あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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WEEKEND GARAGEへ

 約束の日の夕方。斑鳩さんから教えられた住所を元に、落書き塗れの道のり──名前をビビットストリートという──を進んでいく。

 テレビの情報番組では出ないような場所であり、最初こそ不安に思っていたこともあったけど。

 

「ゴミとかはないから、いい場所みたい」

 

 清潔感のないスラムのような場所かと思いきや、いい意味でこの街のもう一つの顔といった雰囲気。

 表の繁華街とはまた違った賑わいを見せていて、歩き慣れればそれこそ店や品といった掘り出し物が見つかりそうな街だった。

 しかし今は目的が違うのと、散策といった趣味はないため目的地に向かって一直線。

 人生損しているかもしれないが、知らなければ幸と不幸の五分五分。箱の中の猫という物に他ならない。

 

 約束の時間の30分ほど先に指定された住所に辿り着いた。お店で歌っていいか、と聞いていたからライブハウスかと思っていたけど。

 

「飲食店、みたいな場所」

 

 WEEKEND GARAGE。週末の車庫という名前からは想像もできないが一応ライブカフェ&バーのようで、今の時間はカフェらしい。

 しかし外から覗き込むに、アーティスト志向と思われるお客さんが大勢くつろいでいるし、中のライブスペースでは盛り上がりを見せ始めていた。

 

「普段なら絶対に入らないけど、お願いだからね」

 

 こちらが返事をしていないから、同意をしたわけじゃないからと逃げることはできる。

 しかしそうしたところで彼女から逃げられる気がしなかった。気分屋の思考がこちらに傾いている時点で、しつこく問い詰められる可能性も高い。

 

「考えても仕方ないよね」

 

 流れに身を任せるように扉を開く。最初に耳にしたのは入店を知らせるベルの音、そして音響。誰かが今まさにライブスペースで歌っているようだった。

 ベージュの髪を二つ結びにした小柄な少女が、見た目に似合わぬパンクな衣装に身を包み、楽しそうながらも真剣に歌っている。

 その隣では見たことのある子が共に歌い上げている。二人で一人、可愛げのある容姿とは違う迫真のデュエットにお客さんは耳を傾けていた。

 

「いらっしゃいお嬢さん。この店は初めてかな」

「あ、はい。そうですね。友達との待ち合わせで」

「そうか。それなら好きなところに座っていい。注文は後で聞くよ」

「いえ、紅茶があればそちらを。種類はおすすめでお願いします」

「わかった」

 

 うっすらと髭を蓄えた壮年男性がカウンターから声を掛けられる。どうやら客と話していたようだが、他に店員らしい姿はなく話を切り上げていた。なんだか申し訳ない。

 少ないテーブルを独占するわけにもいかず、まばらに空いたカウンター席へと足を運ぶ。

 メニューにサッと目を通し、カフェらしくコーヒーや紅茶といった飲み物が並んでいることに安堵した。

 注文しないまま席を利用するのも忍びないし、開口一番の注文だったけど大丈夫だったらしい。

 

 場所取りのために上着が置かれた座席の隣。今歌っているであろう少女の席の隣に腰掛けて、注文を待つ。

 ライブスペースからは今も少女達の歌声が響いていたが、私は特に見ることもなく待ちぼうけ。

 曲は、バーチャルシンガーの曲だろう。それも二人で歌うならもってこいの鏡音リン・レンの曲だ。

 

「(それにしても白石さん、歌上手いな)」

 

 理那とあの少女を比べると、というのは無粋だけどおそらく10人中10人が少女を選ぶだろう。

 歌唱力もさることながら、曲をものにしていると言っていい。ノリもアレンジも思い通りに乗りこなしていた。

 

 今歌っている二人の内の一人は神高の生徒であり、クラスを跨いでも有名な存在の白石(しらいし) (あん)その人だ。

 風紀委員に属しているものの、派手な風貌と長い黒髪に紺の裾カラーが特徴的。そして見た目通りの明るく、歯に衣着せぬ性格から人気も高い。

 神高という自由な雰囲気がよく現れた生徒だと思った。

 

「お待ちどう。ご注文の紅茶だ」

「ありがとうございます」

「ああ、ごゆっくり」

 

 程なくして出てきた香りで思考を止めてお礼を述べる。添えられた砂糖に目もくれず、一口。なるほど、カフェというだけあってかなりの物らしい。

 お客さんの大半はコーヒーを嗜んでいるので少し心配ではあったけれど、こちらも相応に力が入っているようだ。

 斑鳩さんには後でお礼を言わないといけない。素敵なお店を教えてくれてありがと──

 

「こんばんわー、やってまーすか!」

 

 勢いよく開かれた扉と聞きなれた声。二人の少女の歌声を掻き乱すほどの声量に、思わず口をつけたカップを離す。前言撤回、雰囲気がぶち壊しだ。

 例えるならカラオケで自分が曲を歌う時に店員が入ってくるようなものである。

 

「よう理那、今日は随分上機嫌じゃないか。何かいいことでもあったのか?」

「それは聞いてのお楽しみ。それよりおじ様、いつもので!」

「はいはい。すぐ出来るから大人しくしてるんだぞ」

 

 壮年男性相手におじ様、というのは中々に肝の座った発言だが彼は気にしていないようだ。いや、むしろ否定するのを諦めたようにも見える。

 いつもの、で注文が通るほど通い詰めているのだろうか。

 

「あれ、委員長じゃん。もう来てたの?」

「うん、誘ってもらったからには遅れるわけにもいかないからね」

「相変わらず真面目だなー。ま、いいや。隣座るね」

 

 座る席を探す最中に見つけたのだろう。すぐに斑鳩さんは私の隣を確保すると席にどっかりと座った。

 服装は随分とラフかつ派手なもので、この店や通りの雰囲気にマッチしている。

 ひとまず合流できたことに安堵しながら、私はカップの中身に口をつけるのであった。

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