あなたに歌を、そしてセカイを   作:kasyopa

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シブヤフェスタ、スタート

 そうして約束の日。時間になっても理那は駅前の集合場所に現れなかった。

 気になって連絡を取ろうと試みるも、そもそも連絡先を交換していないことに気付く。

 割と早い時間に来たから今はいいものの、これからはどんどん人が増えてしまう為あまり良くない。

 

「迷ったのかな」

 

 五分、十分と待ち続けてみても姿が見えない。いつもと違う交通状況で予定が狂ったのだろうか。

 電車やバスの遅延状況を調べても問題はなかった。

 いやお祭り女とも言える彼女のことだから、場合によっては先に野外ステージに行っている可能性もある。

 

「確かもうすぐステージが始まるんだっけ」

 

 案内所から拝借したチラシを見るに、最初のMORE MORE JUMP! の出番がもうすぐだ。楽しみかと言われるとそうでもないが、参考という意味では逃すのは惜しい。

 駅前ということもあり見るからに観光目的の人達も増えてきて混雑し始めていた。このままでは集合場所に理那が来たとしても私を見つけられる可能性は低い。

 

「なら、まだステージの方がいいよね」

 

 伝言を残す術もないけれど、あれだけ存在感のある彼女であれば見つけるのは容易いだろう。それに遅れた彼女側にも責がある。

 人混みに埋もれる前にステージへ向けて歩を進めた。歩行者天国と化した車道を辿り、乃々木公園の入り口に差し掛かったところで。

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

 女子高校生、それも同年代と思わしき子達がビラ配りをしていた。四人いる中でも一段と声が大きいのは、赤の袖カラーの金髪を二つに結んだ少女。

 持ち前の明るさを生かして笑顔も一緒に振り撒いていた。他の三人は落ち着いており、テキパキと手渡している。

 

「Leo/needです! 今日の午後に演奏するので、もし良かったら」

 

 最も身長の高い子が差し出してくる。断る理由もないので受け取り一見。紺色を基調とした夜空を切り抜く一枚。可愛らしいイラストの横には非常にインパクトの強い──

 

「これって、もしかしてライオンのイラストですか?」

「えっ!? あ、はいそうなんです! バンド名がLeo/needなのでそこから」

「ああ、やっぱりそうなんですね。こういった創意工夫はとてもいいと思います」

 

 ふと尋ねてみれば予想通り、しかしあちらからすれば予想外だったらしく嬉しそうに由来まで教えてくれた。

 確かに一見すれば、幼稚園児がクレヨンで描いたような線の荒さや動物とは思えない形状から想像するのは難しい。

 しかしバンド名を活かさずしてなんとなる。それにこれがライオンだとわからなくても、人の記憶には残るだろう。

 

「おお〜、初めてでほなちゃんの絵を見抜くなんて凄い!」

「さ、咲希ちゃん……!」

「いえ、私は別に。バンド名から推測しただけですよ」

 

 彼女の嬉しさが伝播したのかすぐに金髪の子も寄ってくる。どうやら話すぎたらしい。

 

「確か午後(いち)、でしたね。楽しみにしてます」

 

 ひとまず彼女達の邪魔になっても悪いので足速にその場を離れ、ステージ前へとやってきた。

 既に人が集まっているが鮨詰め状態というわけでもない。しかし理那と思わしき姿はどこにもなかった。

 

「まあ、でもライブが始まったら釣られて出てくるかもね」

 

 人探しに意識が移っているうちにステージ上では五人の少女の姿があった。一人はMC担当の人だろう。後はオープニングを彩る、MORE MORE JUMP! のメンバー。

 生で見るアイドルは、なんというか生気の塊だ。場のボルテージを高める発火材として彼女達ほど優れた人達はいないだろう。

 

「♪──────!」

 

 明るく、楽しく、元気に。アイドルとはそういうものだけれど彼女達からはもっと別の、何か特別な想いを感じる気がする。

 その一体感が木霊して場に光をもたらしてくれていた。ただ、その光が私にとっては眩しすぎるようにも見える。

 

 あくまで参考資料としてのスタイルを崩さず、私は歌に耳を傾けているのであった。

 

 

 

『ありがとうございました!』

 

 曲に集中していたらいつの間にか終わっていた。どうやらタイムテーブル的にも数曲で交代らしい。

 しかし注目のアイドルユニットというだけあって通行人も引き込み、観客が倍以上に増えていた。

 ここまで人が増えると逆に人探しも苦労しそうなので、一度集合場所へと戻ることにしよう。

 

「あの、写真いいですか!」

「視線こっちにお願いしまーす!」

 

 そんな駅前のそばに人集りが出来ている。多くの人が中心へ向けてカメラやスマホを向けていた。

 男女問わず撮影しているが比率としては男性が多い。おそらく女キャラクターだろうと視線を向けてみると。

 

「へえ、凄いクオリティ」

 

 本人と見紛えるほどの巡音ルカがそこにいた。衣装の露出は高く、特に忠実なパレオのような部分は深くスリットが入っている。

 モデルの発達がいいのか詰め物をしているのか、本来デザイナーには求められなかった色気が数割増しになっていた。

 表情はクールに、しかしその青い瞳は何か遠くを見つめていた。

 

「(あの目、どこかで見たことあるような)」

 

 吸い寄せられるように見つめていると、こちらに気付いたのか視線がぶつかった。

 

「あ、言葉!」

「えっ、理那?」

 

 聞いたことのある声と共にその目は確かに私を見つめ、駆け寄ってくる。シャッターを切るカメラマンなどお構いなしだ。

 

「あ、時間になったんで撮影終わりでーす! ありがとうございましたー!」

 

 先ほどまでのクールな雰囲気はどこへやら、周りの群衆への塩対応である。最初は渋っていた撮影者もやがて彼女の意思を尊重し散っていった。

 

「酷いよ言葉、折角コスプレして驚かせようとしたのに、どこにもいないんだから!」

「それは理那が遅れたからでしょ。それより、さっきの人達はいいの?」

「別に。待ってる間だけなら、って撮らせてあげてただけだから」

 

 数歩下がって私に全身を見せつけてくる。なるほど、彼女のスタイルや顔の良さも相まってそっくりだ。口さえ開かなければ。

 シブフェスの宣伝にもミク達バーチャル・シンガーが使われていたし、コスプレの一つや二つあるだろう。特にこのシブヤならハロウィンの影響もあるしおかしいことはない。

 

「とりあえず合流出来たし、一緒に見て回らない?」

「それはいいけど、着替えた方がいいと思うよ」

 

 完成度の高いコスプレだからかやはり人の視線を貰ってしまう。プライベートで注目されるのは流石に勘弁だ。

 

「あー! ルカお姉さんがいるー!」

「コラえむ! 急に大声を出すんじゃな……うおっ!」

「ちょっと司まで大きな声出さないで……えっ!」

「これはこれは、中々のコスプレだねえ」

 

 周囲の注目をかき分けてる少女とそれを止めるべく現れた一人の青年。そして後を追うように二人が追加される。

 この中で私がよく知っているのは。

 

「どうも天馬先輩、驚かせてしまってすみません」

「ああ、隣にいるのは烏丸か。委員会でしか話したことはなかったが、奇遇だな」

「はい、本当に」

 

 神山高校が誇る変人ワンツーフィニッシュの一人、天馬(てんま)(つかさ)その人だった。

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