私には、大嫌いなニンゲンがいる。
「う~ん、いやもうだいぶ諦めてるけどさ。エーフィお前、まじで傑のこと嫌いなのな?」
私がイーブイだったころから、ずっと燈の隣にいるニンゲン。
わかっている。燈にとってはいいトモダチで、本音の欠片を見せられる数少ない相手で、アイツと一緒にいるときの燈はいつだって楽しそうだ。燈が楽しいなら、私だって嬉しい。でも、それでもやっぱりこのニンゲンだけは大嫌いだ。
「いや本当ウチの可愛いエーフィに何してくれたわけ。まあ硝子ちゃんは当然として、悟とまで何か上手いことやってくれるいいこなんだぞ。なのにここまで露骨に嫌われるってお前、……マジで何したの?」
「真顔で聞かないでくれないかい。知ってるだろ、何もしてないよ」
イーブイのころはそこまでじゃなかったのに、と差し出された手にそっぽを向く。がく、と肩を落としたそいつに構うことなく、燈の膝に潜り込んだ。優しい掌が、私の毛並みをゆるゆると撫でる。
「これで悟も嫌われてんなら、クズが嫌いなだけかって納得するんだけどな」
「君に懐いている時点で違うだろ」
「おーおー言ってくれんじゃん」
でも本当に何でだろうな、と燈が私の瞳を覗き込む。教えてあげられるなら、私だって教えたい。そして早く逃げてと、伝えられたら。
イーブイのころは、ただの嫉妬だった。このニンゲンと一緒にいるときの燈はあんまりにも嬉しそうに笑うから、ちょっと悔しくて、それで意地悪をしただけ。けれど、今は違う。
燈を守るために、エーフィになった私。もう燈がつらい想いをしなくてすむように、イーブイの頃よりずっと感じられるものが多くなった。だから、わかる。
―――このニンゲンは、危険だ。
どうしてなのかはわからない。燈のトモダチのはずなのに、燈が心から信頼している相手のはずなのに、こいつはきっといつか燈を傷つける。
そして、燈はきっと受け入れてしまう。
ゆるせない。そんなの絶対に、ゆるさない。絶対に私が燈のことを守ってみせる。しゅるりとふたまたの尻尾を燈に絡ませてきゅっと握る。
「ん? どーしたエーフィ」
本当は、もうこのニンゲンと一緒にいないでほしいけれど。私の力で、もう二度と燈に近づかないように追い払ってしまいたいけれど。そんなことをしたら、きっとやさしい燈が泣いてしまうから。
きゅうん、と甘えるように鳴いて、つん、と鼻先で燈の掌をつついた。同時に、ぎろりと目線をそのニンゲンに向ける。ひく、とその口元が引きつった。
「……今、すごい目で睨まれたような」
「何言ってんの傑、こんなつぶらな瞳の可愛い子に」
だから私は絶対にお前から目を離さない。お前に燈は傷つけさせない。お前が燈のことをどう思っていようと、腹の中で何を考えていようと、燈がそれを認めていたとしても、絶対に。
「……私が何をしたっていうんだ……」
「まーまー、ほら、生理的に無理なだけかもしんないじゃん?」
「それが一番傷つくんだけど?」
嫌いなもんは仕方ないよなーと私の頬をふにふにする燈にひとつ鳴き、その顔にすり寄った。
そう、無理なものは無理なのだ、燈を傷つけるかもしれないやつなんて。たとえそれが、燈にとって大切なトモダチであったとしても。いや、むしろだからこそ。
傑、お前にだけは燈を傷つけさせたりするものか。