ライブが無いウマ娘世界で、なんとかライブを根付かせたい転生者のお話 作:貯金缶
更新速度が遅くなるのです。
紅葉が見え始める秋になった。奇跡的に夏に折れた肋骨もそこそこ治ったようで、幾分か気分がマシになった俺とファル子はいつものトレーニングを終えた後、一緒に家路に着いていた。こういうときに限って、良い匂いがする屋台が道端にあるものである。その屋台の姿を見て、ファル子から縋ってねだるような視線を受けて、俺はため息をついて財布の紐を緩めた。
「トレーナーさん、やっぱり焼き芋は甘くておいしいね」
ファル子はハフハフと片手で豪快に皮ごと焼き芋を食べながら、もう一個の焼き芋を反対の片手で俺が持つ紙袋から取り出した。
「ちょっとねっとりしすぎている気がする。個人的には、ねっとりよりもほっこりした焼き芋が好みなんだけどな」
俺は焼き芋の皮を剥きながら皮に付いたねちょっとした芋の処理に困っていた。このちょっとだけ皮に付いている芋を食べるべきか捨てるべきかどちらにしようか。その姿を見ていたファル子から注意が来た。
「トレーナーさん、残さず全部食べないとダメだぞ☆」
「ふふっ、これは手厳しい。食べることにするよ。親御さんから躾けられたのかい?」
俺は皮ごと芋を口に入れた。ちょっと焦げた芋の味だった。これも秋の味覚ということにしておこう
「そうだよ、お母さんはいつも優しいけど、ご飯の時はとても厳しくなるよ。農家さんとかの気持ちを考えなさいだって」
「良いお母さんだね」
「そうでしょ!ファル子、お母さん大好き!」
ファル子が3つ目の焼き芋を手にしたとき、一応、俺は警告しておいた。
「晩御飯食べられなくなるぞ」
「うっ、ファル子やめまーす☆」
ファル子は焼き芋を手放し、大層残念な表情で三つ目の焼き芋を諦めた。尻尾は垂れ下がり、耳はふにゃっとした。どうやらファル子の調子が落ちたらしい。なんだか可哀そうだったので、妥協案を伝えてみる。
「3つ目は、俺と一緒に食べよう。それなら晩御飯は大丈夫だと思う。どうする?」
「ファル子、お芋食べたーい☆」
ファル子は自分に正直だなと思いつつ、焼き芋を3:7位に割ってファル子に差し出した。もちろん小さいほうだ。ファル子は意外と誘惑に弱いようなので、今後は体重管理もトレーニングの一環としてトレーニングプランの項目に追加しようと決めた。
「はい、どうぞ」
「トレーナーさん、ありがとう☆ いただきまーす」
美味しそうに焼き芋を食べているファル子を眺めつつ、俺も同じようにねっとりとした焼き芋を食べた。やっぱりホクホクの焼き芋の方が美味しいと思うなぁ。
焼き芋で食欲の秋を満喫したところで、別の日にウマドルとしてのセンスを磨くために美術館にファル子と訪れた。俺は芸術が理解できない人間っぽいが、ファル子なら何かしらの影響を受けて、ウマドルとしてさらなる一歩が歩めるはずだ。確か今日は古代の彫刻みたいなものが目玉だったはずだ。入場チケットを二人分買って、美術館の中に入る。
美術館特有の匂いと静かな雰囲気に包まれながら、ファル子と一緒に美術館の順路に従い歩いていく。俺にとっては、あまりこれといって感動するようなものが無かったが、ファル子の様子を見るにそれなり感性が磨かれているみたいだった。ファル子よ、これでウマドルへ一歩先に進んだな。美術館のあとの人気クレープ店を餌にしたが、連れてきて良かった。
今回の美術館の展示会の目玉である古代の彫刻を期間限定で展示しているフロアに辿り着いた。古代の三女神の像のようだった。こんな時代から三女神の彫像があるなんて感慨深かった。俺でもこんなに感動できるのだから、ファル子はどうだろうか?隣にいるファル子に視線を向けた。ファル子が口を開けながら、女の子というよりも人間として駄目な感じで放心していた。
夏の寝ぼけたファル子を再現しないように俺はファル子の肩を揺すった。あまり効果が無いようだ。これは困った。周囲の人たちに迷惑がかからないようにお姫様抱っこしてその場から離れようとしたが、何かに見惚れているようで大樹の如く動かせなかった。
仕方が無いので周囲の人たちに謝ろうとしたが、なぜか誰も気にしていない様子だった。俺とファル子が何かしらの謎の空間に取り込まれた気分だった。すると、停電したかのように部屋の灯りが消えて一気に暗くなった。どこからか一条の光が差した。顔がよく見えない二人のウマ娘とその二人に挟まれるようにファル子が走る準備をしていた。
そこまで残業はしていなかったけど、もしかしたら無意識に疲れを感じることがあったのだろう今の俺の状態はどうなのだろうか。一所懸命に意識を正常にしようとしたその時、顔が見えないウマ娘が光に向かって走り出し、ファル子も続いて光に向かって走り出した。三人が見えなくなると意識が元に戻ったみたいで、目の前には古代の三女神像が佇んでいた。
隣にいるファル子も意識が戻ったようで、二人で見つめあってから、いそいそとその場を去って、他の展示物を見て回った。だけれども、三女神像の前で起きたことで頭がいっぱいであまりよく憶えていなかった。
美術館をあとにして人気のクレープ店でクレープを買ってから、近くの公園のベンチに座ってクレープを食べつつ、ファル子とあの不思議な現象について話し合った。
「トレーナーさん、結局あれはなんだったんだろうね?」
「それよりも体に具合は無い?ファル子?」
「ううーん、不調というよりも何だかウマ娘として一段階上がった気がするの。なんでだろう?クレープが足りないのかもしれない」
「しょうがないなぁ~。何味がいいの?」
「トレーナーさんにお・ま・か・せ☆ ファル子にばっちり似合うクレープでどう?」
「一緒に行こうかファル子。ウマドルはトレーナーと一緒に目指すものだよ」
「はーい☆ ファル子は定番のチョコニンジンにする♪」
二人でお替わりのクレープを食べて、三女神像に関して、なんだかよく分からないもやもやとした気分を感じのまま、適当にぶらぶらとウィンドウショッピングをしてから、家に帰った。
幾日か過ぎたある日、いつものトレーニングと歌の練習が終わった後、ファル子が俺に話を切り出した。
「トレーナーさん、今度ね。ファル子の学校で運動会があるんだけれど、そこでウマ娘のスプリントレースをやることになったんだ。そこで、ファル子はどんな戦法で走ればいいと思うかな?」
「正直なところ、トレーニングをしてからの初めてのレースだから何とも言えないな。本当のトレーナーだったら、ビシッと分かるのだろうけど…うーん、とりあえず一番速く走るウマドルになるのだから、まずは逃げ一択でどうだろうか?」
その言葉にファル子は元気よく手を挙げて高らかに宣言をした。
「はーい☆ファル子、笑顔でひたすら走って逃げて、一番速いウマドルになってみせる♪」
「その調子だ。ファル子。トレーニングの成果を見せるんだ!ウマドル~ファイト!」
「ウマドル~ファイト!」
ファル子と俺は光あふれる空の下、天高く拳を振り上げた。
ファル子から聞いた運動会の日が来た。俺は仕事中なのにかなりそわそわして集中できていなかった。ファル子ならきっと勝てるはずだと思いつつ、結果がどうあれ少なくともトレーニングプランの変更は必要だろうとも考えていた。
我慢が出来なかったので、申し訳ないが急遽午後休を取得した。家に帰り、スマートフォンの前で正座をしてファル子の連絡を待った。日が暮れた。ファル子の連絡は来なかった。きっと負けてしまって、しょんぼりと落胆しているのだろう。明日も仕事があるので、失意の中、布団に潜り込んで寝た。
次の日の朝、ファル子からとてつもない量の連絡が来ていた。ちょっとしたホラーのようだったが、連絡の時間を見るとかなり早朝の時間だった。興奮して早起きをしてしまったんだろうなと思って、メールとかウマインとかの内容を確認する。
「ファル子、勝ったよ」
「ファル子、勝ったよ」
「ファル子、勝ったよ」
「ファル子、勝ったよ」
「ファル子、勝ったよ」
うーん、これはホラーだな。登校時間前にファル子に電話してみる。電話をかけた瞬間、すぐにファル子の声が聞こえてきた。
「トレーナーさん。ファル子、勝ったよ!」
「これでウマドルに一歩近づいたな、ヨシ!」
俺は立ち上がり自然と何処かに片足の膝を上げながら、指さし確認をして納得した。ファル子が勝ったから問題無し!
それはそれとして聞きたいことがあった。
「ファル子、結局何バ身差で勝ったの?」
「うーん、1400mでファル子が2位の子から4秒位早くゴールに着いたよ」
「寝不足だな、こいつめ。あははー!スプリントで4秒差もあるはずがないじゃないか!」
「嘘じゃないもーん。今写真送るね」
ファル子から写真が送られてきた。掲示板の表記を見るに明らかに4秒差だった。どうしよう、ファル子を然るべきウマ娘育成機関に預ければ、世界を勝てるぞ。でも、俺はファル子と共に進むと決めたのだ。一緒に地獄でも天国でも行こう。
そうして、ファル子との初めての秋が終わった。
どうして3年間の春夏秋冬で続けようと思ったんですか?(電話猫)
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(特に「ドワーフが少女のために生活用品とか作る話」とかいかかでしょうか?)