クロスオーバー短編集   作:ふみどり

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「硝子の兄は海月になりたい」×「最強よ、傲慢であれ」とのクロスオーバー。
海月は静寂のことがとても苦手です。


海月と静寂

 いや、本当に腑に落ちない。まったくもって腑に落ちないというのに、大人しく正座をしている自分が自分で腹立たしい。学生時代なら幾度となく夜蛾に正座を強いられたが、何でこの歳で正座をせねばならんのか。というかまじで俺が責められる理由がわからない。

 

「そこはそれ、クラゲさまにも監督責任というものがあるでしょう?」

「いや、ないですけど。さも当然のように保護者扱いしないでもらえます? 少なくとも片方はアンタの管轄だろが。ちゃんと躾けしろよ」

「何を仰います、わたくしはあくまでもただのお世話係。躾けだなんてとてもとても」

 

 日頃からあのクソガキ苛めて転がして遊んでる爺がどの面下げてそんな台詞を。そう口にしようとしたところで今なお全身に受けているプレッシャーが強まった。崩れ落ちそうになった上半身にぐっと力を入れて圧力に耐える。

 長く五条に仕えているというこの世話係、二級術師なんて大嘘吐くのも大概にしてもらいたい。涼しい顔で俺の前に立っているが、俺が全身に受けている呪力の圧はこれまで相対したどんな呪霊よりも重い。

 夏油の将来の夢関連で起きた例の大喧嘩のせいで、クソガキふたりは見事に停学で謹慎処分を食らったらしい。その経緯は当たり前に保護者にも伝えられ、とりあえず五条のほうは静寂さんが五条家からお叱りを受ける結果になったとか何とか。正直そんなもん気にするような性格してねえだろと思ったし、それには五条も完全同意していたのだが、さすがの静寂さんも各所から多大な嫌味をもらえば苛立ちくらいは覚えたらしい。

 いやだからってその責任を俺に押しつけるのは本当にやめてほしいというか、これは絶対ただの八つ当たりだろう。

 そう指摘してもこのクソジジイ、涼しい顔を崩さない。

 

「ええ、他に八つ当たりをできる相手が見当たりませんで」

「夜蛾とかいんでしょーが……っ」

「教師に手を出すとそれはそれで厄介なのですよ、わかるでしょう?」

 

 わかるわかんねーの問題じゃねーんだけど、と内心だけで叫ぶ。耐えきれなくてとうとう片手を床についた。全身に呪力を行き渡らせて圧力に耐えるが、そろそろ一瞬でも気を抜いたら骨の数本くらい持っていかれる。五条や夏油さえまだ敵わないという規格外の呪術師のプレッシャーは、額をつたう冷や汗を拭う暇すら与えてくれない。

 そんな俺を見ながら、静寂さんは少しも圧を弱めずにふむ、と頷く。

 

「しかしさすがはクラゲさま、並みの術師ならすでに地面に這いつくばっているところですが、いまだ正座で耐えていらっしゃるとは。その見事な呪力操作、たゆまぬ修練の賜物なのでしょうな。この静寂、感服いたしました」

「く、そじじ、い……!」

「何か仰いましたか?」

「なに、も……!」

「ふふふ。まあおふざけもこの辺りにしましょうか」

 

 何がおふざけだこの性悪爺、と歯噛みしたとき、ふっと圧力が消えた。反動で崩れ落ちそうになるのを何とか堪え、何なんだよと顔を上げる。いつのまにか屈んでいた静寂さんと意外と近いところで目が合った。

 にこり、と細められた眦は(一見)優しい。

 

「今日はクラゲさんに御礼をしに伺ったのですよ」

「……は?」

「悟さまの癇癪を止めてくださったのでしょう。しかも悟さまがものを考えるきっかけをくださったと」

 

 確かに悟さまの顔つきが変わりました、と静寂さんは静かに言う。

 

「男子三日会わざればと申しますが、やはり若き日の一日一日は違いますな。本当に貴方のような呪術師がいてくださって良かった。これは心ばかりですが」

 

 そう言って差し出されたのは、いかにも高そうな紙袋。どこからか俺の好物を聞きつけたのか、中身は老舗和菓子屋の芋羊羹らしい。

 別に俺は五条のために何かした覚えもないのだが、まあもらえるものはもらっておこう。はあどうもと受け取れば、すっと静寂さんは胸に手を当てて目を伏せた。

 

「今後とも悟さまをよろしくお願いいたします」

 

 その、あまりにも真摯な表情と声。

 子を想う親とも、弟子を想う師ともたぶんちょっと違う、けれど確かに大切な「誰か」を想うひとのそれ。

 嗚呼、と腑に落ちるものがあった。そうだ、このひとは()()()()()()()がある。

 

「無理です」

 

 それっぽい空気作ってさりげなくクソガキの面倒押しつけようとしてんじゃねえぞクソジジイ。

 静寂さんの柔和な仮面の下で、鋭い舌打ちが響いた。

 

 *

 

「というか何で毎度毎度本題に入る前に嫌がらせのワンクッション入れるんですか、いい加減にしてくださいよ」

「有望な若者を見るとついついからかいたくなるのが老いぼれというものですよ」

「娯楽でひとを苛めるあたりマジ五条の世話係って感じ」

「おや、もう一度潰されたいですかな?」

 




何で苦手かって、毎回いじめられるうえにどうしたって敵わないからです。
静寂さん書くの楽しい。
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