ウマ娘 VS モンハン in 異世界   作:大中小太郎

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タマモクロスVSジンオウガ

 

 

 

タマは走る。

VRとは思えない青空の下、大草原の上を。

ハンマーを手に、咆哮するジンオウガに向かって。

 

「どぉらっせぇい!」

 

微妙に小汚い声を上げて、ハンマーを振り抜く。

ジンオウガの前足振り落としを潜り抜け、低い姿勢で脇の下に入り込み、後ろ足を殴打した。

 

「『っ!?』」

 

ジンオウガと、そして勇者が、共に目を剥いた。

速い! と。

大気を割って風を起こすような急加速は、明らかに人間の限界を超えている。

ジンオウガが首を向けたときにはもう、尻尾も届かないところまで駆け抜けていた。

 

「ハハッ、なんやこれっ、めっちゃ爽快やん!」

 

タマはジンオウガから数メートルの距離を置いて、時計回りに周回する。

うなり声を上げたジンオウガから、雷光弾が複数、放たれた。

放物線を描いて飛来した光弾を、タマは横目に視認して――加速。

揺れる芦毛に掠らせもせず、雷光弾を回避していく。

避けられた雷光弾はタマの後方で地面に炸裂、白い稲妻の足跡を彩った。

 

「こないに無茶な走りしとんのに、足に負担がまったく掛からん!

 悪い癖が付きそうで怖いまであるわ!」

 

タマは丘陵の坂を駆け上がりつつ、カーブを描いて下る。

レースでやったら脚の故障を招くだろう急カーブだ。

上り坂は下り坂となり、その進路には地面を踏み込むジンオウガの姿。

 

「それにこの――【翔蟲(かけりむし)】!」

 

タマの腕から青白い光線が放たれる。

【翔蟲】の糸、異次元の滞空力を持つ昆虫が、ハンターを牽引するギミックだ。

 

下り坂+翔蟲の牽引+ウマ娘の脚力――導き出されるものは?

迅雷の如し、急加速!

 

「「ッッッ!!」」

 

地を蹴って飛びかかったジンオウガと、紫電を引いて跳び上がったタマモクロス。

大草原の上で起きた正面衝突が、落雷めいた轟音を打ち鳴らす。

 

タマの振り下ろしたハンマーが、ジンオウガの顔面を殴り飛ばすという光景で。

 

「っしゃあオラ!」

 

着地したタマと入れ替わる形で、丘陵の坂にジンオウガが転げ落ちた。

飛びかかりモーションにジャンプ攻撃を命中させて、カウンターを取ったのだ。

 

「なんだ、あの子……」

 

勇者は、目にしたものを疑う。

なんだ、なんだあの小さな獣人は?

飛びかかってきた巨獣に正面から突撃して、頭をぶん殴って空転させた。

速度どころか、パワーでも負けていない。

生きた落雷が獲物に何度も噛みつくように、ヒット&アウェイで巨獣を翻弄している。

 

『――ッッッ!!』

 

ジンオウガが苛立ったように吠える。

 

「おー、こわっ」

 

タマは軽い口調で言うと、横に転がり、振り落とされた尻尾を避けた。

それどころかハンマーを振り落とし、逆にジンオウガの尾を上から殴る。

 

パギャン! とでも言おうか、奇妙な音がして、白い発光があった。

 

(なんだ? あの攻撃……音が軽いし、なぜか光る。

 それどころか、武器が相手の体を軽く透過したような……)

 

勇者は強い違和感を覚える。

おかしい。あの少女の攻撃はおかしい。

 

音が軽い。鈍器が生き物を打った音ではない。

陶器を割ったようなあの音は、生き物の血肉が砕ける音とは明らかに違う。

 

発光している。

魔力を用いた攻撃には間々あることだが、それを知る勇者が見ても不可解だ。

なんというか……作為的に光っている。

まるで()()()()()()()()()()()()に光っているかのようだ。

 

ハンマーがジンオウガの体に透過するかのような光景は、もう意味が分からない。

もしやあれは実体のない幽霊的な何かなのかと思ったが、それだと最初の一撃でジンオウガが吹き飛ばされた説明が付かない。

 

(攻撃が当たっても、外傷が生じてない。鱗に汚れすらついてない。

 なのに『効いてる』、痛そうではないけど、かなり警戒されてる)

 

ジンオウガの反応からして、外傷以外の『損害』は起きているようだ。

 

(物理攻撃じゃない。かといって魔法って感じでもない……なんだ、あれ?)

 

上手く言えないが――物理法則とは異なるルールを感じる。

 

刃で肉と血管を絶ったから出血死する、鈍器で骨を砕いたから動けなくなる。

武器で他者を害するとはそういうことだ。

 

あれは……そうじゃない。

鈍器なのは見た目だけ、当てる目的は殴打ではなく『接触』だ。

 

たぶん、それでよいのだ。

武器を当てることで見えないダメージが蓄積して、外傷を与えず体力を奪う。

そして、全ての体力が奪い尽くされたとき、相手は『戦闘不能』になるのだろう。

 

原理はまったく不明だが、たぶんそういう現象が起きている。

 

「おう、弱ってきたみたいやな」

 

タマの台詞が、勇者の推測を概ね肯定した。

立ち上がったジンオウガから、青白い雷光が消えている。

超帯電状態が解除されたのだ。

 

「いまや!」

 

タマが合図すると、丘陵の陰から小さな兵たちが飛び出した。

 

「「「ミ゙ャ゙ャ゙ャ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッッッ!!」」」

 

アイルーだ。

剣と盾と兜で武装した、二足歩行の猫たちだ。

アイルーの一団が、ジンオウガに――ではなく、勇者たちに向けて走り出す。

 

「おいお前! いまのうちに逃げるニャ!」

 

呼ばれて顔を向けると、アイルーがいた。

すぐ傍に、犬型モンスターのガルクも立っている。

たしか【オトモ】と呼ばれていた、このクエストを請ける前に雇うことを進められた者たちだ。

知恵があるとはいえ魔物とパーティを組んだら勇者の沽券に関わるので、雇わなかったが。

 

「お前は鎧の男を運ぶニャ! 猫にはデカすぎニャ! 武器と盾はこっちで運んでやるニャ!」

 

というアイルー以外にも、複数体のアイルーが、勇者たちを救助していた。

気絶した魔女を荷車に寝かせ、僧侶をガルクの背中に乗せている。

勇者はようやく気付く――あのハンマー使いの獣人は、自分たちの救助に来てくれたのだと。

 

「すまない! 恩に着る!」

 

勇者は戦士の元に駆け寄り、鎧の重さに苦労しながらも背負う。

戦士が手放していた盾と槍は、数匹のアイルーたちが頭上に掲げていた。

魔女を乗せた荷車もアイルーに縄で引かれ、僧侶を乗せたガルクが走り出す。

 

「待て、あの子は!?」

 

勇者が振り返った先、タマはまだ草原に仁王立ちしている。

その向こう側では、頭を振ったジンオウガが立ち上がり、いまだ戦意ある様子で睨んでいた。

 

「あの子は一人で逃げられるニャ! リードしておかないとこっちが追いてかれるニャ!」

 

先に逃げても、後に逃げた彼女の方が追い越すと、アイルーは言っていた。

 

「……どんだけ脚が速いんだよ?」

 

唖然としながらも、勇者は重たい戦士を背負ったまま、必死に戦場を離脱するのだった。

 

 

 

 

モンスターハンターというゲームは、TPS――操るキャラを背後から見る視点のゲームである。

それがVRになったときに予想される問題は、モンスターとの視覚的な距離が近すぎることだ。

 

モンハンのモンスターは巨体である。

その巨体に刀剣類で果敢に挑むハンターの物語である。

それをVRでやろうとすると、モンスターの間近に立った視界は、その巨体で埋め尽くされる。

従来のTPSのように、モンスターの全身を捉えて動きを読むことはできない。

こうした距離感で、モンスターが従来のまま暴れ回れば――

視界が足でいっぱいになっている間に、尻尾が死角から叩き込まれるといった事故が続出する。

 

結果、弓や銃器ならまだしも、接近武器にはハイリスクな設計となってしまう。

かといって、人に合わせてモンスターを愚鈍にして、遠距離武器の天下になるのも望ましくない。

 

よって【モンスターハンター・エクリプス】では、幾つかの工夫が凝らされた。

 

そのひとつが――ダッシュ攻撃のテコ入れである。

 

VR視点に合わせて、モンスターの全体像を捉えられる中距離から、その隙を突ける攻撃。

『助走』で攻撃を回避しつつ攻撃に転じたり、スタミナ・地形・翔蟲を用いて急加速したり――

こういった攻撃法の充実で、前衛系の射程距離を拡大させ、爽快なヒット&アウェイを実現した。

そうして『怯み』や『転倒』を起こしたところを、待ちに待った至近距離で武器を振り回すのだ。

 

即ち、【モンスターハンター・エクリプス】のコンセプトは――『疾走感』。

 

ウマ娘プレイヤーを、VRでも満足させられるほどの、脚を使った狩猟スタイル。

広大なフィールドを、巨大なモンスターに向けて、縦横無尽に駆け抜ける――

『ランナー』というスタイルの登場だった。

 

「とぉらぁ!!」

 

タマモクロスが――ジンオウガの体を飛び越えるように、ハンマーを振り上げながら回転した。

その空中で、手甲から【翔蟲】を真下へ放ち、牽引させる。

 

「そいやぁ!!」

 

落雷のような、上空からの急降下攻撃で、ジンオウガの頭部を殴打する。

タマの手に反動らしい反動はない。

ダメージを与えている間、攻撃モーションに拘束されるだけだ。

 

「いよっ!」

 

拘束が解けると、すぐさま【猛ダッシュ】。

スタミナを大幅消費することで可能となった、攻撃にも回避にも使える急加速。

これを用いて、大胆にもジンオウガの股下を抜けると、振り回された尻尾をジャンプで回避した。

 

ゲームのモンスターにそんな反応があるかは不明だが、ジンオウガの顔に苛立ちが見て取れる。

 

「ほらぁ! こっち来いや野良犬ぅ!」

 

タマは、アイルーたちとは逆方向に走る。

その背を、ジンオウガが追っていく。

人を跨いで追い越しそうな巨獣が、牙を剥いて迫ってくる。

逃げた勇者たちよりも、タマを優先して排除すべき外敵と見なしたらしい。

 

「いやいや普通に怖いわ! こんな怪物に背中向けて走れっちゅうかい!?」

 

タマはハンマーを背中に固定して、最終直線さながら両腕を振って全力疾走する。

相手の姿を視界に捉えられていればまだいいが、いまは背を向けているのだ。

目を向けられない背後から、ジンオウガが、追ってくるのだ。

よーいドンの後に檻からライオンを放って追わせるより酷い。

 

足音なんて可愛いものじゃない、巨体が地を蹴る度の地響き。

呼吸なんて次元のものじゃない、牙の隙間から溢れ出る強風。

あの爪が、牙が、角が、いまこの瞬間にも、背中を襲いうる。

 

当然、速い。

全長15メートル以上の巨体が生み出す圧倒的な歩幅、遅いはずがない。

追いつかれれば、踏み潰されるか噛みつかれるかして、終わる。

まるで、線路の上で列車から走って逃げようとするかのようだ。

 

「まあ、怪物いうても――」

 

しかし――彼女はウマ娘である。

ウマ娘の中でも上から数えるべき俊足の、タマモクロスである。

 

「オグリほどじゃないわ」

 

――白い稲妻が、加速する。

靡く芦毛を尾のように引いて、眼から稲光を引くように。

 

――追いつけない。

ジンオウガが追いつけない。

牙が髪の毛先を掠め、爪が勝負服の裾を削っても、タマモクロスに追いつけない!

 

魔大陸の草原で、鳴神上狼の猛威を背に、白い稲妻が地表を駆ける。

ハンターなど副業、ハンマーなど小道具、真の武器はこの脚だとばかりに、

春秋連覇の迅雷が、迅鬼の猛追ものともせず、西から東へ大草原を切り裂いていく。

 

そしてついに――

 

「よっ!」

 

――落とし穴の上まで、誘導した。

 

タマがジンオウガを惹き付けている間に、アイルー隊が設置した罠だ。

ジンオウガがもう少し冷静であれば、地面の目印に不自然さを覚えただろう。

タマは翔蟲を使ってその上を飛び越え、ジンオウガは前足で踏み抜いた。

 

爆音めいた落下音。

トラックが丸ごと落ちそうな大穴が出現、ジンオウガの巨体が沈んでいく。

慌てて爪を掻いたジンオウガだが、生じた穴はすぐさま崩落して、土砂で下半身を埋め尽くす。

土に混ぜられていた仕掛けが脚に絡み、巨体で暴れるだけでは解決できない状態へ持ち込んだ。

 

「だーれがお前みたいなデカブツと真っ向勝負するかい! そこでウチの背中を見送っときや!」

 

タマは足を止めることなく、一着を取ったような顔で手を振って、ジンオウガを置いていく。

言葉は分からなくとも、自分が嵌められたことは理解したのだろう、ジンオウガがどこか悔しそうに唸る。

前足の爪を地面に突き立て、落とし穴から体を引き抜こうとするも、抜けない。

時間を掛ければ引き抜けそうではあるが、その頃には、あの素早い二本足も地平線の彼方だろう。

それを理解したジンオウガは、すぐさまの脱出を諦めて息をつく。

 

『――――――ッッッッッッ!!!!!!』

 

代わりに、タマに向けて宣戦布告するかのように、咆哮を響き渡らせるのだった。

 

 

 

――結局この日、ジンオウガは討伐も捕獲もされなかった。

罠から脱出したジンオウガは、タマモクロスが去った方を睨んだ後、背を向けて立ち去る。

その横顔は、どこか……

 

『その匂い、覚えたぞ』

 

と語っているようにも見えた。

 

これが、やがて因縁の間柄となる、〈白い稲妻〉と〈鳴神上狼〉の、最初の一戦だった。

 

 

 




ご一読いただきありがとうございました。

ひとまず、お試しに二話更新します。
まあ続きを読んでやってもいいかな、と思われましたら、
評価などしていただくとモチベになります。
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