ランス verV   作:ヤミナギ

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 これからもこの作品を宜しくお願いします。 


Mission08 四天王試験

 

 

 バージルが廃棄迷宮に挑んでから数日後。

 

 彼はぼろぼろの姿をさらしながら、ナダルサ応用学校に彼は現れた。

 

 その姿を見た山田は凄まじく驚き、彼を問い詰めるためにそばへと寄る。

 

 

「先輩、何があったんですかっ!?」

 

 

「別段、何もない。いつも通り、力を求めて迷宮をさまよっていただけだ」

 

 

「嘘です。先輩ほどの実力者がこんなにぼろぼろに……」

 

 

「嘘ではないさ。ただ、そうだな、未だに俺は未熟という事。それがよく分かったよ。俺が憧れた人であるのならば、一太刀で十分だったろうに」

 

 

 苦笑するようにつぶやきながら、バージルは近づいてきた山田を追い払う。

 

 しかしながらその行動にも何時ものような切れはない。

 

 その様子にかなりの疲労がたまっている事を察した山田は肩を貸そうとするが、その動きさえ先に制止されて、彼女はため息をついた。

 

 

 

「無茶を……」

 

 

「そんな事はどうでもいい。それよりも、俺の記憶が間違いで無ければ今日が四天王試験の日のはずだが、間違っているか?」

 

 

「……間違ってはいませんけど、出るんですか? その状態で」

 

 

「ふん。この状態なのは俺自身の失態だ。そのことをもって今日は取りやめてくれ等という懇願をするほど、俺は間抜けのつもりはない」

 

 

「で、ですが……」

 

 

「ですがも何もない。試験会場はこの学園の体育館だったな? 向かわせて貰うぞ」

 

 

 そう言うとバージルは宣言通りに体育館へと足を向ける。

 

 その瞬間凄まじい魔力の奔流が、体育館より漏れ出てきた。

 

 その奔流だけで山田の魔力量では及ばない事を理解させられるほどの量。

 

 人知における到達点と言っても過言ではないその魔力量。それを感じ取りつつもバージルはまるでそよ風の中を歩むようにその奔流の中を歩いて行く。

 

 それに気がついた山田は慌てて彼の後を追う。

 

 体育館の中央、魔力測定装置のそばに立っていたのは美しい金髪を持つ少女だった。

 

 自身と同じか下手をすれば年下であろう少女の姿を見て山田は驚きの表情を浮かべた。

 

 これほどの魔法使いが、名を馳せる事もなく市井に眠っていたのかと。

 

 あるいは、これほどの魔力をもつ魔法使いを相手に魔法比べを行う必要が出てきたバージルが、それをして一切ためらいなく魔力測定器に近づいていった事に対してか。

 

 バージルが魔力をこめる。

 

 流麗にあるいはあまりにも鋭利にか。

 

 こめられた魔力量はそれほど多くはない。

 

 だが、その質が信じがたいほどに高められている。

 

 よく練り込まれた魔力は、少ない量で術式を起動させ、より効率的に、より効果的に術式を発動させるが、これはそのレベルではない。

 

 練り込まれた純然たる魔力は、その質を持って術式を破壊するほどに鋭く研ぎ澄まされている。

 

 その量と質を計る事を目的とした魔具をあっさりと破壊してしまうほどに。

 

 その様子を見て、バージルの前に試験を受けていた少女は僅かに笑みを浮かべた。

 

 退屈な試験だと思っていた物が、思いもよらぬ楽しみに巡り会った事に対する笑み。

 

 それは戦闘狂の浮かべる類いの笑みではなく、自らが圧倒的強者であるという自負から浮かべる笑み。自身の敗北など微塵も考えていないが故の笑み。

 

 その笑みを見て、バージルは僅かな憐憫の念を抱いた。

 

 それは彼女、ナギ・ス・ラガールの過去を知るが故の憐憫だ。

 

 呪いのように、父に愛される事のみを目的として動く彼女。

 

 そのあり方はいずれ救われる事が確定しているが、それでも実際に見てしまえば目を覆いたくなるほどに悲劇的だった。

 

 悲惨で手の施しようがない。

 

 だからこそ、あるいはそれ故に。

 

 バージルは彼女の事を無視した。

 

 どうでも良い存在だと言わんばかりに、視界に入れても視認する事をしなかった。

 

 その様子に、ぴくりと彼女の眉根が動く。

 

 歯牙にもかけていなかった男より、歯牙にもかけられなかったという事が彼女の心の内を少しだけ泡立たせた。

 

 空気が一触即発に染まる。

 

 その僅かに手前で、男の声がその空気を一変させた。

 

 

「両者ともに実に見事。内包する魔力量においてはナギの、その質においてはバージル。どちらも甲乙付けがたし。よってこれより二次試験、力量試験に移りたい」

 

 

 カリスマ性のある大きく野太い声。

 

 その声の主を見れば、その声にふさわしい体躯をした男がその場に立っていた。

 

 その男こそ、この国の国主ガンジーだ。

 

 その周囲には現役四天王である三人がいる。

 

 それはまあ当然の話だ。

 

 四天王最後の一人という重大な立場を決めるはずの場所に、残りの四天王と国王がいないはずもない。

 

 特にガンジーは、四天王制度を一変させたのだからいない方が不自然であった。

 

 

「力量試験は模擬戦とする。相手を殺さずに無力化する手腕を持って新たな四天王にふさわしい事を証明せよ。試験会場は外のグラウンド。両者ともに異議、もしくは質問はあるか?」

 

 

 その問いに対して二人は特に反応を見せない。

 

 それこそ、ぼろぼろの状態であるバージルからは異議が出てもおかしくはないはずなのに、バージルは一切の異議を挟まず、その態度に不満さえ浮かべていない。

 

 常在戦場の心得。

 

 いかなる状況、状態をも自らの責としているが故のあり方は、まさしくガンジーが求めるあり方でもある。ガンジーはバージルに対して期待を抱きつつ場所を移す。

 

 移動自体は五分とかかからない。

 

 一次試験の会場である体育館を出てすぐのグラウンドに移動しただけなのだからそれは当然だ。

 

 バージルとナギは互いに言葉を交わす事もなく、当然のように距離を取って相対し、ガンジーよりの合図を待つ。

 

 研ぎ澄まされた魔力と、膨大な魔力。

 

 二つの強大な力同士がぶつかり合い、相食むように見えるのはあるいは力の相克にも似ている。

 

 開始の合図は端的に。

 

 示されると同時に両者が動く。

 

 互いに言葉を放つ事無く牽制の魔法の矢が飛び交う。

 

 バージルの物は無属性の剣の形、ナギの物は闇属性のスタンダードな物が。

 

 こめられた魔力量はナギの方が、魔力の質はバージルの方が上で、ぶつかり合った瞬間に明暗を即座に分けた。

 

 勝ったのはバージルの魔法の矢。

 

 即ち幻影剣である。

 

 ぶつかり合った魔法の矢を切裂きナギの元へ迫るそれは、彼女の展開した魔法バリアによって阻まれて消える。

 

 その様子を見てナギは驚いたようにつぶやいた。

 

 

「まさか、競り負けるとは」

 

 

「ふん。よもや、今まで一度たりとも競り負けた事がないとは言うまいに」

 

 

「そんな事は言わない。だが、私の父以外に基礎比べで負けるとは思ってもいなかった。それだけの事」

 

 

「純然たる鍛錬の量が違う。当然だ」

 

 

「鍛錬か……ならば私は、積み上げた業が違うとでも返そうか?」

 

 

「業か。……ふん、どうでも良い。所詮は井の中の蛙。挑むのなら止めはしないが、火傷では済まん。覚悟してから来るんだな」

 

 

 

 そう言うとバージルは構えを取った。

 

 それは剣を抜き放つ類いの構えではない。

 

 徒手空拳、少なくとも拳を使う者達が取る類いの構え。

 

 バージルとある程度の親交がある山田でさえ見た事がない構え。

 

 その構えを見て、ナギは即座に反応した。

 

 本能が警鐘を鳴らしたからだ。その構えをバージルが取った瞬間に彼女の脳裏に敗北がよぎる。

 

 故に。

 

 無詠唱、最高速で彼女は全力をもって魔法を解き放つ。

 

 死爆。

 

 闇属性の広範囲魔法。

 

 相手の周囲全てを闇属性の爆風が覆う彼女の得意魔法の一つ。

 

 当然のように人ひとりを殺せるに十二分な威力を保有する魔法は、狙い違う事無くバージルに炸裂し。

 

 

「愚かな」

 

 

 言葉と同時に光が顕現した。

 

 されどその光は人が惹かれる類いの光ではない。

 

 あらゆる物の目をくらませ、焼き殺す殺戮の光。

 

 輝ける死そのものにも似た極光が、地面に叩き付けられたバージルの拳より発生し、死爆により発生した闇の全てを駆逐する。

 

 そして再びバージルは構えを取った。

 

 その両手両足には輝く小手と具足が纏われていた。

 

 

「悪魔兵装ベオウルフ。貴様で試させて貰うぞ」

 

 

 言葉と同時にバージルの姿がかき消えた。

 

 瞬間移動じみた高速移動術トリックアップで頭上を取ると同時に、空中よりナギに向かって放たれる流星がごとき蹴りの一撃。

 

 

 その一撃をナギは魔法バリアで受け止める。

 

 再び極光が一瞬周囲を照らし出した。

 

 凄まじい破壊の力が魔法バリアを容易く砕く。

 

 そのまま空中に戻り、再びバージルは流星脚を放つ。

 

 今度は受けきれないと察したナギはとっさに小規模な魔法の矢を大地に放つ事で地面を爆破、その反動で自身を吹き飛ばす事でバージルの一撃を回避した。

 

 そのまま転がるように魔法の矢を一つ、二つ。

 

 それをバージルは拳をもってたたき落とすと、余裕を見せつけるように再び構えを取ってナギと相対した。

 

 侮られている。

 

 そう直感したナギの思考が僅かに熱くなったその瞬間を見越したかのように彼女の廻りを幻影剣が取り囲む。

 

 烈風幻影剣。

 

 相手の周囲で待機し、一発でもヒットすれば相手を真上に吹き飛ばすバージルお得意の魔法の一つ。

 

 自身の思考が赤熱化する事まで読み切った実にクレバーな一手に、ナギは最速で詠唱するすることで返答とした。

 

 放つのはデビルビームの魔法。

 

 バージルの力量を見て瞬時に冷静に戻ったナギの魔法選択は正しく、彼女の周辺を巡る幻影剣全てを砕きながら、バージルの元へと迫る。

 

 

「フンッ!!」

 

 

 バージルは裂帛の気合いと共にデビルビームを蹴り上げた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 信じがたい光景にナギよりらしからぬ驚愕の声が漏れた。

 

 しかしそれは当然だろう。

 

 魔法とは基本的に必中である。

 

 魔法の矢でさえ対象を追尾する上に弾速も有り、本職の忍者でさえ回避は不可能な代物となる。 

 

 それがデビルビームともなるとほぼ即着しているに等しい。

 

 何せ対応する炎属性の魔法がファイヤーレーザーの魔法なのだからそれは必然だろう。

 

 下手をすれば銃弾を蹴り上げる以上の難易度の絶技である。

 

 

「なるほど。ある程度の感覚はつかめたか」

 

 

 しかし、その絶技を見せたバージルに気負いはない。

 

 この程度、出来て当然だという態度にナギは眉根を寄せる。

 

 このままの条件では厳しい。それが手に取るように分かるからだ。

 

 ナギは既にバージルが魔法使いではなく魔法戦士で有る事を、それも戦士側に寄ったタイプのそれである事を看破している。

 

 あれほどの絶技を見せられればいやでも理解できる事ではあるが、その上で自身に匹敵する魔法の技量まで備えているとあれば、自身の勝算はかなり小さくなる。

 

 今まで感じた事のなかった敗北に対する恐怖。

 

 それが心の内で生まれた事を自覚しながら、それでも父の期待に応えるために彼女は再び魔法を詠唱しようとして……

 

 

「ギブアップ。俺の負けだ」

 

 

 

 バージルのそんな言葉に肩すかしをくらったのだった。

 

 

 

 

 

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