ワンダーランズ×ショウタイムの人達と別れた後、遠目に理那の様子を眺めていた。
多くの人に見てもらえるというのはいいことだけれど、それに伴う問題の一つを知れた気がする。
「そういう意味では、顔の見えないネットの方が良かったりするのかもね」
無論、現実でもそういった線引きが出来ていないわけではない。その一つがステージであり、壇上の役者も観客側を第3の壁と称しているほどだ。
だとするなら、ネットの世界は液晶の壁とでもいうべきか。
「表情お願いしまーす」
そんなネットと現実を媒介する者に囲まれた理那はあくまでキャラに徹している。その顔から彼女の内情は見て取れない。
多分、もう一人の理那がいたら解説してくれたりするんだろうけど。
「ほら見てよ絵名、奏! あのコスプレ完成度ヤバくない!?」
「ちょっとテンション高すぎ。ってうわ、何あれ」
「う、すごい人混み……」
こうしてる間にも話題が話題を呼び群衆が生成されていく。そろそろ通行人の邪魔になりそうだし、潮時だと理那に合図を送ることにした。
とりあえず、あちらから見えるようにKAITOのお面を掲げて振ってみる。彼女は身長も高いしすぐ気付くだろう。
「あ、すみませーん! 私もステージとか見に行きたいんで、これで終わりでーす!」
途端に彼女の声が周囲に広がる。よく響く声というのはこういう時にも役に立つみたいだ。
群衆をかき分けて主役がやってくる……けど顔の表情が優れない。終始自分の衣装を気にしているようだった。
「ねえ言葉、ソーイングセットとか持ってない?」
「持ってないよ。どうしたの?」
「いろんなポーズとってたら服に無理させちゃってさ」
ふと見せてくれた背中には線が入り下着が見えそうになっていた。そもそも見せることに特化したコスチュームだから、機能面など考えられてもいない。
彼女の発育と運動神経の良さが逆に枷になったようだ。
「なら近くのコンビニで……」
「あー、屋台とか出てるし、この人混みだときつそうだね」
「他の服は持ってきてないの?」
「うん。これが一張羅だからねー」
「制服持ってるでしょ」
ツッコミをしつつも、確かに歩行者天国に加えて観光客も溢れるいつもと勝手の違う街。ただでさえ目立つ衣装のため自由に歩くのも難しい。
今も解散しきれていない群衆の視線がこちらに向いている。
「カメラマンさんの中でソーイングセット持ってる人は……いないよね」
「あ、ボク持ってるよー」
群衆の端、今は私達のすぐそばに居た桃色の髪をした子が手をあげる。
「あ、良かったー。じゃあ貸して……って瑞希じゃん!」
「え、この声もしかして理那? 理那なの?」
「あはは、瑞希でもわからなかったんだ。まあ言葉でも解らなかったし無理もないか」
どうやらこの二人、知り合いであるらしい。
・
・
ひとまず私達と
今は慣れた手つきで破けた部分をつなぎ合わせている。
「いやー派手にやったね。もっと丁寧に着ないとカワイイ服が台無しだよ?」
「あはは、この時くらいにしか着ないから大丈夫って思ってたんだけどね」
いつどこで知り合ったのか解らないまま、二人は自分達の世界で楽しんでいる。
年が離れているようには見えないし、となるとあの子も神高の生徒なのだろうか。別のクラスなのか見たことはないけれど。
「「「………」」」
それはそれとして、連れである人達の視線がキツい。特に茶髪ショートの彼女。ジャージに白髪ロングの少女は少し戸惑っている。
私だって状況が理解できないから色々場を持たせたいけど、友達の友達は友達になれるようなフレンドリーな性格でもない。
まるで狭い部屋で二人きりになった時の様に、動く針先をひたすら見つめ誤魔化していた。
「はい、おしまい。無理しちゃダメだよー?」
「ありがと瑞希。本当に助かった」
「……で、私達はほったらかしなわけ?」
「ごめんごめん。緊急事態だったから……」
作業がようやく終わったところで、茶髪の少女が口を開く。紹介もなしに放置されたのが思いの外効いているらしい。
私も不安ではあったが、代弁してくれたのでとりあえずこの場は大丈夫そうだ。
「理那……あ、このコスプレしてる子ね。友達の友達でさ、ちょくちょく会ったりしてたんだ」
「1-Cの斑鳩理那でーす! 瑞希とは仲良くやってまーす」
「えっとつまり、瑞希の友達……?」
「あはは、まあそういうこと。あ、そっちの子は初めましてだよね」
ソーイングセットを片付けながらこちらに歩み寄ってくる。ニコニコと笑顔を浮かべてるのは社交辞令か、元よりそんな性格なのかは解らない。
「ボクは
「いえ、特に何も。私は烏丸言葉です。理那と同じ1年C組なので、以後お見知り置きを」
「あー、君が先生お気に入りの模範生徒さんなんだ……見るからに真面目……真面目?」
理那から受け取った屋台の荷物にKAITOのお面を交互に見つめながら疑問を浮かべた。
確かに噂でしか知らない存在がそれに反してお祭りを楽しんでいる様に見えては拍子抜けだと思う。
「ごめんごめん、言葉に荷物持ってもらってたんだ。それ全部私のなの」
「あー、ダメだよ理那。友達なんだから荷物持ちにさせちゃ」
「なんか遠巻きに私のこと言ってない?」
「それは絵名の思い込みだよー。それとも思い当たる節があったとか?」
「あんたねえ! 私だって自分の荷物くらい持つことあるわよ!」
側から見れば仲がいいのか悪いのか。冗談と本音が言い合えるのはとても良いことだとは思うけれど。
「まーまー落ち着いて。それより瑞希達もどこか行く予定だったんでしょ? 友達もいっぱい連れてさー」
「友達っていうより、ボク達おんなじ音楽サークルで活動してるんだ。こっちが絵名で、こっちが奏!」
「あ、えーっと、東雲絵名です」
「東雲……ということは東雲君の」
「あ、うん。私が姉で、あっちが弟。そういえばクラス同じなんだっけ」
「へー、彰人君にお姉さんがいたんだ」
茶髪の少女の紹介が終わり、次は白髪の少女へと視線が移る。ジャージ姿に地面まで届きそうなストレート髪が特徴的だ。
「その、えっと、よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「本当はまふゆも紹介出来たらよかったんだけど、今はお手伝いしてるし」
「まふゆって、もしかして……いや、いいよ。その時が来たら紹介して」
こうして、ちょっとした大所帯になりながらも再びステージに向けて歩き出した。
しかしその名前を聞いてからしばらく理那の足取りが重かったことを、ここに付け加えておく。