ある支部の最期   作:シコウ

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ある支部の最期

 「ついにお出でなすったねぇ…。」

 

 こちらヘ走ってくる人の群れを覗いていた双眼鏡を下ろしつつ、ため息をつく。新型感染症が流行っているのに外を出歩いちゃ駄目でしょうよ。でも非感染者は自宅などに引きこもっているか、避難したからいいか。

 この頃外にいるのは大抵、死後再起性症候群の感染者…まあ早い話がゾンビだ。

 

 発症後の致死率100パーセント、回復例は未だなし。鼓動をとっくに止め、腐臭と腐肉を撒き散らし、たとえ心臓を破壊しようとも上半身と下半身が泣き別れしようとも、脳を破壊しない限り彼らは自分たちの仲間を増やそうと、そして空腹を満たそうと人間を求め動き続ける。

 

 僅か1週間も経たず首都東京は死都へと変貌した。電気、ガス、水道のインフラは残っている地区もあるもののそれ以外は壊滅状態だ。

 

 行政機構はその機能を失い、治安の維持すらできていない。警察?消防?必死の抵抗も虚しく騒動の初期にとっくに機能を止め、今では散発的な活動をするのみ。治安出動命令が出たときにはもう手遅れ、政府は東京、いや関東エリアを捨て脱出したそうだ。

 

 救助など望めないだろうから、なんとか防衛線が張られている東京の端、八王子まで脱出しその先の山梨、関東本部まで行きたいところだが、外はご覧の有様、それでも一般市民に比べれば我々は遥かに恵まれているだろう。

 

 奴らは肉体のリミッターが外れているのか、動きこそ遅いものの、掴まれたが最期いとも簡単に人間をまるで蟹のように解体する怪力をもつ。奴ら1体を安全に処理するには3人は欲しいところだ。2人が槍か刺又で取り押さえ、残る1人がトドメを刺す、これが理想。しかし10体単位に囲まれて同じことができるか?…答えはNoだ。

 

 一般人は、金属バットやらバールに木刀で果敢にも奴らに挑み何体かを倒す、人口密度の低い地方ならそれでいいだろう。しかしここは東京、戦闘音を聞きつけた奴らの仲間が大集合、結局数の暴力にすり潰され、引き千切られ、食い散らかされ、お仲間入りしている。

 

 しかし幸いにも我が831支部には食糧、銃器弾薬の備蓄が豊富にあった、さすがに長物(ライフル)が欲しいというのは贅沢か。拳銃は有効射程と命中精度が低い。どうしても射程数メートルから10数メートル程度のサーベルといった使い方になってしまう。

 

 「まーた、大量に来たね。」

 

 隣で借りたライフル(89式小銃)を構え、そう背後の爆音に負けないよう叫んだのは、いつもの制服…ではなく陸自の迷彩服に身を包んだリコリスだ。女子高生が銃を持っていると避難民への説明がややこしいので、服を貸してもらったそうだ。

 

 「ボクもライフルがよかったな~。」

 

 『森の人』と警官用拳銃(ニューナンブM60)DA制式拳銃(グロック17)ではちと火力に不安がある。まあ、弾だけは大量にあるからいいんだけどねぇ。

 

 「無いものは無いのよ。二丁拳銃でもしたらどう?」

 

 「やめとくよ、弾の無駄だ。」

 

 そう言って煙草に火をつける。ゲホッ、こんな有害物質よく吸えるな。

 

 「あれ、つっきーいつもの(ココアシガレット)は?」

 

 「子供たちにあげちゃった。あと臭い消しにね。」

 

 このところ風呂に入っていないもので、臭いの元がゾンビだか自分だか分からない、まあ両方か。

 

 さて、この避難所から最後の救助ヘリ(チヌーク)が飛び立つまでゾンビ共を食い止めねば。玉砕しなければまたヘリで迎えに来てくれるそうだ。かなり怪しいが。殿にリコリスとはね、彼女たちは無戸籍(員数外)だから失っても惜しくないというわけか、

 

 「つっきー逃げないの?」

 

 手は多いほうがいいだろう?それにボクは831支部の管理人だ、初動対応で散ったリコリスの仇は取らねばならない。…さて、せいぜい最期まで足掻くとしますかね。




小説版にゾンビ回があったので…リコリコ成分がかなり薄くなってしまいました。
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