あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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楽しいの天才

 かくしてリーグ戦へと変わった卓球勝負は第一試合の勝敗を引き継いだまま、理那との勝負へ進む。挑むのは初戦を勝ち抜いた東雲君だった。既にサーブ権は彼が勝ち取り、真剣な眼差しを向けている。ちなみに私は審判として立っていた。

 ただ理那の立っている位置が違う。ラケットも左で持っているし舐めている……訳でもなさそうだ。

 

「えっと理那、そこで大丈夫? ラケットも……」

「うん。私左利きだから立つところとか変わるんだよ。あ、私も卓球やるのは始めてだしお手柔らかに〜」

「そう言って今日のスキーも普通に上級者コース行ってただ、ろっ!」

「おっと」

 

 東雲君の綺麗なサーブから始まった試合は、不慣れな構えの理那には難しいのか得点を渡していく。しかし確実に、着実に相手の動きに合わせていった。元の運動神経から来るものか、それとも天賦の才なのかはわからない。いつしか点数は追いつきデュースまで持ち込んでいた。

 

「始めてって割には動けてるじゃねーか」

「伊達に運動部の助っ人やってるわけじゃないからね」

 

 互いに部活の助っ人として駆り出されるだけの身体能力に物を言わせた攻防。経験が少ないもの同士、勝敗を分けるのはその場の判断力とセンスだった。

 

「そら!」

「甘いんだよ!」

 

 理那が器用に縁を狙った返しを見せるが、これは先ほど白石さんもとった行動。なんなく返されてしまい逆に理那が甘い球を放るか、と思いきや。

 

「じゃあ逆ならどうかな!」

「っ!」

 

 返しの球は先程とは正反対、しかも縁どころか角に当たってボールはあさっての方向に飛んでいく。こればかりは彼ともいえど返せなかった。それでも必死に食らいつこうとした東雲君はナイスファイトである。

 そんな彼は予想以上に体力を使ってしまったのか、続いてのラリーに追いつけずあえなく失点し、敗北してしまった。

 

「……くそっ、負けた」

「いい勝負だったよ東雲君。じゃあ杏、次やろっか!」

「オッケー、休憩しなくていい?」

「うん、体あったまってる方が動きやすいからさ」

 

 こうして間髪入れず始まった第二試合。理那のいう通りまるで先ほどの試合が準備運動だったのか、と思わせるくらい最初からアクティブに動き回る。先ほどのような不慣れな感じもなく、白石さんの攻めを華麗に崩しては甘い球を全て返していた。

 

「ちょっ、さっきと全然違うじゃん!」

「さっきは初めてだけど、今は違うからね。大体解ったか、らっ!」

 

 スマッシュが炸裂し追加の一点が入る。利き手の違いからか白石さんは常に戸惑いの表情を浮かべていた。それに何より理那の圧倒的なセンスが既に彼女の力量を大きく上回り圧倒している。

 

「始まったな」

「ああ、いっつもこれだ。ほんと嫌になる」

 

 点数係をやっている青柳君と東雲君は、その光景が見慣れたものだと観戦に徹している。そこから先も攻勢は崩れず、そのまま大差で勝利を納めたのは理那だった。

 

「あー、また負けたー!」

「ま、いつものことだろ。牛乳ご馳走さん」

 

 結果白石さんが勝ち星なし、ということで牛乳をご相伴に預かっている。どうして牛乳なのかはいわゆるお約束、というものだそうで。

 

「すまない白石、俺が不甲斐ないばかりに」

「いいのいいの。あのまま彰人とやっても厳しかっただろうし。あ、でも相棒だから手加減したりして」

「そんなことするかよ。寧ろ相棒だからこそ手抜かないもんだろ」

 

 随分と信頼し合っているようで、これなら日頃から二人一緒にいるのも頷ける気がする。持ちつ持たれつとはこういうことを言うのかな。

 

「理那はどれに……って牛乳ダメなんだっけ」

「あーうん。だから私は自販機のコーヒーでお願い」

「解った。あ、烏丸さんももしかして牛乳苦手だったりする? 紅茶買ってこよっか」

「私はコーヒー以外でしたらなんでも構いませんよ」

「オッケー、じゃあみんなと同じ牛乳ね」

 

 近くの自販機まで駆けていく白石さんを見送りながら、片付けをしていた理那が戻ってくる。温泉に入ったというのに来る前より汗だくになっていて本末転倒だった。

 

「理那って牛乳嫌いなんだね。よく食べるから嫌いなものなんてないって思ってた」

「混ぜたりしたら全然問題ないんだけど単品だとねー。あ、因みにカフェオレよりブラックの方が好きだからブラック派だよ」

「そこまでは聞いてないけど、そういえばそうだったね」

 

 いつかWEEKEND GARAGEに行った時もブレンドコーヒーをそのまま飲んでいたな、と思い出す。そんな他愛無いことに思考を巡らせていると白石さんが戻ってきた。

 

「理那ってば、調子が出てきたらなんでもすぐひっくり返しちゃうもんね」

「所謂スロースターターだな。ただその速度が尋常ではないんだが」

「そうなんですね。そうなると無敵のように聞こえますが」

「だからこいつの場合は調子が出る前に崩さなきゃ止まらないんだよ。だからあの時決め切れれば……」

「あの時は危なかったなー。でもいい勝負だったよ」

 

 心底悔しそうに理那を見る東雲君だけど、そんなの慣れっこと受け流す彼女。自分の性質くらい自分で把握しているんだろう。それでも相手を褒める姿勢を崩さないことから印象は良く見えた。

 

「じゃ、落ち着いたところでご飯でも行こっか。私お腹空いちゃってさー」

「いいね、どこ行く?」

「別にここで食べていったら良いだろ。明日もあるからな」

「ああ、俺も明日に備えておきたい」

「では行きましょうか」

 

 こうして私達は晩ごはんに赴き食後はホテルへ戻って解散となった。部屋に着くなり作曲や雑談を交わしていたけれど、今日の疲れもあってか理那はベッドの中へと潜り込む。

 私も枕やベッドの硬さの違いがあって少し不安だけど、寝る支障にはならないだろうと目を閉じるのであった。

 

 

 

「………」

 

 否、眠れない。慣れない場所だから疲労も溜まっているだろうと思ったけれど、そもそもスキーの一つもせず卓球でもろくに動いていない。極め付けには隣のベッドで寝ている理那の存在感や、枕とベッドの違いから目が冴えてしょうがなかった。

 こっそりスマホで時間を確認すれば消灯時間までもう少しある。何かしようとしても理那を起こしてしまうかもしれない。

 

 とりあえず何か飲み物でも飲んで落ち着こうと、部屋を抜け出してホテルの中を散策する。自動販売機の一つや二つくらいは置いてあるだろう。

 

 などとその気になって回り回った結果玄関付近まで足を運んでしまう。そこでは先生と一人の生徒が揉めていた。

 

「ですから、外出は二人以上でないといけません。諦めてください」

「えー、でもボクまだお風呂入ってないんだよー」

「ダメなものはダメです。どうしてもと言うなら友達と行ってください」

「でももう消灯時間でしょ! 杏は寝ちゃってるし、理那は連絡付かないしさー!」

 

 どうやら連れの人がいないから出られないらしい。あくまで学生である私達は何かあった時のために団体行動を余儀なくされている。

 そういえば私も温泉に行こうとしてるけど誰もいなかった。ここは大人しく諦めて作詞作業でも……

 

「あ、言葉!」

「あれ、暁山さんでしたか」

 

 何かないかと見渡したその視線に捉えられ、一気に駆け寄られる。意外な登場人物に戸惑っていると、そのまま先生の元まで引っ張られて。

 

「これで文句ないでしょ!」

「まあ、烏丸さんとなら……」

「やった! じゃあ言葉、行こっか」

「あの、行くとはどこに「温泉!」」

 

 こうして私は強引に二度目の温泉に向かうこととなった。

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