親子は大なり小なり似ると言うが、それも限度があると思う。似すぎもしないし、似てなさすぎもしない。多分。
要するに何が言いたいかと言うと、お母さん(仮定)えっぐい美人なので将来が楽しみです。
「テスコ、もう起きて大丈夫なの?」
「うぇ、あ、うん。うん?」
目線の高さぐらいまで屈んだお母さん(仮定)に優しく抱き締められる。
柔けえっ! 何がとは言わないが、とんでもなく柔らかい。それにいい匂いがする。ふぁ、ふぁぁ……脳みそ溶けるわ。
「急に具合悪いって言うから心配したのよ?もう大丈夫なの?それに、うなされているようだったし」
「う、うん。大丈夫だよ?」
「そう、それなら良かった」
どうやらおねんねの時間ではなく、体調不良で寝ていたらしい。というかうなされてたって、どう考えても俺が原因なのでは……?
「どうする? 陛下からは、この時間からでも構わないとお許しを頂いているけど」
「陛下……? 」
「あら、忘れちゃったの? 今日は殿下との初の顔合わせじゃない」
おっとぉ? まさかの中世ウマ娘ちゃんに転生しちゃった感じか? ウマ娘になりたいとは言ったが、そういうのは勘弁。こちとら走りたいんだ。
いや、それ処じゃない。記憶が無いんだから何の事だかさっぱりわからん。どうせここまで都合いいんだからなんか、なんか。出てこい出てk……あばばばばばば。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
急に黙りこくって一点を見つめる私を心配したのか、お母さんが肩をつかんで軽く揺すってくる。まぁ、愛娘が突然口をぱっかーん開けて動かなくなったら心配するのは当然か。
が、マジで今それ処じゃない。どういう仕組みかわからないが、どうやら俺の願いは叶えられた様で、これまでの私の過去がフラッシュバックする。
しかし、その代償と言うか、代わりと言うべきか。俺と私の人格の統合がされているようで、今まで感じたことのない痛みが走る。
あっ、コレやべっ。まずったかもしれない。
*
意識が途切れた様な気がして、瞼を閉じた次の瞬間には純白の世界にいた。
もしかしなくてもコレが死後の世界とかいうやつですかね……? ヤラカシでは?
「お兄ちゃん、だぁれ?」
「ヒョエッ」
完全に一人だと思っていたがどうやら違ったらしく、後ろから聞き覚えのある声がする。
というか後ろから気配もなく人に声をかけちゃダメって教育されなかったのだろうか。親の顔が見てみたいわ。
「ん? あぁ、なるほど」
「なぁに?」
果たして振り向いたそこに居たのは、こてりと首を傾げた黒髪ロングの可愛らしいウマ娘ちゃんだった。
「お嬢ちゃん、お名前なんてーの?」
「私はね、ライゼンテスコって言うの!お兄ちゃんは?」
「そうかぁ、テスコちゃんていうのか。お兄ちゃんはね―――って言うんだ」
おっ? 今俺発音したよな? 聞こえなかったか? いやまさか。そんなはずないよな。
「――って言うのね!かっこいいお名前!」
「あ、あぁ。ありがとう」
コレは……確実に脳から消去されてますねぇ。人格の統合でテスコちゃんの肉体に収まる関係上、俺の名前は不要とされたか。はたまた転生した時点で消されたか。どちらにせよもう元の名前を思い出すことも、その名で呼ばれることも無いのだと考えると少し寂しいものがある。
「大丈夫? お兄ちゃん」
「ん? あぁ大丈夫だよ。ところでお母さんの名前分かるかな?」
顔に出ていたらしく、少女に心配させてしまったがそんな場合では無い。とにかく聞き出せる事を聞かないと。多分ここはその為に用意されたのだろうから。
「お母さんの名前はね、ライゼンクルガーていうの。とっても強いウマ娘なのよ!」
「そっか、お母さんは凄いウマ娘なんだね」
「そうなの! とっても凄いウマ娘だから皆にも頼りにされるのよ!」
嬉しそうに、楽しそうに目を輝かせながら語る
「じゃあテスコちゃんの夢は?」
「私の夢はね、お母さんの様な強いウマ娘になる事なんだ。それと……うぅんやっぱ何でもない」
「ん?言ってごらん。お兄ちゃんが叶えてあげるから」
「ほんと……?」
「ほんとだよ」
偉そうな事を言っちゃいるが、出来るかどうかは正直分からない。だが、多分聞いておかないと後悔する気がしたんだ。
「……走り、たいなぁ」
「ん? それってどういう」
「お兄ちゃん、私、走りたいんだ」
走りたい。ただそれだけの願いなのに、最初のお母さんみたいに。って言う願い以上に切実な何かを感じる。
「走れないの?」
「走れないよ。だって私たちの―――」
肝心な所で音が途切れ、私の姿が目の前から消える。人格の統合が終わったのだろう。先程と同じ様に意識が途切れた気がして、瞼を開けた次の瞬間にはお母さんが目の前にいた。
*
長い時間意識が飛んでいた様な気がするが、実際は1分も経過していないらしくお母さんに変わった様子は見えない。
「大丈夫? ねえっ」
「ん……ぁ……大丈夫、うん大丈夫だよ。ちょっとだけ眠くなっちゃったの」
「そうなの? まだ辛いなら無理なんてしなくていいのよ?」
「大丈夫よ、本当に。それより! 早速行きましょ!」
お母さんの手を握り、まだ見ぬ殿下の面ァ拝むため俺は歩き出した。