チィ……」
漏れ出るのは舌打ちのみ。
不断の努力をもって鍛え上げているというのに、彼が目指す頂には遙かに遠い。
レベルの上限は未だ見えないが、その上がり方も随分と緩やかになってきている。そのことも、彼にとっては不満だった。
「力を。
つぶやく言葉は彼の魂から漏れ落ちた渇望そのものだ。
そして、この場所には彼が求める何かがある。
そう信じて奥へ奥へと向かう。
廃棄迷宮には時折訪れた者が渇望する何かを指し示す看板が現れる事がある。
実際に史実における6の際にランス達はここを訪れ、望む物を得ていた。
それは魔剣カオスであったり、才能限界の突破であったり、多種多様で、また複数に上る。
ならば、望む物がただ一つに限定されている今のバージルであればどうか。
バージルはある種すがるような思いで、この場所に潜っていた。
そして、看板は確かにそこに有り、彼の望みを叶える事になる。
咆哮が轟いた。
迷宮全てを揺らすのではないかと勘違いしそうなほどに大きな咆哮。
その咆哮を受けてバージルは笑みを浮かべた。
そして、迷い無くその咆哮の主がいるであろう場所へと向かっていく。
そこには果たして。
彼の望んだ物があった。