あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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夢追人を眺めて

 

 ステージでは入れ替わり立ち替わりで観客が流れていた。先ほどまでは小学校の出し物があったらしく家族連れの姿が目立つ。

 そんなありふれた家族を流しながら、空いた席を一緒に探していると。

 

「瑞希ー!」

「わっ、杏! 来てたんだね」

 

 観客席の方から白石さんが手を振っている。側には東雲君や小豆沢さんの姿もあるが、何より目立つのは一つ頭の抜けた男子、青柳(あおやぎ)君である。

 さらにその近くではワンダーランズ×ショウタイムの四人の姿もあり、神代先輩がこちらを見ていた。

 暁山さんはそれに応えるように皆を連れて観客席を進んでいく。偶然かそれとも場所取りをしていてくれたのか、五人分の席が空いていた。

 

「やっほ、杏。朝練してから来るって聞いてたけど結構早いじゃん?」

「わっ、理那どうしたのその格好! あんまりそっくりだから気づかなかった」

「ありがと、まあこれには事情があってねー」

 

 仲の良いもの同士会話が弾んでいるのを尻目に、私は席が確保出来たことに安堵する。そんな中、ふらりと東雲君がやってきた。

 

「委員長も来てたんだな」

「うん、理那に誘われてね。ところで四人はどういう集まり?」

「なんだ、聞いてねえのか。オレ達、この四人で歌ってるんだよ」

 

 パンフレットのリスト、一般枠の最後に示された名前がユニットの名前らしい。Vivid BAD SQUAD。

 名前の由来は分からないけれど、雰囲気からしてパンクでも歌うのだろうか。

 

「彰人、その人は?」

「ああ、うちのクラスの委員長だよ。それに理那が見つけた相棒だ」

「なるほど、白石が言っていた……」

 

 こちらの会話に興味を持ったのか、はたまた私と話しているのが珍しいのか、青柳君が寄ってくる。

 東雲君と一緒にいることが多い──むしろ当たり前な──のは知っていたけれど、同じユニットを組んでいるとなればあの交友関係も納得できる。

 まじまじとこちらを見つめていた為、視線がぶつかった。こうして面と向かったのは神高でもなかったなと思い返す。

 

「自己紹介がまだだった。俺は青柳(あおやぎ)冬弥(とうや)。彰人達とVivid BAD SQUADとして歌っている」

「ではこちらも。烏丸言葉です。そちらのお父さんの楽曲は、よく参考にさせてもらいました」

「そういえば烏丸は曲を作っているんだったな。それは、何よりだ」

 

 青柳君の父親は有名なクラシック音楽家であり作曲家。曲を作り始めた頃は理論を学ぶ際大いに参考にさせてもらった。

 そんな息子である彼もまた、別の方向とはいえ音楽の道を進んでいる。

 

「だったらオレ達の曲も聞いてけよ。退屈なんか絶対させねえ」

「ふふ、期待してるね。でもそれより先に、先客が居るんだ」

 

 会場にアナウンスが入り、次に出てくるグループの名前が告げられる。その名はLeo/need。

 チラシを配っていた四人が壇上に上がり、各々が楽器の配置についた。その中央に立つのは黒髪の少女。

 MCが変わり、自分達の経緯などを語る中、最も力が入った言葉が。

 

「でも──誰かの心に響く演奏をしたいという想いは、誰にも負けません」

 

 芯の通ったその声は、彼女、いや、彼女達全員の想いなのだろう。やがて始まる演奏は一般参加枠と侮るなかれ、プロに迫らんとする確かな強みがそこにはあった。

 そのレベルの高さに皆が賞賛と感嘆の声を上げている。

 

「学生バンドでアレだけのレベルかー。ほんと、上には上がいるもんだね。言葉はどう思う?」

「演奏も歌唱も、プロみたいって思うよ。でも」

「でも?」

「……心に響くっていうのが、分からないなって」

 

 技術の高さも、想いの強さも理解できる。でもそれだけだった。万人受けする素晴らしい楽曲の数々に、胸を打たれる人は複数いるだろう。

 現に天馬先輩なんて泣いているし、草薙さんや鳳さんのように目を輝かせながらその勇姿に見惚れる人もいる。

 そんな私の言葉を聞いて、理那の顔からも少し表情が失せた気がした。

 

「それは……音楽しかないっていう割には悲しいね」

「その理由も、理那の直感ならわかるでしょ?」

「わかったところで、本人が知りたくないなら言わないよ」

 

 そう言ったきり、再び顔を戻して演奏に集中する彼女。どこまでも敏感だなと感じながらも、同時に苦労するんだなとも思う。

 それから移り変わる楽曲でも私の心境は変わることなく、一人の観客ではなく作曲者として参考材料にするのだった。

 

 

 

 日が傾き、ステージが茜色に染まる。一般枠最後に控えるVivid BAD SQUADの出番が迫っていた。

 ワンダーランズ×ショウタイムの人達も出番がもうすぐということで機材のチェックやら準備で観客席から姿を消している。

 

「さーて、もうすぐ杏達の番だねー。どこまでこの空気をぶち上げてくれるのやら」

 

 同じ場所で歌っている者としての期待か、今か今かとその番を待っている理那。自分がクールキャラのコスプレをしているのを忘れるくらい、顔がニヤついている。

 

「おーい! まふゆー!」

 

 そんな中で、暁山さんが観客の中で知り合いを見つけたのか大きく声を上げる。さっきの白石さんとなんら変わりなくて、少し面白い。

 その名を呼ばれた紫髪の少女は、ゆっくりと三人の元へ歩み寄っていた。

 

「知り合いみたい。暁山さんも顔が広いね」

「……ああうん。ホントに」

 

 紹介する、とは言っていたもののもうすぐVivid BAD SQUADの番。

 それに観客が入れ替わったり、暁山さんがその少女を迎えに行ったりと互いの距離が離れてしまい紹介には至らなかった。

 そして同時に、理那がルカのお面を深く被る。

 

「理那、どうしたの?」

「あ、うん。ちょっと風が強くて目にゴミが入りそうだからさ。防護マスク的な?」

「そう。それならいいけど」

 

 普段の彼女らしくない落ち着いた行動に疑問を抱きながらも、ステージに集中する。既に四人の姿があり、イントロを終えようとしていた。

 音圧高めのヒップホップに会場に揺れる。歌唱のレベルはあの時店で聞いた時よりも遥かに高く、観客皆が圧倒されていた。

 しかし私も、そしてなぜか理那ですら感嘆の声を上げない。私はともかくとして、理那は何かあったとしか思えない。

 

 後に続くワンダーランズ×ショウタイムは一風変わった悪魔のショー。笑いあり、涙あり……いや、涙はなかったけれど、愉快なショーに観客は別の意味で賑わっている。

 空気が変わるとはこのことか、同じ音楽続きとはいえミュージカルでこれほどまでに自分達の色に染めるのはかなりの腕前だ。

 

 共にそれぞれの想いを持って舞台に立っているだけあり、レベルが違う。先のLeo/needもそうだった。

 その想いがなんなのかまでは分からない。それでも彼ら、彼女らには抱いている何かがある。分かりはする、理解もできる。

 ただそれでも、共感だけはできなかった。

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