さて――タマモクロスたち以外の、【MHE】をプレイしているウマ娘たちはと言えば。
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――魔大陸〈七色火山〉――
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〈七色火山〉――
火山活動と各種鉱石、およびガスなどが噛み合った結果、岩の隙間から様々な色の火が噴き出る、火山地帯。
「無理無理むりぃぃぃぃぃっ!!」
一人のウマ娘――ハルウララが、その火山地帯を全力疾走していた。
体操着を着て、チャージアックスを背負った彼女を、モンスターが追っている。
「おかしい! あれ絶対にチュートリアルの後に遭遇するのじゃないぃぃぃっ!!」
傀異化ヤツカダキ――妃蜘蛛ヤツカダキに、キュリオという小型モンスターが寄生した状態だ。
赤々と光る巨大蜘蛛、その精神的に来る見た目もあって、ウララの走りは脱兎の如しだった。
「たぁーすぅーけぇーてぇーっ!!」
町は遠く、近くに他のプレイヤーやハンターもいない火山地帯を、ウララが必死に逃げていく。
○
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――どこかの森――
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薄ら笑うチェシャ猫のような三日月が、森の枝葉を濡らすように照らす。
光源というにはあまりに心細いそれを頼りに、二人のウマ娘が、森を彷徨っていた。
「ライスさん、足下に気を付けてください」
「うん、ありがとう、ブルボンさん……」
ミホノブルボンとライスシャワーである。
どちらも勝負服姿で、ブルボンの手にはスラッシュアックスと思しき斧があり、ライスの腰には双剣があった。
「ブルボンさん、やっぱりおかしいよね? チュートリアルが終わったらすぐフィールドなんて」
「おかしい、のですか? 私にはゲームに関するセオリーの情報が不足しています」
「うん、おかしい。普通は町の中とかから始まるの。なにかのバグ、なのかな?」
ライスとブルボンが【MHE】のテストプレイに参加したのは、ごく普通の『話の流れ』だった。
トレセン学園の廊下の掲示板に、【MHE】のテストプレイを公募する張り紙があった。
それをふと見ていたライスに、居合わせたブルボンが「参加されるのですか?」と尋ねた。
ライスは「ゲームは好きな方だけど……」と、テストプレイに責任のようなものを感じて控え気味だったが、
「でしたら、私も一緒にやってみたい――と希望します」
「えっ? ブルボンさんが!?」
意外な発言に驚いていると、ブルボンはいつも通り淡々とした口調と表情で、こう続ける。
「はい――友人の趣味には歩み寄るもの、という情報を最近入手しました。
であれば、私はライスさんの趣味に『歩み寄り』を行うべきだと判断します」
「ブルボンさん……っ」
飾りも気負いもないブルボンの言葉に、ライスは少し赤面させられた。
つまりブルボンは、お友だちであるライスが好きなことなら、自分もやってみたいと言ったのだ。
気恥ずかしいが、嬉しくないはずもない。
いくらマイナス思考なライスといえども、ここでブルボンの気持ちに応えないはずがない。
「じゃあ、ブルボンさんと一緒なら、ライスもやってみようかな……」
照れ臭そうに答えたライスに、ブルボンは頷いて、再び掲示板を見る。
「では早速、この――サトノグループ主催『Let's Go JUNGLE!(超リアルVR版)』の先行プレイ体験会に参加しましょう」
「うん、ごめんね。ライスがやってみたいのはそっちの張り紙じゃないの」
巨大な蜘蛛などが大量に出てくる、難易度が鬼畜級の死にゲーである。
わざわざ『心臓の弱い方はプレイをご遠慮ください』と付記しているあたり、きっとサトノ家の本気が込められているのだろう。
なにはともあれ、ライスとブルボンは【MHE】のテストプレイに挑戦したのだった。
「やっぱりおかしい……一時停止とかログアウトとか、そういう操作がまるで無いなんて……」
ときおり聞こえる怪鳥の鳴き声にびくっと震えつつ、ライスは青ざめる。
「これじゃまるで、漫画かアニメの……『ゲームの中に閉じ込められた』みたいな……」
デスゲーム――そんな単語を連想してしまったライスは、更に血の気を引かせていった。
「……申し訳ありません、ライスさん」
「え? ブルボンさん?」
ふと見れば、ブルボンが足を止めていた。
枝葉の隙間から降り注いだ月光が、ブルボンの姿を照らし、懺悔するような表情を明らかにする。
「ライスさんを巻き込む気はなかったのですが……
告解したブルボンに、ライスはしばらく言葉を失った。
一陣の風が二人の間を吹いて、髪と尾を揺らす。
「ブルボン、さん?」
やがて……ライスの唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「いくらブルボンさんが機械を故障させちゃう人でも、こんな異常事態は起こせないと思うよ?」
「…………そうなのですか?」
きょとんと首を傾げるブルボンであった。
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――魔大陸〈珊瑚高地〉――
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ところで、アグネスデジタルはウマ娘オタクである。
オタクのウマ娘という意味ではなく、ウマ娘オタクである。
具体的に言うと、ウマ娘の勇姿や可愛さを目にして臨界点を超えると気絶するくらいの、ウマ娘オタクである。
さて、そんなデジタルが――トレセン学園の掲示板で【MHE】のテストプレイ公募を見たら?
「トレセン学園のウマ娘ちゃんが『モンハン』!?
え? 待って? ちょっと待って? デジたん混乱してます!
ウマ娘がガンランスで竜撃砲を撃ったり、華麗な鉄蟲糸技を繰り出したりするんですか!?
うわっきゃぁぁぁっ! これを見逃すデジたんが三千世界のどこに居るっていうんですか!!」
以上の経緯で、彼女もまたテストプレイに参加したのだった。
しかし蓋を開けてみれば――
「んー、おかしいですねー?」
デジタルは、〈珊瑚高地〉と呼ばれるフィールドで、首を傾げていた。
陸珊瑚とは違う印象の、つい最近まで海底にあったような珊瑚が、乾燥してしまっている。
魔大陸は海底から浮上してきた説が唱えられている一因だ。
「【MHE】はわたしもプレイしましたけど、チュートリアルが終わったら『大陸に向かう船の中』からスタートするはずなんですけどねぇ。テストプレイ用に準備されたもの? それにしては特にアナウンスもないですし……」
オドガロンの爪を避けてカウンターを取りながら、デジタルは呟く。
手にしている武器は【鹿角ノ弾弓】――動作としてはスリングショット、いわゆる『パチンコ武器』である。
「うひょおっ!? なんですかこの回避モーションっ! いつのまにこんな現実感100%になったんですかっ!? いやー、いい仕事してますねぇ」
オドガロンの突進を紙一重で避けながら、デジタルは嬉々としてパチンコを引く。
惨爪竜と異名される牙竜種の猛攻を、遊びのようにあしらいながら、彼女の独り言は続く。
「むむっ、イメージすると脳裏にHPゲージとかちゃんと浮かんできますねー。いつの間にこんなアプデ来たんですか?」
むむ~と唸りながらも、デジタルは攻撃モーションを繰り出し、オドガロンの各部位に最適効率でダメージを与えていった。
「というかっ、なんでソロプレイなんですか! 他のウマ娘ちゃんが戦ってるところを見られなきゃ意味ないじゃないですか!!」
てっきりトレセン学園のウマ娘とマルチを組むものだと思っていたデジタルは、頭を抱えて叫ぶ。
テストプレイの内容については説明を受けている。主に『走り』を中心としたプログラムをこなすはずだった。
しかし現状のそれは、もっと無作為なものだ。
大陸のどこかへランダムで放り出され、どのモンスターと遭遇するかも分からない――これはそういう類の現象だと、デジタルは直感する。
「よし決めた。とりあえず他のウマ娘ちゃんを探すとしましょー♪」
アグネスは両手を鳥のように広げながら、軽い足取りで〈珊瑚高地〉を駆け下りていく。
全部位破壊されて動かなくなったオドガロンが、その背を見送っていた。
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――ダンジョン某所――
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とある冒険者パーティが、脱兎の如く逃げていた。
「走れ走れ!」
「ちくしょう! なんだあの気味の悪い魔物は!」
「魔法がまるで効かなかったぞ!?」
戦士だったり魔法使いだったりするパーティに少し遅れて、背負子で荷物を担いだ少年が続く。
――調査目的のダンジョン攻略だった。
この世界に広く張り巡らされている地下空洞、ダンジョン。
その未発見の経路が、沿岸部に発見された。
日々その構造を変化させているというダンジョンに、新しい経路が生まれるのは間々あること。
近頃はその沿岸部から見た遠洋に『魔大陸』が出現したというし、或いはその地下と結ばれているかもしれない。
聞けば竜がごろごろいるという魔大陸から、ダンジョンという経路で災いがもたらされては困る。
こうした理由から、数多くの調査部隊がダンジョンに潜った。
未踏破のダンジョンには未発見の資源も期待できる、未知の危険に挑む価値はあった。
少年がポーターとして加わるパーティも、そうした野心ある調査パーティのひとつだったが――
「遅いぞポーター! 荷物こっちによこせ!」
「す、すみません!」
仲間の一人がポーターの背負子から荷物を引き抜く。
他の仲間も頷き合い、ポーターに預けていた荷物から貴重品を優先して負担した。
「やむを得ないっ、貴重品以外の荷物は捨てる!」
「はいっ!」
リーダーの指示に従い、ポーターは背負子の留め具を外そうとするが――
「アホが、『お荷物』は捨てるって言ったんだ」
リーダーの投擲した短剣が、ポーターの太股に突き刺さる。
「っ!?」
思わず足を止めたポーターの少年に、仲間――だった者たちは手を貸さない。
「そのまま奴らを足止めしてろ!」
「今日まで使ってやったんだ! ありがたく思いやがれ!」
正に非道、パーティはポーターを生き餌として置き去りにすることを選んだ。
「そん、な……」
足を止め、呆然とするポーターの少年。
その背後から――『モンスター』の足音が迫ってくる。
重く、鈍く、靴底に震動を感じる。巨体であることの証明だ。
それがいくつも、多重になって、ポーターの背後から雪崩れ込んでくる。
「ひっ」
怪異な姿だった。
粘液に覆われた、ぶよぶよとした質感の白い肉体。
構造こそ両翼を持った竜のようだが、鱗も甲殻も体毛さえも身あたらない。
剥げた竜のボディからは、無脊椎動物のような首が伸びており、ユムシのような頭部に繋がる。
頭部には眼がなく、気味の悪いおちょぼ口があり、それが裂けるように開いて白い牙を剥く。
どうにも生理的な嫌悪感を触発する、
竜盤目 竜脚亜目 奇怪竜下目 稀白竜上科――
奇怪竜、白い虚無、洞窟の天井から降る無音の捕食者――
フルフルである。
『ッッッッッ!!!!』
人間の断末魔に酷似した鳴き声を上げて、フルフルがポーターの少年に迫る。
ああ……やっぱりそうだ。
このダンジョンの経路は、魔大陸と繋がっているのだ。
魔大陸にいるという新種の竜が、ダンジョンを通じてこちらの大陸まで進出してきたのだ。
自分たちはそういう事態の、最初の犠牲者に選ばれてしまったのだ。
そんな運命を悟って、息を呑んだポーターは、
「え?」
腰を抜かした自分を――跨いで通り越していったフルフルに、目を瞬いた。
振り返ると、一心不乱に駆け抜けていくフルフルの尾が見えた。
眼が退化しているから気付かなかった?
いやまさか、それなら自分たちの方へ突進してきたのはなぜなのか。
そんなことを考えるポーターの耳に――新たな足音が聞こえる。
足音は軽く、しかし素早い。
一方で、何か巨大で金属質なものが、ダンジョンの壁をがりがりと削る音がする。
つまり、その二つを両立するもの――例えば細い足と金属の翼を持つ巨鳥型の魔物といったものが、近付いてくる。
ああ、なるほど……あの奇怪な竜は、それから逃げてきたんだな……
ポーターはそのように、助かったのは一瞬だけなのだと悟った。
フルフルすら脱兎の如く逃げる新たな脅威が、いま自分の前に現れようとしているのだ。
ならばせめて、冒険者の端くれとして、傷一つくらいは――っ!
そう決意して立ち上がったポーターの横を――
「待ちやがれぇぇぇっ!! 私の珍味食材ぃぃぃ!!」
巨大な武器を持った少女らしきものが――爆速で過ぎっていった。
ポーターの見間違いでなければ、その少女は、巨大な『
長い耳を頭頂部に持ち、尻尾を揺らしている。
恐怖のあまりに見た幻覚でなければ、長い銀髪を伸ばす、スタイルのいい美人だった。
なのだが……全身から放つ奇天烈さが強すぎて、美人という特徴が最も小さいものになっている。
とある異世界に生息する――ゴールドシップという名のウマ娘である。
「…………?」
半生で最大の不可解を目にした気分で、ポーターが沈黙していると、
「お待ちなさいゴールドシップさん! また道に迷ったらどうするんですの!?」
バビュン! と、また別の少女が駆け抜けていった。
先の錨を持った娘と同じような、銀髪に近い長髪と尻尾を持っている。
両手にはなぜか、巨大な『ナイフとフォーク』を双剣のように握っていた。
ポーターには知る由もないが、彼女の名はメジロマックイーンといい、両手の武器は【食いしん坊セット】という。
風圧を残していった二人のウマ娘を、ポーターは負傷した足を庇いつつ、恐る恐る追っていく。
すると、ダンジョンの経路が少し広くなった場所で、二人の姿を見付けた。
「ひゃっはー! 仕留めてやったぜ! アタシの追い込みから逃げようなんざ鶴亀一千万年は速いんだよ!!」
「相変わらず見事な追い込みでしたけど、
ゴールドシップは、倒れ伏したフルフルを足場に力こぶを作っていた。
狩猟に使われたらしい『錨』の下で、フルフルの首がでろんと地面に伸びている。
マックイーンは額を押さえて溜息を吐いている。
そんな討伐現場の周囲には、ポーターを置き去りにした冒険者たちが倒れていた。
どうやらフルフルに追いつかれて、弾き飛ばされるか踏み潰されるかしたらしく、全員が重傷を負って気絶していた。
「よーっし、とりあえず焼いてみっか。酢の物にしてもいけそうだな。マックイーンも食うか?」
「そんなゲテモノを食べるくらいならそのへんの苔でも焼いて食べますわ!」
「んだよマックイーン、そのナイフとフォークは飾りか?」
「私が選んでこうなったわけではありません!」
どうやらゴールドシップは、ダンジョンで見付けたフルフルを食肉にすべく追っていたらしい。
少なくとも、『フルフルよりも恐ろしいもの』というポーターの予想は当たっていた。
「まーそうだな。コンロも七輪もねぇし、こいつの涎が地面から煙を立ててるのにもいま気付いたし、止めとくか」
「最初から止めてくださいまし……ですが、そろそろ人間的な食べ物が欲しいところですわね」
「だよなー。結構登ったと思うんだけどなー、そろそろどっかに人類の一人や二人……」
額に手傘を作って周囲を見回したゴールドシップ――と、ポーターの目が合った。
「ひぃぃぃっ!?」
ポーターの口から、フルフルのときよりも怖そうな悲鳴が出た。
ポーターが思い出したのは、田舎のお祖母ちゃんから子供の頃に聞かされた、『悪い子は怖い獣人に食べられてしまう』という作り話だった。
「見付けたぜぇぇぇ! そこのお前! 私の突撃朝ご飯になれぇぇぇ!!」
「ちょ!? ゴールドシップさん! それではあらぬ誤解を受け――ああっ、待ってくださいまし! 決してあなたを食料にしようというわけでは! ただ人里に案内してもらいたいだけで――お待ちなさぁぁぁい!!」
必死に逃げたポーターだったが、ゴルシとマックの足から逃げ切れるはずもなかった。
結果としてポーターは傷の治療を受け、恩人である二人を地上の町まで案内することになる。
ちなみに、ゴルシとマックが案内されたその先は――魔大陸とはまるで逆方向であった。
ご一読いただきありがとうございました。
タマたち以外の参加ウマ娘たちでした。
デジタルはなんとなくゲームが上手そうなので強キャラに。
ゴルシについては、筆者の脳にゴルシ語エミュレーターが搭載されてないので、
メインストーリーくらいの解釈可能な言動に留める予定です。