ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話   作:貯金缶

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やっと、ここまで来ました。


入学~模擬レース

 カーテンの隙間から光が照らし始める頃、スマートファルコンは目が覚めた。同室のエイシンフラッシュを起こさないように静かにベッドから抜け出した。いそいそとスポーツウェアに着替え、それなりの身なりになってから、入学即日にトレーナー契約を結んだ彼にウマインで連絡をする。程なくして、トレーニング内容が書かれた指示が帰ってきた。

 

 トレーニング用のシューズを履き、栗東寮の玄関から外に出る。少し肌寒い春の風がスマートファルコンを包んだ。未だ全部の場所に行ったことが無い広大なトレセン学園の中を道に迷わないように歩く。スマートファルコンは迷うことなく、目的のトレーニング場に着いた。

 

 入念に柔軟体操を行い怪我の元の要因を一つずつ潰していく。柔軟体操が終わる頃には、ちらほらとスマートファルコンと同じように、短いが欠かすことができない朝練をするためにウマ娘達が練習場に集まってきた。スマートファルコンは、トレーニングの内容を改めて確認し、軽くジョギングを始め徐々に速度を上げて、おおよそ時速60キロメートルで走った。大体10周回り終わる頃に朝練の時間が終わる位だった。栗東寮へ戻る時間だった。一応、軽く汗が出た体をタオルで拭いクールダウンをしっかりとしてから栗東寮に戻った。寮に部屋の扉を開けると、エイシンフラッシュが登校の準備をしていた。彼女がスマートファルコンに懸念を伝えた。

 

「おはようございます。ファルコンさん。いつも朝練をしているようですが、時には休憩も必要ですよ」

 

「大丈夫だよ。フラッシュさん。ファル子には、このロイヤルビタージュースがあるんだから」

 スマートファルコンは、冷蔵庫からボトルを取り出し、コップに注いだ毒々しい緑色の液体を一気飲みした。

 

「うーん、不味い、もう一杯は要らないかなぁ」

 

 蜂蜜100%のはちみー飴をすかさず舐めたスマートファルコンは、これもクラシック三冠の為なのだと考え直した。それにダービーの前には、あのトレーナーの叫びのような言葉を絶対に録画すると、再び心に決めた。スマートファルコンは、はしたなく飴を噛み砕きながら、まだまだ新しい制服の袖に手早く腕を通した。教科書の類は既に昨日の夜に鞄に詰め込み準備をしていたので、待っていてくれたエイシンフラッシュと一緒に寮の部屋を出て、学園の教室へと向かって行った。

 


 

 スマートファルコンから特に何事もなく朝練を終え、登校する内容の連絡を受けたトレーナーは困っていた。どうしよう、トレセン学園生を基準とした場合の現状のファル子の力量が分からない。データ上と実際の力量は、争う年度のライバルたちによって大きく変わる。なんとかして今年メイクデビューするライバルの力量を把握しなければならない。誰かに併走を頼むとしても、新人トレーナーである自分が担当するウマ娘と組むメリットが見つからなかった。あまりここで考えても良い案が浮かばなかったので、与えられたトレーナー室から外に出てみる。温かな春の日差しがトレーナーの体に降り注いだ。

 

 当てもなく歩いていると、必死な表情をしたウマ娘達がトレーニング場で練習をしていた。そうだ。確か授業の一環として模擬レースがあったはずだ。これにファル子を参加させよう。ただし、傲慢であるが少なくともケガをしないように力を抑えてもらおう。とりあえずは力量を把握する必要がある。それに今年の6月末にメイクデビューをする予定だから、もし負けても、まだ時間はある。今日の俺って冴えていると思いながら、トレーナーは自らのトレーナー室に戻って行ったが、彼は忘れていた。以前、ファル子がいた学校の運動会で【手を抜かずに走って】という事を言っていたことを…。

 


 

 スマートファルコンのトレーナーが自身に割り当てられたトレーナー室で模擬レースに向けた敵情視察の準備をしていると、学業を終えたスマートファルコンがトレーナー室に入ってきた。スマートファルコンは、勝手知ったるかのように冷蔵庫へ直行し、ペットボトルの緑茶を手にして机の上に二人分のコップを置いて、冷えた緑茶を注いだ。そのコップをトレーナーに手渡しながら、話しかけた。

 

「はい、トレーナーさん。お茶を持ってきたよ。それで、今、何してるの?」

 

 トレーナーの後ろから覗き込むようにスマートファルコンは、彼の手元になるタブレットを盗み見た。自分の知らないウマ娘が走っている様子が映っていた。コップから少しだけ軋んだ音が鳴った。

 

「お茶ありがとう。今は敵情視察だよ。今度の模擬レースにファル子には参加してもらいたい。今年メイクデビューするライバルの力量を把握しておきたいんだ。それに今のファル子がどこまで通用するのかも知っておきたい。今年の6月末にはメイクデビューさせたいけど、結果次第では来年に延ばすかもしれない」

 

「そうなの、分かったよ。ファル子はウマドルパワーを高めておくね。それで模擬レースでファル子は、もっとキラキラに輝いて見せる!」

 

 とりあえずは、スマートファルコンの機嫌が良くなったので、スマートファルコンの持っているコップは幾日か寿命が延びたようだ。

 

 


 

 模擬レースが開催される日となった。スマートファルコンのトレーナーは、ターフを眺めながら模擬レースまでの行動を振り返っていた。ゲート練習は何度かして問題無く出走できたことは確認できた。今回の模擬レースでは、ファル子と同じ逃げが3人にいる中で、体調不良がいないとして、全員で16人参加のはずだ。ファル子は4枠8番で出走する。まぁまぁ良いスタート位置だろう。スタンダードな中距離の2400mだから、これまでの練習でも走っている距離なので、スタミナは持つだろう。うんうんと考えていると、体操服を着たファル子が近づいてくるのが見えた。

 

「トレーナーさん、そろそろ行ってくるね。ファル子、絶対にキラキラ走って、みんなを魅了しちゃうんだから♪」

 

 トレーナーである自分に向かって手を振りながら、緊張など思わないような姿でファル子は嬉しそうに話していた。

 

「そうだね。一応、確認だけど今回の模擬レースは、相手の力量を測るためのものだからね」

 

「分かってるよ、トレーナーさん。ファル子ならちょちょいのちょいだから、だいじょーぶいぶい、ばっちしOK!」

 

 ファル子はVサインを掲げてそう答えた。

 

「それなら安心した。それじゃあ、出走時間になりそうだから、ターフに行っておいで」

 

「行ってきます!ファル子が一番になるところ、きちんと見ててね!ファル子のっ!ふぁるふぁるスイッチ!おんっ☆」

 

 模擬レースなのに、なぜか実況者や観客がいたりする摩訶不思議な会場から今まさに出走しようとしてゲートに入るファル子を見ていた。さぁ、これから模擬レースの始まりだ。

 

 会場のスピーカーから模擬レースの実況が聞こえてきた。

 

 「さぁ、いよいよ。模擬レースの開始時間となりました。各ウマ娘がゲートに入ります。本レースは右回り2400mとなります。そろそろ全員ゲートに入り終わるようです。大外18番がゲートに入りました。今。一斉に綺麗なスタートが決まりました。先頭を走るのは、1番、その後ろに続々とウマ娘達が走って行きます」

 

 どうやらファル子はスタートを無事に終えたようだが、他のウマ娘に切っ先を取られてしまったようだ。さて、ここからどうするのだろうか。外側から一気に抜いてみるのか、ひとまずは様子見なのか。ファル子の考え方次第だった

 

 模擬レースを走るスマートファルコンは、よく分からない不快感をつのらせていた。これまでのレースとは違う不快感だった。スタートは出遅れることなく、無事に成功した。枠番の関係上、先頭を奪われることは分かっていたはずだった。トレーナーさんの作戦では、相手の力量を把握することが第一のレースだから、無事これ名バとなるように怪我には気をつけなければいけない。それでもなんだろう、どんどんイライラしている自分がいた。

 

「1番を先頭として、各ウマ娘、縦長の展開となりました。さて、これからどういう動きになるのかが楽しみです。おーっと、8番スマートファルコンがかかっているようですね。今後の展開に影響があるのかもしれません」

 

 スマートファルコンは、偶然にも自然と囲まれる位置で走っていた。ここからだと、ポジションを変えるのは難しかった。イライラとしたまま、レースが展開していく。コーナーを2度過ぎて、第3コーナーに入るところだった。目の前から飛んでくる土が煩わしかった。ふと、観客席をちらりと見てみる。自分のトレーナーが観客席の一番前で叫んでいた。

 

 スマートファルコンのトレーナーは、己の失策に気づいた。今のファル子は先行の位置だった。これまでは、逃げの位置で走っていた。俺の作戦によって、ファル子は意識的に自らの力を制限しているように思えた。なんてことをしてしまったのだと後悔した。それならば、ファル子を応援するしかない。この言葉ならファル子にも通じるはずだ。

 

「ファル子!トップウマドルとして、キラキラするんだ!」

 

 スマートファルコンは、なぜか自らのトレーナーの声が聞こえた気がした。そうだよね、トレーナーさん。ファル子、これからキラキラするから!そうとなれば、この囲いを突破する必要がある。最終コーナーを通り過ぎ、最終直線に入った。失格にならない程度に無理やり自分のパワーで大外に脱出した。スマートファルコンは、そのままキラキラとウマドルとして加速してスピードを一段階上げた。

 

「おーっと、ここでスマートファルコンが大外から加速して、先頭に立った。凄まじいスピードです。1バ身、2バ身、これは凄い。どんどん差が広がって行きます。これは、もう追いつけないでしょう。スマートファルコン1着でゴールイン。素晴らしい先行策でした。今後のレースにも期待しましょう」

 

 ゴールを抜けて、そのまま1周を使って減速したファル子がターフから戻ってきた。トレーナーは彼の元に辿り着いたファル子に謝った。

 

「すまない、ファル子。完全に俺の作戦ミスだ。観客席から見ても途中まで走りづらそうなことが分かった。ファル子は、一番先頭でキラキラしたウマドルになるのだから、思いっきり走ってもらうことが正解だった」

 

「いーの、大丈夫だよ。トレーナーさん。トレーナーさんのファル子への応援が届いたから、ファル子はキラキラしていたでしょ?」

 

 結局のところ、きちんと1番で勝利できたのだろうか、ファル子の機嫌はとても良かった。

 

「そうだな、今日のファル子はキラキラしていたよ。このままキラキラしたウマドルのままで頑張ろう」

 

「うん、もちろん!ファル子はこれからもキラキラしたトップウマドルになるんだから!」

 

 さて、模擬レースでのライバルの実力の程度を知ることができたので、スマートファルコンとトレーナーは、次のメイクデビューへと駆け始めた。

 




次話はメイクデビューです。
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