過去に投稿していた「荒野の少女と1つのセカイ」のリメイク版になります。
──雨が降る中、黒塗りの霊柩車が棺を乗せて送り出されていく。
『なんでも交通事故らしいわよ。対向車が突っ込んで来たとか』
『ご両親に妹さんまで……災難なこともあったものね』
──顔の知らない人達が聞こえる声で噂している。
『あの子、どうなるのかしら』
『東京の方の親戚に預けられるんですって。急な話ね』
──私の心を見え透いたように垂れ流している。
『お悔やみ申し上げます』
──それはまるで他人事のように。
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「ぅ……ん、いけない、寝ちゃってた」
懐かしい夢を見た気がするけど、あんまり目覚めは良くない。自室のパソコンに並ぶ打ち込みを前に伸びを挟む。
私、
バイト……も考えたけど入れたら曲を作る暇なんてない。時間かお金、と言われたら時間が欲しかった。
チープな音源に、比較的安価なバーチャルシンガーを使い歌を届ける。私達の代わりに歌声を紡ぐものだけど、その正体はパソコンソフト。そんな電子の海に命を吹き込むのが作曲者だ。使う理由はそれぞれあるけど、私の場合は……
「自分で作った曲なんて、歌えないから」
私は歌うのが下手だった。カラオケの点数で取れて70点台が限界で、テレビに流れる歌番組の点数に度肝を抜かれるくらいの一般人。だけど歌を作りたくて、届けたくて、バーチャル・シンガーに頼っている。
「いつもありがとう、KAITO」
パッケージにデザインされた青髪の青年に声を掛ける。数十年前の漫画を彷彿とさせるデザインで笑顔を浮かべて手を差し伸べているが、彼が答えてくれることはない。
画面を切り替えて動画サイトをチェック。自らが投稿した過去の動画の再生数を確認する。十数とある動画の中で唯一10万再生越えが一つと、あとは行って1万、というところ。昔は殿堂入りなんてものもあったけど、今じゃ100万再生ぐらいじゃなきゃ見向きもされないのが現実だった。
「それでも、やめない理由はないから」
そんな現実を受け止めながらもパソコンの電源を落とし、私は眠りにつくのであった。
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──神山高校、1-Cにて
翌日、朝一番に登校した私は教室の掃除を行う。義務ではないのだけれど、朝皆が心地よく授業を受けられるようにする準備だ。それに加えて早く登校するには訳がある。
「あらおはよう烏丸さん。今日も早いのね」
「先生、おはようございます」
「お掃除、偉いわね。いつもありがとう」
廊下を通りがかった先生が軽い挨拶と共に欠伸をして去っていった。日々の巡回お疲れ様です。
一通り掃除を終えて席に着けば、鞄の中から覗かせる五線譜とルーズリーフ。グラウンドでは朝練かサッカー部の男子生徒がゴールにシュートを決めていた。
「世間の妄言蹴り飛ばそう。自分の足で探してみよう」
思いついた歌詞をルーズリーフにまとめて、キャッチーなメロディーを記していく。早く登校する理由はこれに尽きるけど、時間を求めた結果がこれ。
まあ、それだけだとなんだか味気ないので掃除を始めてみたら、いい感じのカモフラージュになって今更やめられないんだけど。
「限られた世界で、生きて──」
「ふー……大会が近いからって練習もハードだな」
唐突に扉が開きオレンジ髪の青年が入ってくる。タオルで汗を拭いているところを見るに、さっきまで運動していた様子。
「おはよう」
「なんだ、委員長じゃねーか。朝から勉強なんてご苦労だな」
「やってみると結構楽しいよ。試験も近いからやってみたら?」
「俺は遠慮しとく」
やっぱり居たか、みたいな顔をしながら自分の席に向かう彼。幸いにも距離があるため内容を知られることはない。彼が最も苦手とする勉強を持ち出せば興味が削がれることは知っていた。
「東雲君は朝練?」
「ああ、助っ人とはいえ体慣らしておかないと」
「流石エースは違うね」
「俺みたいな奴はゴロゴロいる。でも、頼まれた分はキッチリやらないとな」
彼は
ただし、勉強は大の苦手……というより毛嫌いしてる節があるので成績は山の天気くらい不安定だ。
後は何より別のクラスの子とよく一緒にいるので、そっちの光景の方が有名だったりする。
「(朝練が終わったってことはもうすぐ皆登校してくるかな)」
また外へと目を向ければ、校門辺りで風紀委員の人達が挨拶と共に通りがかる生徒をチェックしている。とは言ってもある程度自由な校風だから捕まる人なんて早々いない……
と思っている矢先に変人ワンツーフィニッシュの先輩がセットで捕まっていた。
「望む未来は目の前に、だけど遮るものが多すぎて」
そんな歌詞をメモして鞄に戻す。私が作る歌詞はいつもこんな感じばっかりで、この学校はそういう意味でも刺激が多い。
そしてこのクラスにも一際異彩を放つ生徒が一人いた。
「皆おはよー!」
間もなく朝礼の時刻という時に賑わう教室に響く声。赤髪ロングで典型的なギャルといった風貌の少女がすれ違う生徒に挨拶を交わしている。
ムードメーカーでクラスの中心的な存在。恐らく二年生の先輩とも引けを取らないだろう。
彼女の名前は
「おはよう委員長! ご機嫌いかがかなー?」
「おはよう斑鳩さん。早速機嫌を聞いてくるってことはお願い事だね」
「流石委員長は話が早い! 古文の課題終わってないから見せて!」
「はいはい」
手渡したノートを賜り物のように深々と身を低くしつつ受け取り自分の席へと帰っていく。
「お前、ちょっとは自分でやったらどうだ?」
「えー、だって勉強楽しくないんだもん。そういう彰人君だってこの前の小テスト赤点だったでしょ」
「あれは山が外れただけだ。勉強してないわけじゃない」
「負け惜しみー、私は赤点回避してるもーん」
仲がいいのか悪いのか、同じ勉強嫌いがどんぐりの背比べである。存在感のある二人が会話しているだけでも絵になるが、私の場合は歌詞のネタとしてちょうどいい。
しかし、時間はそう待ってはくれない。
「二人とも、そろそろHR始まるから」
「はーい」「おう」
教師の登場と共にそれぞれの席へと戻る生徒達を見送りつつ咎める。
「起立、礼、着席」
今日もまた、なんてことはない一日が始まる。
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「ありがとう委員長ー。お陰で助かった。これお礼のジュース」
「ありがとう。でも今度から気をつけてね」
「はーい。それじゃあお昼ご飯と洒落込みますかー」
お昼休みに入り、涼風の通う屋上で二人昼食を取る。返されるタイミングは分かっていたから鞄も膝の上。
しかしノートとジュースを同時に渡され、押さえていた手を離してしまった。
「あ、っと」
「わわっ! ってあれ?」
不安定な場所で風に煽られ鞄が倒れる。口も開いてしまい中身が散乱してしまった。
急いで集めていると、斑鳩さんが散らばった紙を拾ってくれる。
「これって、五線譜に詞? もしかして委員長、曲作ってるの?」
「あー、うん。別に隠すことでもないんだけどね」
かといって普段から会話する間柄なのは誰もいない為、支障もなかった。
今日一緒に昼食をとっているのも、戻るのが面倒だからと彼女がここに留まっているに過ぎない。
「へー、中々面白い詞を書くじゃん」
今朝書いた物をマジマジと見つめられる。いつか世に出る物だから今知られても問題はない、と思いたい。
「ねえ、これ私に歌わせてよ」
紙から顔を上げた彼女が放った一言。
それが、私達の始まりの言葉だった。
投稿頻度は週一を目処としてます。
暖かい目で見ていただければ幸いです。
では、次回をお楽しみに。