あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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後の祭り

 

 ショーが終わった後、私達は皆より早く帰路についていた。

 駅前の混雑を考えても抜け出すのにはちょうどよかったし、何より理那が居心地悪そうにしていたのが大きかった。

 私は東雲君に、理那は鳳さんに感想を言えてないが、こればっかりは仕方ない。

 

「理那、大丈夫? どこか悪くした?」

「あ、ううん。ちょっと昔の知り合いがいただけだよ」

「知り合いって、もしかしてあのまふゆって人のこと?」

「そ。ま、この話は置いといて欲しいかな。あんまりいい話じゃ無いからさ」

 

 人間誰しも詮索してほしくない事情がある。いくら気分屋でムードメーカーな彼女だって例外じゃない。

 そんな目に見える地雷が側にあったから、彼女は今も顔を隠している。普段なら奇異な目で見られるだろうけれど、このシブヤフェスタがいい具合にカモフラージュとして効いていた。

 

「じゃあ逆にこっちが質問だけどさ、何か参考になりそうなのはあった?」

「そうだね。色々刺激は多かったけれど……」

 

 数々のステージを思い出す。アイドル・バンド・ストリート・ミュージカル。それぞれが己の想いを抱いて魅せる舞台はどれも輝いていた。

 そして少なくとも今日あの場所にいた人達には届いただろう。ただし、全員が全員に届いたわけじゃない。

 

「何か感じるものはなかったかな」

「なら良かったじゃん。()()()()()()()()()だけ、ってことでしょ?」

「……そうだね。理那のそういうところ、すごいと思うよ」

 

 前向きな答えで返されるとは思っておらず、詰まりながらも出てきたのは肯定。

 彼女の鋭さもここまで来ると、素直な褒め言葉が口から滑るほどに感服してしまう。

 それからは会話もなく、人もまばらになった歩行者天国を二人きりで歩いていた。

 そんな中、もう一度見つけたストリートピアノ。まだ誰も触った形跡はなく、夕日に照らされて哀愁たっぷりのセピア色に染まっていた。

 

「ピアノってさ、凄いよね。一人でなんでも出来て、音楽の優等生だ」

 

 私の視線に気付いたのか、理那が口を開く。

 

「でもどうしてだろうね。一人になったら寂しく聞こえるのって」

 

 出せる音の幅は狭いけれど、最も聞き馴染んだ音として愛されるピアノ。しかし蓋をあければその音色は主張が強く、どこにも馴染まぬたった一人の存在だ。

 

「でも、だからこそ誰かが弾いて、一緒に歌うんじゃないかな?」

 

 これだけ人の目がある中で弾くのは私も遠慮したいけど、何より孤独なピアノを放っておけない。

 誤魔化すようにお面を深く被った後、私は一人席に座りピアノの蓋を開く。白の鍵盤も同じく夕日に照らされセピア色だった。

 

 このお祭りもいつか過ぎて行った思い出として、色褪せていくのかもしれない。

 指先から奏でるのは、哀愁の音色。終わってしまうこのお祭りとこの空気へ向けた曲。

 ゆっくり、静かに、優しく。ひとりぼっちのピアノと、終わりゆく祭りに向けて私の曲を捧げるように。

 

「♪───」

 

 側に寄り添う理那が、歌詞のない歌詞を紡いでいる。メロディーだけを追って、お面越しだというのに彼女の歌はよく響いていた。

 群衆から向けられた視線もカメラのレンズも、意識の外にある。孤独の世界に二人と一つきり。それでも寂しいと感じることはない。

 

 

 

 演奏を終えて顔を上げれば、多くの視線がこちらに向いていた。その中にはこのお祭りで知り合った人達の顔も多く見られる。それでもKAITOのお面が私を守ってくれていた。

 席を立ち、共にその場を後にしようとしたところで理那の足が止まる。彼女の前には、まふゆと呼ばれた少女が立っていた。

 

「……まふゆ」

「? 私のこと、ご存じなんですか?」

 

 しかし、会話にはならない。今の彼女はコスプレにお面も完備した変装にも等しい状態。よっぽどのことがなければ彼女を見抜くことは不可能だった。

 

「ああいや、何も知らないよ。邪魔したね」

「えっ、ああ、はい」

 

 横をすり抜け去ってく理那を追いかける。まふゆと呼ばれた少女はそのまま私の後に続いて静かな曲を奏で始めた。

 闇の中で一筋の光を見つけるような、そんな優しい曲。そんな曲にも、私の心は揺るがない。

 一人足速にその場を去ろうとする理那になんとか追いついた。

 

「理那」

「あ、うん。ごめんね。どうもあの子見ると調子狂っちゃってさ」

 

 このお祭りで理那の顔の広さを再認識したものの、それは同時に触れてはいけないものに触れてしまった気もする。

 いつだって友好的な彼女の姿はもうどこにもなく、ただひたすらに何かを抑えようと必死になっていた。

 その要があの少女だということは、火を見るよりも明らか。それでも。

 

『この話は置いといて欲しいかな。あんまりいい話じゃ無いからさ』

 

 コンビを組む仲として、今この問題は追求するべきではない。むしろ今必要なのは気分転換である。

 

「……理那、何か食べたいものはある?」

「ん? どうしたのさ急に。まあ屋台のは大体食べたからないけど」

「ファミレスでもなんでも、好きなもの言って。奢るから」

「何〜、真面目な言葉にしては珍しいじゃん。じゃあお言葉に甘えて大盛り料理が出てくる喫茶店にしよっかな」

 

 そうして彼女に連れられてお店の中に入っていく。晩御飯もあるし、私はバスケットに入った小さいセットにしようかな。

 なお、その後出てきた量に完全敗北した私は理那に助けてもらうのであった。

 

 

/////////////////

 

 

──とある自室 25時にて

 

 少女はいつものように人を救うための音楽を作る。かつては一人きりだったこの作業も、少ないながらも唯一無二の仲間に囲まれ、様々な縁によって彼女を構築している。

 また、それによって得られた成果というべきか、今回のお祭りで得られるものは多く作曲も順調に進んでいた。

 それでも一種の賑やかしか、通話だけはチャットアプリの『ナイトコード』が繋げてある。

 

『そういえば、今日まふゆと奏が演奏する前に演奏してた人いたでしょ?』

『あのお昼前に会ったAmiaの友達でしょ? その隣にいた……烏丸さん、だっけ?』

『そうそう。その動画録ってた人がいたみたいで、今SNSで結構話題になってるみたいなんだ』

 

 Amiaから送られてきたURL。その先には確かに烏丸と呼ばれた少女がカイトのお面を被り、隣では理那が歌詞のない歌を紡いでいた。

 哀愁たっぷりに奏でられた曲は今まで聞いたことこそあれど、作曲に取り憑かれた少女にとって生で見るのは初めてである。

 

「この人には、どんな想いがあるのかな」

 

 ひどく印象的だったのを思い出しながら一言が自然と溢れる。そして同時に、瑞希の知り合いが側にいたことも。

 

「ねえAmia、ちょっとお願いしていいかな」

「ん、どうしたのK」

「この人、また会ってみたいな」

 

 新しい縁の始まりは、案外すぐそこに転がっているのかもしれない。

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