あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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WEEKEND GARAGEにて

「斑鳩さんはここによく来てるの?」

「うん。昔からの常連かな。お父さんとよく来てるんだー」

「お父さん……ミュージシャンか何かなの?」

「ううん、外科医だよ。でもここのコーヒーが美味しいからって通い詰めてるの」

 

 意外な役職の登場に驚きつつも、彼女の勉強嫌いからみるに継げなさそうだなとも思ってしまう。

 それでも二人でよく来ているとなると、仲が悪い訳でもないようだ。

 

「理那の親父さんは外科医でも有名人だからな。贔屓してもらってありがたい限りさ」

「それはおじ様と杏の腕がいいからでしょ?」

「いやー、そう言ってもらえると嬉しいね」

「あっ、杏。お疲れ〜」

 

 そんな話をしていると、いつの間にか白石さんがそばまで来ていた。どうやら歌い終わったみたいで、隣には一緒に歌っていた少女も添えられている。

 歌っていた時とは打って変わって小動物のような雰囲気だ。

 

「理那ちゃん、今日は歌っていくの?」

「うん、しかも新曲だからこはねも楽しみにしててね?」

「へえ、新曲かー。何歌うの? バーチャルシンガーの曲?」

「いやいや、オリジナルだよオリジナル」

 

 どうやら斑鳩さんとは知り合いのようで気兼ねなく話している。今日は、という言葉からおそらく何度もここで会っているのだろう。

 新曲という響きに白石さんの興味も向いていたが、やがて見慣れぬ私の方へと向けられた。

 

「ところで、隣の子は? さっき話してるみたいだったけど」

「あ、私のクラスの委員長。名前は……あー、委員長って呼び過ぎて忘れちゃったな」

「烏丸言葉です。よろしくお願いしますね」

「うわ、すっごい真面目じゃん! 私は白石杏、クラスは1-Aなんだ。よろしくね。それでこっちが私の相棒のー」

「あの、えっと、小豆沢こはねです。よろしくお願いします!」

 

 相棒。なるほど、そう言われれば先ほどの歌も頷ける。お互い引けを取らない実力だったことはここの店の賑わいを見ればわかった。

 斑鳩さんの声で掻き乱されたとはいえ、二人を讃える声は今も響いている。

 

「理那、まだ時間が掛かるから一曲くらい歌ってきたらどうだ」

「うへー、Vividsの後かー。こりゃ荷が重いなあ」

「そんなこと言って、歌う気満々なんでしょ?」

「あ、バレた? こはねちゃんも頑張ってたし、私も頑張らないとって思ってたんだよね」

 

 通い詰めてるだけあってもう一つの家族のように接している斑鳩さんは、意気揚々とライブスペースに足を運んだ。

 

「お、今度は理那ちゃんか、今日は何を聞かせてくれるんだい?」

「オリジナル! 楽しみにしててね」

「へえ、オリジナルか。曲も作れたのかい」

「私はさっぱり。でも作ってくれた人がいたんだー」

 

 飛び交う声に期待を抱かせつつも手を動かす彼女。

 その眼差しは今まで見たことがないくらい真剣な物で、今までも必死に打ち込んできたというのがわかる。お調子者な普段の姿とは大違いだ。

 

「それじゃあ、しっかり付いてきてね!」

 

 静かな始まりから鍵盤の音色が奏られる。簡素な演奏だからこそ彼女の声がよく響いた。

 肉声という厚みのある音源で形になっていく私の音楽。それに。

 

「──♪ ───!」「──♪ ───♪」

「へえ、カイトさんも使ってるんだ」

「一緒に歌ってるからなのかな。理那ちゃん楽しそう」

 

 しかもご丁寧なことにデモで使ったKAITOのボーカルをコーラスとして起用することで、混声合唱みたいな響きを実現している。

 音程を完璧に歌い上げるバーチャル・シンガーに対して、自分はノリに特化した歌声。

 歌詞も彼女のまっすぐな性格が助けてマッチしているようにも聞こえた。

 

「──♪」

 

 歌い終えた彼女を拍手が上がる。喝采ほどではないものの賞賛の声が上がっていた。

 

「ありがとー。いやー久々に半分くらいは乗れたね。ありがとう委員長」

「半分くらい? 今ので全部じゃなかったの?」

「あはは、やり過ぎたらカイトの声潰しちゃうからさ。その辺りは考えてるよー」

「なるほどね」

 

 声がクラス全員をもかき消すことは知っている。そこに拡声器が合わさればいかにバーチャルシンガーといえど危ういだろう。

 しかし、それ故の喝采がない。この場にいる人は手を抜いていることを知っていた。

 

「理那の場合は今まで乗れてなかったからよかった方だ。何があったか知らないが」

「あー、なんでだろ……」

 

 自分の席に戻り出来上がったコーヒーを受け取っている。彼女の答えもまだ探り探りであった。

 しかしポツポツと答えを紡いでいる。

 

「いつもは一人だけどカイトの声もあったし、この曲も半分くらい? は私のための曲だしさ」

「もしかして今まで一人だったから調子出なかったってこと?」

「うん。ひとりぼっちは寂しいからさ。誰と一緒にいて欲しかったのかな」

「えー、じゃあ私達は仲間じゃないわけ?」

「そうじゃないけど基本的にライバルじゃん」

 

 確かに、一人だけで何か努力するというのは虚しいものだ。競い合える相手も欲しいところだけれど、それだけでは心の支えとは言い難い。

 

「だからまあ、杏にとってのこはねちゃんじゃないけど、委員長が助けてくれて嬉しかったよ」

「確かに一緒に歌うだけが相棒、ってわけじゃないからな」

「え、じゃあ言葉さんがさっきの曲作ったの!? 凄いじゃん!」

「いえそれほどでもないです」

「作曲できるなんて凄いなあ、一歌ちゃんみたい」

 

 私に向けても称賛の声が飛んでくるが、別に凄いことじゃない。

 それにこの感想も斑鳩さんとKAITOの歌あってこそのものだから、私だけが受けるのは間違っていると思う。

 

「それじゃあ理那はこれから言葉さんと一緒に組むんだ」

「あえ? いや、そう出来たら万々歳だけど、そういう約束してないしなー……」

 

 チラチラと期待を込めた視線を向けらる。

 いつもなら逃れることもできただろうけど、今日は彼女のホームに周囲の視線も合わさって完全にアウェーの状態だった。

 ここでNOと言えるのであれば、それはとんだ天然か自我の強い人間だけだろう。そして私はそのどちらでもなかった。

 

「……まあ、別に困ることでもないけど」

「やったー! ありがとう委員長!」

「むぎゅ」

 

 望む答えが得られたのかボディーランゲージで喜びを表してくる。

 なお文系の私にとって見るからに運動系な彼女の力は過剰であり、抱きしめられている間は好感度が下がっていたことをここに記しておく。

 

 そんな形で、私達はなし崩し的にユニットを組むこととなったのだった。




次回でプロローグは終わりです。
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