今回の話で瑞希の性別に関する話が出てきます。
解釈違い等、ご了承ください。
暁山さんの強引さは理那のそれにも似ている。しのごの言わさず相手を振り回す姿は気まぐれな猫にそっくりだった。
「ごめんねー、急に連れ出しちゃってさ」
「いえ、むしろ私も丁度良かったといいますか」
「もしかして言葉も温泉行くところだった?」
「元からそのつもりというわけでは。ただ偶然とはいえ良い機会でした」
先ほどまで眠れなかったこと、一度温泉に行ったはいいものの満喫できなかったことを伝えれば笑って返される。
「あはは、理那ってば相変わらず振り回してるね。まあボクも似たようなものだけど」
「暁山さんの方が落ち着いてると思いますよ。適切な距離感を保っています」
「そうかな。前にスキーウェア選んだ時、結構無理に押しつけちゃったし」
いくらシブヤフェスタやファミレスの一件があったとしても、まだ私達はプライベートな関係ではない。出会いは偶然だったとしても、そのまま勢いで人の服を選ぶのは図々しいと思うだろう。ありがた迷惑とも。
ただ理那の補足もあったし、私にとっては別に悪いことでもなかった。あの時言った事は本心に変わりない。
「理那が言ってましたよ。セレクトショップでアルバイトしてると」
「ああうん。でもそれがどうかしたの?」
「仕事に出来るくらい好きだとも言っていました。なので気に病む必要はありませんよ」
「仕事ってほどじゃないけど……というか理那、人のこと話過ぎでしょ!」
「(でも、そっか。そんな風にフォローしてくれてたんだ)」
今度会ったら注意しなきゃ、とぼやきつつもその顔は静かに笑っている。私自身そこに関して何も思うことはなけれど、相手を納得させるなら信頼している者の情報も合わせて伝えた方がいい。
理那が暁山さんと関わりがなければ出会ったところで何も起きなかっただろうし、こうして一緒に温泉に向かっていないだろう。そういう意味で理那は縁の潤滑油としてとても良い存在となっていた。
「加えてあの時言った事に偽りはありません。嫌なら贈り物であれ使うことはありませんから」
「いやそれもそうだけどさ。その、折角もらったんだし着なきゃなーみたいな事ない?」
「私としてはそんな建前が思い浮かぶ時点で、少なからず感謝の気持ちがあるはずですよ」
「……なんていうか、アニメのザ・委員長って感じだね」
これが俗にいう論破とか正論というものなんだろうけど、それは捉え方次第だ。説き伏せるための文言じゃない。あることないことを考えて気分を悪くしてしまったなら、真っ先にそれは解消すべきだと思っている。何より誤解してほしくなかった。
「それじゃあさ、理那が勝手に引っ張り回してるって噂もあるけど……」
「二人の関係ですか? 勿論一方的な物ではありませんよ」
「じゃあじゃあ、今ボクと一緒に温泉に行ってるのも」
「嫌なら断ってます」
その言葉を聞いて明るい表情を浮かべる暁山さん。ここでようやく誤解が解けたようだ。
「なーんだ! そうならもっと早く呼べばよかったなー!」
「誤解が解けたようで何よりです」
握られた手に引かれて私達は温泉に辿り着く。風呂道具を忘れたので売店で購入しつつ、男女を分ける暖簾の前で解放された。
「じゃあまた後でね!」
「はい、また後ほど──」
そうして暁山さんは脱衣所の方へ消えていく。
「──男湯?」
拭えぬ違和感を抱きながらも、これ以上体が冷えてはいけないと私は女湯の暖簾をくぐった。
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瑞希にとって学校の面々と共同生活なんてまっぴらごめんであった。単位が足りないからと言われても、知ったことかと蹴る予定のところに入った一本の連絡。神高祭と同じように、杏からの誘いが入ったのだ。
準備期間なんて存在しない、その場限りの参加資格。以前と違い他のクラスの面々とも交流を深めていたのも大きい。
スキー場に向かうバスの中では何をしようかと杏と語り合い、期待に胸を膨らませたものだ。しかしいざ到着して見れば裏切るようなの外野の目。事情を知らない観光客ならまだしも、他のクラスも合わせた視線に当てられた瑞希は、わざと出だしを遅らせる。
レンタルに向かう学生の群れを遠目に眺めつつ、ゲレンデの白さに驚いては動画の演出を考えていた。
そうしていれば知り合い全ては先にリフトで上へと登ってしまい、取り残されるのは必然。誰が悪いわけでもない、強いていうなら集団行動ができない自分だと責めた。
ようやく生徒のいなくなったレンタルショップで適当なものを借りて、友人達と合流しようとしたところで意外な影を見つける。リフトの影に潜んでいたのは言葉と寧々。意外な組み合わせかつ二人もこちらを探していたようだったので都合が良いと会話を試みた。
結果としては理那に攫われてしまい碌な会話もできないまま終わってしまう。こればかりは気分屋な少女を呪わずにはいられなかったけれど、スキーが意外にも楽しいことに気付けたのは結果論。
ホテルに戻ってからは荷物をまとめて建物を探索していた。流石に杏とは同室になれず、ルームメイトから逃げるためであることは言うまでもない。杏や彰人、冬弥に理那といった面々の部屋を探してみるも全て空振りに終わり、むしろ先に外に行かれたのは悔やんだ。
そんな感じでお風呂の時間をずらした結果今度は一人では外に出られない始末。ここに関しては偶然通りかかった言葉を捕まえて事無きを得た。ただやはりここでも少し気になってしまうことが一つ。
奏から空っぽという話は聞いていたが、普段からそんなわけはないだろう。最初に気になるのは押し付けがましい自分の態度のことだった。その不安が晴れなければそもそも言葉に踏み込むことすらできない。
しかし本当の意味で気にしていないということがわかるや否や笑って返すしかなかった。それこそ杞憂というもので、どこか意味のない会話であっても彼女という人間が知れた気がする。嫌なことははっきり言ってくれるその姿は、やはり感情のない友人に似ていた。
「う〜ん、いいお湯だった〜♪」
案外お客さんは少なく、心配だった他の学生の姿もなかった為のびのびと堪能できた瑞希は満足して脱衣所を後にする。のびのびしすぎて長風呂になってしまったが、気にすることと言えば言葉を待たせていないか、くらいだった。
スマホで連絡と取ろうとして、待機場にある埋まったマッサージチェアが目につく。言葉が一人、優雅な時間を堪能でしていた。
「(なんていうか、見てるだけならおじさんみたいだね)」
まるで家族サービスの疲れを癒しているその姿は現役女子高生に見えない。理那や冬弥が使用していれば少しは楽しげに見えただろう。
そんな言葉に臆することなく近づき、声を掛ければようやく立ち上がった。
「お待たせ言葉。ちょっと待たせすぎちゃったかな」
「いえ、別に気にしてませんよ。私なりに堪能させてもらいましたから」
本人もそのつもりだったらしく、思わず吹き出しそうになるもなんとか抑える。温泉を後にしながら、他愛のない会話に耽ることにした。
「いやー、意外だったね。まさか言葉のあんな一面が見られるなんて」
「特別変わったことはなかったと思いますが」
力の抜き具合といい、学校生活ではおおよそ見られないであろう景色をばっちり捉えた瑞希は上機嫌。空っぽな少女と言いながらも人間らしいところがある、と親近感を得ていた。
「そういう私も意外でしたよ。瑞希さんがまさか男の人だとは」
「えっ」
そして、彼女もまたある事実に辿り着いていたのであった。