水星の魔女/火星の悪魔(旧【読み切り】EPILOGUE/PROLOGUE) 作:X2愛好家
あれ?
なんだここ
どうなって……おれ、は……
だれか……泣いてる?
子供、小さい……女の子……
みんな死んで……殺されて……
あぁそうだ。守らなきゃ
俺が皆の道を作って、守るんだ……!
そうだろ?オルガ
ん、お前もまだ居たんだ。なら寄越せよ
バルバトス……!
◇◆◇
『たっ、隊長!うわぁぁぁぁ!?』
『何だ!何なんだコイツ───』
「どうした!何が起きている!」
敵と味方の居場所を示すレーダー。それが答えを返してくる。新たな敵が来たぞと。
「識別不明?何を隠していた……!」
ベギルベウが捉えた物を映像として映し出す。先程出てきた1機と、たった今トドメを刺した同型とは別方向からのアプローチ。部下のハイングラ2機を立て続けに撃破した下手人の姿は、一言で表せば【異常】だった。
「なん、だ……?モビルスーツ、なのか?アレが?」
白い装甲色、それはまだ良い。白に青と赤の差し色はやや目立つが、それでもまだ一般的な範疇だ。問題はその全貌。頭が無く、両腕も千切れたように肩口から欠損している。かろうじて特徴的なバックパックと下半身はしっかりと接続されている。あれではまるで───
「はっ!大慌てで建造途中の機体まで出してきたか!そんな出来損ないで、このベギルベウを止められると?」
どんなカスタム機だろうが、未調整の出来損ないだろうが、GUNDフォーマット搭載型なら問題なく無力化できる。ノンキネティックポッドを呼び戻し、頭と腕の無いアンノウンに向けて飛ばす。
『うるさいなぁ……』
強制的に割り込んできた、或いは偶然混線した音声には酷いノイズがかかっていた。声からパイロットの年齢は割り出せそうにないが、若かろうが老いていようが関係無い。今にもノンキネティックポッドがその効力を発揮して、不気味な乱入者を屑鉄の案山子に変える───
はずだった。
『今、何かした……?まぁ───』
「何っ!?」
『なんでも良いや』
確かにポッドは機能しているはず。にも関わらずアンノウンは動き続け、ベギルベウへ突撃する軌道を外れない。どういう事だとパイロットのケナンジ・アベリーが動揺する中、危険を報せるアラートが鳴り響く。
「っ!くっ!」
『へぇ、じゃあ……!』
「ぐうっ!?きっ、さまぁ!」
鋭い刃物のような、それでいて凶悪な鈍器のような何かがベギルベウの左側面から襲い掛かる。咄嗟に左手のベイオネットで受け止めて逸らすが、急加速した本体に蹴りを入れられてしまう。更には、ガコンッと何かの機構が動作したような音と鈍い衝撃音が聞こえ、ベギルベウの胸部装甲が一部へこむ。踵に何か仕込んでいたらしい。
「舐めるなぁっ!」
もう一方の脚を引き、更に蹴りで追撃しようとするアンノウン。敢えてその一撃を受け、左手のベイオネットを突き出して回避させる。本命は右手のベイオネット、その根元にあるビームガンだ。刀身をパージし、ビームガンの銃口をアンノウンの胸と思わしき部位に密着させる。
「馬鹿がっ!」
『あぁ?』
「っ、何だと!?」
再び驚愕するケナンジ。超至近距離、零距離から放ったビームが貫通しないのだ。それどころかビームが弾かれ、ビームガンの銃口が溶解している。
「チッ!」
ヘッドバットの要領で胸部をぶつけてくるアンノウンを躱し、お返しとばかりに脚部クローを展開した蹴りを入れて離脱する。
『尻尾じゃないと殺しきれないか……めんどくさいな……っ、ぐっ……』
「今度は何だ……?」
アンノウンの動きが急に鈍る。GUNDのフィードバックが最も可能性の高い推測だが、つい先程ポッドを無視して突っ込んできた事からそれは疑わしい。または別のリミッターが限界に達したのか。
「何にせよ、ここまでだ!」
後続のハイングラも到着したようだ。いかに装甲が厚く特殊でも無敵ではない。何ならパイロットが限界を迎えるまで引き摺り回しても良い。念には念を、とケナンジが考えていた矢先───
「っ、あちらが本命か!何機隠している!」
◆◇◆
「……っ、おい……バルバトス……まだ、やれるだろ……!こんな、ところで……止まれない……お前だって止まりたくない、だろ……!」
動きを止めてしまったバルバトスを後回しにし、戦闘を開始した2機のモビルスーツ。後から出てきた方は、もう一方をバルバトスから引き離すかのように動いているようだが。
「ぐっ……かはっ……!」
コックピットに淀んだ血が跳ねる。これ以上の戦闘は不可能だと「彼」の身体が、そしてバルバトスと呼ばれたモビルスーツが知らせていた。
「あ?」
こちらに向かう軌道のモビルスーツ3機が急に距離を取る、と思えば光に貫かれ、弄ばれて爆散した。モビルスーツを切り裂いた光の元凶が、主の元へ戻ろうとしているのを見てバルバトスのパイロットは呟く。
「へぇ……けっこうやるじゃん……」
小さな何かが盾のように組み合わさり、白と紫のモビルスーツに向き合う白とピンクのモビルスーツ。だが紫色の丸い機械が接近した途端、盾が崩れてしまう。
「あいつ……何してるんだ……」
理由は不明だがマシントラブルを起こした白とピンクのモビルスーツ。ぎこちない動きで右手の射撃武装を向けるが、白と紫の機体は悠々と接近してくる。まるで散歩でもするように、それでいて処刑人のように。
「クソッ……動けよバルバトス……!アレをやらせる、わけにはっ……」
どうにかバルバトスに姿勢制御を行わせるが、精密動作はできそうにない。このままでは白とピンクのモビルスーツが危ないと、自分でも分からない使命感と焦燥に駆られるバルバトスのパイロット。だが次の瞬間、彼の役目は唐突に終わりを告げ、変わる事になる。
「誰だ……?」
青いモビルスーツ。それが白と紫のモビルスーツに組み付き、全力で推進機関を稼働させ始めたのだ。まるで白とピンクの機体を逃がすように。
『頼む……!』
「?」
『娘をッ!エルノラをッ!』
「あんた……」
『行け!行ってくれ!止まらず……に、二人をぉッ!』
「……わかった」
戦闘軌道は無理でも、一直線に加速するぐらいなら。理由も分からない怒りとは裏腹に霞み始める彼の視界。彼の身体もそろそろ限界に近いようだ。それでも託されたからにはやり抜く、と尻尾を白とピンクの機体に巻き付け、青いモビルスーツとは真逆の方向に加速し続ける。
『───』
「ごめん」
女性の悲鳴のような声が聞こえた。止まってと言っているのだろうか。それすらも聞こえなくなっていく感覚にむち打ち、バルバトスに漆黒の宇宙を飛翔させる。
「あ……」
(これ……ヤバい、な……)
薄れゆく意識の中、微かに、そして確かに聞こえた言葉。
───ハッピーバースデー
それを最後に、彼の意識は途絶えた。
【アンノウン/バルバトス】
前者はドミニコス隊側の仮称、後者はパイロットからの呼称。胴体と脚部しか存在しない不気味な姿をしたモビルスーツ。よく見ると各部位の装甲も損傷している。武装はバックパックにケーブルを介して接続されている実体型ブレードと踵部分に仕込まれたパイルバンカー。ノンキネティックポッドが効力を発揮しなかった事から、GUNDフォーマット非搭載機と思われる。
異なる世界の火星で果てたルプスレクスの成れの果て。
最低限の気密処理とテイルブレード及びコックピット周辺装甲の復元がなされている。
【バルバトスのパイロット】
宇宙空間での戦闘にも関わらず上半身裸でモビルスーツに搭乗していた少年。怪我を負っている様子であり、長時間の戦闘行動は不可能だった。記憶にも混濁が見られる。
今際の際と共に世界すら越えてしまった火星の少年。