駅前に集う神高生徒。その中で私がよく知るのは2年A組の学級委員長、天馬司先輩である。
当然、よく知るというのは人柄をこの目で確かめている、という意味であり内面までは知らないのだけれど。
自らをスターと称し、今まさに隣にいる
二人まとめて見られがちだが、大体天馬先輩が巻き込まれていることが多い。それでも毎度騒ぎになっている辺り、彼も人がいいのか悪いのか。
それでも、委員会では潤滑油……というより出る杭みたいに見られてる。それでも退屈する人はいない。
「ねえねえ、お姉さんはルカお姉さんとお友達なの?」
「そうだよお嬢ちゃん。私の名前は斑鳩理那、よろしくね」
「はい! あたしは
目の前の存在に思考を裂いているとピンク髪の少女が詰め寄ってきた。
先の様子からするに天馬先輩の知り合いとみるが、この積極性たるや彼以上の物を感じる。流石にここまで近いと勘弁。
割って入った理那が自己紹介まで一気に持っていってくれたが、目の輝かせ具合から彼女の攻勢は止まらないだろう。
「でも、ルカ
「ひえっ!? そそそ、それは……」
彼女は機転を効かせたジョークで主導権を取ろうと試みる。しかしどうしたことか、図星と言わんばかりに慌て始めてしまった。
理那の顔を見るに笑顔だけれど、どこか腹黒さを感じるようなもの。もしかして、ジョークじゃなくて本気で……?
「ルカさんはミクくんやレンくんに比べれば年上だから、えむくんも親しみを込めてお姉さんと呼んでいるんだよ」
「そ、そーなんです! お姉さんみたいにフワフワポワポワーってしてるので!」
そこにすかさず援護を出したのは意外にも神代先輩である。
確かにルカは20歳という公式設定があり、性格も落ち着きがあってバーチャルシンガー先駆者の中でも『姉』は最早彼女の愛称と言ってもおかしくない。
「あはは、そうだよね。私も欲しかったなー、ルカみたいなお姉さん」
「理那は一人っ子なんだっけ」
「うん。そのお蔭でお父さんには自由にさせてもらってるけどね」
先ほどまでのは冗談だったのかと見紛うほど、興味を失ったように普通の笑顔を浮かべていた。
「ごめんね、えむちゃん。あんまり可愛いからからかっちゃった。お詫びにお姉さんが何か屋台で奢ってあげよう」
「えっ、いいの? やったー! じゃあじゃあ、何にしよっかなー」
「お姉さんって言っても、烏丸さんと同じクラスなら同じ歳だと思うけど」
「? 私のことをご存知なんですか?」
二人で盛り上がる中、一人ため息をつく灰色がかった緑髪の少女。ふと私の苗字が聞こえた気がして聞き返してしまう。
「え、あっ、ごめんなさい。有名だったから、つい」
「毎日欠かさず朝一で登校し、クラス委員長を務める品行方正な生徒だ。僕達、というより先生達の中で有名かな」
「ああ、次期生徒会長最有力候補とも声が高い。まあ、会長を務めるのはオレだろうがな! はーっはっはっは!」
流石、ドローンで生徒の動向を監視していると噂されているだけある神代先輩の情報網だ。
と思いつつそもそも私は噂にまったく興味がないため、疎いだけと言ってしまえばそこまで。
しかしせっかく知ってもらえているのなら、ここで縁を作っておくのもやぶさかではない。
「では私も理那に続いて自己紹介を。1年C組で委員長をさせて頂いている、烏丸言葉と言います。以後、よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。僕は神代類、よろしく頼むよ」
「えっと、
「神代先輩に草薙さん、ですね。覚えました」
「そして何を隠そうこのオレが「司くーん! 寧々ちゃーん! 類くーん! 早くしないと売り切れちゃうよー!」」
「言葉もー! 一緒にデートって言ったよねー!」
気がつけば点のようになっている二人組。それでも互いの声が届くのは、よほど通るのか大きいからなのか。
ただ天馬先輩の声を遮るのはナイスカットと思いたい。
「おいお前達! 人が名乗る邪魔をするんじゃない!」
「でも、お約束みたいなものでしょ」
「私達も行きましょう。迷うことはないでしょうが、置いていかれますから」
「ああ……しかし何故だろうか、烏丸の友人がそばにいるのに不安しかないぞ」
こうして、なし崩し的に私達は行動を共にするのであった。
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センター街に近づけば自ずと屋台が増えてくる。しかし同様に彫刻などのモニュメントも散見され、理由を神代先輩が天馬先輩に説明していた。
ついでにストリートピアノまで置いてあるが、誰も触る気配はない。
一方で私は……
「なるほど、では草薙さん達がワンダーランズ×ショウタイムなんですね」
「うん。今日は協賛枠で呼ばれてて、良かったらみて行ってくれると嬉しいな」
「はい。動画でショーの盛況ぶりは存じてますから、期待してますね」
特に話すこともないので彼女達がシブフェスに訪れた理由を尋ねていた。
私はただの参加者だけれど彼女達は出演者。神代先輩が背負う荷物もショーのための道具らしい。
「烏丸さんは何かやってるの?」
「私は特に」
「なーに言ってんのさ。私の為に曲書いてくれてるでしょ」
「えへへ〜、いっぱい買ってもらっちゃった♪」
理那が呆れ口調で戻ってくるが、プロとして活躍している彼女達に比べれば何もやっていないのと同じだ。
それはそれとして無数の食べ物やお菓子を抱えていては示しがつかなかった。果てにはルカのお面まで。
ちなみに鳳さんも持っているものは変わりない。一部を他の皆に分け与えている。
「バーチャル・シンガーのお面まで……それにルカって、完全になり切るつもり?」
「いいのいいの。こういうのは楽しむのが一番なんだから。はい、言葉にはカイトのお面ねー」
「まあ、うん。ありがとう」
差し出されたのはよりにもよってカイト。まあ、自分が使っているのだからそれはそうかと受け取った。
「少し意外。烏丸さんって噂通りだと真面目なイメージがあったから、こういう騒がしいのは嫌いかと思ってた」
「私も普段はこういう場所には来ませんよ。理那が誘ってくれたんです」
「あ、そうなんだ。なんていうか……ううん、なんでもない」
お互いの顔を見つめながら、何か言いたげな表情を浮かべる彼女。しかし口にする勇気がないのか噤んでしまった。
「ん? 私みたいな不真面目な生徒と一緒なのが珍しいって?」
「あ、えっと……そういうのじゃなくて」
「あはは、ごめんごめん。でもそうだよね。最近クラスでも『どういう繋がりで〜』って噂になってるもん」
「そうなの?」
「そうだよ。言葉は周りを気にしなさすぎ」
先ほど同じ、まるで人の心が読めるように草薙さんとの会話に割ってくる。お陰で彼女は俯いてしまったが即座の謝罪でなんとか持ち直した。
まあ、普通なら経緯すら聞いても不明だろう。曲の作り手と歌い手による二人のユニットだなんて説明しても、そこに至る道のりがないのだから。
「あの、すみません。写真撮らせてもらってもいいですか?」
「ん? あー、今はちょっと」
「そう言わずに!」
と、そんな会話の中に飛び込んでくる一般客。大層なカメラを持っているが服装や態度から一般客だと予想出来る。
「仕方ないなー、一枚だけですよ?」
「ありがとうございます!」
「あの、私もいいですか?」
「私も私も!」
そんな一人を皮切りに、理那を狙っていたのか瞬く間に群衆が再形成されようとしていた。このままでは一緒に回ることは難しい。
「わわっ! 理那さん囲まれちゃったよ!?」
「瞬く間に人気者、といったところだけれど」
「すみません。ご迷惑をかけてしまうかもしれませんし、皆さんは先に行ってくださいませんか?」
「むう、しかし……」
「私のことは大丈夫ですよー。その気になれば逃げられるんで!」
「なら大丈夫、なのかな」
先の鳳さんと見せた行動力は三人にとっても周知の事実。実際に逃げそうなのが怖いところだ。
「じゃあ理那さん! ショー絶対に見に来てね!」
「うん約束! 楽しみにしてるからねー!」
お互いが望まぬ形ではあるけれど、こうして私達はワンダーランズ×ショウタイムと別れるのであった。