あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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シブフェス編。もといシブヤフェスタ。
2周年記念イベント「この祭に夕闇色も」のお話になります。

リメイクにあたり、時間軸がかなり前倒しになっていますがお願いいたします。


シブヤフェスタに行こう

 

 コンビ──正確にはユニットを組んで、名前もできた。

 発信する媒体はとりあえずネットにする。今や有象無象のアーティストが溢れる電脳世界で投稿したところで、最初はいい隠れ蓑になるだろう。

 初めは私のアカウントで投稿しようかとも思ったけど「折角なんだしユニットのアカウントも作ろうよ」ということで新設することに。

 なお、投稿すべき楽曲はまだない。

 

「さて、これからどうしようかな」

 

 ユニットとして活動するなら曲作りからだけど、方向性を決めていないのでジャンルは未定。

 ただ、歌い切った後の彼女が全力を出せていなかったのは事実。ならそれに耐えられるような曲を作るのが当面の目標になるだろう。

 作り手や歌い手より、聞き手の方が感性が優れているというのはよくあることだ。ただ、それを言葉に出せるかは別問題だけど。

 

「とりあえず、もう一曲似たようなのを作ろうかな」

 

 理那が「歌わせて」と言った前向きな歌詞をもう一度。

 それも今度はWEEKEND GARAGEで聞いた二人の楽曲のような、逆境に対して強くいられるものを。

 

 

 

──神山高校、昼休み、屋上

 

「それで、次の曲を考えてきてくれたんだ」

「うん。理那の好みに合うかどうかは分からないけど」

 

 重厚なサウンドで理那の声に負けないものに仕上げてみた。リズムもわかりやすいからノリやすいとも思う。

 一通り聴き終えた彼女はヘッドホンを外し、うんうんと咀嚼するように首を縦に振った。

 

「なるほどね。さては杏とこはねちゃんに影響されたなー?」

「影響、ってほどじゃないけど参考にはしたかな。こういう曲の方が理那の声に合ってると思うから」

「それはすっごく言われる。よく通る声してるんだからってね」

 

 元よりあそこはクラブハウスが多く、フロアを沸かせるためにテクノやハウス、EDMなどを中心に据えたミュージシャンが多いらしい。無論RAD WEEKENDでも例外ではないらしい。

 

「あそこで音楽やってたら結構歌うけどさ。私は乗れないんだよね」

「それはどうして?」

「まあ、こっちにも色々あるんだ。とりあえず、それがどうにか出来るまでそういう系はなしでお願い」

「分かった」

 

 おそらく、彼女の身の上に関係する話だとは思う。今も少し遠い目をしているから総じて過去に音楽で何かあったのは間違いない。

 それでも彼女が言いたく無いなら追求する必要はないだろう。そこまで親睦を深めた中でも、過去から付き合う幼馴染でもないんだから。

 

「だから前みたいに素直に誰かを応援するみたいな曲とかの方が、しっくりくるんだよね」

「なら、その方向で大丈夫?」

「うん。あ、でも今日みたいにはい完成品、ってしないでね。私も意見したいからさ」

「わかった。あ、でも前と同じメロディーとかになるかも……」

 

 歌うのは理那だから彼女の想いを尊重したい。しかし似た曲をもう一つ作るとなると方向性が似通ってしまう可能性が高かった。

 正直、自分のインプットの少なさには絶望するしかない。

 

「んー、それならシブフェスに行くのはどう?」

「シブフェスって確かセンター街の?」

「そうそう! 色んなアーティストとかも参加するらしいしさ、いい刺激になるかもしれないじゃん?」

 

 シブフェス。今年初めて開催される今までにない規模のお祭りだ。

 主催はどこか知らないけれど、芸術家支援という側面が強く、絵画やモニュメントの展覧会もあるらしい。

 後は乃々木公園に野外ステージが設営され様々なアーティストがパフォーマンスをするらしい。

 なお一般公募枠があり申し込みすれば参加できなくもないけれど。

 

「(まだ曲が出来てないし、活動方針も曖昧だからね)」

 

 今回は曲作りの為の参考にさせてもらおう。

 それに直感で私の音楽を見抜いた子の言うことだ。それ以外の何かがあると信じる価値は十分にある。

 

「そうだね。なら一緒に……あ、でも理那だったら他に誘ってくる友達も多いんじゃない?」

「そこは言葉とデートするって言っとけば大丈夫だよ。それに、私もちょっと試したいことがあってさ」

「試したいこと?」

「うん。何するかはその日になってからのお楽しみ〜」

 

 冗談を交えながら口にする彼女は、いつもどおりのお調子者だった。

 何か良からぬことを考えているようだが、まあ変人ワンツーフィニッシュの二人に比べればまだマシな方だろう。

 こうして私達は、シブフェスに観客として参加することになったのだった。

 

 

 

 家に帰ってひとまずイベントについて下調べ。出演者について調べておけば注目すべき相手も見つかるかもしれない。

 

「えっと、最初に出るのは『MORE MORE JUMP!』アイドルなんだね」

 

 ネット活動を主にしているアイドルで、曰くMC一押しらしい。

 シブヤのイベントとはいえまだご当地のお祭りに近いこのイベントに出るあたり、まだ駆け出しか営業途中なのかどちらなのだろう。

 四人のうち三人は元アイドルであり、かなりの知名度を誇ってたらしい。その辺りはサーチしたことも聞いたこともなかったので全く知らない。

 

「それ以外だと目ぼしいのは、ワンダーランズ×ショウタイムかな」

 

 協賛枠の目玉として据えられた、フェニックスワンダーランドでもかなりの知名度を誇るショーユニット。

 確か神高の生徒も何人かが参加しているとかなんとか聞いたことがある。

 動画サイトでも時折おすすめとしてナイトショーの切り抜きが上がってくることもあった。一通り目を通しているけどあくまで参考資料としてまでだ。

 それ以外は名前も聞いたことのないユニットばかり。作詞と作曲でインドアを極めたのが裏目に出ている。

 

「言葉ちゃん、入るわよ?」

「あ、はい。どうぞ」

 

 ふと扉をノックされ叔母さんが入ってくる。お盆の上には湯気が上るカップとマドレーヌが数個乗っていた。

 

「作業ばっかりだと効率悪いから、って思ったんだけど……あら? シブフェスじゃない」

「ありがとう叔母さん。はい、友達に誘われたから行ってみようかなって」

「あらあらまあまあ、それは良かったわ。あ、晩御飯はいらないかしら?」

「そこまで遅くはならないと思います。その時は連絡するので」

 

 そういえば二人に伝えていなかったな、とお盆を受け取りながら思う。しかし心配する必要はなかったらしい。

 彼女は終始嬉しそうにしながら部屋を去っていく。

 ひとまず思考がリセットされたので、差し入れの紅茶とお菓子を頂くことにした。

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