クロスオーバー短編集   作:ふみどり

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拙作「夏油の友だちのパンピーの話。」と「硝子の兄は海月になりたい」とのクロスオーバー。
初対面。都合上ちょっと時系列おかしいです。


燈と海月

「……ああ、君が噂の未来の義弟くん?」

「へ、……ちょっと待って!? いや笑い転げてないで説明しろよお前らァ!!」

 

 *

 

 ちょっとした用で呪術高専に呼び出されたのは、まあ別に構わない。旅先で拾ってきた話の詳細を求められるのは今に始まったことではないし、なんやかんや結局それで報酬までもらっている立場だ。来いと言われれば普通に行くし、伊地知くんに迎えまで来てもらってむしろ申し訳ない限りだ。だけど、到着早々ちょっとここで待ってろと初対面のひとの部屋に放り込むのはどうかと思うんだよあのクズどもめ。

 高専には不釣り合いな、モニターだらけの薄暗い部屋。その中央の椅子に座っている、噂だけはちょっとだけ聞いていたその人。ぼさぼさなのに艶を失っていない黒髪と、ゆるく下がった黒目がちの瞳。隈の目立つ白い肌は不健康に見えるが、そのけだるげな雰囲気もあわせて本当に似ている。実の兄妹とは言え、こんなに似ているとは思わなかった。

 

「ああそうだった、硝子が振られ続けてんだっけ。聞いてる聞いてる、夏油の幼馴染みだってな」

「あ、……はあ、えっと、叶木燈デス」

「うん、俺は家入海月。知ってるかもだけど硝子の兄」

 

 妹とのことは気にしなくていいから、とそのひとはひらひらと手を振った。硝子ちゃんによく似た無表情にほんの僅か面白そうな色を乗せて、椅子ごと身体を俺の方に向ける。

 そしてそのまま、ぺこりと頭を下げた。

 

「むしろ愚妹が申し訳ない」

「えっ、いやいや頭上げて下さいってお兄さん!」

「……『お義兄さん』?」

「アッ違う違いますその『おにいさん』じゃなくて!」

「わかってるよ。話に聞いてたとおり賑やかな奴だな」

 

 俺のことはクラゲでいいよ、と軽く言ったそのひとは、本気で気にしていない風だった。が、妹のことを振り続けてる男って兄の立場からしてどうなのだろう。人間関係には自信のある俺も、この特殊すぎる関係でどう振る舞ったらいいのやら。

 そんな俺の葛藤を見て取ったのか、クラゲさんは少し口角を上げる。

 

「本当に気にしなくていいって。毎回誤魔化しもせずに振り続けてるだけ誠実だと思うし。正直まじで振り回してんの硝子のほうだろ。悪いな、あいつ俺に似て性格わりーんだわ」

「はは……いや、えーと、ハイ、適当なことはしてないつもりデス」

「うん。そう聞いてる」

 

 夏油や五条もよく君の話をするから、とクラゲさんは言うが、むしろ全く安心できない。あのクズども俺の何をどう話しやがった。何せ後ろ暗いことが多すぎる。

 つい口ごもる俺を面白そうに眺めながら、ちなみに、とクラゲさんは口を開く。

 

「数年前の十二月、五条の顔にパイ投げをキメる段取りを考えたのは俺です」

「あっ急に親近感! その節はありがとうございました!」

「いやいやこちらこそ。俺も硝子に画像見せてもらったけど、久々に腹抱えて笑ったから」

 

 うわこの人が腹抱えて笑ってるところとか全然想像つかね~~~~~という本音はおくびにも出さず、そりゃ良かったですと軽く笑う。どちらかというと表情筋は死にかけのように見えるが、感情の起伏を表現しないわけではないらしい。対人のコミュニケーションを嫌がる感じもないし、敵意や悪意も見えない。傑や悟が俺をここに置いていったことや硝子ちゃんのお兄さんだということを考えても、多分このひとは信頼していいひとなのだろう。

 ようやく少し、肩の力が抜けた。それとほとんど同時に、ふうん、とクラゲさんがその長い足を組む。

 

「警戒を解くのが早すぎんじゃねーの」

「、」

「これでも俺も呪術師だ。君ひとり殺すのに、一瞬もいらねーぞ」

 

 先ほどまでと一切変わらない声色に、気圧される。そこには確かに敵意も悪意もない。ただ、嘘の気配もしなかった。確かにこのひとは、俺のことなんて簡単に殺せるのだろう。思わず一歩下がりかけるが、堪えた。

 これは必要のない怯えだと、俺の中の何かが言った。

 

「……ご忠告ありがとうございます」

 

 でも、と俺は笑う。笑って見せた。そうしなければならないと思った。

 

「俺だって貴方の噂くらいは聞いてます。クラゲさんには、俺を傷つけるデメリットはあってもメリットはない」

 

 必要のないことは絶対にしない怠け者、だけど必要のあることは最短の道のりで片付ける徹底した合理主義。そしてこのひとは結構なシスコンで、しかも傑や悟の「味方」だという。だったらまあ俺にとっても「敵」ではないだろう。

 まして、こんな偽悪的な方法で俺に忠告をしてくれるようなひとなら。

 

「クラゲさん、実はいいひとでしょ」

 

 そう続ければ、クラゲさんは驚いたように二、三度瞬きをして、それから呆れたように息をついた。なるほどね、とため息交じりに口を開く。

 

「あのクズどもと長く付き合える一般人ってどんなもんだろうとは思ってたけど、確かにちょっとびっくりするくらいの変人だな。俺から見てもだいぶ頭イカれてる。やべーぞ君」

「あの特級クズふたりよりマシだと自負してます!」

「方向性が違うだけでいい勝負だろ」

「えっ」

 

 さすがに勘弁してほしい、と言おうとしたところで、クラゲさんの半分閉じた目がさらに柔らかく細められる。それを見て、何となく俺も口元が緩んだ。

 嗚呼、硝子ちゃんと同じ笑い方だ、と。

 

「硝子が君を気に入った理由、何となくわかる気がするよ」

「というと?」

「見てて愉快な馬鹿っているよな。理解できなさすぎて面白いやつ」

「はっは、……褒めてないですよね?」

 

 褒めてるよ、とポケットから何かを取り出したクラゲさんは、それをひょいと俺に投げ渡す。反射的にキャッチしたそれは、何やら個包装のお菓子のようだった。プリントされている文字にはあまり見覚えがなく、どうやら海外産のものらしい。

 やるよ、と僅かに微笑まれれば、遠慮する気にもなれず。何となくくすぐったい気持ちで、キャラメルに似たそれを口に放り込んだ。

 そして瞬間、舌に衝撃。

 

「何これまっっっっっず!!」

「あ、やっぱり? それ五条の海外土産なんだよ、食わなくて良かった」

「やっぱりってそれ普通他人に食わせます!?」

「未来の義弟なら他人じゃないかなって」

「論点をずらさない!! その感じマジで硝子ちゃんのお兄さんだなアンタ!!」

 

 いやアイツまじで俺の嫌なとこばっか似やがってさ、とゆるく言うその顔は本当に硝子ちゃんに瓜二つで。ああ兄妹なんだなと、俺はただただ大きなため息をつくほかなかった。

 ちなみにこのクラゲさんとの出会いについて、誰に話しても「ずいぶんクラゲさんに気に入られたんだね」的な反応をされてしまうのが正直解せない。まじで解せない。

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