ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話 作:貯金缶
(そもそもウマ娘のライブに関する詳細な情報は、どこを見ればいいのでしょうか?)
ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話
なんだか三女神のお導きにより、ウマ娘の世界に転生したらしい。昨日、普通に寝たはずだったが、意識が戻った時に、俺はオギャアと泣いていた。目の前には、母親らしい女性に抱かれていた。だが、母親の耳が普通の人間の耳ではなく、頭頂部にピコンと二つ立っていたし、しっぽらしきものが高く上げられ激しく振られていた。まさに前世で見ていたウマ娘だった。
その後、俺はすくすくと育っていったが、自分でリモコンを操作して、好きなテレビ番組を見られるようになった頃、テレビの番組表を眺めていると、どうやらウマ娘のライブとかレースといったイベントの中継番組が見当たらなかった。
「お母さん、どうしてウマ娘のライブとかの番組がないの?」
「あらあら、どうしたの? そんなに興味があるなら、今度、直接ウマ娘のレースに連れていってあげるね」
俺の頭をよしよしと撫でながら母さんは、子供特有の不思議な考えだと思っていたようだった。
家族一同で地方のレース場に遊びにいって、ウマ娘のレースを見ていると、なんだか周囲の様子がかなりピリピリと緊迫した雰囲気だった。大事なレースだから、そういうものだろうと勝手に思い込んだ。
レースが始まった。初めて見たウマ娘のレースは、とても速かったし、キラキラしていた。アプリやアニメでは、味わえない感覚で感動した。全部のレースが終わって、ライブの時間になるかと思っていたが、お疲れ様ですといった雰囲気になり、唖然としていると、そのまま気づいたら家に帰っていた。
「お母さん! ウマ娘のお姉さん達は、レースのあとに応援してくれた感謝のお歌は唄わないの?」
「昔、お母さんもレースに出ていたけど、レースした後は、いっぱい疲れているから、お歌は唄えないのよ。応援してくれた人達には、後でお礼の挨拶をするわ」
その答えにガーンと衝撃を受けたが、そもそも真剣勝負した後だから、それもそうだなと納得した。なんというか、ストイックなんだろう。
ただ、個人的な考えとしては、ウマ娘のウイニングライブやグランドライブを見てみたかった。だけれども、レースに出場するウマ娘自身がやりたいと思わない限り、出来ないだろうなぁとも思った。
自分を支え応援してくれた感謝の気持ちとして行うのがウイニングライブだし、観客は自分の推しが可能であればセンターに立ったウイニングライブが見たいために応援しているのだから、現状、鶏と卵みたいな関係でどちらが先になるのかが分からなかった。アプリだとウマ娘が応援してくれるファンに感謝の気持ちを伝えるためのグランドライブが先だったみたいだが、この状況だと難しいのかもしれない。レース場の雰囲気で感じる限り、アスリート視線が強すぎる。
アプリでもあったが、センターに成れないのに、バックダンサーの振り付けばかりするのもウマ娘のモチベーションに影響があるのだから、こういったことを真剣勝負の場に持ち込まないことも理解できた。今のところ、解決できない問題だと思う。ウマ娘達が素直に純粋にファンへの感謝を伝えるという事やその場所をどう提供するのかとかを誰も考えていない。そういった思考を持ってもらうことが先だと思う。つまるところ、グランドライブ編の告知ライブみたいなものであろう。それに、それらを取り仕切ることができるライトハローみたいな人材が必要だ。
この問題に関しては、誰かによって時間が解決してくれることを信じて、せっかくこの世界に新しい生を授かったのだから、トレーナーを目指そう。ちょうどよく親戚に元トレーナーの人もいることだし、何とかなるはずだ。
幾度も学校受験という困難を乗り越えた俺は、トレーナー試験に臨める年齢になった。「待っていろ! 中央トレセン学園!」と自身にビシッと気合を注入し、何とかしてウイニングライブを見たい一心でトレーナー試験に向かった。結果的に俺はトレーナーになれた。ただし、中央ではなく、地方であるが。
なんなんだよ、中央のトレーナー試験の倍率は知っていたが、問題が難しすぎる。親戚の元トレーナーも地方だったけど、「中央は魔境だよ」と言った言葉が今ほど身に染みたことは無い。アニメのトレーナーもアプリのトレーナーも本当に人間なのか疑いたくなった。その中でも名門と呼ばれる桐生院家の化け物具合がよく理解できた。ポンっとレアスキル「鋼の意思」が書いてあるだろうトレーナー白書を渡せるだけあって、ライバルに塩を贈るレベルじゃないのが凄すぎる。それを理解できるアプリ版のトレーナーも凄い。
まぁ、過ぎたことはどうしようもないので、地方トレーナーとして頑張ることにした。今のところ、分かっている限り、シンデレラグレイからライブを除いたような雰囲気だった。カサマツ音頭みたいなライブもない。アスリート感覚がとても強くもなく、かといって全く無い訳ではない。不躾だが、ちょっと微妙な感じだった。ただ、一所懸命な国人衆みたいな地元愛が、かなり溢れていることが分かった。
ひとまず、やらなければならないのは、担当するウマ娘探しである。これが、かなり難航した。言うならば、音楽性の違いで解散するバンドみたいで、レース後に歌を唄わないかと伝えると拒否されて、それが噂になって、誰も寄り付かなくなったし、同僚からも珍獣扱いだった。
このウイニングライブというかグランドライブをやりたかったが、どうにもこうにもならなかった。そりゃあ、人間の陸上選手に全力で走ったレース後に唄って踊ってといっても、いきなりそんなことも出来ようはずもなかった。何か糸口が必要だった。鬱屈とした雰囲気で、ただただトレーナーとしての最低限の仕事をこなしていたが、三女神の導きだろうか、俺に幸運の女神が舞い降りた。
誰も訪れることもない俺の元に、黒髪で背がちょっと低いウマ娘がやってきた。そして、彼女はこういった。
「あのトレーナーさん、貴方なら誰も担当していないので、レースで勝ちたいので、私を担当してくれませんか?」
「こんな奇妙な俺の担当になりたいのなら、担当しよう。ただ、俺の奇行には目を瞑ってくれ。名前を何というんだ?」
「ザハイヴスです。皆からはハイヴスって呼ばれています」
「ザハイヴスかいい名前だな……ザハイヴスだと! 三女神様よ、この導きに感謝いたします! ハイヴス、一緒に頑張ろう! ぜひ担当させてくれ!」
俺は、彼女の名前を聞いて、大層大きな声で、彼女の提案を了承した。ザハイヴス、いや、ハイヴスは、人差し指をちょんちょんと合わせて恥ずかしそうに言った。
「そんなに大げさに言われると、ちょっと恥ずかしいです。それに、声が大きいです。明日からどうやって登校すればいいでしょうか。みんなに揶揄われます」
ハイヴスは、耳をへにゃりと畳んで、困ったように答えた。
そういうことで、ハイヴスの担当に俺はなった。地方にしては中央に届かなくても、ある程度の実力があったらしく、ハイヴスはメイクデビューで勝利できた。そのときは思いもしなかったが、やはりどうにかして彼女の存在を周知させたかった。うまぴょいはしないが、俺の愛バがずきゅんどきゅんと走っていることを知って欲しかった。
だけれでも、ハイヴスの消耗具合から考えるに、レース後、すぐに踊るようなウイニングライブができないことは明白だった。少なくとも唄う事だけしかできないだろう。そもそも、そんなことを想定してトレーニングをしていない。どうしたらいいだろう。彼女が頑張った証を示したい。そうか、花が咲くように種を蒔くためには、どんな小さな畑でも自分がやらなければならない。
ハイヴスが唄えなければ、俺が唄えばいいのだ! なんとも簡単な事だった。トレーナーからウマ娘へとグランドライブを移行できるようにすれば、ウマ娘のグランドライブからウイニングライブへと繋がるのではないか。その日、俺は大声で笑った。そうか、そういうことか、三女神様は、このためにこの世へ俺を導いたのだ。
早速、歌を唄おうと思い立ったが、今の流行の歌を唄っても注目されないだろう、誰も知らない新曲が必要だったが、俺には作詞作曲の才能が無かった。おあつらえ向きに前世で聞いた曲に彼女の名前であるザハイヴスと同じ「The Hives」というバンドを俺は知っていた。やはり、三女神様のお導きであろう。DTMを使って、憶えている限りの曲と詩を書きだす。彼女へ贈る歌なのだ。気合を入れた。
書き出した歌を俺が唄って、聞いてみる。どう考えても、まったくレースと関係がなかったので、客寄せの前座にしようと思った。俺が唄った後に、一曲でもハイヴスが唄えればいいだろう。もちろん、前世でいうところのアプリの歌なんぞ、この世には無かった。もう、ハイヴスが唄う曲は、「爆風スランプ」の「Runner」でいいかと作詞作曲で疲れていた俺は思考放棄した。
ハイヴスが参加するレース日の前に、レース場にライブ告知用のポスターを貼った。誰か一人でも来て欲しい。三女神様に祈った。どこかから光が俺に差し込んだ。前世でいうところの旧約聖書のモーセのようだった。神の思し召しなのだ。必ず成功させねばならない。ハイヴスにも、「申し訳ないが、君の為の歌を作ったので、協力して欲しい。疲れているかもしれないが、レース後にファンへの感謝の気持ちを表すために唄って欲しい」と言うと、「しょうがないですね」と彼女は頬に手を当て、尻尾を高く上げ扇風機のように回転させて答えてくれた。
ライブをする当日のレースになった。俺もハイヴスも気合十分だった。特にハイヴスなんか、そこまで重要でないレースなのにかなり緊張していた。仕方が無いので、ハイヴスの頭を撫でながら、耳元で元気付けるために囁いた。大きい声は、ウマ娘にとっては、さらに緊張する要素だったので。
「俺の愛バが絶対勝つよ」
「はい! トレーナー! 絶対に勝ちます! 勝利の凱旋のお歌も唄います!」
ふんすふんすと息を荒げて、ハイヴスは答えた。俺は今日も元気だなぁと呑気に考えていた。レースになると、ハイヴスが中央で勝てる位の圧勝で幕が終わった。控室でハイヴスの顔を覗きながら今の体調を聞いたが、赤い頬をしながら「大丈夫です」と言うだけのBotになっていたので、彼女を信じて、あらかじめ確保していたライブ場所に急いで向かった。
ライブ場所とはいっても、かなり小さい場所しか俺の貯金では借りられなかった。もう少し散財せずにいれば、もっと大きい所だったのに。過ぎたことは仕方が無いので、ライブの準備をして、お客様を待った。レース場の張り紙を見たという観客が20人位、来てくれた。あらかじめ、トレーナーがハイヴスの体力というか疲れを癒している間の前座ということを伝えて、最後までいた観客にはお土産があることを今教えた。これで、彼女を悲しませる可能性が少なくなるだろうとも思った。そして、俺の財布が空になった。明日からは、自分自身で決めた俺自身の兵糧攻めだ。
前座である俺のライブが始まる時間となる前にハイヴスが楽屋に入ったのを確認して、俺は唄い始めた、途中途中で休憩とか慣れないMCをしながら、彼女のための時間まで時間を稼いだ。数人は、飽きて帰っていなくなったが、彼女が唄う時間になった。
「今日は、このライブに来てくださって、ありがとうございます。このような試みは、初めてですので、至らぬところもあるでしょうが、どうか、楽しんでください。唄う歌は、Runnerです」
彼女の歌がライブ会場に広がった。観客は興奮しているようで、初めてなのにアンコールの際に、一緒に唄ってくれた。少なくとも成功だと感じた。誰も途中で退席した人はいなかった。彼女の存在が認められた気がして、すごく良かった。
1曲しかなかったので、アンコールを含めても、あっという間に彼女のライブが終わった。帰る観客に、今回唄った曲を録音したCDを渡した。それに、ブログで曲をダウンロードできることも教えた。これで、ハイヴスの知名度と共にグランドライブの事も誰かがついて来てくれるはずだと信じた。
後日、エゴサーチをしてみると、かなりの批評があった。俺の頭を沸騰させるような意見もあったが、擁護する意見もあったし、何よりハイヴスがぎゅっと抱きしめて慰めてくれた。猫吸いじゃないんだから、ちょっと首筋がくすぐったい。
その後、何度か勝ったり負けたりしたが、ファンに感謝するグランドライブだけは欠かさず開催した。俺は前座の段階で観客に飽きられないようにできる限りの新曲を唄った。それに、ハイヴスにもレースとは関係ないが、「嵐の中で輝いて」とかの新曲を作って、観客に飽きられないようにしたが、中央では同じような試みは、全くされていなかった。そもそも注目もされていないのだろう。まだまだ地下アイドル的な存在でしかない。まだ何処にもグランドライブという花が芽吹かない。
それでも、地道な活動でハイヴスの歌声に魅了されるウマ娘を含むファンが増え、少なくとも地元では順調であると実感できた。
しかし、ライブ場所を確保するために、金が無くなった俺自身の兵糧攻めも酷くなったが、ハイヴスが時々、お弁当を作ってくれたので、なんとか生きていた。まさに、神様、三女神様、ハイヴス様だった。お弁当を夢中に食べている俺の顔がおかしかったのだろうか、ハイヴスは尻尾を高く上げ激しく揺らしていた。
俺もできることはやったはずだが、これ以上ハイヴス一人では、どうしようもなかった。単純にマンパワーが足りない。しかし、一年後、この俺にもおかしな奴らが集まるようで、色々な面々が集まった。ハイヴスのライブを見て、興味を持ったという奇妙な奴らだった。こんな奇妙な俺に担当されたいなんて、おかしくて笑い続けた。ハイヴスに背中を叩かれ、正気に戻った。そして、チームを結成した。
そんな奇妙な奴らを紹介しよう。
水色の髪の「ソナタアークティカ」
赤髪の「ドラゴンフォース」
金髪の「ハロウィン」
青髪の「オフスプリング」
茶髪の「フェルディナンド」
白い流星が入った黒髪の「ストラトヴァリウス」
白髪の「パワークエスト」
桃髪の「ガーディアン」
何ともまぁ。俺が知っている前世と同じバンドの名前を持つウマ娘ばかり集まった。人数が多すぎて、何人かに絞ろうとも思ったが、せっかく来てくれたのだから纏めて面倒を見ようとしたので、先の事なんぞ考えずに担当することにした。ついでにせっかくなので、彼女達のために前世と同じバンドの曲を作った。一時的にハイヴスの機嫌が悪くなった。しっぽでバシバシされるのが、地味に痛い。
その後、合計で9人になったチームの皆のおかげで、交互に交代することで唄える曲数が多くなり、ダンスの規模が大きくなり華やかさが増した。それに、俺が前座をする時間も短くなって、裏方に徹することができた。そのため、なんとか、この地方だけだけれども、トレーナー毎に違うが、レース後に観客に感謝してライブする習慣を根付かせることができた。小さいがグランドライブの花が咲いた。あとは、全国のウマ娘自身でこれができるようになれば、俺の神様である三女神様のご要望に応えることができるはずだ。トレーナーは、ただウマ娘がライブできるようにサポートして、ウマ娘がファンと一緒に歌が唄えるようにすればいい。
それとは、別で面倒な事に、所属する地方トレセン学園からレース前の出走曲の作曲をお願いされたので、前世のファンファーレにならないように「トップをねらえ」の「エクセリヲンマーチ」にしておいた。トレセン側は困惑していたが、どうでもよかった。どうせ、俺が止めてくれと叫んでも捨てられるだろうから。ならば、捨てたことを後悔するような名曲を押し付けるのだ。
これも三女神様のお導きなのか分からないが、ハイヴスが中央重賞勝利の為、地方から中央に殴りこむことになった。これまでも地方ではこういった事例がそれなりにあったけれども、ハイヴスが中央で走ることができるのは感慨深かった。それに、自分でもどうしてこうなったのか分からないけど、言葉にできない感覚だけれども、中央にグランドライブを根付かせるきっかけになるかもと思った。
ただし、問題があった。単純に俺の貯金が底を着いているので、端的に言うとライブ会場諸々に必要な金が無い。もう何とかしてスマートファルコンみたいに路上ライブで対応するしかないのだろうかと悩んでいると、ハイヴスがやって来たので、本人の希望を聞いてみた。
「なぁ、ハイヴス。ライブ場所は、どこか希望があるか?」
「どうしたんですか? トレーナー。いつもみたいなライブハウスじゃ駄目なんですか?」
俺の困り果てている心境をよそに、チームのみんなと一緒に季節外れのちょっとお高いアイスをぺろぺろと舐めながら、ハイヴスは俺の質問に答えた。
「やはり、希望場所はライブハウスか。すぐに手配しよう」
「トレーナー、もしかして、お金が無いんですか? 明日、お弁当必要ですか?」
「大丈夫、お金の事は気にするな。ちょっと借金してくる。あと、お弁当は欲しい」
「借金は駄目ですよ、トレーナー! そうだ、分かりました! 私の賞金を使いましょう! それなりに貯金しているので、なんとかなります!」
「いや、流石に未成年しかも担当している子のお金を使うのは、大人というかトレーナーとして駄目だろう」
「トレーナー、大丈夫です! なんて言ったって、私はトレーナーの愛バなんですから、一心同体です! それにそんなに困っているのなら、出世払いで返してください。あと、ご心配なさらずとも、一応、担保も考えていますので、ご安心ください」
ハイヴスは、両手で握りこぶしを作って、なぜか気迫を込めて俺に伝えてきた。チームのみんなの耳が俺の方を向いた。
「結局のところ、ライブは私たちが好きでやっているので、日頃、いつもトレーナーのお世話になっていることも含めた感謝の気持ちなのです!」
「ちょっと落ち着けハイヴス、分かった。ひとまず、そういう事にしておこう」
俺はハイヴスの気迫に押し切られて、ハイヴスからお金を借りることにした。大人として、トレーナーとして何とも惨めで悲しい気持ちになったが、背に腹は代えられなかった。ライブ会場諸々の準備をするために部室から退出した。部室からは、大歓声が聞こえたが、そんなにもライブがしたいなんて、ウマ娘側の意識がここまで成熟したのだと認識できた。
ライブ会場諸々の準備ができて、手持無沙汰になった俺だったが、ハイヴスが世間話として聞いてきた。部室にいたチームのみんなの耳が俺の方を向いた。
「そういえば、トレーナー。今度の休暇は、何をするんですか?」
「ハイヴス、急にどうした? 久しぶりに実家に帰る予定だけど?」
「トレーナーの故郷に興味があるので、ついて行ってもいいですか?」
「特に何もない所だけど、別に構わないぞ。ただ、宿泊するホテルだけは、どうにかしてくれ」
「大丈夫です! いい考えが私にはあるので!」
何かしらの自信する根拠があるのだろうハイヴスは、ビシッと人差し指を立てて答えた。続けて、ハイヴスは俺に質問した。
「トレーナー! ついでに、日頃お世話になっている感謝も兼ねて、トレーナーのご家族にご挨拶したいので、一緒に行っていいですか?」
「藪から棒にどうした? 別に困ることでもないし、まぁいいけど。当日は、適当に俺の故郷を紹介するがてら、散策してから、家に行こう。それと、一緒に晩ご飯でも食べるか? 食べるなら、実家に連絡しておくぞ」
「はい! お願いします!」
中央の重賞レース前の最後の俺の休日になった。ハイヴスを助手席に座らせ、俺の故郷へと向かった。故郷の寂れた市の博物館やら美術館、それに観光スポットを回り、ランチを食べてから、俺の実家に帰った。玄関のチャイムを鳴らすと、母さんが玄関のドアを開けて俺たちを迎い入れてくれた。
「ただいま、母さん。この子が俺が担当しているハイヴスだよ」
「初めまして、お義母様。日頃からお世話になっていますトレーナーの愛バであるザハイヴスです。ハイヴスとお呼びください」
俺はハイヴスの挨拶に気にかかる部分があったけど、気のせいだと考えた。母さんの案内で久しぶりに実家に入ると、懐かしい匂いがして、実家に帰ってきたという実感ができた。自分の部屋に行こうとすると、ハイヴスも一緒に付いてきた。
「男の部屋なんて、面白いものなんか何も無いぞ。それに、大体のものは今の家に持って行ったから、そんなに残ってもいないぞ」
「トレーナーの中にいるみたいで、眺めているだけでも面白いです!」
「そういうものなのか」
ハイヴスの物言いにちょっとだけ怖くなったが、気にしない振りをして納得した。あとは、特に何事もなく他愛のない世間話をしていたら、晩御飯の時間になった。いつの間にか帰っていた父さんも一緒に4人で晩御飯を食べた。もうそろそろ夜も深くなりそうなので、ハイヴスをホテルまで送ろうとしたら、ハイヴスが悲惨な声で俺に話しかけてきた。
「トレーナー、ホテルの予約取れてなかったみたいです。それに、どこも満室みたいです。助けてください」
なんとなくそんな気がしていたので、今晩、彼女の家まで車で送迎しようかと俺は少々悩んだが、母さんに相談すると、布団を一式追加で押し入れから出してもらった。とりあえず、ハイヴスには空いている部屋で眠ってもらおうとしたが、俺の部屋で寝たかったらしく、俺が空き部屋で寝ることになった。
次の日の朝、俺より先に起きていたハイヴスが母さんと一緒に朝食を作っていた。二人ともかなりリラックスしているようで、尻尾が左右にゆっくりと振られていた。段々、外堀を埋められているような気がする。父さんを見てみる。娘がいないので、デレデレしていた。どうやら内堀も埋まってしまったようだ。
いつもの実家のご飯とは、ちょっと味付けが違う朝ご飯を平らげると、両親に別れを告げて、ハイヴスと一緒に地方トレセン学園がある場所まで戻った。
中央の重賞レース当日になった。グランドライブの準備をしないとなぁと思いつつ、レース場の具合を確かめていると、ハイヴスの事を調べていたのだろう中央のトレーナーから、担当するウマ娘がグランドライブを気に入っているので、やり方を教えて欲しいとのことだった。こんな時の為にグランドライブの開催方法を書いておいた紙を手渡した。
中央の重賞レースの結果は、残念なことにハイヴスはハナ差で2着だったが、地方のウマ娘としては結構良い成績だった。1着は、グランドライブが気に入っているウマ娘だった。なんだかハイヴスと一緒に悪ふざけがしたくなったので、中央のトレーナーに話をつけて、グランドライブというかウイニングライブをお試しでやることにした。結局のところ、何処であろうとも何であろうとも、初めに誰かが種を蒔かねばならない。
センターは、中央のウマ娘にお願いするとして、左は2着のハイヴスだったが、反対側の3着の代打で俺のチームの中でじゃんけんをして勝利したウマ娘にした。残りのチームメンバーは、バックダンサーをお願いした。かなりの付け焼刃だったので、初めてのライブを思い出すような状況だったけど、見に来てくれたファンは楽しそうだったので、概ね成功だった。何より、流石、中央だ。見に来てくれる人の数が地方とは断然に違う。これなら、すぐにライブの事が広まるだろう。
その後、ライブのやり方を教えた中央のトレーナーを中心として、中央でグランドライブとウイニングライブが開催されたのをきっかけに全国のトレセン学園で同様の催しが開かれるようになった。
畑に種を蒔き、水を与え、いつかは芽吹くだろうと信じ続けた結果、やっと全国にグランドライブの花が咲いた。感動して俺の瞳から涙が溢れた。中央の重賞レースに負けたのに、とりあえず、チームのみんなで祝勝会みたいなものを開催した。
それから、年月が経って、ハイヴスが卒業する頃になった。
「トレーナー、そういえば、借金の件だけど、お金は要らないから、担保が欲しい」
「あとちょっとでお金を返せるはずだけど、何が欲しいの?」
「ちょっと、この紙のここに名前書くだけでいいから」
トントンと指さしているハイヴスの手元の紙を見てみる。ハイヴスの名前の隣に俺の名前を書く欄があった……どうみても婚姻届だった。
「トレーナーの愛バで一心同体だから、結婚すれば借金もチャラだよ」
にこやかにハイヴスは、婚姻届を掲げて俺に伝えた。
「これが、年貢の納め時という事か。ハイヴスのご両親にどう説明したらいいか。それに、俺の両親にも伝える必要があるな。それに色々なところから怒られるだろうなぁ」
俺はハイヴスの手から婚姻届を受け取り、ささっと名前とかを記入して、ハイヴスに返した。ハイヴスは、大事そうに婚姻届を抱きしめた。
「大丈夫だよ、トレーナー。私の両親もそうだけど、トレーナーのお義母様やお義父様には、事前に伝えてあるから」
「そこまで用意周到だったけれど、失敗したらどうするつもりだったのかい?」
「大丈夫、トレーナーなら絶対にOKしてくれるって、信じていたから」
「失敗したら、貴方と一緒に三女神さまのところに行くつもりだったけどね」
彼女は、世界で一番綺麗な笑顔でそう答えた。
高評価と感想、お気に入りを気が向いたら、お願いします。
出てきたオリジナルウマ娘の名前は、作者のお勧めのバンド名からお借りしています。
あと、可能であれば、感想とか評価とかお気に入り登録を本当にお願いします。
他の作品も見ていただけると幸いです。
(特に「ドワーフが少女のために生活用品とか作る話」とかいかかでしょうか?)