ウマ娘 VS モンハン in 異世界   作:大中小太郎

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手配書VS重ね着

 

 

 

サハギンスタンピードの後――タマたちウマ娘は、サブキャンプから〈帝国基地〉へと移動した。

 

「〈灰色の浜〉は通行禁止だそうです。サハギンがどれだけ残っているか分かりませんし」

「下手に集団で移動すると、スタンピードと勘違いしたモンスターたちが、また『迎撃』に動くかもしれないものね」

 

桐生院葵に似た調査員・アイリスと、樫本理子に似た冒険者・リコリスが語る。

魔物のスタンピードと、モンスターの集団戦闘――この未曾有の事態に、ギルドは当該地域への立ち入りを禁じた。

少数精鋭での調査を行い、安全が確認されるまで、〈灰色の浜〉は通れない。

これはつまり、タマたちが〈王国基地〉に戻ることもできなくなったということだ。

 

「困ったな。森で狩ったモンスターを換金して、飯屋の代金を支払いたかったのだが……」

 

オグリが唸る。

元はオグリを追ってタマがベースキャンプに行き、その後スタンピードが起きたという経緯だ。

スタンピードが無ければ、〈王国基地〉に戻って店主に頭を下げる予定だった。

 

「まあ、そこは事情を説明するしかないやろ。せめて手紙くらいは送れるかもしれんで?」

 

そんなわけで、タマたちは〈帝国基地〉に到着した。

建物の様式や、歩く人の背格好などが、〈王国基地〉とは微妙に異なる。

 

「そういや、イナリたちはこっちで活動してたんやな?」

「おう。宿を借りて、そこを拠点にしてんのさ」

 

マルゼン、イナリ、チヨ、クリークの四人は、こちらを拠点にウマ娘を探していたらしい。

 

「じゃあ、ギルドでクラン結成の登録をしてから帰りましょ」

 

そうしたマルゼンの提案で、タマたちは連合ギルドに向かう。

結果――「指名手配犯が居るのでクラン結成はできません」という、受付嬢の返答を聞くことになるのだった。

 

 

 

 

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――連合ギルド・ラウンジ――

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かくして、クラン・ウイニングライブ(仮)は、連合ギルドの談話室に座席を確保して、

 

「これより、『ウイニングライブ(仮)から(仮)を取り除こう作戦』の会議を行います!」

 

マルゼンの音頭に、タマやイナリがとりあえず拍手を送る。

流石に落ち込んでいるオグリは、クリークに頭をよしよしと撫でられていた。

一緒に来たアイリスとリコリスは、スタンピードについてギルドの聴取があり、いまは別室だ。

 

「チヨちゃん」

「はい! えっと、受付嬢さんに教えてもらったところ、クラン成立の条件はざっと三つです」

 

メモ帳を手にしたチヨが、改めて説明する。

 

「その1、拠点があること。これは借りている宿でも構わないそうなので、書類提出で済みます。

 その2、メンバーがギルドでハンターか冒険者として登録していること。これもクリアです」

 

問題がこの後であることは、全員が理解していた。

 

「その3――メンバーは最低五人、かつ一定以上のランクであることです。

 また……未解決の犯罪歴がある人は、このメンバーに数えることができません。

 ああすみませんオグリさんっ、追い打ちする気はないですから落ち込まないでっ」

 

しゅんとしたオグリに謝るチヨだった。

その隣で首を傾げたのはタマである。

 

「ん? ちょお待ち、五人おればええんやろ? オグリを抜いても人数足りるんちゃうか?

 オグリは指名手配を取り下げてもらってからクランに加えりゃええやん」

 

オグリには悪いが、それでは駄目なのかと。

その疑問に、チヨは首を横に振ることで答えた。

 

「はい、人数はクリアなんです。ただ、『一定以上のランク』がクリアできてなくて」

「なんでい、そのランクってのは。バトル漫画とかでよくある、強さの格付けってやつかい?」

 

イナリが興味深そうに尋ねる。

 

「んー、強さだけじゃないですけど、どれだけ危険度の高いクエストをこなせるかという点で、ざっと四段階にランク分けされるそうです。最近その基準が見直されたそうなので、告知書を書き写してきました」

 

ギルドの掲示板にも、その告知書が張られている。

元々、連合ギルドでは、ハンターランクと冒険者ランクの不統一が問題視されていた。

例えばタマが救助した『勇者一行』などは、冒険者としては高ランクだったために、不相応なマスター級クエストを受注できてしまい、窮地に陥っていた。

そうした諸問題を解決すべく、連合クランは『この魔大陸におけるローカルなランク付け』を、ハンター・冒険者の双方に行うことにした。

 

「まずL級――ルーキーです。言葉通り、まだ基礎教習を受けただけのハンターないし冒険者のことですね。よそでどんなに名を上げた人でも、魔大陸(こっち)のギルドで活動する際は、改めて適性試験を受けてもらうとか」

 

ギルドがハンターや冒険者の安全対策を徹底していることが窺える。

 

「そこから実績に応じて、『G3級』『G2級』『G1級』という順に上がっていきます」

「あら、なんだか耳慣れたランク付けね」

 

クリークが微笑む通り、トレセンのウマ娘にとっては無視できない格付けだ。

 

「こいつぁ奇遇ってやつだな。で? あたいらは何級なんだい?」

「その……全員L級です。ちなみにクラン設立のためには『G3級以上が五人必要』だそうです」

 

興味深そうなイナリに、チヨは遠慮がちに回答した。

 

「なんでい!? あれだけ竜やらサハギンやら退治してきたじゃねぇか!」

「まあ、つい最近ハンターになったばかりだものねぇ」

 

不満を隠さないイナリと、納得するクリーク。

それに続く形で、マルゼンが気付いたことを口にする。

 

「戦って強いかどうか以外かも、評価基準のひとつなのね」

「はい。モンスターや環境に関する知識とか、素材回収の実績とかも必要になります。

 でもっ、討伐実績については、さっきの戦いで倒したモンスターたちで充分だそうです!」

 

チヨが言うには、先の騒動で討伐したサハギン、およびトビカガチやリオレイアについては、教官ハンターが保証する形でギルドも把握しているらしい。

 

「あとは素材回収クエストと座学試験をクリアすれば、G2級は確実とのことでした!」

 

チヨはよい報せを伝えたつもりだが、一部のウマ娘が青ざめた。

 

「ちょっ、座学試験ってことは……」

「ゲームの中でまで勉強してテスト受けにゃならんのかい!」

「レースの方がマシだ……」

 

イナリ、タマ、オグリの三人だった。

 

「そんなに難しいものじゃないそうですから、頑張りましょう!」

「そうね。他のウマ娘たちを見付けるためだもの。お勉強で済むならそれに越したことはないし」

「素材回収の方も、皆で協力すればすぐよすぐ♪」

 

チヨ、クリーク、マルゼンはそう意気込んだ。

勉強苦手組もしぶしぶ頷き、チヨが会議を進める。

 

「では、今後の課題を確認しますね。

 一つ、みんなでG3級を目指そう!

 二つ、オグリさんの指名手配を解除しよう!

 三つ、それと並行して他のウマ娘を探そう! です!」

 

オグリ以外がL級を脱出してもクラン設立は叶うが、それに時間を食うなら並行してオグリの方も解決する。

そしてクランが設立しようとしまいと、他のウマ娘を探すという根底の目標は変わらない。

 

「っしゃあ! こうなりゃ素材集めでもお勉強でもなんでもしたるわ!」

「指名手配は私の失態だ。できることならなんでもしよう」

「あたいもさ。待ちを練り歩いてウマ娘を探してきてやらあ!」

 

タマ・オグリ・イナリも、学友たちのためならと気力を取り戻す。

 

「じゃあそれに当たって、早急に解決すべき問題があると思うの」

 

クリークが挙手して注目を集めると、その目線をオグリに向ける。

 

「ああ……」「たしかに、ね」

 

チヨとマルゼンが微苦笑で納得すると、タマとイナリも察しをつけた。

 

「な、なんだ? 私はまだなにかしてしまったのか?」

 

当惑するオグリだけが、最後まで分からなかった。

 

 

 

 

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――〈帝国基地〉防具屋――

=============

 

 

「はーいオグリちゃん♡ お着替えしましょうねー♪」

「こらぁ! 逃げんなやオグリ!」

「離せタマ! 私の野性的な勘がクリークに警報を鳴らしている!」

 

帝国基地に暖簾を掲げる防具屋の前で、一騒動が起きていた。

クリークが両手の指をわきわきさせて、逃げようとしたオグリをタマが羽交い締めにしている。

 

「おいおいオグリよ、観念しろや。お尋ね者がそんな目立つ格好で歩くわけにはいかねぇだろ」

「あはは……ジャージって、こっちだとかなり浮いた服装に見えますからねぇ」

「背中のカジキマグロなんか特にねぇ」

 

イナリ、チヨ、マルゼンも、『お着替え』には賛成だった。

 

「もう、落ち着いてオグリちゃん。ここはゲームなんだから、別に服を脱ぐ必要はないのよ?」

 

クリークが心外そうな顔で説く。

本当にただのゲームなのかという疑問は置いておき、オグリは首を傾げた。

 

「どういうことだ?」

「メニュー画面から装備変更を選べば、ぱっと着替えられますよ?」

 

チヨの説明には、オグリだけでなくタマも首を傾げる。

それを見て、チヨは目を丸くした。

 

「え? まさかそこから? お二人とも、いままでメニュー画面が開けることも知らずに?」

「そもそもメニュー画面とはなんだ? タッチパネルで注文することか?」

「すまん、うちもそっちの『メニュー』ちゃうってことしか分からん」

 

VRゲームとは無縁な走者人生を送っているオグリとタマには、ゲーマーの基礎用語も外国語だ。

 

「まあ、私もチヨちゃんに言われるまで気付かなかったものねぇ」

「百聞は一見に如かずだ。ちょいと頭の中で『メニュー画面』とか唱えてみな」

 

微苦笑するマルゼンの代わりに、イナリがやり方を教える。

言われた通りにしてみると――タマとオグリの手元に、薄い青色の『画面』が出現した。

 

「うおっ!?」「なんやこれ!? こんなSFみたいなもんあったんか!?」

 

オグリとタマは驚いたが、辛うじてアニメや映画による『ホログラフ』の知識はあった。

画面には各種情報――ステータスの数値などが表示されている。

 

「そこで武器とか防具とか、所持しているアイテムとかお金とかを確認できるんです。

 いまはテストプレイ用の装備になってるはずですけど、他の装備にも変更可能ですよ?」

 

というチヨもゲーマーというわけではないのだが、この面子の中では最も知識が豊富だった。

タマは装備欄を見て、訝しげな顔をする。

 

「なんや、防具に仰々しい名前が並んどるけど、うちそんなん着てへんで? 見ての通り勝負服やで? そもそもなんで勝負服なんや?」

「それは『重ね着』ですね。防具の見た目だけを変える機能があるんです。

 勝負服なのは、ウマレーターに記録されていたものが使われているみたいですね」

 

チヨが推測すると、イナリが思い出した。

 

「そういや、テストプレイのついでに、CM用のプレイ映像を撮影したいっつう話だったな」

 

イナリの言葉で、タマとオグリも思い出す。

 

「あー、元はウマ娘プレイヤーから不満が出て始まったテストプレイやったもんな」

「離れたウマ娘プレイヤーを取り戻すために、ウマ娘を起用したCMを打つとかなんとか……」

 

テストプレイに応募した際に説明された気がする。

 

「色んなウマ娘がわいわいゲームしてるシーンが欲しいってんで、ゲームでも勝負服が着れるようにしたって話さ。ま、CMの主役は他の奴で、あたいらはモブみてぇなもんらしいけどな」

 

イナリとしては、たとえモブでも照れ臭いという顔だ。

 

トレセン学園には有名人も多い。ウマ娘に対するCMモデルとしてはよい選択だ。

生のリアクションが欲しかったそうで、「普通に楽しんでほしい」と言われている。

それがまさかこんな体験に繋がるとは、誰も思っていなかった。

 

「そういえば、なんでオグリちゃんだけジャージなの?」

「以前、ウマレーターで仮想練習をしたので、そのときの格好が使われたのでは?」

 

マルゼンが首を傾げ、オグリが仮説を立てる。

勝負服の反映は急遽盛り込んだものらしく、そのようなバグが起きたのだろう。

 

「なんにせよ、です!」

 

チヨが話を戻す。

 

「オグリさんが指名手配されてる以上、最低限の変装をしておかないとトラブルが予想されます。いま手元にある材料で作れるものから変装になる装備を作って、見た目を変えましょう!」

 

オグリキャップの姿は、『カジキマグロを背負った、奇妙な紅白衣装の、白髪の獣人』だ。

特徴だけ羅列した人相書きでも、誰でも一目で気付く。

ギルドには事情を説明して拘束は免れたが、衛兵などが職業意識で捕らえに来ないとも限らない。

そのリスクを、いわゆる『重ね着コーデ』で解消しようという作戦だ。

 

「なるほどな、それで防具屋っちゅうわけか」

「ええ、素材を持ち込めば色んな防具を作ってくれるそうだから」

 

タマが納得して、クリークと共に防具屋の看板を見る。

 

「そういうことであれば、仕方ないか……まさか指名手配されて変装する日が来るとはな……

 笠松の人たちに合わせる顔がない……」

「笠松にまで手配書は届いてないからだいじょー(ブイ)よ♪

 さあ、皆でオグリちゃんをコーディネイトしてあげましょう!」

 

しぶしぶ了承したオグリの背中を、マルゼンが押して防具屋に導く。

服屋に入る感覚で防具屋に入る花の乙女――という図の異様さは、誰も自覚できていなかった。

 

 

 

 

「とりあえず、手ぇ付けるんなら、まずはそのマグロからやな」

 

防具屋に入店したタマは、様々なデザインの武具が並ぶ店内で、オグリに声を掛ける。

チヨやマルゼンは店主と何か話しており、クリークとイナリは商品を見つつオグリに目を向けた。

 

「ま、待て、このマグロには愛着があるんだ。できれば変えたくない」

「なんでやねん! その文字通り死んだ魚の目ぇしたカジキマグロになんの愛着があるんや!?」

 

庇うように【レイトウマグロ】を抱き寄せるオグリだった。

 

「タマには分からないんだ!

 森で道に迷い、空腹感と不安で意識が朦朧としたとき、私を支えてくれたのはこいつなんだ!

 頑張れオグリキャップと励ます声を私はたしかに聞いたんだ!」

「幻聴や! どんだけ追い詰められとんねん!」

 

クリークとイナリも苦笑いしながら、オグリの説得を試みる。

 

「お、オグリちゃん。なにもマグロちゃんを捨てるってわけでもないんだし……」

「天下のアイドルホースがマグロぶん回すってのは、ちっと悪目立ちが過ぎるぜ」

 

引き続き【レイトウマグロ】を抱いてガルルルルと唸るオグリに、タマは呆れ顔で肩を竦めた。

 

「オグリ、どうせ愛着持つんならもっとマシな武器にせぇや」

「タマだって人のこと言えないだろう! 卵じゃないか! タマゴクロスじゃないか!」

「おー言うたな!? いつか誰かが言うと思っとったわ!!」

 

まあまあ、とクリークが二人を宥めた。

そこに、店主との話を終えたチヨとマルゼンが戻ってくる。

 

「あ、武器は取り替える必要ないですよ? 重ね着は武器も見た目だけを変えられますから」

「あくまで手持ちの武器に限るけどね。とりあえず、手持ちの素材で作れる武器を見繕ってもらったわよ? 素材が不足している分はお金でなんとかなるみたいね」

 

マルゼンが画面を開くと、幾つかの武器が画像と共に表示されている。

なおこの『画面』は、彼女たち『プレイヤー』にしか認識できないらしい。

その画面を見るウマ娘たちは、傍から見ればメモか何かを囲んで相談しているように見えていた。

 

「おー、色々作れるやん。こんな素材、いつの間に持っとったんや?」

「モンスターを仕留めたり部位破壊したとき、自動的に手に入ってるみたいだぜ?

 この所持品って項目から『取り出す』を選ぶと、持ってた素材がポンと出てくるって寸法よ」

 

タマへの説明も兼ねて、イナリが【雌火竜の上鱗】を取り出すと、大きな鱗の塊が出現した。

スタンピードから逃げた際に遭遇した、リオレイアから入手した素材だ。

 

「あとは必要な素材を大将んとこに持っていって作らせるだけさ」

「足りない素材があったら提供するから、マグロさんに似合う『お洋服』を探しましょう♪」

 

クリークが表現を工夫することで、オグリに興味を抱かせた。

 

「ふむ、そうか。相棒に相応しい鞘を選ぶようなものだと思えば……」

 

重ね着を活用すれば、武器は【レイトウマグロ】そのままに、見た目だけ他の武器にできる。

なるほど『お洋服』や『鞘』と言えなくもないが、マグロがそれを望んでいるかどうかは疑問だ。

 

「武器は他のハンターが持ってるようなものならいいとして、重要なのは防具ね。

 最低限、オグリちゃんの人相を隠せるようなものにしないと」

 

マルゼンが言うと、チヨが画面に防具の候補を表示。

一同が目を凝らす中、オグリが早々に降参した。

 

「私はそういうセンスがないからな。皆でよさそうなものを選んでくれ」

 

かくして、ウマ娘たちによる、オグリキャップの重ね着コーデ大会が始まるのだった。

 

 

 

 

一番手、タマによるコーデ。

 

「とりあえず顔とマグロを隠せりゃええやろ。あんま金かけんのもあれやし、これでどうや!」

 

タマが選出したのは――頭部装備【スカルヘッド】と、大剣【カムラノ大剣】だった。

変更したのは頭部のみなので、他はジャージのまま。

 

つまり――骸骨のフルフェイスメットを被り、無骨な大剣を手にした、ジャージ姿の女である。

 

「こっっっわ!!」

「こ、これはシリアルキラーすぎるような……」

「子供が見たら泣いちゃうわねぇ……」

「今日がハロウィンだとしても通報ね」

 

イナリとチヨが震え上がり、クリークとマルゼンが苦笑いする。

 

「耳や顔は隠れているし、動く感覚も変わらないし、これはこれで悪くない」

 

当のオグリには好感触だが、髑髏の兜から聞こえるその声に、タマも冷や汗を掻いた。

 

「すまん、安上がりに済ませようとしすぎたわ」

 

タマが取り下げる形で、次のウマ娘に委ねた。

 

「んじゃー、あたいが決めてやるよ。

 要するにだ、狩ったモンスターを材料に武器や防具を作るのが醍醐味なんだろ?

 だったらここは、オグリが狩猟した奴を素材に作るのが筋ってもんさ」

 

イナリらしいこだわりを口にして、イナリはオグリの所持品にあった素材から装備を選出する。

 

「このオサイズチの素材で大剣と防具を作るだろ、そんでブルファンゴの素材で兜をだな……」

 

かくして二番手、イナリによるコーデ。

 

武器――大剣【イーズルブレイド】。

オサイズチの尻尾とその棘に柄を付けた、剣というより大きな棘を生やす鈍器らしき武器。

防具――胴体と手足は【イズチシリーズ】。

オサイズチの毛皮と体毛を用いた鎧に、手甲と脚甲。

橙色の体毛が映える、いかにも魔大陸の狩人っぽいデザインだ。

頭部装備――【ファンゴフェイク】。

角を生やしたファンゴの頭部をダイレクトに兜としたような、猪面のフルフェイスメット。

 

猪頭に毛皮防具を着て棘突き鈍器を構えた、芦毛の尻尾を揺らす何者かがそこにいた。

 

「あ、溢れかえる野性味……っ!」

「いやどこの辺境の蛮族やねん!」

 

チヨとタマが身を引くが、ファンゴ頭となったオグリは、手足を軽く動かして「ふむ」と頷く。

 

「動きやすいし、不思議と視界は明瞭だし、着心地は悪くないな」

「……すまねぇ、オグリ。あたいとしたことが、隣を一緒に歩くことまでは考えてなかったぜ」

 

片手で額を叩いたイナリに、猪面のオグリが首を傾げるのだった。

 

「なら、次は私が♪」

 

三番手、クリークによるコーデ。

 

武器――【ドラグロソード】。

一見すると木製の大鉈めいている、湾曲した分厚い茶色の大剣だ。

防具――【リノプロシリーズ】。

一言で言うと、クマさんの着ぐるみめいた輪郭の、全身甲冑だ。

ほぼ球体に近い兜の頭部には丸い耳があり、赤を基調としている。

全体のシルエットがクマさんっぽいというだけで、立派な甲冑ではあるが……

 

「可愛いっ!」

「あらぁ、こんな装備もあるのねぇ」

 

チヨとマルゼンには好評だった。

 

「これなら、子供が見ても泣き出したりしないでしょう?」

「いままでは泣き出されるような格好だったのか? 私は」

 

丸いクマさん型の兜から、少しくぐもったオグリお声がする。

防御力と顔隠しを確保しつつ、外見で人を怯えさせない、クリークらしいチョイスである。

 

「んーまあ、悪くないな」

「似た装備のハンターもちらほら見るし、意外と町に溶け込めるんじゃねぇか?」

 

タマとイナリも否定材料が浮かばない。

リノプロ装備は小型モンスター素材で作れるので、それを着た駆け出しがちらほらいる。

現実なら異様な格好だが、この魔大陸であれば、若葉マーク的に知られた初心者装備だ。

 

「むぅ……」

 

しかし、今度はオグリの方から、肯定的ではない声が出る。

オグリは甲冑姿のまま肩を回したり、爪先で床を突いたり、軽い腿上げをしたりすると。

 

「少し、動きずらい気がする……」

「ああ……」

 

クリークが盲点だったという顔をする。

 

「変わったのは見た目だけで、重さとか可動域とかは前と同じはずですよ? たぶん」

「そうなんだが……布が当たる程度の感触がある。走れなくはないが、ちょっと気になるな……」

 

チヨに答えるオグリは、顔に髪の毛が一本かかったような、小さい異物感を抱いているようだ。

納得したような顔をするのは、マルゼンだ。

 

「分かるわ、その気持ち。ライブ衣装や勝負服って、裾ひとつで感覚が変わるのよねぇ」

「あー、勝負服に初めて袖を通したときとか、苦労しましたよね」

 

続いてチヨが納得した。

タマとイナリも得心が行く。

彼女らはスポーツ選手だ。着ている服の裾が1センチ長いか否かで、妙な違和感を覚えたりする。

フィギュアスケートの選手などは、回転するときに飾りの布が遠心力を持つので、選手の体感に合わせてミリ単位の調整を行うとも言う。たとえ物理的には問題なくても、体の感覚的には問題があるのだ。オグリが感じているのは、そういう類のものだろう。

 

「慣れるまで動けば、大丈夫とは思うが……」

「無理しないで、オグリちゃん。そういう感覚は大事だから」

 

爪先で跳躍するオグリに、クリークが声を掛けた。

 

「ならそれは候補に残すとして、次はチヨちゃんかしら?」

「んー、私はリオレイア装備を勧めようかと思ったんですけど、これも結構ごてごてしてますし、同じ違和感が出そうです」

 

四番手に控えていたチヨだが、クリークと同じ結果になると予想した。

 

「マルゼンさんが選んだのは、どんな装備ですか?」

「じゃあ、順番を飛ばしちゃうけど、お姉さんがコーデしてあげる♪」

 

かくして五番手――マルゼンのコーデ。

 

武器――【メガスワスター】。

鉄柱に三角形の刃を突き刺したような、斧のようにも見える大剣だ。

防具――【ズワロシリーズ】。

ズワロポス素材から作られる、緑色のフードとマントだ。

 

「これならフードで耳と顔も隠せるし、他のハンターさんにも溶け込めるでしょ? 下はあえて『すっぴん』状態にして、ウマレーターに保存されていたタイツのデータを流用しました♪」

 

人相を隠せて、動きやすい――課題はクリアしていた。

最後はオグリ自身の着心地だ。マルゼンを始めとして、仲間たちが反応を注視する。

 

「ふむ……おお……うん……」

 

オグリは軽い体操で手足を動かし、【レイトウマグロ】から見た目だけ変化した【メガスワスター】を取り回す。

 

「動きやすい。フードもちゃんとウマ娘の耳に合わせてあるな」

 

オグリの様子を見るに、好感触だった。

緑色のフードはウマ娘用で、耳を納める外向きポケットのようなものがある。

そこに耳を差し込めば、走ったり風が噴いたりしても、フードが外れることはない。

 

「これだ、これにする」

「あら、いいの? もっと可愛いのを選んでもよかったのに」

「いや、これだ。感覚的には、体操着にジャージの上だけ着ているようなものだ。

 これなら走っている最中にも気にならない」

 

オグリは地味な見た目の【ズワロシリーズ】がお気に召したようだ。

エルフの狩人などは、こんな格好で森に入っていそうである。

ただの新米ハンターであると言い張るには充分な見た目だ。

 

「では、決定ですね! 店主さーん、これお会計お願いしまーす」

 

チヨが店主に声を掛け、オグリもカウンターに向かう。

 

「タマ(こう)はいいのかい?」

「うちは指名手配されとらんしな。

 テストプレイ用の装備も強めにしてもろてるみたいやし、このままでええわ」

 

イナリに答えるタマである。

手持ちの素材では、いまより強い装備が作れないので、手持ち素材は店に売ることにした。

 

「オグリちゃんだけ別で悪いけど、私たちは勝負服にしておきましょ。

 知り合いのウマ娘なら遠目にも気付いてくれるだろうし」

 

マルゼンの提案に異論は出ない。

他のウマ娘を見付けるか、見付けられるかすることが、今後の方針だ。

 

「そうね。オグリちゃんは指名手配が解かれたら勝負服を着てもらいましょ」

 

クリークが手を合わせた頃、会計を終えたオグリが戻ってくる。

 

「ん? オグリ、その武器……」

 

タマが気付く。

オグリが手にしている武器は、鉄製の【メガスワスター】の他に、もう一本あった。

 

「ああ、これか? 前の戦いで武器をトビカガチに奪われただろう? そういうときに備えて、予備にもう一本作ってもらった」

 

オグリが持っていた二本目の武器は【イーズルブレイド】だ。

野性味が強すぎるという理由で見送ったが、結局は作ってもらったらしい。

 

「さっきのイナリではないが、せっかく狩ったオサイズチの素材を使わないのも、なんだか筋じゃない気がしてな」

 

そう言って、オグリは予備武装の【イーズルブレイド】を、メニュー画面の『所持品』に納める。

画面には『装備しますか?』という問いがあり、『いいえ』を選ぶと『所持品に収納しました』と出てきた。

 

「まあ、使う機会がないなら、それに越したことはないが――」

 

そう言って、オグリは装備の見た目を一新、指名手配解除のために動き出すのだった。

 

 

 

 

その後、一同は宿に入る。

 

「なんや、ファンタジーな世界にしてはアパートみたいなとこやな」

 

案内されたタマが、外観の印象を口にした。

マルゼンたちが借りていた宿は、現代で言うところのアパートに近い集合住宅だった。

欧州風モダニズム建築とでもいうのか、部屋を一単位の箱と見なして積み重ねたような、階数の多い建物だ。

 

タマの感想に、クリークが答える。

 

「この街って、大陸の外から来た人たちが築いたものでしょう?

 いまでも冒険者さんや商人さんが続々と来ているらしくて、こういう質実簡素なものが急速に建てられてるらしいの」

 

されど基地の土地は限られている。

モンスターから土地を勝ち取るのは容易ではないので、土地の無駄遣いはできない。

そこで、建物を縦に伸ばそうという発想が、ファンタジーな世界の人間にも生まれたらしい。

 

「つっても、部屋を貸すだけで、家具や掃除や食事は自分で準備しろいって扱いだけどな。

 宿っつうより短期契約のアパートみてぇなもんさ」

「まあ値段は安いですし、修学旅行の宿泊先だと思えば充分ですよ」

 

そう言ったイナリとチヨに案内され、タマとオグリも部屋に入居することになった。

部屋はそれほど広くなく、六人分のマットレスを敷いて雑魚寝するのが精一杯というところだろう。

 

「上等やん」

「野宿でなければ天国だ」

 

下町育ちのタマとオグリには充分だった。

 

宿にタマとオグリの宿泊手続きを取った後、一同は食事に向かう。

 

「ニャー! お店探しなら任せるニャー」

「アイルーの地域コミュニティで一通り情報を集めてきたニャー」

「オグリ姐さんの食欲にも負けない、安くて多くて味そこそこな店も見付けたニャー」

 

タマのオトモアイルーたちが合流する。

別行動していたのは、アイルー同士の情報網で諸々の調査をしていたからだ。

こうした形でハンターをサポートするのも、オトモの仕事のうちらしい。

 

「変装は効果覿面ね。オグリちゃんもそんなに注目されてないみたい」

 

マルゼンが周囲の様子とオグリの姿を見比べた。

夕暮れ時の〈帝国基地〉は、急速に人気を増している。

仕事を終えたハンターや冒険者が基地に戻り、基地内の労働者たちも夕食をとる時間帯だからだ。

 

「手配書もそんなにあちこちに張られとらんみたいやしな」

 

タマとしても、また誤認逮捕されては困る。

幸い、〈王国基地〉で指名手配されたオグリの人相書きは、〈帝国基地〉までは張り出されていないらしい。

情報を共有しているのは、ギルドと衛兵団くらいのものだろう。

 

「なんでい、これなら無理にオグリの顔を隠す必要も――」

 

イナリがそう笑ったとき、歩いていた屋台通りの一角が騒がしくなる。

 

「食い逃げニャぁぁぁ!! そいつを掴まえるニャぁぁぁ!!」

 

アイルー族の店主が上げた声に、ウマ娘がびくぅっと直立不動になる。

しかし声の方向を見ると、オグリのことではなく、別の誰かが食い逃げをしたようだ。

 

「テメェこの野郎! この屋台通りで食い逃げたぁいい度胸だ!!」

「常連客がハンターや冒険者ばっかりだってこと忘れてんのか!?」

「払う金がねぇならテメェを煮て焼いて食うぞコラァ!!」

「用心棒の先生、こいつです! 半殺しにしてやってくだせぇ!!」

「衛兵団ッス! 食い逃げ犯はどこッスかぁ!?」

「ひぃぃぃっ、お助けぇぇぇっ」

 

痩せた男が、駆け付けた店主や客にボコボコにされて、衛兵に拘束された。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

青ざめるオグリを中心に沈黙するウマ娘たち。

 

「オグリ、フード絶対に外すなや?」

「財布も忘れてねぇか確認しやがれ。スリにも要注意だぜ」

 

冷や汗を掻いたタマとイナリに言われて、オグリはこくこくと頷くのだった。

 

「そ、それでオトモさん、これから行くのはどんなお店なんですか?」

「魔大陸近海の海産物を中心にしたお店ニャー」

「図体はデカいけど大味な巨大魚を安く仕入れて、そこそこ美味く調理してるニャー」

 

チヨがアイルーと言葉を交わしながら、店を目指していると――

 

「――――見付けたッスよぉぉぉ! オグリキャップ!!」

 

再び、一同は硬直することになった。

今度は名指しだ。同姓同名とも考えにくい。

 

「ど、どうしましょうマルゼンさん……」

「あはは、逃げられなくはないけど、今後を考えると悪手でしょうね」

 

青ざめたチヨがマルゼンに問いかけ、マルゼンも困った顔をしている。

打開策が思い浮かぶ前に、衛兵団の制服を着た少女がこちらに駆け寄ってきた。

 

「皆……私が牢屋に入ったら、せめて毎日ニンニク味噌を差し入れてくれ……」

「オグリちゃん落ち着いてっ、そればっかりだと栄養が偏っちゃうでしょっ?」

 

既に観念しているオグリに、クリークが少しズレたことを言っていると、

 

「見損なったッスよオグリ先輩! いくらゲームだからって罪を犯して指名手配なんて!!」

 

やけに聞き覚えのある声と、オグリに対する呼び方に、一同は目を丸くして振り返る。

 

 

 

「このバンブーメモリーがっ、先輩に罪を償わせてやるッス!!」

 

 

 

()()()()()()()()()バンブーメモリーが、オグリをびしっと指さしていた。

 

 




ご一読いただきありがとうございました。

今後の方針を定めるミーティングおよび、オグリ着せ替え人形の回。
および体制側についたバンブーでした。

バンブーのキャラなら、MMOとかやっても秩序を保つ側に回りそうだよね。
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