ウマ娘 VS モンハン in 異世界   作:大中小太郎

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真実VSうわさ

 

 

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――魔大陸〈渓流森林〉――

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その頃――先日、オグリキャップがオサイズチを討伐したあたりの〈渓流森林〉。

 

オサイズチが狩られたことで空白となった縄張りに――サハギンが住み着いていた。

 

モンスターとの合戦を生き延びたサハギンだ。

スタンピードによる大移動は、魔物が生息域を拡大するための『入植』であると考えられている。

増えすぎた個体を侵略的大移動させ、先方の生き物に多少は捕食されることで間引き、生き残りを入植させる。

その生き残りが一割以下であったとしても、移動先で再び繁殖したなら、それは入植成功なのだ。

 

サハギンたちもまた、魔大陸という新天地の生態系に、自分たちを食い込ませようとしていた。

モンスターには勝てないが、勝てないなら逃げ隠れすればいい。

小川を中心に巣を作り、雑食を活かして水辺に生きて、数を増やし各地に浸透していく。

個体ごとの勝った負けたなど些事、種として最後まで生き延びるか否か。およそ生き物というものが無自覚にしている生存競争において、サハギンはまだ負けていない。

 

そんなサハギンたちが、森で川魚を捕っていると――

 

一頭のイズチが、()()()()()()()()、一刀両断した。

 

『ッ!?』

 

小型モンスターであるイズチ。

サハギンであっても、複数で囲めば勝てる相手だ。

 

だが――あまりにも電光石火だった。

気配を察知したサハギンが顔を上げたら、矢のように駆け込んだイズチが、口で噛んだ太刀ですれ違い様に首を落としていた。

残り二体のサハギンが唖然として銛を構える。

 

それなりの知能があるサハギンたちは、不意の襲撃者に驚きを隠せない。

 

――()()()()()()()()()使()()()()()

 

亜人であるゴブリンやサハギンでもなく、ゴシャハギでもあるまいに。

前脚はあっても『手』は持たない獣風情が、明らかに名刀と分かる太刀を、口で振るっている。

 

ハンターが使う、対モンスター用の太刀だ。

銘は【白兎棘刃・イナバ】――〈雷軍装〉ジンオウガにハンター部隊が返り討ちに遭った戦場で、一頭のイズチが引き抜いたものである。

ご丁寧に鞘も前脚に持っており、犬が棒をオモチャにしているのとは異なる気配を感じさせる。

 

『――――』

 

太刀を噛んだイズチは、それを放さないよう無言で、サハギンたちに襲い掛かった。

首を振って太刀を薙ぎ、サハギンの銛を弾くと、横回転――棘のある尾を顔面に叩き込む。

続いてもう一頭のサハギンには、横向きに体当たり。

柄を噛んだ太刀を、サハギンの喉に突き刺し、首を振って引き抜きつつ、頭部を宙に舞わせた。

 

『――――』

 

物言わず三体のサハギンを仕留めたイズチは、驚いたことに血振りをして、首を曲げて太刀を鞘に収める。

もはや、イズチに化けた人間なのではないかと思わされる光景だ。

しかしイズチは、そのまま仕留めたサハギンに牙を立て、獣らしく食い始めた。

 

そんなイズチの剣士が、顔を上げる。

見れば周囲には、何体かのイズチが寄ってきていた。

オグリキャップの討伐したオサイズチ、その群に属していた同胞たちだ。

 

『――ッ』

 

イズチの剣士はサハギンの骸を噛んで持ち上げると、寄ってきた同胞たちの前に放る。

分け与える行動であり、オサイズチが仕留めた得物を群に分け与える行動だった。

見ればイズチの剣士は、他のイズチたちに比べて、少し大柄に見える。

 

その胸中は、人間には推し量れない。

はっきりしているのは、この日――オグリに縄張りを追われたイズチが、故郷を取り戻したということだけだった。

 

 

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――〈帝国基地〉衛兵団詰め所――

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屋台や食堂で夕食をとった人々が、家に帰る頃。

帝国基地の一角にある衛兵団の詰め所、聴取目的で作られた一室。

 

「アタシは悲しいッス! オグリ先輩!」

 

ウマ娘・バンブーメモリーが、取調室の机にダンッと握り拳を落とす。

その正面には、フードを下ろしたオグリがいた。

『私は食い逃げをしました』と描かれた札を手に、涙目で着席させられている。

 

「ゲームになると現実より素行が悪くなる人がいると聞くッス!

 でも尊敬するオグリ先輩がそんな安っぽい真似するところは見たくなかったッス!」

「実直な後輩の涙が胸に突き刺さるんだが……」

 

オグリの目が死んだ魚に近付いてきたので、横で見ていたタマは、そこで口を挟むことにした。

 

「バンブー、そろそろ落ち着きや。せめて事情くらい聞かんかい」

「タマ先輩もッス! イナリ先輩やクリーク先輩、チヨ先輩にマルゼン先輩まで付いていてっ! 密猟にまで手を染めるだなんて! かくなる上は後輩のアタシが法の裁きを受けさせるッス!」

「なんやねん密猟て!? オグリだけならまだしもなんでウチらまで共犯扱いやねん!?」

 

マルゼンやチヨ、イナリやクリークも、バンブーの物言いに唖然とした。

この様子だと嘘を言っている感じではない。情報の食い違いを感じる。

 

「ええと、バンブーちゃん? なんだか誤解があるんじゃないかしら?」

 

クリークがバンブーの顔を覗き込む。

泣く子の相手といったら彼女なので、タマたちはクリークに委ねることにした。

 

「アタシだって何かの誤解だと思ったッス! 思いたかったッスよ!」

 

泣いて訴えるバンブーに、こりゃ時間が掛かりそうだとタマたちが嘆息したとき――

 

「バンブー先輩、落ち着いてください。どうやら間違いだったみたいですよ?」

 

騒がしい部屋に颯爽と現れたのは――ウマ娘だった。

歩みと共に揺れる尾花栗毛(プラチナブロンド)、整った眉目に、右耳を飾る青いリボン。

百年に一度の美少女とさえ異名されるその身を、衛兵団の制服に包んだ彼女は――

 

「「シチーっ!?」」

 

タマとイナリの声が揃う。

 

――ゴールドシチー。

トレセン学園のウマ娘、タマたちの後輩に当たる、モデル兼業の競走者だ。

 

「どうも、先輩方。ご無事でよかったです」

 

驚くタマたちに、どこかホッとしたような笑みを浮かべて、シチーはバンブーの前に書類を出す。

 

「手配書の内容を精査しました。やっぱりオグリ先輩の手配書、情報が錯綜してますよ、これ」

 

呆れ顔で言うシチーに促されるまま、バンブーは書類を速読していく。

たまらず問いかけたのはチヨだった。

 

「シチーさんっ!? どうしてシチーさんまで衛兵団に!?」

「というより、このゲームをしてたのね?」

 

チヨに続いてマルゼンも、意外そうな顔をしていた。

 

「ああ、はい――その前に、先輩方がどうしてたのか、聞いてもいいですか?

 ちょっと整理した方がよさそうなので」

 

後半、シチーはバンブーを一瞥して微苦笑した。

 

バンブーが話を聞く姿勢になったことを幸いと取り、タマたちは事の次第を説明する。

マルゼンやクリークも加わり、【MHE】の異常や脱出方法の件も、同時に説明された。

 

「そ、そういうことだったッスか……」

 

一通りを聞き終えたバンブーは、急に聞かされた様々な情報に困惑しつつ、息をついた。

 

「たしかに、あのスタンピード騒動に巻き込まれたんじゃ、代金を払うどころじゃないッスね」

「ようやく話が通じたじゃねぇか。ったく、問答無用で詰め所まで連行してくれやがって」

 

イナリが嘆息する。

自分も向こう見ずなところはあるが、お前ほどじゃないと言いたげだ。

 

「し、仕方ないじゃないッスか! この最新の手配書を見て欲しいッス!」

 

バンブーが突き付けたのは、オグリの手配書だ。

タマが最初に〈オルガン亭〉で見たときは、人相の特徴と食い逃げの罪状が記されていたが――

 

 

 

『名前:オグリキャップ 二つ名:〈怪物〉

 特徴:銀髪の獣人系、異様な俊足、非常に暴食

    氷結したカジキマグロらしきものを大剣のごとく操る

 罪状:食い逃げ、および〈渓流森林〉での密猟疑惑

 消息:〈渓流森林〉で多数のモンスターを乱獲

    後のスタンピード時にトビカガチ・リオレイアを狩猟

    その後〈帝国基地〉へ移動したものと推測される

 備考:超人的な身体能力あり、捕縛の際は対モンスター用装備を推奨

    同族と徒党を組んでいる可能性あり、獣人盗賊団との関連を含め調査中』

 

 

 

「…………」

 

チヨが代表して読み上げた内容を聞いて、一同は沈黙した。

やがて、タマとイナリが口を開く。

 

「二つ名付きの凶悪犯やな」

「モンスターの討伐依頼書にしか見えねぇ」

 

呆然としていたオグリが、冷や汗を流しながら顔を上げた。

 

「……尾ひれ背ひれが酷いんだが?」

「いや、割と現実を捉えとるで?」

 

心外そうなオグリに、呆れ顔のタマであった。

オグリが〈渓流森林〉に迷い込んで狩猟をしていたのは事実だし、マグロは言わずもがな。

空腹時に危険なことも、捉えるには対人装備では不足なことも、実にその通りだった。

 

「いや待ちやがれ! この『同族と徒党を組んでる』ってのはアタイらのことかい!?」

「これは……スタンピードの時の武勇伝が悪事とごっちゃになっちゃってるみたいねぇ」

 

要らぬ飛び火を受けたイナリが訴え、クリークがあらあらと困り顔になる。

 

「最後の『獣人盗賊団』って、なんのことでしょう?」

「んー、そういうお尋ね者がいて、その一味だと思われちゃったのかしら?」

 

チヨとマルゼンが首を傾げていると、シチーが口を開く。

 

「だいたいそんな感じです。この街、魔大陸で一攫千金しようとした荒くれ者がぞろぞろ来てるみたいで、中には国外逃亡してきたような奴らもいるんですよ。先輩たちの件とタイミングが重なって、繋がりがあるのではと考えた人がいたみたいですね。あ、ちなみにその盗賊団は夕方頃に一斉逮捕されました」

 

すらすらと並べたシチーは、調書にペンを走らせながら続ける。

 

「スタンピードの直後だったので、現場の情報も錯綜気味で、オグリ先輩の目撃情報も伝言ゲームみたいにおかしくなったみたいです。密猟疑惑は遭難と自衛によるもの、ベースキャンプにいたハンターからも証言が取れたので、ギルドへの説明はこれで充分。残りの罪状は引き続き食い逃げだけど、当人に支払う意思はあり、現在は〈灰色の浜〉が通行禁止なので支払いに行けない事情を加味して、衛士による監視に留める――っと」

 

調書を書き終えたシチーに、タマたち同世代のウマ娘は意外そうな顔をしていた。

 

「とりあえず、これを提出して……なんですか? その顔」

「いやぁ、シチーお前、割と真面目に仕事するんやなーっと」

「へぇ、それ意外?」

「ちょ、そういう意味ちゃうわ。この状況でそういう風にできるんがすごいっちゅうとんのや」

 

シチーが心外そうに圧を放つと、タマが慌てて訂正する。

モデル業との二足のわらじで知られたシチーは、時にレースへの姿勢を疑われがちなので、他人からのそういう目に過敏なのだ。

そんなシチーの面倒なところを感じつつ、イナリが口を開く。

 

「意外っつうなら、あたしはシチーがこういうゲームをしてたっつうのが意外だぜ?」

「ああ、私はテストプレイヤーじゃないですよ」

 

嘆息するシチーに、チヨが目を瞬いた。

 

「テストプレイじゃない? じゃあどうして【MHE】に?」

「CMです。いわゆる案件ですよ」

 

シチーは自分が【MHE】に『遭難』した経緯を語り始めた。

 

そもそも【MHE】が急にテストプレイヤーを募集したのは、ウマ娘プレイヤーの操作感の悪さだった。

アバターの挙動とウマ娘の感覚が絶妙に噛み合わず、VR酔いを招き、リタイア勢が増加した。

これを払拭して、かつウマ娘プレイヤーを取り戻すのが、テストプレイの趣旨だ。

 

「なるほど、それで人気モデルのシチーちゃんに白羽の矢が立てられたのね♪」

「ええ、まあ」

 

マルゼンが気付いたように、テストプレイにウマレーターを使うと決まる過程で、トレセン学園生のCM起用も決まった。

モデルのシチーを始めとして、ウマ娘界隈で名の知れた生徒は幾人かいる。

 

「私みたいなのにゲームさせてきゃーきゃー言ってる絵が欲しいとかで。

 他の子がテストプレイするのと同時に、私も撮影用にプレイしてたんです。

 まあこれも経験かと思って請けましたけど……まさかこんなことになるなんて」

 

改めて、自分の置かれた状況を嘆くシチーだった。

バンブーも自分の経緯を説明する。

 

「アタシは普通に応募したッス。トレーニングがちょっと伸び悩んでたんで、気分転換も兼ねて」

 

ウマレーターによる仮想空間でのトレーニングは、新しい発見をもたらすことも多い。

その嬉しい誤算と気晴らしを兼ねて、バンブーは【MHE】をプレイしたという。

 

「チュートリアルが終わるまでは普通だったんッスけどねぇ。

 それが終わって『ゲームを開始します』って案内が出たら、なんか映像がバグり始めたッス。

 気がついたら街中にいて……」

「私も同じです。操作確認の後に撮影って段取りだったのに、ゲームの中に放り込まれて。

 たまたまバンブー先輩に会えたけど、結局元に戻る方法も分からなくて……」

 

それを聞いて、マルゼンとチヨとクリークが耳を下げる。

 

「そっか、私たちも帝国基地でウマ娘は探してたけど、すれ違ってたんだね」

 

チヨが言うように、彼女らは〈帝国基地〉でウマ娘を探していた。

しかし、ただ歩いて聞いて回るだけの捜査では、取りこぼしが出てしまったのだろう。

 

「で、困ってるところを衛兵さんに保護してもらったッス」

「そしたらバンブー先輩が、『衛兵として働きたい』って言い出して……」

 

ハンターではなく衛兵だった理由は、バンブーの志願にあったようだ。

注目を集めたバンブーは、そのときの自分の考えを答える。

 

「シチーがいたってことは、他のウマ娘たちも居るんじゃないかって思ったッス。

 だったら、その子たちも衛兵に保護されるんじゃないかと――」

「ああ、なるほど」

 

クリークが、得心がいったというように両手を合わせる。

 

「衛兵団の組織力を活用して、ウマ娘と合流しようとしてたのね。バンブーちゃん頭いい♪」

 

というマルゼンも考えはしたのだろうが、密航者と解釈されうる立場にリスクを感じて、ハンターを選択した。

だがバンブーは実直な性格により、身元不明にも関わらず衛兵団の中で信頼を獲得したらしい。

 

「まあ、衛兵団も人手不足ですから。どこから来たのかも分からない私たちを雇うくらいには」

 

シチーもバンブーの選択に付き合う形で、共に衛兵となったそうだ。

 

そんなシチーが思っているよりも、衛兵団は彼女らを重宝していた。

街で引ったくりがあれば爆速で追いついて捉え、屈強な男相手でも容易にねじ伏せる、ウマ娘の速さと強さ。

この世界の基準では高度な教育を受けており、書類仕事にもすぐに対応。

実直で気持ちのいい性格のバンブーと、仕事の立ち回りが洗練されているシチーは、既に衛兵団のアイドルだったりする。

 

「そうしているうちに、オグリ先輩の手配書を見付けたというわけです」

 

かくしてバンブーがオグリたちを発見、いまに至る。

 

「誤解があって申し訳ないッス。でも、おかげでこうして会えて助かったッス!

 どうすれば現実に戻れるかもこれではっきりしたッス!

 後はそれを叶えるために努力根性あるのみッス!」

 

バンブーは意気軒昂に拳を握った。

飾るということのない、しかし前向きで清く正しい、原石のような精神だった。

喜色を浮かべたのはイナリとチヨだ。

 

「いいこと言うじゃねぇかバンブー!」

「はいっ。それに、これでお二人とも合流できました!

 この調子で他のウマ娘たちを見付けて、皆でゲームクリアです!」

 

そう、バンブーとシチーに会えただけでも、慮外の収穫だった。

となると、問題になってくるのは――

 

「それで、私の身柄はどうなるのだろうか?」

 

お縄を頂戴されたオグリの処遇だ。

 

「アタシが衛兵団長に掛け合ってみるッス!」

 

そうしてバンブーが連れてきたのは、〈帝国基地〉の治安維持を担う衛兵団の団長だった。

教官ハンターと同い年くらいの男性で、挨拶したマルゼンが諸々の事情を説明すると――

 

「なるほど、話は分かった。食い逃げの手配書が、実質的な保護依頼であることも把握している。

 逃げ隠れしようとしたことは感心しないが、バンブーとシチーが保証するなら事情を汲もう」

 

実直に働いてきたのだろう二人が「悪人ではない」と保証したことが、団長を頷かせた。

 

「〈王国基地〉に行けるようになって、お店に代金を支払い、指名手配を取り下げてもらえ。

 衛兵団が罰金を取るかもしれないが、まあハンターなら無理な金額にはならないはずだ。

 それまでは――バンブーとシチー、お前が同行して監視しろ」

「同行……?」

「いいんですか?」

 

バンブーとシチーが目を瞬く。

衛兵団を離れて、クラン・ウイニングライブ(仮)で活動するということだ。

二人もそうしたかったが、どう切り出そうか迷っていたところである。

 

「同郷なんだろう? 元いた故郷に帰れるかもしれないんだろう? だったら行動を共にしろ。

 ただし、定期的にこっちに顔を出せ。散り散りになったというお仲間の報せが届いているかもしれないからな」

 

名目上はオグリの監視にバンブーとシチーを付ける形だが、実際は二人に自由行動を認めるものだった。

しかもウマ娘を探していると聞いて、その情報収集にも衛兵団の伝手で協力してくれるという。

 

「団長っ!」

「ありがとうございます、団長」

 

バンブーは感涙、シチーも珍しく屈託のない笑みとなる。

 

「えっと、こちらとしては助かるけど、いいのかしら?」

 

マルゼンが驚き混じりに尋ねると、団長は肩を竦めて、

 

「〈渓流森林〉のベースキャンプには、調査員をしている弟がいてな。

 聞けば、ウマ娘には恩があるらしい。その礼だ」

 

団長はそう言って取調室を出ると、仕事に戻っていった。

 

「なんでいなんでい、粋な計らいしてくれるじゃねぇか!」

「かー、徳は積んでおくもんやなぁ」

 

イナリとタマが歓喜して、マルゼンとチヨが笑みを浮かべる。

 

「衛兵団の協力を得られたのは、思わぬ収穫ね」

「バンブーさんとシチーさんのおかげですっ」

 

バンブーは手を振って否定する。

 

「いや、アタシは普通に働いてただけッスから」

「そんなことないわ。二人が真面目に仕事をしてきたから、団長さんも信用してくれたんだもの」

 

クリークの言葉も、世辞ということはない。

これは間違いなく、バンブーメモリーとゴールドシチーが繋いだ縁だ。

 

「そういうことなら、信頼に応えるまでッス。

 改めて、バンブーメモリー、よろしくお願いするッス!」

「同じくゴールドシチー、クラン〈勝利の奏で(ウイニングライブ)〉に入団します」

 

かくして、バンブーメモリーとゴールドシチーが仲間に加わった。

 

クラン発足については足踏みしているが、ウマ娘を集めるという目標そのものは前進だ。

概ね好調なスタートと言っていいだろう。

この調子でトレセン学園生たちと合流できれば――そう願いながら、彼女たちは宿で眠りに就く。

 

他の同窓たちも、安らかな夜を迎えられていることを祈りながら。

 

 

 

 

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――【剣と魔法の世界】 エルフの森――

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祈ることに意味はある。

それでもやはり、祈りが届かない場所はある。

安らかとは程遠い夜に直面しているウマ娘も、やはりいた。

 

「あ……」

 

ライスシャワーが――地面に尻餅をついていた。

顔は青ざめて強ばり、唇は震えている。

勝負服は土に汚れ、足下には短剣が落ちていた。

 

そんなライスを月光が照らす。

その月光が、巨大な生き物の影を作り出し、動いた影がライスと重なった。

ライスの目には、満月を隠すように巨体を持ち上げた、そのモンスターの姿が見えていた。

 

黒い、飛竜種だった。

 

竜とは言ったが鱗は張っていない。

カラスのように黒い体毛に覆われた、獣のような体躯だ。

両腕からは、縁が刃のように鋭い骨格が伸びており、その間に蝙蝠めいた皮膜が張って、翼を成している。

興奮状態になると赤く発光する両眼が、夜の闇に線を引いていた。

月を見上げるように頭部を上げたその姿を、ライスは絶望的な表情で見ていた。

 

 

 

竜盤目 竜脚亜目 前翼脚竜上科――

 

迅竜、漆黒の影、双眸赫然、夜陰を断つ双星――

 

モンスターの中でも随一の瞬発力と跳躍力、そして隠密能力を持つ、巨大な暗殺者。

 

 

 

闇夜に走る赤い残光――――ナルガクルガである。

 

 

 

「ぶ……」

 

ライスは愕然とした顔で、ナルガクルガを見上げていた。

より正確には、そのナルガクルガの口元を見て、言葉を失っていた。

満月に向けて掲げられたその姿に、ようやく呼び掛ける。

 

「ブルボンさん!!」

 

ナルガクルガの顎に体を噛まれたブルボンが、生贄のように掲げられていた。

 

 




ご一読いただきありがとうございました。

動きの少ない回でしたが、バンブーとシチーが仲間になる回です。

実馬の年齢を見ると、シチーが年上で、オグリとバンブーが同い年なんですが、
ウマ娘だとオグリ>バンブー>シチーという学年順みたいですね。

ひとまず、シチーが一年生、バンブーが二年生、他は三年生という扱いで、
呼び方を設定しています。
なにか決定的な間違いがありましたらご指摘ください。


そして次回からは、ようやくこの対戦カード――黒い刺客VS漆黒の影です。
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