ウマ娘たちが、武器を手に出走する。
――先頭は、赤い勝負服と片手剣のマルゼンスキー。
剣と盾を持っていても乱れないフォーム、その足が向かう先はティガレックス。
「チャオ♪」
『ッ!?』
顔を向けたティガレックスが見たのは、自分の両眼を薙ぎ払う片手剣だった。
すれ違い様に切り払ったマルゼンの剣は、鱗も骨も透過して傷を残さず、発光現象を起こす。
ティガレックスの
発光現象が目を眩ませ、続くウマ娘たちへの反応を遅らせる。
「「てりゃあああぁぁぁっ!!」」
――追って、サクラチヨノオーとイナリワン。
マルゼンの軌跡をなぞるように突入したチヨが、【剣斧ノ折形】を斧モードにして振り抜く。
折り鶴のような武器はティガレックスの長い首に命中、発光現象と共に通過していく。
イナリワンはティガレックスの脇腹に突撃した。
ダッシュ攻撃で、大剣【忍傘】の突きをお見舞いする。
見た目上は傘が深々と突き刺さっていたが、ティガレックスの鱗は破られていない。
イナリは傘を突き刺したまま、天地逆さまになってティガレックスを飛び越える。
持ち上がった両足が前を向いたところで傘が引き抜かれ、ティガレックスの向こう側に着地すると同時に、音を立てて傘が開いた。
「足ぃ、もろたでぇ!!」
一バ身ほど空けて、タマモクロスが足下に入り込む。
長距離を駆け抜けてきたことで『ギア』は最大、ダッシュ攻撃の威力も最大限に達する。
小柄を活かしてティガレックスの腹を潜り、体重を支えていた後ろ左脚を内から殴打した。
「モモ肉、もらった!!」
並んで、オグリキャップ。
白髪とも銀髪とも見える芦毛を靡かせる彼女は、装いが以前と違った。
武器は【レイトウマグロ】が【メガスワスター】に、防具はジャージが【ズワロシリーズ】に。
緑色のフードがついた皮鎧にショートパンツという出で立ちで、断頭刃めいた大剣で薙ぎ払う。
タマと同じく最大ギアのダッシュ攻撃が、左前脚に内側から命中。
「ばきゅん♪」
最後尾は――スーパークリーク。
高く舞い上がった彼女は、両手で【ナナホシ大砲】を下に向け、徹甲榴弾を発射する。
ティガレックスの背中に炸裂した榴弾が、銃撃と爆発により、巨体を地面に叩き伏せる。
クリークはそのままティガレックスを飛び越えて、先を行くウマ娘たちに合流していた。
「なん、だ……なにが起きた!?」
一連の出来事を、騎士団の面々は、ほとんど視認できなかった。
ティガレックスの暴虐に震え上がっていたら、その暴虐に六つの流星が突き刺さった。
それが獣人系の少女だと気付いたのは、彼女らが大きく右手側に駆け抜けた後、または――
「倒し、た……?」
ティガレックスが、六連続のダッシュ攻撃によりスタンした後だった。
怪力の権化とでも称するべきティガレックスが、地面に伏している――
ついさっきまで絶望させられていたが故に、目の前の光景が信じられなかった。
ウマ娘たちはティガレックスをダウンさせた後、荒野をUターンしてきた。
「次ぃーっ♪
「「「「「はいっ!」」」」」
先頭を走るマルゼンが、後続になにか言っている。
唖然として見ていた貴族は、きっと彼女たちの間で通じる符丁だろうと察した。
耳にしたタマたちが、陣形を変える。
三人ずつ二列に、マルゼンの列が一バ身ほど前に出ている。
上から見てウマ娘を線で結ぶと、縦向きの『ジグザグ』になる陣形だ。
テレコとは正にその『ジグザグに並ぶ』という意味の――
下手とは舞台上から見て『左手』、つまり左にUターン。
センター割りとは『舞台の中央線を挟んで左右対称』、ここで言う中央とはティガレックス。
カノンとは『複数が同じ振り付けを、タイミングをズラして踊ること』、つまり波状攻撃だ。
つまり、マルゼンはこう言ったのだ。
左ターンしてジグザグに二列三人で並び、敵の左右から波状攻撃を仕掛けようぜイエイ♪
『ッッッッッッ!?』
その通りの連続ダッシュ攻撃が、ティガレックスを襲った。
高速でUターンしてきたウマ娘たちが、今度は逆方向から六条の流星となり、目を回していたティガレックスに容赦なく追撃を見舞う。
ティガレックスの頭部に、マルゼンとイナリが左右から武器を振り抜く。
マルゼンが切り払った頭部は、一バ身遅れてきたイナリの方へ弾かれ、逆から殴打される。
両翼にオグリとチヨが剣を振り下ろし、タマとクリークは両前脚に打撃と銃撃を炸裂させた。
そして全員が、ティガレックスの巨体にぶつかることなく通過する。
ティガレックスはスタン状態から六連撃を見舞われて、苦悶の声と共に飛び起きる。
――そんなティガレックスの眼前で、クリークが置き土産に放った【閃光玉】が輝いた。
再び倒れるティガレックス、平衡感覚を失ったのか手足が無為に宙を掻いている。
彼女たちはトレセン学園のウマ娘だ。
ダンス用語を解するのはもちろん、
それを突撃陣形に応用した結果が、これだった。
「アンコール♪」
「「「「「イエス!」」」」」
マルゼンの指示は、説明するまでもなく『もう一回』。
ウマ娘たちが左に旋回、驚くほど短い時間でティガレックスの元へ戻ってくる。
三度目となる、六人掛かりの遠距離ダッシュ攻撃が、ティガレックスに部位破壊を起こした。
『ツツツツツ!!』
しかし、やられっぱなしのティガレックスではない。
今度は転倒せずに耐えきり、ターンしてきたウマ娘たちを『岩石飛ばし』で迎え撃つ。
直前、マルゼンが指示を出していた。
『
「防ぐぜオグリぃ!」
「ああ!」
前盾――つまり、マルゼンとオグリとイナリたち、防御ができる前衛が盾となる指示。
飛来した岩石を、マルゼンの盾が防ぎ、オグリとイナリが武器で弾く。
「よい、しょっと!」
その背後、クリ中――『クリーク中央』の指示に従い、クリークが跳躍でマルゼンを飛び越える。
中空で放たれた毒弾が、ティガレックスの顔面に命中。
毒煙が短い煙幕となり、視界を隠す。
「おい、いまクリークが言うたんはツッコミ待ちか?」
「いえ、駄洒落のつもりはなかったと思いますっ」
その隙をついて、タマモクロスとサクラチヨノオーが左右から疾走。
大外からツラ――舞台の最前方、この場においてはティガレックスのいる最前線。
毒弾に目をやられているティガレックスの頭部を、タマとチヨが横から挟撃する。
ハンマーを下ろすタマは下へ、スラッシュアックスを振り上げたチヨは上へ、衝突せず交差した。
『ツツツ!?』
二人の武器に顔面を挟まれたティガレックスが無秩序に暴れても、タマとチヨはそこにいない。
入れ替わりに、防御後のマルゼン・オグリ・イナリが正面から追撃。
クリークが翔蟲で舞い上がり、置いていた火薬樽を上から銃撃、ティガを巻き込み爆発させた。
タマとチヨも合流して、スタミナ回復のため足を緩めつつ、荒野を周回する。
「なんという……見事な用兵……」
歴戦の貴族が唖然としている。
突如として駆け付けた援軍、彼女らによるティガレックスの圧倒に。
まるで三面六臂の巨人が、六つの武器で巧みな連撃を繰り出しているかのよう。
兵を率いてきた貴族には分かる。陣形の切り替えはとても難しいのだと。
これが兵隊の陣形となれば、例えば攻撃陣形から防御陣形に切り替えるだけで、事故の連続だ。
兵がぶつかり合い、どこへ移動すればいいか分からずまごつき、最悪の場合は転んで将棋倒しだ。
陣形を素早く切り替えられる兵団というのは、それだけで精兵の証なのだ。
しかも彼女たちは、走っている。
言わば騎馬隊が疾走中に陣形を切り替えるようなもので、この難易度は歩兵より高い。
おまけに彼女らの、あの俊足――敵に突撃するまでの時間的猶予はごく僅かであろう。
そんな僅かな時間に、符丁を用いて指示を出し、走りながら素早く陣形を整えている。
各自が武器を振るうタイミングたるや、まるでよく出来た舞踊のよう。
(騎兵と変わらぬ俊足に、尽きぬ体力、僅かな符丁による芸術的な陣形の変化。
いったい、どんな訓練を積めば、兵にあんな芸当をさせられるのだ……っ!?)
貴族が知るはずもない。
ここではない別世界の、ウマ娘たちのことを。
十数人の集団でレースを行い、下手すれば大事故な緊張感の中で、彼我の距離を測りポジションを争っている――走者たちを。
歌に合わせて多彩な振り付けを組み合わせ、観客の目にシンメトリーを描き、誰一人として一拍子のズレも許さずに踊り抜いている――アイドルを。
この二つを同時に、最高水準まで高めるという、異様な訓練を積んできた少女たちがいることを。
それを戦いに流用すると、どうなるか。
航空祭の戦闘機さながら、戦場に描かれる疾走線のアート。
騎兵の速度で走り、素早く陣形を織り上げる、高機動の連携攻撃。
遠距離から猛進してきて、息の合った攻撃をしては去る、凶悪なヒット&アウェイ。
戦乙女たちの疾走舞踏は、竜をも翻弄する。
「強い……」
「速い……」
「華麗、だ……」
騎士たちが呆然とする。
あと三秒で自分たちを皆殺しにしそうだったティガレックス。
それが、荒野を往復する六人の少女たちによって、
彼女たちの、外傷は与えないが体力は削り落とす奇妙な攻撃。
それが最大限の加速を乗せて六連撃、すると瞬く間に蓄積したスタン値により気絶する。
少女たちはこれに容赦なく追い打ちを掛け、立ち上がったティガレックスの突進は足で逃げ切り、銃撃や閃光玉で隙を作っては、また突撃する。
貴族と騎士たちは、唖然としたまま、その演舞を見ていた。
間抜けにも首を左右に振り、ティガレックスを中心に往復する彼女らを目で追う。
衝突ごとに起きる部位破壊――轟竜の角が折れ、爪が砕け、翼が破れる。
ティガレックスが動かなくなったのは、彼女たちが五往復ほどしたときのことだった。
○
「
倒れ伏したティガレックスの周囲――チヨの声を皮切りに、ウマ娘たちが歓声を上げる。
「ふぃ~、骨のある奴だったじゃねぇか。こりゃあいい武器が作れるんじゃねぇかい?」
「イナリ、なんぼ強いゆうても、こいつから傘の材料は取れんやろ」
「それを言ったら卵だって取れねぇだろうよ」
タマとイナリが言葉を交わしている間に、オグリは早々に解体を始めている。
「オグリちゃん、解体が上手になったわねぇ。私はちょっと苦手だから助かっちゃうわ」
「なに、料理ができない分、こういうところで貢献しないとな」
そんなオグリとクリークを背景に、マルゼンとチヨが言葉を交わす。
「んー、飛び込み攻撃を散開して避けた後、上手く攻撃コースに繋げられそうねぇ」
「また練習しましょう!」
まるで部活動の練習試合でも終えたような空気の彼女たちに、貴族が近付く。
「ん? なんニャ?」
「恩に着せるつもりはないニャー」
「お前らが撤退を宣言した後だったから横取りでもないニャー」
貴族を呼び止めたのは、オトモアイルーたちだった。
貴族の出身地では、アイルーたちのような種族は亜人として蔑視されているが、だからといって非礼はしない。
「感謝する、異界の獣人たち。実に見事だった。そちらの代表者に礼を言わせてはくれないか」
アイルーたちは、騎士団が紳士的な態度であることを確かめてから、マルゼンに取り次いだ。
「初めまして、おじさま♪ 横取りするような形になっちゃって申し訳ありません」
詫びてはいるが堂々としたマルゼンの態度に、貴族は無駄な侮りを捨てた。
彼女には、社交界で上手に立ち回っている貴族の婦人と同じ強みを感じる。
「こちらこそ、醜態を晒してしまい汗顔の至りだ。色々と聞きたいことはあるが――」
貴族は、倒れ伏すティガレックスと、マルゼンたちを見て、その強さの由来に興味を抱いた。
「精鋭のハンタークランであるとお見受けした。名をお伺いしても構わないかな?」
よくぞ聞いてくれました、とばかりに微笑むマルゼンスキー。
タマやイナリも、オグリやクリークも、最初からマルゼンの横にいたチヨも、こちらを見る。
「ウマ娘の、ウマ娘による、ウマ娘のためのハンタークラン――〈
駆けること矢の如し、打ち倒すこと鎚の如し、
高い機動力と打撃力を誇る、ハンターウマ娘たちのクラン。
その名を告げたマルゼンは、少し微苦笑すると――
「……(仮)、と付きますけどね」
「かっこかり?」
意味が分からず首を傾げる貴族に、マルゼン以外のウマ娘たちも微妙な顔をするのだった。
○
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――〈帝国基地〉連合ギルド受付――
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話は数日前に遡る。
〈帝国基地〉――【剣と魔法の世界】から冒険者が流れ着いて築かれた拠点だ。
魔大陸の調査と拠点構築を依頼したのが帝国であったため、この土地は帝国の地となる。
そこにも、ハンターと冒険者による連合ギルドがあった。
このたびクラン結成を決めたタマたちは、早速ギルドでクラン登録をしようとした。
「残念ですが、指名手配犯であるオグリキャップさんを含めてのクラン結成は許可できません」
受付嬢の返答は、以上だった。
「…………」
食い逃げ犯・オグリキャップに、タマたちの視線が集まる。
オグリが救助目的で指名手配された経緯は、他のウマ娘たちも知っていた。
しかしそれが、思わぬ足かせとなってしまった。
視線を浴びたオグリは、流石にだらだらと汗を掻いている。
そんなオグリに、タマは優しく肩に手を置いて、許しを与える聖女のような瞳でこう告げた。
「メシ抜きな?」
「後生だっ!!」
タマたちの、ウマ娘のクランを結成して仲間を集めよう作戦は、初手から試練を受けるのだった。
ご一読いただきありがとうございます。
ウマ娘によるチーム戦からの戦犯オグリでした。
走った後に歌って踊るウマ娘たち。
その素養をバトルに落とし込んで表現するとしたらと考えた結果、
走りながらダンス用語で陣形を変化させる地上の航空ショーとなりました。
用語を聞きかじってからライブを見ると、新しい発見があるかも。
オグリの装備と防具が変わっている理由は次回ということで。