ウマ娘 VS モンハン in 異世界   作:大中小太郎

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ジンオウガVSハンター✕100

 

 

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――〈渓流森林〉ベースキャンプ――

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タマとオグリは、そのままキャンプで一泊することになった。

許可を出した教官は、タマにこう説明する。

 

「夜は危険なので泊めるが、当分この近辺で狩りは止めておけ」

「ああ、すまんな教官。ギルドでも聞いたで、なんやモンスターがおかしいってな」

「モンスターの縄張り争いが急激に増加しているんだ。未調査の新種も目撃されている」

 

その観察のため、ハンターと調査員の一隊が、このキャンプ地に配備されているらしい。

 

「明日の朝一で王国基地に戻れ。モンスターを見かけても刺激しないようにな」

「そうさせてもらうわ。慌ただしいとこ押し掛けて堪忍な」

 

こうしてタマとオグリはテントを一つ借りて、改めて顔を付き合わせるのだった。

色々と積もる話もあるが、やはり最初に言及するべきは、このことからだ――

 

「なあタマ、これは本当にゲームなんだろうか?」

 

オグリは顎を抓むように思案しながら、独白のように問いかけた。

テントの中にはタマとオグリの二人、寝袋を座布団の代わりに向き合って座る。

オトモアイルーは隣にアイルー用テントを張って、既に高いびきだ。

 

「正直わからん。まあ、VRウマレーターでゲームをしとったことだけは覚えとるけどな」

 

タマは軽く頭を掻いた。

思い出すのは、この魔大陸でハッと目を覚ますより前のこと。

オグリも同様に、記憶を紐解いていく。

 

「たしか、『アルバイト』だったな。テストプレイ、だったか?」

「せや、休日に小一時間ゲームするだけっちゅう、怪しいくらい美味い話やった」

 

――事の発端は、トレセン学園の掲示板で公募された、ゲームのテストプレイヤ―。

 

VRウマレーターは、理事長の人脈によって、様々なオンラインゲームと提携している。

【MHE】こと【モンスターハンター・エクリプス】もその一つだった。

 

「苦情が出たという話だったな。新しく始まったゲームに、ウマ娘プレイヤーから」

 

オグリが小耳に挟んだところ、【MHE】のサービスを開始直後、改善を求める声が上がった。

主にウマ娘プレイヤーからの声である。

 

『走りに違和感がある』

『体の動きと映像の動きに不一致を感じる』

『酔う』

『宇宙服を着せられているみたい。疾走感とは程遠い』

 

重箱の隅を突いているわけではなかった。

人間よりも優れた身体能力を持つウマ娘が存在する世界ならではの問題だ。

例えば、VR空間におけるアバターの挙動も、『人の動きを再現する』では足りない。

なぜなら、ウマ娘にとっては、それでは遅すぎるからだ。

苦情にあった宇宙服のように、アバターが現実の自分より愚鈍であるため窮屈になる。

 

「せやったな。ほんで、ウマ娘用に調整したもんを試して欲しいっちゅう話やったな」

 

CAPC○Mは妥協しない。

ヘリは堕としてもモンハンの質は落とさない。

ウマ娘にも快適にプレイしてもらうため、諸々の調整を行った。

調整の過程では、VRウマレーターの膨大なウマ娘データが解決策となった。

元はレース環境を再現するためのウマレーターだ。VRにおけるウマ娘の挙動で、これ以上の解答用紙はない。

調整を済ませた後はテストプレイだ。

そこで提携の縁により、トレセン学園の生徒からテストプレイヤーを募集したのである。

 

「理事長の紹介やから間違いはないやろうし。ゲームして時給もらえんなら言うて参加したんや」

「ああ、私もおやつ代にはなるだろうと思って、タマと一緒に応募した」

 

ゲーマーというわけではないタマやオグリが、【MHE】の世界に飛び込んだきっかけはそれだ。

 

「ほんでウマレーターが起動して……」

「気がつけば、こうなっていた」

 

つまり、到底VRとは思えないほどリアルな、別世界にいたのである。

 

「うち、あんまゲーム詳しないねんけど、普通こういうもんとちゃうよな?

 なんかこう、メニュー画面とか開いて、途中で止めたりできるやろ」

「それ以前に、VRとは思えないぞ? ご飯は美味しいし、お腹も膨れる……」

 

タマとオグリは首を傾げるばかりだった。

いわゆるログアウト不能状態であり、感覚的にも限りなく現実である。

 

「せやけど、流石に別世界に来とるっちゅうことはないやろ。

 うち、狩りの途中に転んだりぶつかったりしたけど、掠り傷ひとつないねんで?

 モンスターにぶん殴られたときもや。なんか体力が減った感はごっつあるけど」

 

そう、タマはハンターとして何度かモンスターと戦った。

その限りで、『ダメージ』はあっても『外傷』はなかった。

普通なら出血どころか血反吐を吐くような『被弾』があっても、それは起きていない。

 

「うちらの体、いわゆるアバターとかいうやつちゃうんか?」

「確かに私も、モンスターの爪や角を食らっても、怪我はしなかったな」

 

オグリはジャージの上から体のあちこちを触る。

そのときは、頭の中でHPバーが急減するのを感じた。回復薬を飲むと増加することもだ。

 

「そういう意味ではゲームなんだろう。ただ、『全部がゲームか』と言われると……」

「そう、そこやねん! ゲームなのに現実っぽくて、現実なのにゲームっぽいねん!」

 

つまり、ごっちゃなのだ。

タマもオグリも、その体は明らかにゲーム的だ。仮想空間にあるアバターと同じ性質である。

しかしそれを通じて感じるのは、どう考えても作り物とは思えない、人とモンスターの住む別天地である。

 

架空の法則と、現実の法則が、同時にある。

現実としか思えない場所に、ゲームとしか思えないタマやオグリの体がある。

 

勇者に指摘された『奇妙な攻撃』がその一例だ。

武器で血が出る『現実』がある中で、タマやオグリの攻撃だけは『絵空事』のよう。

攻撃がヒットしたら光ってHPが減って戦闘不能というゲーム的な現象が、現実に起きている。

 

視点を変えればこれは――ゲームキャラが現実に飛び出して暴れ回っているようなものだ。

 

「ぬあぁーっ、分からん! こういうのに詳しそうな奴おらんのか!」

「もはや、誰なら詳しいのかも分からないな……」

 

タマやオグリでなくとも、この異常事態に答えを出せるウマ娘は、ここにいなかった。

 

「そういえば、タマは私を探していたのか?」

「ああ、ウチとオグリ、同じタイミングでゲーム始めたやろ?

 もしかしたらウチと同じ状況でどっかにおるんやないかとヤマ張ったんや」

 

その山は当たっていたが、『脱出』の糸口にはならなかった。

 

「そうか……もしかすると、私たち以外にもいるかもしれないな」

「あー、部屋は別々やったけど、他にも結構おったからな。テストプレイヤー」

 

理事長がCAPC○Mとの提携に気をよくして、ウマレーターを増産したらしい。

体育館にずらりと並べられ、機体との接触を避けるためかパーテーションで区切られていた。

タマとオグリが案内されたところ以外でも、他のウマ娘たちがウマレーターに入っていたはずだ。

 

「よし、とりあえずそいつらを探すで。

 もしかしたらウチとオグリだけかもしれへんけど、ひとりぼっちやったら不安やろうからな」

「そうだな。どうなっているか分からなくても、そのくらいはできる」

 

タマとオグリはその点で意見を一致させた。

ゲームか現実か、トレセン学園に戻るにはどうしたらいいのか、分からないことは棚上げだ。

それはきっぱり先送りにして、できることを見出して取りかかる。

頭脳派ではないが故の、割り切りの良さであり、取り得る方針の中では最善だった。

 

「そうと決まれば……ふぁ……もう寝よか。ゲームの中でも眠ぅなるんやな」

「ああ、今日は苦労を掛けたな。タマ」

「ええねん。迷子探しは慣れとるさかい……」

 

タマはごそごそと寝袋に入って、オグリに軽く手を振った。

オグリもそれに倣って寝袋に体を入れると、安心した顔で息をつく。

 

なんだかんだ言っても、親しい友人と一緒に居られたことが、二人を安心させていた。

この世界(ゲーム)に来てから久しぶりの、安らかな眠りだった。

 

 

 

 

=================

――魔大陸 南東部〈妖花樹林〉――

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タマとオグリが眠りについた〈渓流森林〉のキャンプから、更に奥地。

渓流はなくなり、木々の樹高は低くなったが、枝葉が広く、闇が深い。

そんな中、発光昆虫が数多く揺らめき、夜に咲く花の蜜を集めている。

発光昆虫の出入りが色とりどりの花を明滅させる優雅な光景から、〈妖花樹林〉と呼ばれるフィールドだ。

 

その発光昆虫の中には――雷光虫の姿もあった。

つまり、雷光虫と共生関係にある――〈鳴神上狼〉ジンオウガの存在を示唆していた。

 

「――――」

 

音も無く、複数のハンターが森の中を進む。

森に溶け込むよう形や塗装を工夫された鎧、藪に隠すよう低く持ち運んでいる武器。

匂い消しを用いて体臭を隠しているのはもちろん、掴まえて籠に入れた発光昆虫に手をかざし、光の明滅によるモールス信号で意思疎通している。

先日の勇者たちのような、獣の領域をずかずかと歩く素人臭さはまるで無い。

野生の獣ですら気付かないよう訓練された隠密能力。

訓練されたハンターたちの動きだった。

 

『マスター級クエスト・ジンオウガの討伐』

 

彼らが受注したクエストのためだ。

タマモクロスが一戦交えたジンオウガは、以前から討伐クエストが出ていた。

魔大陸を開拓する人間と、より多くの獲物を求めたジンオウガが、縄張りをぶつけた結果である。

討伐しても生態系への問題はないかなどを議論した上で、当初は上位クエストとして掲示された。

 

しかしジンオウガは次々とハンターを撃退するか、逃げおおせてきた。

遭遇例が増すほどにハンター側の被害が増えていき、難易度はいつしかマスターランクに更新。

先日は【剣と魔法の世界】の上位冒険者である勇者一行も惨敗した。

ギルドが密かに注視しているウマ娘のハンター・タマモクロスも、撤退が精一杯だった。

 

――あのジンオウガは、強い。

 

魔大陸の連合ギルドは、改めてそう認識して、専門部隊の編成による討伐を決定した。

つまり、フリーのハンターたちから猛者を募集する形では犠牲者が増えるだけと判断したのだ。

生態に詳しい学者、環境に詳しい調査員などを集め、習性と弱点を探り、そのための訓練をした部隊で仕留める。

この計画には、【竜と狩人の世界】のハンターだけでなく、冒険者側から魔法使いも招いている。

魔力感知や幻術など、ハンターたちには無い手段も駆使して、ジンオウガを討伐する構えだ。

 

前衛、十二人。

ガンナー系の後衛、十三人。

支援役のアイルー、三十匹。

罠の設置や、他のモンスターの横槍などに備えた後詰めが、五十人ほど。

ハンター、アイルー、冒険者など全て合わせて、百人を越える大部隊である。

 

ゲームであれば、一体のモンスターに挑むハンターの上限は、基本的に四人、あるいは十六人だ。

彼らに、そんなレギュレーションを守る義理はない。

必要なら百人のハンターでも動員して袋叩きにすればよい。

しかも魔法による索敵や、防具への雷耐性付与など、ハンターだけではない力まで加わっている。

この魔大陸における連合ギルドが準備した、誇張でも何でもなく、最強の部隊だった。

 

『発見・巣・睡眠』

 

先頭の偵察から、明滅信号が送られる。

調査員たちの長期間に渡る観察により、ジンオウガの巣は特定されていた。

妖花樹林の清流沿い、やや開けたところ、ちょっとした花畑のようなところだ。

そこに伏せて寝息を立てるジンオウガは、月明かりを浴びた青と金の外殻が、皮肉にも美しい。

 

(お花畑が寝床とは……そういえば雌だったな)

 

偵察のハンターは余談のように思いつつ、仲間たちの展開を待つ。

樽爆弾を設置しに行くなどというリスクは取らない。足音ひとつで不意打ち失敗だ。

できるだけ遠く、しかし前衛が一気に仕掛けられる程度まで近付く。

その時間を待っている偵察ハンターは、ふと……近くの木に止まっている虫に気付いた。

 

(雷光虫か)

 

ジンオウガとは共生関係にあるので、近くにいることは驚かない。

ジンオウガの矢弾とも言うべき生き物だが、現段階で駆除するわけにはいかなかった。

 

(……形、こんなだったか?)

 

月明かりに浮かぶ雷光虫の形に、偵察ハンターは些細な違和感を覚えた。

その些細な違和感が、彼の警戒心を高め、誰よりも速く異変に気付かせた。

 

(待て……なんでこの雷光虫、発光してないんだ?)

 

名の通り発光昆虫だ。夜に限らず青白い光を放つことで有名である。

それが、発光していない。

天敵のガーグァが近くにいるわけでもないのに、他の発光昆虫は光っているのに。

 

(……目立たないように?)

 

自分の守護神であるジンオウガの近くで、彼らがもっとも安心する環境で、なぜ身を隠すのか。

答えより先に危機感を抱いた偵察ハンターが、周囲にそれを伝えようとしたとき――

 

「っ!!」

 

一斉に、光り始めた。

雷光虫が、森を染め上げるように、ハンターたちを包むように。

木の葉より多いのではないかというほど、膨大な量の雷光虫が、夜を染めるように輝いていた。

 

(多すぎるっ!!)

 

いったい何百匹、いや何千匹の雷光虫が潜んでいたというのか。

森が青白い光に染まる様は、感極まるほど壮麗だが、全てのハンターが抱いたのは危機感だった。

ジンオウガの周辺に大量の雷光虫が集まっているということ、それ即ち――

 

『――――ッッッッッッッッッッ!!!!』

 

超帯電状態への突入を意味している。

偵察ハンターが目にしたのは、いつの間にか立ち上がって吼えるジンオウガと、

その周囲――半径二十五メートルほどの空間を埋め尽くす、広範囲の雷撃だった。

 

「っか、は……」

 

偵察ハンターは眩暈と耳鳴りに呻く。

奇襲を掛けようとしていた前衛、囲んでいた後衛、およびアイルーたちが全て巻き込まれた。

発光と同時に羽を広げた雷光虫の大群、その雲霞の如し群に、ジンオウガを中心として稲妻が駆け巡ったのだ。

まるで、青い雷雲が突如として地上に発生したように。

 

「なんだ、いまのは……そんな技は知らないぞ!!」

 

どこかで熟練のハンターが叫んでいた。

ジンオウガが使う大技に、こんな面単位攻撃はなかったと。

 

「それどころじゃない……あいつ、()()()()をしてやがった!!」

 

また別のハンターが、武器を杖に立ち上がる。

 

そう――ジンオウガは眠ってなどいなかった。

ゲリョスの【死に真似】にも似た狡知だ。

王者の誉れ高いジンオウガがそんな真似をした例は、他のハンターも初めて聞く。

 

「罠だったんだ。光を消した雷光虫を大量に待ち伏せさせて、俺たちを誘い込んだんだ!!」

 

偵察ハンターは地面を殴りながら立ち上がる。

 

「それどころか、手の内を隠してやがった!

 事前に調査した俺たちに、大量の雷光虫を操れるって情報を隠してやがったんだ!」

 

事前調査して、習性や巣の位置を特定したのは、この偵察ハンターだ。

食わされていた。

恐らくジンオウガは、こちらの偵察を感知していたのだろう。

そこから、人間が本格的に自分を討とうとしていることまで推察した。

 

だから罠に掛けたのだ。

巣と見せかけて戦場を選び、気付いてないふりで鈍さを装い、自分自身を囮にして。

そして今夜、雷光虫を地雷のように仕込んで、範囲内に引き寄せて一気に起爆させた。

 

(落ち着け、雷耐性を限界まで上げた装備だ、ダメージは少ない。

 問題は視覚と聴覚……くそっ、閃光玉を食らったモンスターの気分だ……

 ああそうかっ、その体験からこの技を思いついたのか!!)

 

侮っていた。

知能の高い個体だとは聞いていたが、予想以上だった。

器用で勘がいいというだけの個体ではない。

襲撃を予測して誤情報を掴ませ、思惑通りに進んだと勘違いさせてから覆す。

戦略家の思考を、このモンスターは持っている!

 

(というか、肝心のジンオウガは――っ!?)

 

目と耳をやられたせいで見失った。

見失っている間に、ハンターたちの包囲網は食い破られていた。

 

――森の一角に、稲妻が轟く。

 

超帯電状態となったジンオウガが突進していた。

それにより、緒戦の雷撃にやられたハンターを数人ほど仕留めている。

武器や人体が舞い上がり、雷光弾が放たれ、アイルーの悲鳴と共に木々が倒れていく。

 

まるで生きた落雷だ。

轟音を上げて、光り、猛々しく素早く、木々を割る。

 

そして皮肉にも絢爛だ。

森の中、稲光に覆われたジンオウガの疾駆する姿は、夜空の彗星さながらに輝かしい。

といってもその彗星は――暴走特急の如く、こちらに迫ってくるのだが。

 

「上等だぁ!!」

 

一人の気骨あるハンターが、太刀を振りかぶる。

かのソードマスターには及ばないが一流の狩人だ。

迫るジンオウガを唐竹割りにせんと、二の太刀いらずの振り下ろしで迎え撃つ。

 

――その瞬間に起きた出来事を視認できたのは、偵察ハンターの眼力ならではだった。

 

振り下ろされる太刀に、ジンオウガは角を合わせた。

合わせた角で太刀を横にずらすと、ハンターの脇腹が片方、無防備になる。

そこを、前足で殴打する。

ビンタするような動きだったが、腕で守れない部分を巨獣に叩かれたのだ。ハンターは血を吐きながら横に飛ぶ。

駄目押しで突進する巨体に衝突、太刀を手放して宙へ舞い上がった。

 

(なんだいまのっ!? あいつ、()()()()()()()()()()()()()()()()のか!?)

 

緊急回避で突進を生き延びた偵察ハンターは、地面を転がりながら目を見張る。

仮に人間同士の格闘技だとしても、高難度な武芸だった。

走るだけで人間を蹴散らせるのに、あのような絶技まで備えているというのか……っ!

 

(なんだ、なんだあの個体!? 頭も切れて、技もキレる!

 まるで、知勇兼備の猛将と野戦でもさせられてるみたいだ……っ!)

 

偵察ハンターは、走馬燈の一種だろうか? 昼間のことを思い出していた。

 

勇者一行がジンオウガに敗北して、タマモクロスに救助されて戻ったときのことだ。

討伐を実行する前に、偵察ハンターは、報告に来たタマをギルド会館で呼び止め、話を聞いた。

 

『あー、ありゃ怖いで。勝てる気せぇへんわ。

 救出して生き延びた? 先行で不意打って調子崩した後、コース外れて逃げただけや。

 最後まで競り合ったら、立て直されて差しきられたやろな』

 

なんの例えか分からなかった偵察ハンターに、タマはこう続けたのだ。

 

『勘やで? ……あいつたぶん、まだ本気を隠しとるわ』

 

そんなタマの警告を、いまになって思い出していた。

 

「伏せろぉ!!」

 

仲間の一人が、飛びかかるように覆い被さってきた。

駆け抜けたジンオウガを見送っていた偵察ハンターは、他に何が来るのかと頭上を見る。

 

――雷光虫の大群が、川のように、ジンオウガの足跡を追っていった。

 

もちろん帯電状態で、つまり触れれば感電する、稲妻の帯となって。

そう、帯だ。

ジンオウガの体から帯が伸びていくように、絨毯の如く連なった雷光虫が追従している。

推測するに、雷光虫が磁力か何かで互いを結んでいるのだろう。

それが発光して、傍目には布の如くなびいているのだ。

 

(稲妻の、衣……)

 

思わず、見惚れる。

軍隊のように列を組んで飛ぶ雷光虫、それが織りなす稲妻の帯。

まるで……森の王が、()()()()()()を身に纏って、戦場を駆けているかのようだ。

ジンオウガはそれを引きながら、また別のハンターたちに攻撃を仕掛けていった。

 

「っ、おい!?」

 

偵察ハンターはハッとして、自分を庇ってくれた仲間に呼び掛ける。

しかし仲間はぐったりと動かず、偵察ハンターは慌てて彼の下から抜け出し、容態を見る。

外傷はない、目にも光がある。震える唇が何か訴えようとしているが、上手く動かせていない。

 

「麻痺毒ニャ! あの雷光虫っ、麻痺毒を持ってるニャ!」

 

駆け付けてきたアイルーが報告しながら、麻痺毒に倒れた仲間を処置する。

 

「麻痺毒!? 雷光虫にそんなものあるなんて聞いて――」

 

武器を手に立ち上がりつつ、偵察ハンターは声を荒げて、途中で気付いた。

 

「っ、そうか、()()()()()()かっ!!」

 

ようやくカラクリに気付いた。

あのジンオウガは、頭の良さを除けば、概ね普通のジンオウガだ。

黄金に輝く二つ名個体【金雷公】でも、龍属性エネルギーを操る亜種個体【獄狼竜】でもない。

 

しかし――引き連れている雷光虫が普通じゃない。

 

おそらく魔大陸の環境によって生まれた新種か変異種。

外敵を攻撃する牙と麻痺毒、電磁力によって同種と硬く結びつく能力を得た、新たなる雷光虫。

ジンオウガにとって雷光虫は武器であり兵士だ。

あのジンオウガは【雷光虫亜種】を大量に従えることで、通常と異なる武器を手に入れたのだ!

 

「後詰めの部隊が向かってるはずニャ! 合流して立て直すニャ!」

 

歴戦のアイルーに鼓舞されて、偵察ハンターも役目を思い出す。

ジンオウガはこの場から離れたようだ。存分にハンターを蹴散らして、包囲を抜けたらしい。

偵察ハンターは負傷した仲間に肩を貸して、ジンオウガとは逆方向に急ぐ。

 

「おい、見ろ……あいつ、まだ何かする気だ……っ!」

 

誰かの声に促され、背後を振り返る。

ジンオウガは森の中にあった岩山に上り、その頂上で月を背に、こちらを睥睨していた。

雷光虫亜種の大群が、孔雀の羽のように夜空へ広がる。

群は対数の細かい集団に分かれ、棒状の輪郭となった。

 

『――ッッッッッ!!』

 

そしてジンオウガが吼えると、棒状になっていた雷光虫亜種の群が、青白い雷を帯びる。

まるで……槍のような形状で、その矛先を地上の敵に向けて。

 

「撤退ぃぃぃぃぃっ!!」

 

指揮官が叫んだ直後――稲妻の槍が地上に降り注いだ。

 

 

 

――百人から成る討伐部隊は、潰走した。

ハンターたちが整えた万全の対策を、ジンオウガは予想外の猛威で打ち破ったのだ。

この敗退を聞いて、連合ギルドは緊急会議を開く。

その会議では、そのジンオウガ討伐を断念、観察を続けつつ対策を練ることが議決された。

またこれに合わせて、マスター級とされていたジンオウガは、二つ名付きの特殊個体として再登録される。

ベルナ村の【金雷公】に続く、この魔大陸における二つ名個体として――

 

 

 

〈雷軍装〉ジンオウガ――と。

 

 




ご一読いただきありがとうございました。

そのもの、青き衣をまとい……ではなく。
本作独自の魔改造ジンオウガでした。

ちなみに雷光虫のマントですが、
『ゴッドイーター』のマルドゥークやヴァジュラみたいなイメージです。
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