ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話 作:貯金缶
あとスマートファルコンの口癖が難しい。アプリを基本としていますが、とにかく難しいです。ファル子、ファル子、あぁファル子。君は難しい。
スマートファルコンと出会ってから、幾日が経ち、いつものように一緒に唄った後、俺はスマートファルコンから相談を受けていた。
「それで、なんだっけ?ウマ娘として速く走れる方法だったかな」
「そう!ファル子は3年後トレセン学園に入学して、最後はウマ娘として一番速くなりたいの!」
「いちおうトレーナーを志した人間ではあるが、付け焼刃にしかならないと思うぞ。それでもいいのか」
「それでもいいの!今日からあなたがファル子の専任トレーナーさんに就任しまーす」
そうスマートファルコンがニコニコと笑顔で一方的な宣言をしてきたが、いちトレーナーを目指していた俺にとっても試してみたかった。どこまでスマートファルコンを高みに頂かせることができるのだろうか。そのときに俺は彼女の隣にいて同じ景色が見られるのだろうか。久しく胸からマグマのような灼熱が溢れ出しそうだった。
「じゃあ、これからよろしくファル子。今日から俺が君のトレーナーだ」
「ファル子を一番速く走らせる約束の指切りげんまんしようね」
そうして、俺はファル子の柔らかい白磁のような小指を曲げ絡め合わせて、二人で共に歩むことを決めた。まだ埃が積もっていないトレーナー向けの書籍を引っ張り出して、彼女のトレーニングプランを作成することにしようと考えたが、彼女に聞かなければならないことがあった。
「ファル子、芝とダートのどちらを走りたい?」
「もちろん、芝!」
「そうだろうと思ったよ。芝向けのトレーニングプランを考えておく。多分来週には基本的なトレーニングプランが出来上がるだろうから、楽しみにしておいてくれ」
「るんるるーん、ファル子楽しみにしておくね、トレーナーさん」
目の前にいるスマートファルコンは、初めてクリスマスプレゼントを貰って嬉しがる幼児のようにはしゃいでいた。これは、生半可なトレーニングプランでは駄目だろうな。
一週間が経った。俺はきちんとトレーニングプランを作成できていた。自分でも不思議だった。これがトレーナーというものなのかと自覚した。どおりでトレーナー試験に落ちる訳だ。この感覚も無い人間をトレーナーにするはずもない。まずは、このトレーニングプランをファル子に説明しよう。
「ファル子、ここにファル子のために作成したトレーニングプランがあるから、中身を確認して質問があれば存分に言って欲しい」
「はーい、トレーナーさん。ファル子、確認するね」
俺が渡したトレーニングプランが書かれた書類をぺらぺらと捲りながら、ファル子は内容を確認していた。恐らく質問が来るはずだ。ほら、来た。
「トレーナーさん、大体のトレーニングプランは理解できたけど、これどういうことなのかファル子聞きたいなー。あと、ちょっとトレーナーさんの目がぱっちりと開いて、ぐるぐる回っている気がして怖いなー」
ファル子は、俺を怖がりながら、おずおずと疑問を表した。それに、絶好調な俺は明確に回答した。そう今こそがこれまでの人生で最高の絶好調なのだ。決して、寝不足ではない。
「体調は万全だから大丈夫。そのトレーニングプランは、ファル子が毎日すべきこと、いや、日常の一部とするべきことだ。何も疑問を抱かず愚直に実行できるもので組んだ」
「このロイヤルビタージュースって何?」
「とある文献によると、一日で体力がみるみる全回復する飲み物だそうだ。レシピを再現出来たら、作って持ってくるから一緒に飲もう」
「はちみつ入れてくれると嬉しいなー」
「はちみつを入れると効果が無くなるらしいから駄目だ」
「ガガーン☆」
ファル子はかなり落ち込んでいたが、ここは心を鬼にしなければならない。必殺の言葉を放つ。
「ファル子、一番速くなりたいのなら、好き嫌いは駄目だ」
「ひーん、トレーナーさん厳しい」
ファル子は、自分でも必要だと理解していただろうけど、出来ればしたくなかったみたいで、両手で泣きまねをしながら了承した。ちょっとかわいいと思って、くすくすと少し笑ってしまった。
「ファル子がこんなにも悲しんでいるのに笑うなんてトレーナーさん、ひどーい」
「ごめん、ファル子。さて、話を元に戻そう。このトレーニングプランは、見れば分かる通りひたすら基礎を固めるものだ。結局のところ、すべての道はローマに通ずということだ」
「すべての道はローマに通ず?ファル子、分からないなー」
「もしかして、勉強嫌いか?勉強できないと俺みたいにトレーナー試験とか落ちるぞ」
俺はいくつかの実体験をファル子に話しつつ、つまりはそういうことなのだと肩をすくめた。ファル子は、最初は呑気だったが、徐々にかわいい顔が険しくなっていった。状況を呑み込めて大変よろしい。
「トレーナーさん、ファル子にトレーニングもそうだけど勉強も教えて」
「歴史以外ならそこそこ大丈夫だ」
「トレーナーさんは、歴史苦手なの?」
「そうだな、苦手だな。なんとなく色々と混乱することが多くてね」
流石に前世の歴史とごちゃ混ぜになるとかいう妄言を吐く訳にはいかなかった。歴史に関していえば、俺は赤点すれすれなのだ。しかし、勉強を教えるとなると、一緒に歌を唄う回数を減らすべきだろう。余った時間で超圧縮して勉学に励んでもらうしかない。
「親御さんからの許可があれば、今みたいに一緒に唄った後とか、休日に図書館でも行って勉強を教えることができるけど、許してもらえるかな」
「だいじょーぶいぶい、ばっちしOK」
ファル子は、両手でピースサインを俺に向けて、楽観的に答えた。その姿はウマ娘という目線から外しても、ファル子はやはりかわいいものだった。
それからというもの、俺はファル子と一緒に唄ったり、俺がファル子に勉強を教えたりする日々が続いた。ファル子の学校での中間試験は、赤点を免れる点数でそれなりに良かった。お祝いに一緒にカラオケに行って、一緒に唄った。ちょっと盛り上がって、飛び跳ねたり、タンバリンをシャカシャカと振ったりして、二人でよく分からない踊りを夢中になって踊った。ただただ楽しかった。
ファル子と過ごしているその間にも何度もレシピを見直し、試験管を何度も振り回し素材を混ぜ合わせ、遂にロイヤルビタージュースもどきが出来上がった。朝日が差し込む部屋に佇む徹夜をした俺の目の前には、毒々しい緑の液体が異臭を放っている。ファル子に飲んでもらう前に、俺自身が飲むべきだろう。カレンダーの日付を見た。有給休暇も取得したし、次の仕事の日まであと3日ある。ノロウイルスのように腹を下しても何とかなるだろう。
俺は清水の舞台から飛び降りるように、えいやとロイヤルビタージュースもどきを一気飲みした。はっと気が付いた時には、壁に掛けられた電波時計を信じると次の日の朝だった。すっきりとした体調だったが、人間だと効果がありすぎるのだろうか、結果がよく分からなかった。少なくとも、毎日ちょっとずつ飲んで、自分の体に慣らす必要があるだろう。今年中は自分自身で試してみて、来年を迎えた際にファル子に飲んでもらうことにした。
梅雨になり、雨が降る日が続いた。雨の河川敷で唄う事が出来ないので、近くの高架下で雨の日特有の香りに包まれながらファル子と一緒に歌を唄った。これまで同じような曲を繰り返し唄っていたが、ちょっとだけレパートリーを増やすことにした。引き出しが多い方が何かと良いだろう。
「ファル子、何か新しく唄いたい曲でもあるかい?」
「うーん、トレーナーさん。特にこれと言って思いつかないけど、いつかファル子は自分で作った歌とかをアイドルみたいにキラキラしながら唄ってみたいとは思う」
「作曲かいいんじゃないかな。それにやっぱりアイドルとか好きなんだな」
「昨日のテレビで放送されていたUMAステに出ていたアイドルとかファル子大好き。小さい頃は、キラキラとしたアイドルになれると思っていたけど、走る方が好きだからウマ娘で一番速くなることにしたの」
そのとき、俺に天啓が降り注いだ。両方やればいいんじゃないか!さっそくファル子に聞いてみよう。
「ファル子ならアイドルになれると思うけど…そうだ!ウマ娘として一番速く走れるし、キラキラしたアイドルになればいいんじゃないかな?ファル子どう思う?」
俺は猫だましのように両の手の平をパンと叩き合わせた。
「ウマ娘のアイドル?」
首を傾げながら、ファル子は俺を見つめていた。ツインテールがしっぽのように左右に振られたファル子の姿が可愛かった。
「略してウマドルなんて名前でいいかもしれない」
「トレーナーさん、なんだか面白そうだから、ファル子はレースを走って、ライブで輝くキラキラのウマ娘のアイドルっていうウマドルを目指してみる!ウマドル~、ファイト!」
ファル子は、えいえいおーといった感じで片腕を空に振り上げた。これから二人でキラキラとしたウマドルへの挑戦が始まった。
春が終わる頃、ファル子と一緒にウマドルになる決意をするためとして、神社に誓願しに向かった。二人で神社の中に入ると、ちょうどよく夏越し大祓の茅の輪くぐりがあった。茅の輪を指さしながら、ファル子が俺に聞いてきた。
「トレーナーさん、あの草を編んでできた大きな輪っかは何かな」
「あれは、確か無病息災を願う茅の輪だな。確か8の字を描くように何度か茅の輪をくぐる儀式だったはず」
そうして、あーだこーだと他愛のない世間話をしつつ、茅の輪くぐりの行列に並んで、一人ずつ無病息災を願って茅の輪をくぐった。これで半年間は体調を崩さないようになれたらいいなぁと心の中で願った。
その後日、無事にファル子は期末試験を平均点近くの点数で何とか乗り切った。これで、毎日の予習と復習の大事さを理解できたと思うので、あまりうるさく指摘するのを止めようと考えた。自らの信念を持ってトレーニングも勉強も愚直に続けることでしか上達できないのだから。
そして、中間試験を終えたときのようにお祝いとして、二人でカラオケに行って一緒に遊んだ。ただ、最近のアイドルの歌は、昔自分が学生だった頃と比べると全然違うものだという事を知って、俺は時の流れの早さに無常を感じた。
そうして、ファル子との初めての春が終わった。
春夏秋冬でお話を進めるつもりですが、意外と季節の風物詩を探すのが難しいです。適当にほわーとしたいのですが、下拵えはきちんとしないといけませんし。
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(特に「ドワーフが少女のために生活用品とか作る話」とかいかかでしょうか?)