燈は佳乃が苦手です。誤魔化されてくれないから。
ほんのり燈×硝子風味。
何故こんなことに、と考えるのはやめた。
「うわマジでめちゃくちゃ綺麗。どんだけみみななの我儘聞いてんですか」
「お前はあの双子に甘すぎんだよ。どう? 佳乃」
「プロ並みとは言いませんが、素人でこのレベルは上等です。本当に無駄に器用なんですね、いったいどこを目指してるんです?」
双子にせがまれてたまに爪を塗ってやっていることを、どうやらバラされたらしい。別にバレて困る話ではないが、どうしてそれで俺の腕前を見ようという話になるのか。まして目の前の彼女はこういうことにうるさいうえに、硝子ちゃんと俺のことを知ってからはめちゃくちゃ俺に辛辣なのだ。わずかでも歪ませようものなら何を言われるかわからない。
俺に出来るのは、とにかく集中してさっさと終わらせることだけだ。
「にしても叶木さんが佳乃さんの手を取ってる絵って、違和感しかないですね」
「俺もそう思ってるから早く終わらせようとしてんだよ。野薔薇ちゃんトップコート取って」
「女性の手を合法的に触れる状況で言うことがそれとは」
「ごめんな、セクハラで訴えられたくないから失礼を承知で言わせて欲しいんだけど。欠片も興味ない」
「許します。私もです」
互いに真顔で言えば、俺の背後から軽く噴き出す声が聞こえた。お前らも大概仲がいいな、と言われても、正直心外でしかない。
「ちょっと妬けるんだけど? 叶木」
「硝子ちゃん、今はマジで心にもないこと言うの勘弁して。過激派の目が怖い」
背中をつつかれるのに堪えつつ、絶対に顔を上げまいとひたすら爪に集中する。今顔を上げたら目で殺される。
はいトップコート、と小瓶を置いてくれた野薔薇ちゃんに礼を言って、本当に早く終わってくれと祈るように瓶を開けた。
「そういえば硝子さんはネイルしないんですね」
「これでも医療関係者だからな」
興味がないわけじゃないんだが、と後ろから細い手がのびて小瓶を取る。
そういえば硝子ちゃんが爪塗ってるの見たことないな、と視界に入ったその手を見てほとんど無意識で零せば、今度は正面からへえ、と感心するような声が下りてきた。
「見たことない、と断言できるんですか。大したものですね」
「え、何が?」
「それは相手の些細な変化に気づける自信がないと言えないセリフですよ」
硝子先輩のこと、ちゃんと見てる自信があるんですね。
何の気なしにそう言われて、俺は曖昧に笑う。とりあえず、この子の前で余計なことは言わないようにしようと心に決めた。
本心を暴かれるのは、あまり嬉しいことではない。