神山高校 1-C
それから時が過ぎて、枯れ木の葉も落ち切るような冬の季節。日が昇って間もない朝は北風が身に沁みる。
暁山さんの紹介で新しい縁を繋いでもらったものの、私に響く何かはなかった。1、2回程度で判断するのは悪いことだと思うけれど、生憎私には私の生活がある。これ以上怠慢を続けて理那からの依頼を蔑ろにするわけにもいかなかった。
あくまで趣味の範疇、理那との共同作業も相まって時間がかかるのは明白。別に納期があるわけでもないし、大した問題じゃないんだけれど。
「……なんだか騒がしいね」
教室では少しソワソワした空気が漂っている。神高祭も少し前に終わったし大きなイベントは過ぎたと思っていたんだけれど、この空気はそれに似た何かだった。
「おはよう言葉。いやー、遂に冬到来って感じだね」
「遂にって、生きてたら普通にやってくるよ。常夏の島じゃあるまいし」
「あはは、それもそうだけど……」
「皆席に戻れー、今日は大事な話があるぞ」
理那が登校してきてすぐ、何かを言いたげだったけど先生がやってきて席に戻されてしまう。大切な話と注目を集める中、先生の口から告げられたのは。
「一泊二日で、スキー合宿に行ってもらう」
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神山高校一年生の学内旅行。臨海学校はないけれど、代わりに冬の気候を活かした自然体験としてスキー合宿を執り行っているとのこと。スキーが出来ない人はどうするのか、という声が上がりそうだけど学校行事で単位に関わる為に参加しない理由はないみたい。
ちなみにスキー用具は向こうで用意してくれるらしく、用意する必要はないそうだ。
「とは言ってたけど、必要なものは多いよね」
「ってわけでやってきましたショッピングモール!」
そんなこんなで学校を終えて私は理那と最寄りのショッピングモールにやってきていた。何か買う予定はないけれど、どういうものがあるかは目を通しておくだけでも違う。後は予算の組み立て。
と言っても必要なのは防寒具と着替えぐらいだから、大して今必要なものもないだろう。
「あ、ほら言葉、ヒーター付ベストだって!」
「スキーで動いたら熱くなるよ。警備員の人じゃあるまいし」
「それもそっか。じゃあこっちの顔面が隠れるネックウォーマーとかー」
「……銀行強盗でもするつもり?」
そんなことを考えていたらあれやこれやと理那がいろんなものを見つけてくる。服屋で探すならまだしも多様性を求めるお客さんに応える為、いろんなメーカーから寄せ集められたものが多い。
私も必要な物をスマホで調べながら周囲を見渡していると、見覚えのあるピンクの髪が揺れている。
「理那、あそこにいるのってもしかして」
「ん? あ、瑞希じゃん。おーい、瑞希ー!」
「あれ理那、どうしたのさこんな所で。それに言葉まで一緒にさ」
「ちょっとスキーウェアをねー」
理那に確認を取ろうとしただけだけど、知り合いを見つけて放っておくなどできない彼女は進んで突撃していく。一方あちらも気づいたようで軽く対応していた。ここまで来たら他人のふりをするのも忍びないので二人に合流する。
「暁山さんも合宿、参加されるんですね」
「あはは〜。ホントはサボる予定だったんだけど、行かなかったら進級出来ないって言われちゃったしね」
「気まぐれな生徒も大変だ」
どうやら暁山さんは諸事情により学校をサボることが多く、先生達の中では問題児として有名らしい。成績はいいみたいだけど根本的に出席日数が足りないから、そういう問題じゃないとのこと。義務教育じゃないから仕方ないけど。
そんな暁山さんが見ていたのは、ピンクの迷彩柄に近いスキーウェアだった。
「それより瑞希、こっちレディースだけどいいの?」
「だってメンズだと黒とかグレーとか、地味なのばっかりでしょ? こっちの方がカワイイよ」
「いや、入るのかなーって」
「ボクだってその辺りはちゃんと見てるから大丈夫。理那達も良かったらボクが選んであげよっか?」
何やら少し変な会話があったみたいけど、とりあえずここはスルー。自分のは選んだとばかりに私達の方へと詰め寄ってきた。
「あはは、私は地味なのでいいよ。言葉は?」
「私も機能性に長ければそれでいいです」
「そんな勿体無い! 理那はともかく言葉だってしっかりオシャレしたらカワイイのに!」
「それこそ馬子にも衣装という物です。それに、将来二度着るかもわかりませんし」
正直スキーのタイミングでしか着ない、私にとっては一生に二度出番があるかないかの代物。そこの外見にこだわるくらいなら、比較的安価で地味なものを選んだ方が学生身分としてふさわしいのでは。
だからといって暁山さんが思うカワイイに対して私が口を挟む必要もない。
「ちょっと待ってて。ボクが絶対言葉に似合うスキーウェア、持ってくるから!」
「がんばってねー」
しかし私の断りは精神を逆撫でしたのか、逆にやる気を出して店内を物色し始めてしまった。理那においては止めることなく棒読みで応援している。
「理那は止めないの?」
「いやー、セレクトショップでバイトするくらい好きなことだし止めたって聞かないよ」
「そうなんだ」
「そうそう。瑞希ー、私の分もよろしくねー」
「わかってるー! あ、これ言葉に良さそう。ねえ言葉、これちょっと試着してみてよ!」
暁山さんの意外な一面を知りつつ、渡されたスキーウェアは黒と赤のダークなデザイン。着てみるも別段これといったことはなかった。
「うん、普段のしっかりした印象でいいかも。言葉はどういうのがいいとかってある?」
「いえ、別に。これで構いませんよ」
「えっ、いや言葉が着るんだよ!? もっとこう、ないの!?」
「はい、ありません」
「そ、そっか……じゃあ今度は理那の選ぶね」
こうして思いの外私のスキーウェア選びは早く終わった。一方の理那といえば。
「うーん、ねえ瑞希、もうちょっと地味なのない? 黒とかかっこいいでしょ」
「なんでそんな派手な見た目のに地味路線なのさ! 素体が勿体無いよ!」
これは時間がかかりそうだった。
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「いやー、二人にピッタリのが見つかって良かったよ。言葉がお金持ってきてないって時は焦ったけど」
「今日は見るだけの予定でしたので……理那、立て替えてもらってごめん」
「いいのいいの。ボードとか一式全部揃えるつもりで来てたから」
見るだけのつもりが暁山さんの勢いに負けて購入してしまった。一着で音楽ソフトを買えそうな価格なのも驚いたけど、何よりそれをすぐに出せる理那も中々だった。これには暁山さんも驚いてたけど。
「ほんと瑞希ってばカワイイ物見逃さないよね。探求者って感じ?」
「好きだからねー。それより言葉は本当にそれで良かったの?」
「? どうしたんですか急に」
「いや、まあボクの考えすぎかもしれないけど、試着した時何にも言わなかったからさ」
暁山さんにとって気掛かりなのはそれらしい。多分、強引に押し付けたとでも思っているのかもしれない。だから私は本心を口にする。
「お気になさらず。恐らく私だけならオシャレなど気にせず、ダサいものを買っていたでしょうから」
「……そっか。それなら、良かった」
しかし、歯切れの悪い返答が返ってくるだけ。そんな心境を読めず、私達は解散し帰路に着くのであった。