TSウマ娘の殿下護衛録   作:朝比奈 麒麟

1 / 3
幼少期
1話


 ――ウマ娘になりたい。

 

 常々そう思っていたし、口に出してもいた。できれば、モブで終わることなく主役級になりたいとも。

 もちろん、叶うはずもない夢物語なわけで。でもだからこそ、春秋古バ王道制覇とかいろいろな夢を描けた。

 

 結局妄想でしかない。ただ、もし万が一。神様などという存在がいるとするのならば、どうか明日にはウマ娘になれますように。なんて、願わずにはいられない。

 

 *

 

 

 季節外れの冷気が頬を撫でる感覚で目が覚める。部屋の窓は開けていないと思うし、エアコンもついていないはず。夏真っ盛りの今、むしろ蒸し暑いぐらいなのに何故か厚手の布団をかぶっていた。

 

「なんで、布団なんか……」

 

 ()()()()()()()が静かな部屋に響く。聞きなれない音? いや、違う。今のは俺が喋ったはずの言葉だ。少なくともこの部屋に俺以外の気配はない。

 ぬぐい切れない違和感に眠気は一瞬でかき消される。

 

「あ……あーあー」

 

 いつもの野太い声じゃない、透き通るような声。というかどう考えても男の声には聞こえない。幼い少女に近い。

 覚醒した意識が、変化はそれだけじゃないと告げる。

 野郎のごつい両手はサイズが二回り小さくなり、かわいらしい手。というかおててになっていた。

 

「なに……これ……」

 

 慌てて布団をはねのけ、下半身も確認する。男子高校生の両足からは見違えるほど幼く、華奢なあんよが鎮座していた。ついでに男の象徴たるモノも消失していた。

 

「な、なんじゃこりゃ……どういうことだってばよ」

 

 一周回って落ち着きを取り戻した脳で現状を分析する。つまるところ、ようするに。TS転生と言う事だろう。

 恐る恐る頭部に手を伸ばす。望んだ姿での転生なら、ウマ耳があるはずだが果たして……ある。あった。ウマ娘たる証の一つ、ウマ耳が確かに付いている。

 

「よっ……しゃぁ!」

 

 なんでとか、ここがどことか。いろいろと疑問は尽きないが、兎にも角にも今はウマ娘になれたことが嬉しくて、それ以外のことはどうでもよかった。

 

 

 

 ひとしきり自身の身体をまさぐ……チェックし終えて、容姿の確認をしていなかったことに気付く。ウマ娘になりたいという最大の願いを叶えて貰ったのだから、これで更に可愛くあれと願うのは望みすぎだろうとも思う。だが、人というのは一つ叶えば二つ。二つ叶えば三つと抑えきれないのだから仕方がない。

 

 期待に胸を膨らませ、ベッドからはいずり出てようやく部屋の広さに気付く。ちょっと、いやだいぶ広い。少なくとも俺の部屋と比べても倍近くあるんじゃないだろうか。

 

「ていうかこれ、どう考えても日本じゃないだろ」

 

 幼女一人が寝るには似つかわしくないキングサイズのベッドに、絢爛豪華なシャンデリア。ヨーロッパの城と言われたら十人中十人が頷くであろう豪勢っぷり。

 至れり尽くせりというか、分不相応感が凄すぎて先ほどまでの胸の高鳴りが急降下している。

 

 汚したり、壊したら怒られるんじゃなかろうかと気が気でないが、容姿はそれ以上に気になるので部屋の探索を続行。広いわりに姿見などはなく、探し続けること十分少々。明らかに高そうなチェストの中から、これまた高そうな手鏡を見つけた。

 

「おお……」

 

 月並みな感想だが、滅茶苦茶可愛い。黒髪ロングに短いウマ耳がぴょこぴょこと揺れている。鏡に映るその姿は、将来確実に美少女と呼ばれるであろう逸材だった。

 

「これでウイニングライブとか踊ったらもう最高よ。早くずきゅんどきゅんしてぇな……」

 

 手鏡をチェストに立てかけ、軽くうまぴょい伝説の振り付けを真似てみる。

 

「♪︎~…………」

 

 運動音痴だとか、リズムが取れないわけじゃなかったはずだが、どことなく動きがぎこちない。腰のあたりに何かあるような……。

 いや、何かあるようなじゃねぇ。あるんだよ尻尾が。この可愛らしいふっさふさの尻尾がな! そりゃあ当然動きにくいわけだ。尻尾のある動き方なんてした事がないんだから。

 

 まぁ動き方なんてのは後々慣れるとして……俺はどうすればいいのか。結局ウマ娘に転生したこと以外、何もわかってないままだからな。とりあえず、人でも探しに行くか。

 そもそも人がいるのかどうかもわからないが、ここにいても何も進展はありそうにない。

 

 尻尾が足に擦れて痒いことこの上えないが、我慢してこの部屋から出るため扉に近づく。

 重たい扉をゆっくりと押し開け、薄暗い廊下に出る。どうやら寒いのは廊下だったらしく冷たい空気が全身を包む。

 

「さっむ……」

「あら、テスコ起きたのね」

「お?」

 

 開け放たれた扉の前に誰かいる気配がする。というか声が聞こえたのだから、誰かいるのだろう。目を凝らし薄暗い中を探る。

 目の前に脚があった。つまり顔はもう少し上。目線を上げた先には、自分をそのまま歳を重ねた感じの超絶美人ウマ娘が居た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。