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――〈渓流森林〉エリア5――
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マルゼンスキーにより、トビカガチは討伐された。
「す、すごい……」
「なんなの……その人……」
アイリスとリコリスが震え上がっている。
プロのハンターである彼女たちだからこそ、マルゼンの成したことの異様さが分かるのか。
その顔は、あまりの達人芸に怖気が走った同業者のものだ。
「お待たせー、タマちゃんにオグリちゃん。遅くなってごめんねー、大変だったでしょ?」
マルゼンが剣を鞘に収めて、タマとオグリに手を合わせてみせる。
「ああいや、それはええんですけど……」
「マルゼンさんは、どうしてここに……」
思わず敬語になったタマとオグリは、東側が騒々しくなっていることに気付いた。
何か巨大なものが、木々を割って近付いてくる。
まるで山上からの巨大落石が迫ってくるかのような――
「あ、ごめん。
かくして、巨大落石のような気配の正体が、姿を現した。
『――ッッッッッ!!』
見覚えのある、飛竜だった。
「リオレイア!?」
アイリスが叫ぶ。
雌火竜、陸の女王、リオレウスの雌性体。
雄のリオレウスと比べて強靱な脚を持ち、地上戦では雄以上とされている、ハンターの悪夢が――
「どぉぉぉりゃぁぁぁっっっ!!」
マルゼンとは別のウマ娘に――追われてきた。
木々を折って小川に転げ出たリオレイアの頭部に――
【忍傘】――分類上は大剣だ。
振り下ろしと同時になぜか開いた傘は、しかし発光現象と共にリオレイアの頭部を弾く。
その使い手に、タマとオグリが目を見開く。
「ぁ、見参!! とでも言えばいいのかい!? こういう時はよぉ!!」
暗い鹿毛のツインテール、140センチに足りない驚きの小柄。
反して胸は豊満だが、そんな色っぽさを内から砕くような、荒々しい覇気を放っている。
糸鋸歯形の桃色法被に身を包み、胸にサラシを巻いた、祭り囃子を幻聴しそうな勝負服。
川に倒れたリオレイアを背景に、水飛沫を【忍傘】で薙ぎ払って肩に掛けた姿は、あまりにも粋。
電光石火の祭り囃子、下町育ちの江戸っ子ランナー、大井の最終兵器。
その名は――
「イナリワン!?」
タマとは縁の深い、同期のウマ娘だった。
「おうおうタマよぉ、なんでぇそのざまは! トレセンの雷神様がモモンガ一匹に食われる寸前たぁ情けねぇな!」
あっはっはっはと高笑いするイナリワンの後ろで、リオレイアが立ち上がる。
タマは思わず警告しようとしたが――
「よっと」
分かっていたように、軽く一歩前へ出るイナリ――その背後を、次の疾走者が駆け抜けた。
「てぇいやぁぁぁっ!!」
桜色の着物が――リオレイアの眼前を駆け抜けると同時に、両手に握った武器を一閃する。
武器は【剣斧ノ折形・桜雲】――スラッシュアックスである。
小袖が踊る着物風の勝負服に、桜吹雪の折り紙を模した剣斧をあしらい、外ハネした赤茶髪を揺らすウマ娘。
天才を追う努力家、清純可憐なド根性ヒロイン、今ぞ盛りのさくら花――
「お待たせしましたっ! サクラチヨノオー、ただいま推参です!!」
その名をサクラチヨノオー。
タマにとっては後輩、オグリキャップにとっては同期のウマ娘だった。
その背後では、リオレイアが頭部の部位破壊を起こして昏倒している。
「よいしょっと」
そんなリオレイアの頭部付近に、樽爆弾をポンと配置している子がいた。
「はーいみんなー、危ないから離れてくださいねー」
スーパークリークが……自然と、特に目立つような登場もせず、そこにいた。
子供の面倒を見るような口調で、テントウムシのような武器――【ナナホシ大砲】を取り出す。
「どん♪」
リオレイアの顔を囲むように置かれた樽爆弾に向けて、撃った。
へビィボウガンの弾丸が樽に命中、爆発させ、他の樽と誘爆する。
昏倒していたところに顔面を爆発で囲まれ、リオレイアが苦悶の声と共に飛び退いた。
「だーんだん、だんだん♪ だーんだん、だんだん♪」
『犬のおまわりさん』のリズムで連射する。
麻痺弾、毒弾、拡散弾、徹甲榴弾に貫通龍滅弾――リオレイアの眼球や翼の付け根など脆い部分を正確に。
「はい、おねんねしてくださいね」
ピアノを弾いてお歌を歌い終わったような口調で、リオレイアに止めを刺したのだった。
「いや怖いわ! お前が一番怖いわクリーク!」
「あの火竜を、こうも簡単に……」
青ざめるタマとオグリに、スーパークリークは微笑みかける。
「マルゼンさんが弱らせてくれていたから、私は美味しいところをもらっただけですよ。
こういう戦ったりするゲームはあまりしないから、ちょっと加減が分からないけど」
改めて、スーパークリークである。
見た目は随分と大人びた、母性を感じる雰囲気のウマ娘だが、オグリやチヨノオーの同期だ。
「無事でよかったぁ、タマちゃん、オグリちゃん!」
「ちょ、待てや! ハグとかしとる場合ちゃうねん!」
「クリークから硝煙の匂いがすることに私は混乱している……」
クリークはタマとオグリを左右の腕で抱き寄せたが、感動の再会が許される場面でもない。
タマの声でそれを思い出したのは、リコリスとアイリスだ。
「アイリス! 合図を!」
「はいっ、音爆弾、鳴ります!」
ベースキャンプに退路確保を伝えるため、アイリスが音爆弾をスリングショットで高く放つ。
「なんでい、理事長代理と桐生院トレーナーがどうしてここに――むぎゃあぁぁぁ!?」
イナリワンがリコリスとアイリスの容姿に言及していると、音爆弾が炸裂した。
音爆弾の意味を理解していなかったのか、耳を塞ぎ損ねたのだ。ウマ娘の聴覚にはキツい。
「キャンプから応答ありニャ!」
「サハギンが戻ってきてるニャ! 急ぐニャ!」
「退路にモンスターの気配なしニャ! 蹴散らして逃げるニャ!」
アイルーたちが報告する。
頭の耳を押さえていたタマは、それを離すと、ガルクの足音を耳にした。
見れば東側、マルゼンたちが来た側から、ガルクの騎乗したハンターの一団がやってくる。
「サブキャンプから救援に来た! が、遅かったか?」
「まったく、お嬢ちゃんたち早すぎるぞ!」
「はぁい、おじさま♪ 美味しいところはもういただいちゃったわよ」
マルゼンが気さくに挨拶している。
縁がよく分からずにいたタマとオグリに、チヨノオーが説明する。
「私たち、他のウマ娘を探しつつクエストを請けてたんです。そしたらベースキャンプが大変だって聞いて、救援に出ようとしたいた人たちにマルゼンさんが声を掛けて――」
「ガルクよりもアタシらの方が早いってんで、一足先に来たってわけさ。
まさかタマやオグリがいるたぁ思わなかったけどな」
イナリが説明を受け継いだ頃、今度は地下道からハンターたちが出てくる。
「よくやってくれた! 救援部隊にも感謝する!」
教官ハンターが、あちこち生傷を作りながらも無事に脱出してきた。
他のハンターたちも、サハギンとの光線で薄汚れているが、死者はいないようだ。
「遅れた分、しんがりは我々が務める!」
救援部隊が道を開けて、予備として連れてきた誰も乗っていないガルクを、リコリスとアイリスに提供した。
「なんや大変やったけど、どうにかこぎ着けたわ。ズラかるで!」
「なーに仕切ってんでい。へとへとの癖によう。お前は後ろから付いてきな」
タマの汚れた勝負服を見て、イナリが挑発的な笑みを向ける。
「ああん? 誰がへとへとやっちゅうねん? お前こそ息あがっとるやんけ!」
「あ゙ぁ゙? 大急ぎで駆け付けてやったってのになんでいその言い草はっ!!」
タマとオグリの口論は、マルゼンが手を叩いて中断させた。
「じゃあ、お姉さんが先導するわね。
チヨちゃんは右手側、イナリちゃんは左手側、タマちゃんとオグリちゃんは中央、
矢印みたいな陣形で道を切り開くわよ! クリークちゃんは後ろから皆を援護してね」
マルゼンが前に出て、出走姿勢となる。
タマたち他のウマ娘も、言われた通りのポジションを取り、蹄鉄で地面を踏みしめる。
まるで、レース場でゲート解放を待つように。
「さぁみんな――
出走した。
○
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――〈渓流森林〉エリア7――
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モンスターに食い散らかされたサハギンたちだが、一部はその牙を免れていた。
主戦場を迂回して上陸した集団が、小川に沿って分散しながら、〈渓流森林〉に侵入している。
後は自分たちの縄張りにできそうな流域を見付けて、巣にすればいいだけだ。
――他の連中はバカだ。あんな大きな生き物に正面から戦うなんて。
――それに比べて俺たちは賢い。最後に生き延びるのは賢いやつだ。
そういった主旨のことを、サハギンの言語で交わしていたところに、
「よいしょ♪」
マルゼンスキーが駆け抜けた。
駆け抜けざまに剣と盾が振るわれ、二体のサハギンがクリティカルヒットを受けて倒れる。
赤い人影が過ぎったと思えば仲間が倒れていく光景に、他のサハギンが唖然としていると、
イナリワンが――
タマモクロスが――
オグリキャップが――
サクラチヨノオーが――
スーパークリークが――
それぞれ一体ずつサハギンに武器を振るいながら、駆け抜けていった。
駆け抜けたその後に、動くサハギンは残っていない。
そうして排除された魔物の上を、ガルクに乗ったハンターたちが騎馬隊の如く踏み荒らす。
「お、おい! なんなんだあの子たちの足は!?」
「獣人ってのはあんなに足が速いもんなのか!?」
「そんなわけあるか! 冒険者からしてもおかしい!」
「身体強化の魔法だとしても、あんな持続力はないはずだぞ!?」
ウマ娘たちを必死に追うハンターや冒険者たちが、驚愕の声を交わす。
ウマ娘の俊足は、魔大陸においても異様な速さを発揮している。
そんな声を聞きもせず――タマモクロスは森を駆ける。
(速い……っ!)
自分のことではない。
先頭を走るマルゼンスキーについてだ。
前方、サブキャンプまでの最短経路を、マルゼンが先導している。
道中に
なのに――差が縮まらない。
全速力で駆けているのに、影も踏めない。
(出くわしたサハギンをぶん殴っとるタイムロス? そんなんマルゼンも同じやろっ!)
むしろ武器を振る回数は、マルゼンの方が多いくらいだ。
(上手いんや……不整地を踏む足さばきも、武器を振った姿勢の崩れを走りに繋げるんも……)
そこに驚嘆しているのは、タマだけじゃなかった。
オグリも、イナリも、チヨも、クリークも、同じものを感じている。
どこで魔物やモンスターと遭遇するかも分からない先頭で、道を阻むものを誰より排除するマルゼンに、付いていくのが精一杯。
パワーとスピード、スタミナとテクニック、未知のものへの対応能力まで――上を行かれている。
後ろ姿だけで、それを充分に思い知っているのに――
「…………」
マルゼンは、ときおりこちらを振り返って、誰も脱落していないか確認さえしていた。
「っ!!」
タマは歯噛みする。
隣ではイナリも歯軋りの音を立てていた。
チヨは悔しげに顔を引き締め、オグリもクリークも流石に目を鋭くする。
彼女らの思いは、タマの口から代弁された。
「――なに気ぃ遣っとんねん!!」
タマは強引に加速した。
マルゼンが切り損ねたサハギンを、ハンマーで空高く打ち上げながら、前へ。
「ウチらはぁ!」
分かっている――これはレースではなく、撤退だ。
後ろを走る負傷したハンターたちのため、遭遇する魔物を排除するのが自分たちの役目だ。
「お前にぃ!!」
それでも――ウマ娘が並んで走っているのだ。
レースと思うなという方が無理なのだ。
「お手々を引かれとるんちゃうわぁ!!」
サハギンを殴って蹴散らしながら、加速する。
マルゼンのやや右側、手を伸ばせば届く距離まで、タマは追い上げた。
「あらそう? じゃあ――」
マルゼンは赤い剣閃を描いて、更に加速する。
前方には、サハギンを追い払いに来たのか、ドスバギィの群があった。
サハギンはともかくモンスターとなると、足を止めて切り結ぶ必要があるかもしれないが――
「レースしちゃおっか♪」
マルゼンは止まらなかった。
タマはもちろん、オグリもイナリもチヨも、後ろからはクリークも、速度を上げた。
競い合いながら、疾駆する。
こちらに威嚇しているドスバギィを見ながら、足をまったく緩めない。
後ろから追っているハンターたちは、止めようとした――無茶であると。
ドスバギィの体格は大型モンスター相当、正面から突撃して押し通るなど玉砕に等しいと。
思わず制止の言葉を掛けようとしたハンターたちが見る先で――
「「「「「「っっっっっっ!!」」」」」」
六人のウマ娘が、流星が並んで煌めくように、ドスバギィを穿ち抜いた。
マルゼンの剣、タマの槌、オグリとイナリの大剣、チヨの剣斧にクリークの銃。
一人一発ずつ、ギア最大のダッシュ攻撃を叩き込み、各部を部位破壊しながら宙へ舞い上げた。
もはやドスバギィが交通事故の被害者にしか見えない。
唖然と見上げたハンター集団の横手に、ドスバギィが落下する。
ウマ娘たちが加速する、
少女たちが止まらない、
誰も彼女らを阻めない!
モンスターと
彼女たちは、
魔物やモンスターが前にいれば武器で排除するという、ちょっとした障害物競走だ。
結果として退路を開いているのだから、それでよい。
よいのであれば遠慮は要らず、ただ一着を競うのみ。
マルゼンスキーが剣を振る。
タマモクロスが横に並んでハンマーを打つ。
追い越したイナリワンが切り上げると、脇を抜けたオグリキャップが薙ぎ払う。
外から回ってきたサクラチヨノオーが突き、後方から抜いてきたスーパークリークが銃撃する。
かと思いきやマルゼンスキーがまたバ群を抜けて戦闘に立ち――最初に戻る。
先頭を奪い合い、戦闘を繰り返す。
邪魔な魔物を他に押し付けるような真似は誰もせず、倒す手間も含めて競い合う。
誰が決めたわけでもないのに、局所的な障害競走のルールに従い、先頭一着を譲らない。
モンスターとのエンカウントを、彼女たちのレースが、踏み抜いていく。
「っ!」
そして全員が、進路上にサブキャンプを見た。
丸太壁で囲まれた村のようなサブキャンプは、送った救援部隊が戻ってきたことを知り、門を開いている。
つまり、そこがゴールだ。
もはや進路上に魔物もモンスターもない、純粋な『最終直線』だ。
全員が武器を納め、両腕を振ってフォームを作り、競走の姿勢に入る。
全速力で、しかし横並びになる六人。
どんなレースでもお目にかかれない、出走者がほぼ一列になって――
彼女たちは、
○
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――〈灰色の浜〉――
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サハギンスタンピードは、更なるモンスターの登場で、壊滅させられていた。
〈雷軍装〉ジンオウガ――
つい先日、二つ名個体として登録されたモンスターが、西側に現れたのだ。
『ッッッ!!』
ジンオウガは、二つ名の由来となった、膨大な量の雷光虫亜種を展開した。
孔雀の尾羽のように、王者のマントのように、青白い光の帯となる雷光虫。
ジンオウガはそれを引いて、陸海のモンスターがサハギンの大群を囲む戦場に、突入する。
その速さは遠景から見ても群を抜いて速く、瞬く間にサハギンの群に到達。
走るヘラジカが降り積もった雪を蹴散らすように、ジンオウガの巨体がサハギンを散らす。
サハギンは巨体に踏み潰されるか撥ね飛ばされ、追ってきた雷光虫の針で麻痺していく。
『ッッッッッ!!』
そして群の中心で、ジンオウガは天に咆哮した。
率いる雷光虫の多さが膨大な電力を生み、瞬く間に超帯電状態に移行。
白昼の落雷が、スタンピードの中心に炸裂する。
「――――」
とある調査員が、遠くから双眼鏡で、その光景を見た。
超帯電状態となったジンオウガを中心に、青白く輝く雷光虫が渦を巻く。
雷光虫亜種が、ジンオウガの周辺を旋回して、球状の光となって覆い隠す。
球状の光は激しい電流を帯び、神が稲妻を手にして丸めたように、地上の巨星となって――
『――――ッッッッッ!!!!』
全方位に、雷光虫の弾丸が、放射された。
電光を帯びた雷光虫は、さながら超電磁砲の如く、サハギンを貫通する。
雷光虫亜種は通常種と比べて頑強かつ攻撃的だった。
麻痺毒の針を持つだけではなく、電磁力を用いて加速して、その身で敵を穿つ。
魔物の中では弱小の部類であるサハギンなど、虫一匹で充分だった。
ジンオウガに近かった個体ほどチーズのように穴だらけとなり、遠かった個体も逃がさない。
フィールドのほぼ全域に及ぶ、広範囲攻撃だ。
それが起きた後、まだ数百匹はいたはずのサハギンが――全滅した。
蝗害などでバッタが群を成すとき、その数は億単位となる。
群の部分を切り取っただけで億単位、推計される総数は数十億から百億というものもある。
それに比べれば、ジンオウガが引き連れている雷光虫など、ほんの数千匹。
一匹が強力な電磁兵器と化している雷光虫が、数千匹だ。
数の暴力というくくりにおいて、恐らくこの魔大陸で雷軍装ジンオウガに勝るものはいない。
よってサハギン1000体など塵芥――正に
全てのサハギンが絶命した野原に、やや当惑したようなモンスターたちが残る。
雷光虫はモンスターたちを襲っておらず、そのせいかジンオウガも敵と見なされなかった。
全てのモンスターたちの中心で、ジンオウガは悠然と立っている。
森の王が誰なのかを、他のモンスターたちに知らしめるかのように。
他のモンスター、中でも凶悪なアンジャナフが吼えないことが、その証にも見える。
いずれにせよ、〈灰色の浜〉を襲ったサハギンスタンピードは殲滅された。
残されたのはサハギンの骸と、思い思いにそれを食うモンスターたちの姿だった。
○
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――〈渓流森林〉サブキャンプ――
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「だからぁ! どう考えてもあたいが一着だっつってんだろ!?」
「なに抜かしとんねん! 自己申告で一着取れたら誰も苦労せんわ!」
避難が完了した後、タマとイナリが口論していた。
「おい、そこの門番。誰が一番だった? 分からない? 何を見ていた!」
「オグリちゃん、流石にそれは理不尽よっ」
オグリも納得が行かないのか門番に詰め寄っており、クリークが制止している。
「あはは……よく考えたら、判定員もいないのにレースもなにもなかったですね」
「あっはっは、本当ねぇ。まるで偶発的な子供のかけっこみたい」
息を荒くしながら笑うチヨに、汗を拭うマルゼン。
彼女たちが始めたレースは、判定そのものが行われなかったので、ただの無効試合だった。
「あー、楽しかった♪」
マルゼンが自然と口にした言葉に、チヨは少しハッとして、顔をほころばせるのだった。
マルゼンをよく知る者……例えばシンボリルドルフあたりがここに居れば、こう言っただろう。
――走った後にそう言う君を、久しぶりに見た。
「なんなんだ? あの子たち」
「さあな。とびっきり足の速い獣人、らしい」
キャンプ地のハンターたちが言葉を交わす。
「トビカガチ二頭にリオレイアまで討伐して、一番気になるのが駆けっこの勝敗って……」
「もはや呆れることすら通り越したわ」
命からがら逃げてきたアイリスとリコリスも、ウマ娘たちの様子に微苦笑している。
確認してみたところ死者はいない。撤退戦としては最善の結果だ。
「モンスターと魔物の合戦に飛び込んで、誰より速く戻ってきたのか……二本の足で」
「ああ、それも最大の戦果を上げてな……」
サブキャンプの代表と、教官ハンターが、彼女たちを見る。
今回のスタンピード――記録すべき事柄は数多くあるが、そこには彼女たちの獅子奮迅も付記すべきだろう。
後に、噂を耳にした吟遊詩人は謳う。
駆ける速さは矢の如し、華ある衣装は流れ星、
一角獣の如く敵陣貫き、天馬の如く戦場を越え、
竜にも阻めぬその進軍は、さながら地上の戦乙女。
曰く、彼女らは自らを称して――ウマ娘という。
ご一読いただきありがとうございました。
モンスターのラッシュに対する、ウマ娘のラッシュでした。
各ウマ娘のネタ武器選出理由は下記の通り。
イナリワン=忍傘→歌舞伎の大見得ポーズと和傘の相性がよさそうなので
サクラチヨノオー=剣斧ノ折形→勝負服と武器のカラーリングがマッチしてるので
スーパークリーク=ナナホシ大砲→託児所の壁にテントウムシとか描いてそうなので