あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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見学組

 

 スキー合宿当日。バスに数時間揺られてやってきたのは一面雪景色のスキー場。寒さも都心とは違って身を切り裂くようだけど、防寒具はしっかりしてきたから問題ない。

 

「やってきましたスキー場! よーっし、滑るぞー!」

「お前、バスであれだけはしゃいでてまだ元気あるのかよ……」

「バスのカラオケでずっと歌ってたもんね」

 

 意気揚々とバスから飛び出す理那。そこから半ばゲッソリとした東雲君が出てきた。それもそのはず、移動中の暇つぶしにとバスに備え付けられたカラオケで絶唱していた。それも正直私達でも知るか知らないかくらいの演歌とかを平気で。

 しかも最近伸び伸びと歌うようになったから無視しようにも耳を傾けてしまい、結果としてクラスの体力をごっそり持っていってしまった。ちなみに私は聴き慣れているのでのんびり外の風景を楽しんでました。

 

「理那、とりあえずクラス点呼からだよ。先に行かないで」

「はーい、わかりました委員長〜」

 

 バスの中でもしおりは確認したけれど、先にスキーで後に宿泊施設に向かう。一年生から宿泊しての学外行事とは恐れ入るけれど、一年生の中で目ぼしいイベントもそんなに無いから一年に一度と思えば大体そんな感じだろう。私立恐るべし。

 

 先生による点呼も終えてそれぞれが目的地に向かって歩き出す。スキー板など、滑るための道具をレンタルするのだけれど、理那は何を選ぶのだろうか。

 

「理那はどうするの?」

「んー、とりあえずやったことないからスキーかな。言葉は?」

「見学しようかなって。こっちにきてから、雪もあんまり見てなかったから」

 

 元々田舎住みで雪はそんなに珍しくなかったけれど、親戚に預かられてからは都会で暮らすようになって長らく雪を見ていなかった。

 そう思えばこの寒さもどこか懐かしさを感じるようで、今はこの景色を堪能していたかった。

 

「そっか。じゃあ言葉が滑りたくなるくらい華麗なパフォーマンスを見せてあげよう!」

「むしろ華麗過ぎたら観戦で満足すると思うよ」

 

 そんな感じで、私達のスキー合宿がスタートした。

 

 

 

 麓の方でスキーリフトに乗り、登っていく理那を見送る。東雲君や青柳君、白石さんも後から続いていくのを遠目に眺めていた。そんな視界の隅に映る、目立たないようにしていた少女が一人。あれは確か、草薙さんだったかな。

 

「うう寒……これなら家でゲームしてた方が良かった」

 

 シブヤフェスタで軽く会話を交わした程度だけど、それでも一人で浮いているのは見ていて忍びなかった。それに私も今は一人だし、ある意味では丁度いいとも言える。

 

「草薙さんは滑られないんですか?」

「烏丸さん。うん。今は見学でいいかなって」

「そうでしたか。隣、失礼しても?」

「いいよ。って、同い年なんだからそんなに畏まらなくてもいいのに」

「いえ、こういう性分なので」

「そっか」

 

 私以上の防寒具に身を包んでもはや毛玉にも見える草薙さんは、見るからに滑る気がなさそうだ。私もスキーウェアを着込んでいるけど、元より滑る気はない。

 かといって隣に移動したものの共通の話題はなく、ただ登っていく理那の背中を目で追っていた。丁度頂きに着いたようで、こちらに向けて大きく手を振っている。彼女らしい。とりあえず手を上げて返事を返した。

 

「あの斑鳩さんって人、えむにそっくり」

「えむさん……確かシブフェスで理那と一緒にいた人ですよね」

「うん。あの時も随分懐いてたし、ショーが終わった後も感想聞きたがってたから」

 

 そう言いながらも私の方へと視線を送る草薙さん。何か気になっているようだけど、私は理那のように勘が良くない。

 

「あの、何か気になることでも?」

「あ、ううん……その、烏丸さんもどうだったかな、って」

 

 この機会にと聞けることは聞いておきたいらしい。知り合いからの評価というのも糧になるし、ここは一つ素直に答えよう。

 

「そうですね、ショーそのものを生で見たことはありませんでしたが、良かったと思います」

 

「特に神代先輩が演じていた悪魔も最後には救われるようなシナリオで、大団円としてはこれ以上にないものだったかと」

「……そっか」

「もちろん、草薙さん達の演技も素晴らしかったですよ。まるで目の前に違う世界があるようでした」

「あ、ありがとう……」

 

 賞賛の声を浴びせているとどんどん小さくなっていってしまう。面と向かった感想は慣れていないのか、ただ単に恥ずかしいのか私にはわからない。

 流石に彼女が可哀想なので、程々に理那の方へと視線を戻す。やったことがない、と言いながらも持ち前の運動神経である程度ものにしていた。先に滑っている人も華麗にかわしているあたり楽しんでいそうだ。

 やがて滑走を終えた彼女は私達の前でブレーキ。雪の飛沫が舞うもかからないように配慮してくれた。

 

「いやー楽しいね! 言葉もやりなよ、教えてあげるからさ」

「ううん、私はいいよ。私はもう少し草薙さんと話してるから」

「なるほど、そっちはそっちで親睦を深めてたってわけだね。じゃあ私はまた行ってくるー!」

 

 えっちらおっちらペンギンの様にスキー板で雪を踏み固めながら進む理那を見送る。楽しそうで何よりだ。

 

「なんていうか、嵐みたいな人だね」

「ええ、本当に。それこそ舞台の主役の様な人です」

「それは言えてるかも」

 

 まだ本気が出せていないと言いつつも、歌で人を魅了出来る少女。また普段からの振る舞いで見せる若々しさは、同い年であるはずの私達にも活力を与えてくれるみたいで。それこそステージに立てば主役の座を勝ち取るのは間違いないだろう。

 後に続く東雲君も白石さんも経験者のようで颯爽と滑ってきた。ただ唯一、青柳君はコーチの人とゆっくり滑っている。こうして見るとちょっと面白い。

 

「(そういえば暁山さんの姿がないような……)」

 

 リフトに乗る時も見かけなかったので、もしかして遅刻かと思い周囲を見渡してみる。ピンクのスキーウェアの筈だから、それなりに目立つと思うけど。

 

「烏丸さん、どうしたの?」

「ああいえ、暁山さんが着てるかな、と」

「暁山さん……あ、もしかしてあれじゃない?」

 

 草薙さんが指差す先は最初に寄ったレンタルの場所。今や学生の列はなくなり、ただ一人でレンタルを終えて出てくるところだった。少し周囲を気にしている様な気もしたけど、こちらの視線に気づいて駆け寄ってくる。

 

「言葉! そんなところに居たんだね。それに寧々ちゃんも一緒だったんだ」

「う、うん。ちょっと話してて」

「そっかー、二人って知り合いだったんだね?」

 

 軽く挨拶を済ませて私の方へと向き直る。あくまで興味は私のようだった。

 

「それより言葉は滑らないの?」

「はい、今はのんびり見学でもと。理那ならもう上に居ますよ」

「ほんとだ。めちゃくちゃ楽しそうにしてる」

 

 見上げる視線の先には、上級者向けコースで華麗にコブを避けたり旗の合間を縫ったりしている理那の姿があった。こうなってくるとプロ顔負けと言っても過言ではないかもしれない。

 それでも滑り終えれば真っ先にこっちに飛んでくるあたり、理那らしいなとも思う。

 

「ふいー、大体わかってきた。あれ、瑞希も居たんだね。何してるの?」

「いやー、理那ってば相変わらず勉強以外はなんでも出来るなーって」

「そういう瑞希こそ勉強大してしてないのに出来るじゃん。それよりほら、瑞希も行くよ。一人じゃつまんないし!」

「あっ、ちょっ、引っ張らないでよー!」

 

 こうして暁山さんは理那に連行されてリフトに乗り込んでいく。嵐の様に去っていく少女は、本当に嵐のように攫っていってしまった。

 

「ご愁傷様です、暁山さん」

「っていうか、あれについていける人いるの?」

 

 草薙さんのツッコミも的確で、終始暁山さんは理那に振り回される事になる。そんな様子を終わりの時間までただただ見つめるだけの私達であった。

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