ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話 作:貯金缶
もしよろしければ、来年も読んでください。
俺はファル子と二人で俺の家の中で安いホットプレートで焼肉をしていた。ファル子は、バターナイフを手に取って目の前にある焼かれたジャガイモに夢中だった。
「トレーナーさん、ちゃんとお芋焼けてるかな?そろそろバターの準備したほうがいいかな?出来立てのじゃがバターは、絶対美味しいよ♪」
「そろそろ大丈夫じゃないかな?」
「そうだよね、トレーナーさん」
そう言うと、ファル子はバターをジャガイモにベタベタと塗りたくった。バターが溶ける香りが部屋に充満したが、俺はこれから開催されるであろう運動会について聞いてみた。
「こんどの運動会は、また短距離を走るの?それとも別の距離?」
「ファル子は何も悪くないのに先生から怒られて、今度は短距離からマイルになったよ。なんだか色々とあるみたいで、生徒の未来を紡がなければならないらしいよ。 速く走れるウマ娘が社会には必要だから、このまま遅いと思われる状況だと就職先とか進学先に影響があるんだってさ。それにファル子はちょっと速すぎたから、今度は少し手加減をしてだってさ」
まぁそうだよな。足が遅いウマ娘は色々と支障がでるだろうかと闇を感じながら、そう思いつつ、俺は手頃に焼けた肉をひょいっと箸で取り上げて口に含んで咀嚼しながら飲み込んだ。続けて俺は話した。
「まぁ、どの距離でもファル子には大丈夫だよ」
「そうだよね、トレーナーさん。ファル子はもっとキラキラするよ」
「そうだよな、ファル子ならいける筈だ」
その日は、ご飯を食べつつ、適当に雑談をして終わった。ファル子の運動会までちょっとだけ時間があったけど、今のファル子ならなんとかなるはずだ。
そうして日にちが経つとファル子の学校の運動会が終わったらしい。ファル子から運動会の結果が届いた。ファル子から来た連絡をスマホの画面で確かめてみる。両手でブイサインをしたファル子の姿がスマホの画面に映っていた。ファル子と通話しながら、状況を確認した。
「るんるるーん、ファル子、勝ちました!」
「どれ位の差で勝ったの?」
「去年と同じ4秒だよ。ゆっくり走ったから、これでいいと思うよ」
「そっかー、ゆっくり走って4秒差か。中央はもっと難しいだろうから、気を引き締めないといけないね」
ファル子から送られてきた着差を示す画像を見ながら、ファル子の学校の先生が言いたいことも分かった。この運動会の競走は、明らかな虐殺に近い。このままだと、ウマ娘の本能に一番近いもっとも速く走りたい気持ちを臼で磨り潰すような感覚になるのだろう。恐らくだが、将来を悲観するウマ娘もいるはずだ。ファル子が速すぎて、これが中央のトレセン学園に入学する基準なのだと考えてしまうウマ娘もいるはずだ。でも、それでもトレーナー擬きとしては、このファル子の走りを否定すべきだ。周囲に遠慮なく走るべきなのだ。
「ファル子、来年はゆっくり走らなくてもいいからね。絶対だよ」
「うーん、えっとね。それなりの力加減で走ってみるよ。トレーナーさん。でも、ファル子が走るとみんな泣いちゃうから、全力は無理かなぁ?」
「それでも、ファル子は全力全開でウマドルとして走ってくれ。お願いなんだ。ファル子ならなんとかなるはずだ」
「分かったよ、トレーナーさん。ファル子一所懸命に頑張るね♪」
ファル子の返答に幾分か安堵した俺だったが、念のため補強策を考え始めた。とりあえずスタミナを鍛えればなんとかなるはずだ。
幾日が過ぎた。俺とファル子は河川敷でいつものように唄っていたら、可愛い小さなお客さんが俺たちの目の前に手を振りながらひょっこりと現れた。
「お歌のお姉さんとお兄さん、こんにちは!」
可愛い小さなお客さんの目線に合わせるように、しゃがんだファル子が手の平を振りながら彼女の挨拶に答えた。
「こんにちは~!君はどうかしたのかしら?」
「お姉さんのお歌を聴きにきたの!」
「そうなの?お姉さん頑張っちゃうよ。何が聴きたいの?」
ファル子の耳がピコピコと動き、尻尾もブンブンと回転していた。どうやらファル子の体調が絶好調になったようだ。
「いつも唄っているあの歌がいい!」
「じゃあ、せっかくだから一緒に唄ってみようね♪」
「はーい」
可愛い小さなお客さんは手を挙げて元気よく返事を返した。それから3人で何曲か唄っていると、色々と目立っていたのだろうか、一人また一人と聴衆が増えていき、最終的には10人位の人達が集まった。その日はファル子がウマドルとしての一歩が始まった記念すべき日になった。
昨年は美術館に行ったので、今年はファル子と二人で博物館に行くことにした。どうやら今年の特別展示は、古代エジプトの美術工芸品のようだった。二人分のチケットを購入し、博物館に入った。壁に書かれている順路に従って博物館の中を見て回った。古代の神々の姿が彫られた黄金の像や自然界の力強さを体現した動物の人形のようなものが展示されていた。俺は周囲に迷惑ならないような声でファル子に話した。
「なんというか、不思議な感じのするものばかりだな」
「そうだね、トレーナーさん。昔の人達は何を思ってこれらを作ったんだろうと考えると、ファル子がウマドルとして一番になったら、ファル子の持ち物とかもこんな感じで展示されるのかなぁ?」
ファル子の言葉に俺は感慨深い気持ち抱き、すこしおどけるような冗談を言った。
「ふふっ、そうだな。そうなるように頑張らないと。なんなら地球を飛び出して銀河に名を轟かせるようにしたいものだね」
「壁をいっぱい乗り越えたら、その分輝けるのだろうから、これからも一緒に頑張ろうね。トレーナーさん☆」
その後も博物館を見て回って、特別展の目玉であるエジプトのファラオのマスクが見えてきた。どうやらウマ娘のファラオだったらしく、ウマ娘特有の耳もすっぽりと納められるようになっていた。不思議な気分をさらに強く感じたその瞬間、ファラオのマスクの目の部分が怪しげに光ったかと思うと、昨年の美術館のときと同じようにファル子の両隣を顔が見えないウマ娘がいた。
昨年と同じように両隣のウマ娘が光に向かって走り始め、それに続くようにファル子も光に向かって走り始めた。ファル子が光に呑まれた瞬間、意識が戻ったようでファル子と見つめあって、指し示したかのようにファラオのマスクから離れて行った。
俺たちは博物館から出て行って、近くの喫茶店で休憩がてら先ほどの現象を話し合っていた。
「去年と同じような状況だったけど、ファル子の体調は大丈夫?」
「だいじょーぶいぶい、ばっちしOKです☆ 一年前と同じように何か一回りウマドルとして成長した感じがするよ。あっ、店員さん。チーズケーキ1個追加でお願いします」
ウマ娘に関する現象は未だ明らかになっていないものが多いので、この現象も似たような感じでまったく理解が追い付かなかった。もしや、ファル子だけに起こる現象なのだろうか。しかしながら、なぜファル子にだけ起きるのか。ウマドルとして突き進めという神からの啓示なのだろうか。先ほどのチーズケーキを食べ終えたみたいで、俺の目の前で3つ目のケーキを注文しようとしているファル子を手で制止しつつ、俺はそう考えていた。
あの不思議な現象が起きた日から幾日か過ぎたある日。今のファル子の実力を測るために人出が少ない時間の河川敷でファル子に全力で走ってもらった。ファル子が俺の目の前を通り過ぎたその瞬間ストップウォッチの停止ボタンを押した。ストップウォッチに表示されたタイムを見て、中央トレセン学園に入学できるタイムが記された書籍と見比べてみる。
「トレーナーさん、ファル子のタイムはどうだったかな?」
「これなら中央トレセン学園に入学できるだろうし、メイクデビューもすぐにできると思う。頑張ったな、ファル子」
「トレーナーさんもいつもありがとうございます。もっと頑張って一番のウマドル目指すね」
ファル子が元気よく腕を天に向かって突き出している姿を見ていると、順調にファル子のウマドルとしての成長を実感した。その一方で俺自身がトレーナーとして成長できているのかの不安も感じていた。
そうして、ファル子との二年目の秋が終わった。
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(特に「ドワーフが少女のために生活用品とか作る話」とかいかかでしょうか?)