水星の魔女/火星の悪魔(旧【読み切り】EPILOGUE/PROLOGUE) 作:X2愛好家
止まる事など許されない。
思い返せば、【それ】が他と違う事なんて分かりきっていた。
「よぉミオリネ!」
まだスレッタがホルダーじゃなかった頃、あの時から私達とは違う存在だという片鱗は見え隠れしていた。
「あいつ……」
「あわわわっ、ダメ!ミカ!ダメだから!アレはダメな人!」
スレッタと、ついでに私を抱えてグエルが倒したモビルスーツから逃がしてくれた時。スレッタはずっと抱えたままだったけど、私はさっさと手放して懐に手を伸ばしていた。
【そこにあるはずの何か】に指を掛けるみたいに。
「スレッタの所に行くんでしょ?俺も行く」
後からニカとマルタンに聞いた話じゃ、スレッタが事情聴取されてる間は見るからに不機嫌だったらしい。おまけにスレッタを馬鹿にした生徒を決闘で再起不能にした、なんて騒ぎも起こしたくらいだ。
あの時から目を付けられてたのか。【スレッタに近寄る女】として。だから何処からともなく現れて私に着いてきた。
「なぁエアリアル。トマトの人に言われなくても、あんなのに負けないよな?お前もスレッタもこんな所じゃ終われない、止まれない。そうだろ?」
エアリアルと、モビルスーツと話をしているような姿を何度も見掛けた。グエルとスレッタの再戦が決まった時もそうだ。エアリアルが何なのか分かっていたのか、それとも【アレの中の悪魔】が通訳でもしていたのか。
「何を……している……!」
アレはとにかくスレッタ第一で動く。実習でスレッタが大泣きした時、犯人に向ける視線が尋常じゃなかった。幸いアレが何かする前に、チュチュが犯人を殴り飛ばしたお陰で溜飲を下げたみたいだけど。
『君は……何だ?』
「スレッタの護衛だよ。マネキンの人」
エランとペイル社が接触してきた時もそうだ。校則もルールも無視して、グエルとエランの決闘に乱入した。グエルの敗北が確定して、スレッタが制止した事もあって直ぐに引き下がったけれど、スタンビットの群れを掻い潜ってファラクトに迫った。
ここで【悪魔】の名前が定着したんだっけ。
「変な名前。でも、スレッタの為にやったんなら、俺は手伝うよ」
インキュベーションパーティーで株式会社ガンダムを打ち出した時、アレはそう言っていた。オルガとナゼが聞いたら大笑いしそうだ、とか訳の分からない事も言っていたけど。
「それで?俺は誰を───」
「ミカ!ミカは……あのぉ、えぇっと……ど、どうしましょうか!ミオリネさん!」
事業内容を詰めている時にアレが言いかけた言葉。今なら分かる。ガンダムを軍需品として使うか否かの時に言い出したんだ、間違いなくこう言おうとしていた。
誰を殺せば良い?と
「へぇ、女の方も強いじゃん。ラフタとアジーが喜びそうだ。……ロン毛の人、スレッタの邪魔するなら、ここで潰させてもらうよ」
あの時ほど事前に作戦を組んでいて良かったと思う事は無い。何も指示を出していなければ、スレッタが協力を仰いでいなければ、間違いなくシャディクを……文字通り潰しに行っていた。
それから二ヶ月。私は多忙でアレの動向を又聞きでしか掴めていなかった。スレッタやニカ曰く、楽しそうにしていた、らしい。けれど、それも何処まで本当か。
分からない、分かりたくない。折角スレッタと進めそうだったのに。魔女の傍らには、悪魔が居たなんて認めたくない。
信じたかった、そう、それだけ。私が勝手に幻滅しているだけ。アレの本質は何も変わっていない。むしろ今この瞬間こそ、アレが輝ける瞬間なんだ。理解は出来る、でも認めたくない。
あぁ、ダメだ。出る、出てしまう。言葉が口を衝いて出る。言いたくない、言っちゃいけない。
「人殺し」
『そうだけど。今さら何言ってるの?トマトの人』
そういえばスレッタ以外の名前、まともに覚えてなかったな。アレは。
「ミカッ!!!」
『あ、スレッタ。良かった無事で。ねぇスレッタ───』
言わないで。その先を、お願いだから。
『次は誰を殺せば良い?何を壊せば良い?スレッタが前に進むのに、誰が邪魔になる?』
「み、か……?」
『進めば二つ、逃げれば一つ、手に入るんでしょ?スレッタは二つ手に入れる事を選んだ。そして俺はスレッタの護衛だ。だからスレッタの道は俺が作る、スレッタの道を壊す奴らを、俺が潰す』
『スレッタが進み続ける限り、俺も止まらない』
悪魔の瞳が、私を見たような気がした。
気がしただけ、どうせ見ていないんでしょうね。
その瞳にはスレッタか敵しか映らないんだから。
悪魔が来たりて、花婿は揺らぐ。
花嫁の言の葉は祝福か呪詛か。