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――魔大陸 王国基地〈オルガン亭〉――
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「んニャー、その子じゃないニャ。手配書の子はもっと背が高かったニャ」
衛兵に食い逃げ犯の疑いを掛けられたタマだったが、亭主の証言により嫌疑は晴れた。
「いや、失礼した。一致する特徴が多かったもので」
「まあ、あんたらも仕事やもんな」
詫びを入れた衛兵に、タマは憮然としながらも頷いた。
「それより大将! この店にオグリが来てたんか!?」
タマはアイルーの亭主を問い詰める。
「ニャ。つい昨日のことニャ。タマちゃんはそのとき海岸キャンプにいたんだったかニャ」
「おう、大将の飯が恋しかったで。それよりオグリや!」
タマは勇者たちを救助する前日、第一基地から離れたキャンプ地に泊まり込んで狩りをしていた。
どうやらその間に、オグリキャップが店に現われたらしい。
「盛大に腹を鳴らしながらやってきてニャー。
随分と簡素な服に【レイトウマグロ】を背負ってたニャ。
で、『これで食べられるだけ頼む』って財布を差し出したのニャ」
タマはその姿が想像できた。
簡素な服とはジャージか何かだろう、財布の金はスタート時点で持っている初期所持金だ。
オグリの『スタート地点』は不明だが、腹を空かせる程度にはさまよって、この町に来たらしい。
「なんだか気の毒でニャ。つい『腹一杯食っていい』って啖呵を食ったんだがニャ……」
アイルー亭主は、心霊体験を思い出したように青ざめる。
「皆まで言わんでええで……食料庫が大打撃やったんやろ?」
「オスアイルーに二言はないニャ」
察するに、オグリの所持金を超過する金額を食い尽くしたのだろう。
「そしたらその子、周囲のハンターから『モンスターを狩れば金になる』って聞いてニャ。
工面してくるって言って丸一日ニャ。ちょっと安否が気になってニャ……」
アイルー亭主は、手配書と衛兵を見る。
「かといって狩猟区域にまで探しには行けんニャ。ギルドに捜索を依頼するのも金が掛かるニャ。
だからいっそ衛兵に指名手配してもらったニャ。無事に帰ってきてくれればそれでいいのニャ」
「衛兵は迷子捜しを受け付けていないんですがね。まあ食い逃げは事実ですから……」
話から察するに、実質的には『迷子』を捜索するための手配書らしい。
「なるほど、知り合いが迷惑かけたみたいやな。皿洗いでもなんでもさせて払わせるさかい、許したってな」
タマは友人の不始末を詫びて、衛兵に目を向ける。
「んで? オグリは見つかりそうなんか? 最後に目撃されたんは草原地帯やろ? その後は?」
「申し訳ない、衛兵団は町の中が管轄で、町の外までは捜索できないんだ。
モンスターに対処するための訓練は受けていないからね」
「なんやそれ! 捜索しとらんっちゅうことかい!」
「いや、ギルドと共有して、見付けたら逮捕……実質的には保護してもらうよう頼んであるよ」
衛兵はモンスターが蔓延る町の外までは追跡できないらしい。
怠慢ということはない。普通の犯罪者はそんなところへ逃げないし、逃げても喰い殺されるか音を上げる。
ただ、オグリは実質その逃亡劇をやってのけているようだ。
「ちょうどいいニャ、タマちゃんの知り合いなら、ギルドに聞いて探してやるといいニャ。
タマちゃんの腕なら狩猟区域でも探してやれるニャ」
「せやな。ちょっと行ってくるわ。大将、えらいすんませんでした! すぐ連れてくるさかいな!
勇者の兄さんたちもまたな! 次はちゃんと準備してから狩りするんやで!」
タマはアイルー亭主に頭を下げると、勇者一行に別れを告げて、食堂から駆け出す。
向かう先は、この王国第一基地にある【ギルド】だった。
○
かつて――最初に魔大陸を踏んだ調査団のハンターたちは、驚愕の光景を目の当たりにした。
「お、おい!? あれはナバルデウスじゃないか!?」
「いきなり古龍だと!? いや待て、何かと戦ってるぞ……」
「見たことがない竜だ。大海龍と縄張り争いするほどのものがいるとは……」
まず到達するまでの航海からして、海洋モンスターとの遭遇の連続だった。
見覚えはあるがこの海域にいないはずの種や、初めてみるような種、その縄張り争い。
「なんだあの霧は? まるで断崖絶壁だぞ……」
「分かりません! 気象条件からして、あんなところに霧があるはずがないのですが」
「おい、船が流されてないか!?」
「潮の流れが急に変わりました! まるで濁流みたいにっ、霧の方へ引き込まれます!」
積乱雲のような濃霧に包まれ、海流で船を引き込む魔大陸。
調査団の船は引き込まれるように、魔大陸に上陸した。
「船長、航行は可能か?」
「可能ですが、あの異常な海流を考えると、同じ航路で遠洋に出るのは難しいでしょう」
周りの海水を呑み込むような異常海流により、調査団の船は砂浜に打ち上げられた。
団長は「上陸できただけ幸運か」と前向きに捉え、まずはそこに拠点を構築することにした。
調査員に周辺を調べさせつつ、帰還用の航路を探し、魔大陸の調査を始める。
「奇妙な環境です。何年も前からここにあったような……」
「それは、なにが奇妙なんだ?」
「お忘れですか? この大陸は『突如として出現した』はずなんです。
周辺の海流や気象の激変から、そう捉える他にないと結論付けられています。
仮に海底から浮上してきたのだとしても、せいぜい一ヶ月ほどしか経っていません。
にも関わらず、何年も前から洋上にあったように、地上の植生が出来上がっているんです」
「なら、海底から浮上したのではなく、どこかから漂流してきたのかもな」
「まあ、どちらも考えにくいことですが……それを知るための調査団ですね」
改めて調べても、魔大陸は不可解なことだらけだった。
「お、おい! あれはシェルレウスじゃないか!?」
「バカな、飛竜種の祖先だろう!? 絶滅したはずではないのか……っ!?」
ハンターたちの知る限り、遠い昔に絶滅したはずのモンスターが闊歩していた。
モンスターに限らず、他の動植物にも同様に、絶滅種が続々と発見されたのだった。
「なあ、この木の枝? 朝にお前が鉈で切ったよな?」
「ああ……その、はずだ……跡がある」
「じゃあ、なんで夕方になったら、もう生え替わってるんだ?」
植物を中心に異常な生命力が確認された。
鉈で切っても生え替わる、野焼きしたはずの地表が翌朝には緑に満ちている。
調査員が検証のため種を一つ栽培してみたら、一日で目が出て花が咲いたという。
「発見されたモンスターがどれも平均以上、中には異常個体と言えるほど巨大化しています」
「未知のモンスターも多数、我々の知る種のどれとも一致しないようなものが」
「アイルーです! 巨大な琥珀のようなものに包まれたアイルーを発見しました!」
「スケッチになりますが、ご覧ください。土の中に埋まった建築物を発見しました」
目を剥くような報告が、日々の会議でひっきりなしに持ち帰られた。
だが、何よりも度肝を抜かれたのは、やはり『彼ら』との出会いだっただろう。
「人間です! 我々とは異なる海路で上陸したと思われます!」
「っ、接触を図ろう」
団長は腕利きのハンターを伴って、その一団にコンタクトを取りに行った。
しかしその先で見たのは――モンスターの襲撃を受ける、彼らの拠点だった。
襲っているモンスターは、遠目にはアンジャナフに見えた。
充分な防衛設備とハンターがいれば対処できなくはないが、彼らは苦戦しているように見える。
「彼らが味方とは限らんが、味方にできる絶好の機会と考えよう。
総員、戦闘準備! モンスターを討伐する!」
団長は義と打算によって助太刀した。
熟練のハンターたちだ、アンジャナフ一体であれば、お湯が冷める程度の時間で討伐できた。
助けられた人間たちは唖然としていた。
「伝説のドラゴンスレイヤーか?」と呟く者もいた。
なにはともあれ、拠点の代表者たちは感謝を延べ、団長は先方の代表者とその場で会談した。
違和感はすぐに訪れた。
「我々は冒険者ギルドによる魔大陸調査団である」
代表者はそのように自己紹介すると、国名なども付け加えた。
団長にはまったく聞き覚えのない国名だった。
「申し訳ない、冒険者とはなんだ? 未開地の探索を専門に行う者たちか?」
「そちらこそハンターとはなんだ? ただの狩人というわけではなさそうだ」
お互いに思っていた――あいつらは何か変だ。
「お、おい? 見たか? 呪文を唱えたら傷が治ったぞ!?」
「水を出して消火してる奴もいるぞ? なんの手品だ?」
ハンターたちは、まるで『魔法』のような力を操る『冒険者』なるものに唖然としていた。
「妙な武器だな。竜を倒せる武器なんてあるのか……」
「なんだ? あのケット・シーみたいな猫、魔物か?」
冒険者たちは、人間の作る武器では倒せないとされる『竜』を討伐した『ハンター』なるものに呆然としていた。
やがて双方の学者がたまらず口を挟み、激論を交わし始めた。
魔法とはなにか、魔物とはなにか。
古龍とはなにか、古代文明とは。
双方が持っていた『世界地図』を突き付け合わせたとき、ようやく違和感の形が見えてきた。
その二つの地図は、同時には成立し得ない内容だった。
経緯度などを入念に確認しても「その陸地は海のはずだ」「そこには大陸があるはずだ」と。
まるで……
まるで、別の世界からやってきた人間が、対面したかのような。
何度も検証され、いくつもの仮説が立てられ、それでも最後に残ったのは、荒唐無稽なものだった。
――この魔大陸は、別世界と繋がっている。
○
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――魔大陸 王国基地 連合ギルド――
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「というわけで、この魔大陸に、ハンター&冒険者の【連合ギルド】が発足したのです!」
連合ギルドの受付嬢が、そのように話を締めくくった。
「なっがいわぁ!! パンフレットにでも書いてどっかに置いとけや、そういうのは!!」
長話を延々と聞かされたタマは、盛大なツッコミを受付所に響かせるのだった。
「そんなぁ、タマさんが聞いたんじゃないですかぁ」
受付嬢がしょんぼりする。
その受付嬢の顔立ちは、トレセン学園理事長秘書・駿川たづなによく似ていた。
最初はタマも驚いて確認したが、似ているだけのNPCだった。
このゲーム世界における人類種の、たづなさん似の女性受付嬢である。
なにせ帽子を被っていないし、人間の両耳がしっかり見えている。
……この言い方だと、トレセンのたづなが帽子と耳になにか秘密を持っているかのようだが、そんなことはない。断じてない。ないったらないのである。
「うちはハンターと冒険者ってどう違うんやって聞いただけや」
「ですから、【竜と狩人の世界】と【剣と魔法の世界】の違いですって答えたじゃないですか。
そしたらタマさんが『なんやそれ』って顔するから……」
先の長話が始まったのである。
つまりハンターと冒険者の決定的な違いは出身地なのだと。
ハンター側から見た冒険者たちの世界で最たる特徴は『魔法』なので、【剣と魔法の世界】。
ハンターたちの世界で最たる特徴は『竜がごろごろいる』ことなので、【竜と狩人の世界】。
この魔大陸では、異国ならぬ異界の人間を、そのように呼び合っているらしい。
そうして生まれたのが、この連合ギルドだ。
異なる世界から来たとはいえ、ここはモンスターの巣窟である未知の大陸。
双方の調査団は、無駄に隔絶して縄張り争いする愚を冒さなかった。
ハンターと冒険者は手を取り合い、魔大陸を生き延びた。
その協調路線は受け継がれ、ハンターと冒険者の共用ギルドという形をとっているのだった。
「というか、タマさんってどちらのご出身なんですか?」
「んあ? あー、どっちでもええやろ。うちはこのギルドのハンターや」
堂々と宣言することで、タマは受付嬢の疑問を交わした。
「それより、オグリはどないなっとんねん? 捜索はギルドがしてるって聞いてきたんやで?」
「いま担当の者が資料を持ってきますので、もう少しお待ちを――」
カウンターを間に挟んでそんなやりとりをしていると、職員が「お待たせしました」と書類を持ってくる。
受け取った受付嬢は、内容に目を通すと、少し心配そうな顔をした。
「渓流森林で痕跡らしきものが目撃されたのが最後のようですね」
「痕跡らしきもの?」
「足跡です。珍しい靴跡だったと記されています」
「ああ、蹄鉄か」
タマも履いているが、ウマ娘のシューズは基本的に蹄鉄が付いている。
ゲームの中でも忠実に再現されているらしく、それが特徴的な足跡になっているようだ。
そんなところまで気付くあたり、ギルドも入念にオグリを探しているのだろう。
「で? 足跡が見つかったんなら、オグリも見つかったんか?」
「それが……」
言いよどむ受付嬢は、言わねばならぬと思い直した様子で続ける。
「渓流森林の警戒レベルが上昇していたので、追跡を断念したそうです」
「なんや、警戒レベルて……」
不穏なものを感じたタマが冷や汗を掻く。
「その地域で特定モンスターの数が急激に増加しているようです。
いまは渓流森林のベースキャンプより奥に進むのは危険と判断されています」
「ちょっ、待たんかい! オグリは一人でそこにおるんやろ!? 危ないやんか!」
「ギルドでも通達はしていましたし、オグリキャップさんにも忠告はしたのですが……」
「あーはい分かったわ、あいつの方からふらふら入っていったんやなダァホが!」
タマは頭を抱えてむがーっと天井を仰いだ。
あの方向音痴がオトモも連れずに狩りなどしていれば、そうならない方が驚きだ。
「渓流森林やな! ベースキャンプの位置なら分かるわ! ちょっと行ってくるわ!」
「えっ!? タマさん!? ですからいまは危険だって――」
受付嬢の制止も聞かず、タマはギルドから駆け出すのだった。
どうやら自分は、ゲームの中でも、迷子の面倒を見なければならないらしい――と。
○
この世界でも、ウマ娘の足はやっぱり速い。
具体的には、オトモガルクよりも速い。
だからタマはガルクに乗らず、荷物とオトモアイルーだけを乗せて、自分は走る。
「タマモ姉さん! 渓流森林に行くなら海沿いの街道を東に行ってから北上するニャ!」
「ちょっと回り道だけど、タマ姉さんなら平地の方が走りやすいし結果的に速いニャー」
「いつモンスターと戦闘になってもいいようにスタミナを残しておくニャ」
タマのオトモアイルーは三人一組だ。
普通なら一人のハンターにつき、アイルーとガルクが一匹ずつ。
しかし彼らは得手不得手が尖っており、仲良し三人組を解散したくなかったらしい。
タマはなんとなく実家の弟妹たちを思い出して、彼ら三猫とオトモ契約をしたのだった。
「せやな。末脚を残しつつ急ぐで! せめて夜になる前に到着せんとな!」
タマはガルクを併走させる形で、第一基地の城壁西門を出た後、海岸街道を駆け抜ける。
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――魔大陸〈渓流森林〉ベースキャンプ――
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渓流森林は、魔大陸の南岸部に広がる大森林の一角だ。
名の通り渓流が静かに流れており、それに根を浸すように、大小の木々が乱立している。
そこにぽっかりと開けた地帯がある。
大森林の調査のため作られたベースキャンプだ。
キャンプといっても、モンスターが蔓延る土地で安全を確保しなければならない。
このキャンプは、丸太を地面に突き刺したような壁で囲まれ、岩山を背にした、砦のような外観だった。
「相変わらず山賊の根城みたいなとこやな。邪魔するでー」
タマは丸太壁の間にある門を通って、キャンプ地に入場する。
「なんだ、タマモクロスじゃないか」
「教官やないか。久方ぶりやな」
出迎えたのは、普段は第一基地で教官を務めている壮年の男性ハンターだった。
大抵のハンターは『教官』と呼び、タマも世話になってからそう呼んでいる。
「どうしてここにいる? いまこの近辺は危険度が上がってるから狩猟は禁止されてるぞ?」
「実はな――」
タマは渓流森林に知人が迷い込んでいる可能性が高いことを説明した。
「それは危険だな。しかし、もう日も沈む。二次遭難のリスクを考えると、捜索は翌朝からだ」
タマの気性からして、危険を無視して森に飛び込みかねないと、教官は考えていたが――
「せやろな。だから呼び寄せるんや」
しかしタマは、ガルクに背負わせていた荷物を手に取る。
「呼び寄せる? 大声を出すのか?」
望み薄ではないかという顔の教官だが、タマの手にした鞄が『食料用』であることに気付く。
「呼び寄せるっちゅうより、誘き寄せるっちゅうた方がええかもな。テントの厨房、借りるで」
「何をする気だ?」
タマは我が家のような足取りで、ベースキャンプの調理場へ向かう。
「あいつな、他のとこの道はまったく覚えへん癖して、飯が出るとこだけはすぐ覚えんねん」
勝ち誇ったような顔をしたタマが、鞄を開く。
詰め込まれた食材の一番上には――色鮮やかな『ニンジン』があった。
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「できたで! タマ特製、ニンジンハンバーグDX・激辛ニンジンバージョンや!」
しばらく後、キャンプの調理場でタマが作り上げたのは、大皿に山を作るハンバーグだった。
巨大ハンバーグの中央に、なぜか切らずに火を通したニンジンがぶっ刺さっている。
「お、おう、美味そうだな。ハンバーグは」
「いや、なんでニンジンだけ丸ごと茹でてあるんだ?」
「せめて『ヘタ』くらい切り取れよ。ていうか皮剥けよ」
「肉塊に突き刺して立てる意味が分からん。蛮族の縁起物か?」
「こんなに美味そうな肉料理なのに、ぶっ刺されたニンジンで急に下手物っぽく見えるな」
キャンプにいた他のハンターや調査員が、微妙な顔で見ていた。
ハンバーグは文句なしに美味そうだ。実に鼻をくすぐられるし、どこか家庭的で安心する。
しかし、皮も剥かずに丸煮したニンジンを、挽肉を捏ねて丸めて焼いたものに墓標の如く立てる意味は、この世界の誰にも分からなかった。
「うっさいわ! ヒトミミにはこの良さが分からんのや!」
タマは皿を手にキャンプの東門を出て、皿を荷箱に置くと、団扇を取り出して扇ぎ始める。
「……タマ姉さん? もしかして誘き寄せるって、そういうことニャ?」
オトモアイルーが遠慮がちに問いかけた。
「せや! このよく煮えたニンジンの匂いを嗅ぎ取れんウマ娘はおらんのや!」
「99%ハンバーグの匂いしかしないニャ」
「濃厚な肉とソースの香りがニンジンの全てを覆い隠してるニャ」
タマは強気だが、アイルーたちは懐疑的だった。
しかし、タマが根気強く、風にニンジンハンバーグDXの香りを乗せていると――
「お、おい! なんだあの影は!?」
夜の森、闇に包まれたその奥から、何かが近付いてきた。
ズル――ズルゥ――と、なにかの巨体が地面を滑る音がする。
ときおり、森の木にぶつかって枝が揺れる。
闇夜の中に眼光が灯り、ゆらゆらと上下しながら、タマたちの方へと近付いてきた。
それを見たハンターたちは、思わず武器を構えたが――
「コー……ホー……ニンジン……ニンジンハンバーグを焼いてるのは、誰だ……」
人の声を発していることに気付いて、目を凝らす。
オグリキャップが――多数のモンスターの骸を引き摺りながら、キャンプ場に現われた。
「「「出たニャァァァ!!」」」
アイルーたちが悲鳴を上げてタマの後ろに隠れる。
動物的な直感で、捕食者の気配を感知したのかもしれない。
飢えのせいか眼光がヤバいのは確かだが、ハンターたちが目を剥いているのは『荷物』の方だ。
森の蔦を編んで作った太い縄で、数匹のモンスターの足を縛り、縄を肩に掛けて引き摺っている。
もう片方の手には【レイトウマグロ】があり、よく観察すると一部に噛んだ跡があった。非常食になるかと試して無理だったらしい。
「オグリぃ! お前なにしとんねん! 早うこっち来んかい!」
「っ、タマ!?」
タマの声を聞いたオグリが、目に正気を取り戻す。
オグリは縄と【レイトウマグロ】を手放すと、タマの前へと駆け寄る。
「タマっ、よく無事だったな――ハグハグっ――会えてよかった――モグモグっ――」
「こらっ、うちとの再会を喜ぶか食うかどっちかにせんか!」
「そうだな。積もる話は食事の後だ」
「なんでやねん! 迷わず食事を優先すんなや!
ここは感動の再会で熱いハグとかするとこやで!?
いやせんでええわ! 食いながら抱き寄せんなや! ソースが顔に飛ぶやんか!」
オグリはニンジンハンバーグDXを頬張りながら、タマを片腕で抱き寄せた。
肉汁の溢れる感動の再会であった。
ご一読いただきありがとうございました。
検証動画によると、ガルクの時速は走り40キロ前後、ドリフト70キロ前後。
競走馬は人を乗せて60~70キロ強とのことなので、ウマ娘も同じとすると、
ウマ娘のレース速度はドリフトガルクと同じくらいということに。
「じゃあモンハン世界でウマ娘がドリフトしたら?」
っ、これは新しい必殺技に活かせるかもしれない!
なにはともあれ、タマとオグリが合流する回でした。