ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話   作:貯金缶

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やっとここまで書けた。
このお話では、色々と独自設定がありますので、ご承知ください。


3年目秋

 既に紅葉が見え始める秋である。今のファル子にはトレーニングも重要ではあるが、それ以上に試験勉強が最も大事だった。折角、ここまでトレーニングを頑張ってきたのに、筆記試験で落ちたら元も子もない。それに俺にとってもトレーナー試験を合格するためにも重要な季節だった。一応のところ、過去問の自己採点だと合格の範囲内だが、何がきっかけで不合格になるのかが分からないことが不安だった。個人的には、当日の体調不良だけは避けなければならない。ということなので、これまで作っていたロイヤルビタージュースが無事完成したのである。いにしえのレシピの記述通り、一気飲みしても意識が無くならない完璧な配合だった。これ以上のものは作れない。体調管理には絶対に不可欠だ。ファル子にも飲んでもらおう。きっと気に入るはずだ。

 

 ある日、もう既に色々とファル子の私物が置かれてしまっている俺の家でファル子が受験勉強をしていた。どうやら順調に勉強が進んでいるようで、俺は一安心した。ファル子の為に特製のロイヤルビタージュースを作った俺は、その毒々しい見た目の液体が入ったコップをファル子の前に置いた。

 

 ファル子がそのジュースの見た目に顔を顰めた。俺はその表情が見たかった。そうだ。顔を顰めていてもファル子は可愛かったのだ。忘れずに今日の日記に書いておこう。今日の俺はなぜか嗜虐性が高いようだった。

 

「以前話していたロイヤルビタージュースだよ。試しに飲んでみて、飲んだ後にデパ地下で買ったお菓子とはちみーがあるから大丈夫だよ」

「トレーナーさんは、これを飲んでみたの? このジュース?は人間が飲むものなの?ファル子、ちょっと遠慮したいかなぁ」

 

 ファル子がコップに入ったロイヤルビタージュースを眺めながら、俺に確認してきた。

 

「大丈夫だ、問題無い!俺が飲んでも意識が飛ばないように調合できたから、一気飲みすれば苦い味も一瞬で終わる!そーれ、一気一気!」

 

 久しぶりの俺の圧力に負けたファル子がコップを手に取り、悲壮な表情を浮かべながらロイヤルビタージュースを一気に飲んだ。俺はすぐさまファル子の手元にはちみーの入った容器を手渡した。素早く容器を受け取ったファル子は、はちみーをストローで飲みながら、恨みがましげに俺を見つめていた。ああっ、その表情も素敵だ!とにかく可愛いぞ。それに背筋がぞくぞくする感じが最高だ。何かが俺の中から這い出てきて、憑き物が取れて正気に戻った俺は、コホンと軽く咳払いをしてから、本題に入ることにした。

 

「さて、はちみーを飲みながらでいい。ちょっと聞いてくれ。これからは、このロイヤルビタージュースを飲みつつ、トレーニングをすることになる。なーに、トレセン学園入学までには、きっとその味にも慣れているはずだ。それまでは、はちみーで落ちた気分を元に戻そう」

 

「(´・д・`)ヤダ」

 

 ストローから口を離したファル子はきっぱりと拒絶したが、その返答を俺は無視した。しかし、ちょっとだけ悲しくなった俺はそれでも話を続けた。

 

「トレセン学園に入学した後のメイクデビューで、ちょっとだけウマドルっぽい服装で走ろうか。トレセン学園に確認はすべきだろうが、今のところ問題はないはずだ」

 

「ウマドルっぽい服装?シュシュとかフリフリしたスカートとかかなぁ?」

 

 ウマドルになった自分の姿を思い浮かんだのだろうか、ファル子の尻尾が元気よく動き始めた。猫のように尻尾に飛びつきたい欲求を抑えるのに苦労したが、俺は自身の計画を話し始めた。

 

「そうだ。最初は、ちょっとしたリボンだけとかで、レースを重ねる毎に少しずつ装飾とかを増やしたり、競技服のデザインを変えたりして、日本ダービーのときにウマドルの衣装を完成させよう。ちょっとずつ変えていけば、そこまで反感を生まないと思う。俺たちの走りを見ている観客を徐々にそういうものだと認識させるんだ。そうすることで俺たちは、いやファル子はもっと高みに至れると思うんだ」

 

 飲み終わったはちみーの容器をごみ箱に捨てたファル子は、椅子に座りなおして机の上にあるデパ地下のちょっとお高いお菓子を食べ始めた。視線はお菓子に向いていたが、器用に耳だけは俺の方にくるっと向けていた。俺に続けて話してくれという合図だった。

 

「陸上競技規則には、こういう記載があるんだよ。今読んでみるね。『競技者は清潔で、不快に思われないようにデザインされ仕立てられた服装を着用しなければならない。その布地は濡れても透き通らないものでなければならない。また、審判員の判定を妨げるような服装を着用してはならない』という訳で、例えば水着とか胸元がぱっくりと見えるような服装でなければ大丈夫だと思うよ。流石にアイドル衣装が不快に思われることは無いと思う」

 

「へぇ~、そういったことも決まっているんだね。体操服じゃないといけないかと思っていたよ」

 

 どうやら、ある程度お菓子を食べて満足したファル子は、お菓子から顔を俺の方に向けた。そんなにロイヤルビタージュースって苦かったっけ。ウマ娘と人間の味覚の差か、もしくは成人男性と女の子の味覚の差なのだろうか、そういった疑問はあったが、とにかく話は続けることにした。

 

「実際、スパッツだとかハーフパンツだとかブルマとか、各々好きな服装で走っているから、ファル子だけ駄目という事も無いだろう。まぁ、それ以外にもまず誰もやらないと思うけど、競技用の靴を履かずに裸足で走っても規則としてはOKみたいだけどね」

 

「ふーん、それでどういった服装になるの?ファル子が好きな服装がいいなぁ」

 

「それをこれから一緒に考えていこう。ウマドルのように可愛く、尚且つ走りやすい服装にしよう。なんだったら、未来ではファル子の服のデザインのブランドとかが有ってもいいかもしれない。目指せ、創業100周年!」

 

「トレーナーさん、それは大げさだぞ♪ でも、そうなるとファル子のファンのハートを鷲掴み!できるかもしれないね☆」

 

 その日は、受験勉強が一息ついてから、一緒にファル子のウマドルとしての理想の服装を考えて、一日が終わった。当たり前だが、一日でアイデアが出る筈もなく、それからは時々、気分転換も兼ねて合間合間に考えることになった。

 


 

 クリスマスと同じように日本ではまったく縁が無いはずのハロウィンの時期になった。街中がかぼちゃの彫り物であるジャック・オー・ランタンで埋め尽くされ、なんともまぁ商魂たくましい風景であった。ハロウィンの仮装行列のコスプレにファル子のウマドルの衣装が加わることを俺は破廉恥にも手のひらを合わせて近所の神社で願っていた。たぶん、きっと何とかなるだろう。

 

 「トレーナーさん、お参りは終わった?それともトリック・オア・トリートって言えばいいの?」

 

 隣にいたファル子が俺の服の袖を軽く引っ張っていた。

 

「ああ、もう終わったよ。それで、ファル子はどこに行きたかったんだっけ?映画だったかな?」

 

「もう、違うぞ♪トレーナーさん☆いつもの喫茶店でハロウィンのフェスがやっているから、限定スイーツを食べに行くの!その後は、いつもの河川敷で野良ライブだよ!」

 

 ファル子は、くるっと回って俺に向かってハートマークで決めポーズをしてから、そう答えた。こっ、これがウマドルパワーなのか、ちょっと胸がドキドキする。俺は胸の動悸を鎮めながら、いつもの喫茶店へとファル子と一緒に向かった。

 

 幾分かして、いつもの喫茶店に着いた。店員さんの案内に従いテーブル席に着く。最近、分かったことだが、ただの偶然ではなく、いつも窓際の同じテーブル席に案内されている。どうしてだろうかと思いながら、この時期の限定のスイーツを真剣に選んでいるファル子を眺めていた。とりあえず、俺の分は旬であろう栗を使ったモンブランとブラックコーヒーにしようと心の中で決めた。

 

 器用にジャック・オー・ランタンを形作ったモンブランを食べ終わり、コーヒーを味わっていると、ファル子がどちらのスイーツを先に食べようかと悩んでいる様子が見えた。

 

「カボチャパイとハロウィンの特製プチケーキのどちらかで迷っていても、結局どっちもお腹の中に入るのだから、一緒じゃない?」

 

「カボチャパイじゃなくて、パンプキンパイだよ」

 

 俺には理解できない抗議をファル子から貰った。

 

「どっちも同じじゃない?」

 

「全然違うの。それにカボチャパイよりもパンプキンパイの方が可愛いよ。ウマドルとしてのファル子の感性が囁くの。絶対、パンプキンパイが良いって」

 

 俺はコーヒーを飲みながら、そういう考えもあるのかと理解は出来なかったが、納得はした。ついでに、もう少しファル子の考えが纏まるまで時間が掛かりそうだったので、コーヒーのお替わりを店員さんにお願いした。

 

 俺がコーヒーを追加で3杯飲み終わる頃にファル子はスイーツを食べ終えた。

 

「スイーツは美味しかった?」

 

「うん、抜群だね♪ 流石限定だけのことはあるね♪」

 

 砂糖をたっぷり入れたミルクティーを味わっているファル子がそう答えた。甘いものと甘い飲み物の組み合わせを見ていると、こちらも口の中が甘く感じた。頭の中の電卓で今日のカロリーを計算すると、どう考えても許容量を超過している。トレーニングプランの修正が必要なことは明白だった。

 

「それなら良かった」

 

 これでファル子のモチベーションが安定するのならば、安いものだと思った。しかし、ちらりと伝票を見てみると、なかなか財布にダメージを与える金額が書いてあった。やっぱり限定スイーツって高いんだなぁとしみじみ感じた。その心境よりも俺の体は正直だったようで、俺の口は歪みひくついていた。この店でカードが使えることに神へ感謝しておいた。やっぱり神社に参拝したご利益があった。

 

 お勘定を終えて、いつもの喫茶店を出て、いつもの河川敷に向かう。受験勉強の影響もあるが、トレセン学園に行くことになると、引っ越しとかで色々と忙しくなるだろう。ここの野良ライブに来てくれるファンの人達とも離れることになるだろう。いつも以上にこの時間を大事にしたいと俺は思った。

 

「トレーナーさん、どうしたの?気分でも悪いの?」

 

「いや、ちょっとした考え事だよ。トレセン学園に入学した後、いつもの河川敷でライブに来てくれるファンの人達にどう報いればいいのかを考えていた」

 

 俺の先を歩いていたファル子が立ち止まり手を後ろに組んで、くるりと俺に向かって言った。

 

「そんなの簡単なことだよ。ファル子がダービーもそうだけど、GⅠとかの重賞で勝ち続けてビッグになったら、ネットとかでライブをしたら見てもらえるんじゃないかな?そのときにお礼を声高らかに伝えればいいんだよ。ねっ、簡単でしょ☆」

 

「そうだね。その通りだね。そうしようか。そうすると、いまから必要な機材の準備でもするか」

 

「ファル子もお手伝いするね」

 

 ふんふふ~んと口ずさみながら、ファル子は俺の隣を歩き始めた。そのまま仲良く並んで歩いて、河川敷に着いて、いつものようにライブをして、その日は終わった。

 




陸上競技規則に関しては、実際の陸上競技ルールブック2023に記載の内容を引用しています。それをこねくり回して、勝負服が着れる理由としました。

他の要素については、出来るだけ矛盾しないような設定にしたいなぁ~。特に3兆人のファンとか…。
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